新天地と拾い物
この作品は連載中小説『いや、自由に生きろって言われても。』のスピンオフ作品です。
さらに1年の月日が流れ、テリーは隣国に逃げ延び日本人時代の名前の『テル』と名乗り冒険者稼業で生計を立てていた。元より新人冒険者とは思えない程腕が立ち、いざとなれば【能力】もあるテルは僅か1年でこの街のギルドでも一目置かれる存在になっている。
「よう、スカーフェイス。今日もソロで魔物狩りかよ?」
この街の冒険者の間では傷面が通り名になっている。
「ああ、今は魔石の換金率がオイシイからな。」
テル本人はこの通り名を気に入ってる訳ではない。むしろ見た目で断定されてしまう通り名ってどうなんだ!?という思いが強い。しかし見た目通りなのだから仕方ないと諦めてもいる。
「たまには俺達とパーティ組んでくれよ。お前と一緒なら心強いんだがなぁ。」
「あら、アタシ達と組まない?報酬以外にもサービスするわよ?」
このような冒険者達の反応を見ると解るがテルの人気は高い。普段は物腰が柔らかいがいざ戦闘となれば腕も立つ。あれから1年経って更に背も伸び180㎝近くあり、ムキムキではないが全身しなやかな筋肉で覆われている。ブラウンの髪は短めで清潔感があるが後ろ髪は背中まで伸び1本に束ねている。ブルーの瞳は涼しげな印象だ。しかし左頬の傷痕がなんとも言えない迫力を醸し出している。要は容姿端麗で稼ぎも良く腕も立つ。となれば周囲が放っておく訳がない。
「悪いな。また今度誘ってくれよ。」
しかしテルは頑なにパーティを組まない。理由は秘めている自分の【能力】を知られないようにする為である。
「もう、またフラれちゃったわ。次はお願いね、テル!」
テルは後ろ手に手を振りギルドを出た。
「さて、今日も飯のタネを狩りに行こうか。ムスタング。」
テルは辺境伯の屋敷から連れ出したこの馬を『ムスタング』と名付け可愛がっていた。彼にとってはたった1人の友人とも言える存在だったからだ。
「肉親より余程信頼出来るからな。」
独り言なのかムスタングに話しかけたのか。
「ブルルルルッ」
ムスタングが相槌を打ってくれたような気がした。
暫く馬を進めていると森が見えて来た。ギルドの依頼にある魔物が出るという森である。
「さて、早く見つかるといいんだけどな。」
依頼にあった魔物は定番のゴブリンだ。個体としては弱いが群れていて繁殖力が強い。それでいて魔石以外は使い物にならない害獣と呼ぶしかない魔物だ。
《ギャギャギャ》
「おう、早速見つけた。いくぞ!ムスタング!」
どうやら戦闘中のようだがもしも他の冒険者が戦っている場合は援護が必要かどうか伺いを立ててからでないと後々トラブルになる可能性がある。
「かなりゴブリンの数が多いようだな。」
見るとたった1人に15~16匹のゴブリンが群がっているようだ。テルはここは問答無用で助けに入るべきだと判断しムスタングを突っ込ませる。ゴブリンに襲われていたのは少女のようだ。
「助けるぞ!」
テルの声に僅かに頷いた様に見えた少女だがそのまま力尽き倒れてしまう。
「ちっ!」
何とかテルは少女がゴブリンに蹂躙される前に【能力】を使いムスタングの背に横たえた。自らはムスタングから飛び降りゴブリンを2匹斬り倒す。
「ムスタング!ここから離れてくれ!」
少しだけ心配そうにテル見た後ムスタングは戦場から離れていく。
《ギャギャ!!》
《グギャギャ!》
「何言ってるかわかんねえが獲物横取りされて怒り心頭ってとこか?」
《ギャギャーッ!》
持っている棍棒を振り下ろすゴブリン。しかしテルは軽やかなフットワークでそれを躱しゴブリンの喉を切り裂く。そのまま流れるような動きで次々とゴブリンの喉を切り裂いていく。テルは今両手に1本ずつナイフを持っている。テルが一番得意な戦闘がナイフによる対人戦闘なのである。傭兵時代に培った技術、体術はこの世界に転生してからも研鑽を続けたお陰でさらに磨かれていた。
「終わったか?」
テルは周囲に注意を巡らすが他にゴブリンは居ないようだ。いくらゴブリンが最弱の魔物と呼ばれているとは言え僅か数分で15匹ものゴブリンを全滅させるなど尋常の腕ではない。
討伐証明となる魔石を体内から切り出し魔石用の革袋に保管するとゴブリンの死体は焼き払う。焼却しないとゴブリンの死体目当てに別の魔物が集まる可能性があるしそのままアンデッドになるケースもある。
「こんなモンでいいか。ムスタング!」
呼ぶとテルの所までジョギングするくらいの速度で駆けてくる。背中に乗せている少女に負担が掛からないように。
「結構手酷くやられているみたいだが…切り傷が多いのはどういう事だ?」
ゴブリンは棍棒で武装していたが刃物は持っていなかった。この少女はどこか別の場所で戦闘したダメージを引き摺ったままゴブリンの群れに遭遇した事になる。
「まあいい。宿に連れて行って手当だけでもしてやるか。」
テルは森を後にし街へと戻るのだった。
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