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意外な才能

 それからの一週間、テルとユキはギルドで適当な依頼を受けながら過ごした。


 「ありがとうな、テル、ユキちゃん!今日は助かったよ。何かあったらまた頼むよ。」


 テルとユキはただ単純に討伐依頼をこなすだけでなく、ギルドへ溶け込む努力もするようになっていた。その一つが野良パーティへの参加である。ギルドの掲示板には依頼票だけでなく、『パーティメンバー募集中!当方は弓使い1名、剣士1名。どちらもDランク。』と言った具合にパーティメンバーを探して張り紙をしている冒険者も多い。そこに参加して経験を積もうという訳である。


 Aランクの2人からすれば下位ランクの野良パーティーに参加して報酬を山分けするのだから金銭的には全くうま味は無い。うま味はないのだが得られる経験は大きかった。


 「実力の分からない冒険者と組むってのは難しいもんだな。ユキの忍び時代はどうだったんだ?」


 「忍びは皆それぞれ特殊な訓練を経て任務に駆り出されるのでな。実力に関しては皆信頼に値するものは持っていた。この様に気を遣わされる事は無かったな。」


 そうなのだ。他のパーティに参加する事の難しさ。特に連携において。テルやユキのレベルの判断と一般的な冒険者の判断はまるで違う事がある。そもそも出来る事のレベルが違いすぎるのだから仕方がないと言えばそれまでだが。それでもテルとユキはその一般的なレベルと言うものを認識しない事には共同で任務など遂行出来ない事を知っている。だから共に任務にあたる冒険者の質を見極め、連携が崩壊しないよう注意しながら動く事に努めた。


 対するテル達と一緒に依頼を受けた冒険者はそのレベルの高さから学ぶ事が多い事に気付く。何しろ、今まで組んで来たどんな冒険者よりも『楽』なのだ。そこに気付いた冒険者はテル達の仕事ぶりを『盗もう』とする。そしてその冒険者は1段階上の領域に足を踏み入れるのだ。


◇◇◇


 「テル達、予想以上に優秀だな。」


 「はい。正直ここまでとは思いませんでしたね。まさか自分達だけでなく他の冒険者のレベルまで上げて来るとは。」


 ギルドマスターの執務室には3人がいた。ゼマティス、ローランド、そしてシモンズだ。


 「なあ、ゼマティスさん。一緒にやった冒険者達の話を聞いた限りじゃ奴さん、個人の実力も去ることながら、指揮官の才能も有りそうだぜ?テルの指示に従うとすげえやりやすいそうだ。しかも自分が得意な分野をやらせるように戦況を動かしているように感じる、だとさ。奴は冒険者より軍人の方が本職なんじゃねえのかい?」


 ゼマティスはテルの前世の話を聞いている。ローランドも詳しくではないがある程度の情報は貰っていた。なので『本職は軍人』というのは的を射ていると思っている。しかしそれは当たっていて当たっていない話だった。


 テルが戦場において的確な状況判断を出来るのは自分自身の事に関してだけである。それが他の冒険者に的確な指示を出せているのはユキの諜報能力があるからに他ならない。もちろん、自分自身も戦闘をしながら他者にも指示を出せるのは個人の能力が高いからこそではあるのだが。


 要は、今この部屋に於いて話されているテルの評価はユキと二人三脚で成立しているものだった。逆に言えば、テルとユキを一つの駒として見立てて動かせば、現状既に一流の指揮官になっていると言う事でもある。


 「どうだい、シモンズ? 奴の元で使われてみたくなったんじゃないのか?」


 ニヤついた顔で話すゼマティスにイヤな顔をするシモンズだが、

 

 「ちっ、良く言うぜ。ゼマティスさん、あんただってそうだろう?」


 「ああ、ギルマスやってくれる後釜さえいりゃすぐ現役復帰して一緒にやりてえよ?俺ぁ。」


 「ふふふ。ダメですよ? ギルドマスターにはしっかりとテルさんとユキさんの後ろ盾になって貰わないと。」


 「そうだな。カムリ公の動きも随分ときな臭い。テル達の名前が売れるのもそう遠い話じゃないだろうからな。貴族のイザコザからは守ってやらねえとな。」


 「そういう訳ですのでよろしくお願いしますね?シモンズさん。」


 「おう、任せとけ。きっちり一人前に仕上げてやるよ。」


◇◇◇


 「おーい!テルだけど!出来てるー?」


 「……」


 「おっさーん!」


 「俺はおっさんじゃねー!!!」


 毎度おなじみのやり取りに思わず笑みがこぼれるユキ。だいたい、『おっさん』と呼ばないと返事をしないモーリスも変な人だ、とユキは思う。


 「だから居るなら居るで返事してくれりゃあいいじゃないか。」


 「…ちょっと手が離せねえ状態だったんだよ!」


 (いつも手が離せねえって…)


 「ほれ。コイツらだ。お前が素材を余らせるなって言うからよ。随分と楽しませてもらったぜ」


 にししし、と髭面の奥で笑うモーリス。


 「まずはテル、お前の得物だ。お前の剣を見てると両刃の剣を使っている割には摩耗してるのは片側の刃なんだよな。だからよ、思い切って片刃の長剣にした。オーガの骨をベースにミスリルでコートした硬さとしなやかさを両立させた逸品だぜ?抜いて見ろ。」


 「…これは…」


 「テル、これは…太刀、ではないが…」


 見た目は『刀』だ。90cm程の刃は反っている。だが刃紋がない。柄のデザインはどちらかと言えば洋風で鍔はない。打ち合いを前提としていない武器なのだろう。


 「いい剣だな。斬る、突く、に特化させて打ち合うのではなく受け流す事を前提にしているんだな。」


 「70点ってとこだな。ソイツはな、相手の剣がナマクラなら剣ごと斬っちまう。打ち合う必要がねえんだ。それからよ、鞘もオーガの骨が素材だ。充分武器になるぜ?」


 (おおお!すげえ!)


 「ありがとう!モーリス!」


 「バカ野郎!まだまだあるんだよ!」


 かなりの業物を手にしておお喜びのテルだったがモーリスの一言で財布の中身が心配になったのだった。


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