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仲間

 ゴブリン討伐とテルとユキのAランク昇格祝いも兼ねた宴は討伐隊参加メンバー以外の宿の宿泊客も入り混じって大盛り上がりだった。


 「へえ、あんた達がAランクになったのか。まだ若いのに大したモンだな!」


 「私達商人が安全に旅が出来るように頑張って下さいね!」


 などと見ず知らずの人が声を掛けてくれる。宴の喧騒からやや離れて1人カウンターで休んでいたテルだったが、そのテルを挟むように2人の人物が席を取る。ゼマティスと受付嬢さんだ。


 「テルさん、どうですか?この街の冒険者の皆さんは。」


 「ええ…なんだかみんな、温かいと言うか…思ったより居心地がいいと言うか…」


 受付嬢さんのどこかふわっとした質問にやや戸惑うが正直な気持ちをテルは答える。


 「一般市民ってのはこんなモンさ。まあ中にはどうしたってソリの合わねえヤツや陰険なヤツもいるがな。それでも殺し合いになる事は殆どねえ。今までお前さんがいた世界の方が歪すぎたのさ。」


 ゼマティスにそう言われてテルは日本で暮らした15年間、こちらに転生してからの10年間を思い出す。日本時代の両親は別としても学校へ行ったり友達と遊んだりした記憶は楽しいものが浮かんで来る。こちらの世界での事も10歳のあの日が来るまでは両親に愛され、学校では友人にも恵まれてやはり楽しい日々だった。しかしそんな記憶を全て上書きされてしまう程にここに至るまでの人生は過酷だった。


 望んでもいないのに人を殺す術を叩き込まれ、望んでもいないのに戦場に放り出され、望んでもいないのに自分が生き残る為に人を殺す。いつしかそれが当たり前になり、人を殺す事に疑問を抱かなくなっていた。


 10歳にして家族から突き放され、生き延びるには自分が強くなるしかなかった。小さな手で剣を握り、自分より大きな魔物に立ち向かった。死にかけた事も何度もあった。自分以外は全て『敵』だった。


 「テルさん。この度私が正式にテルさんとユキさんの担当となりました。よろしくお願いしますね?ローランドって言うんですよ?テルさん、私の名前知らなかったでしょう?」


 そう言いながら悪戯っぽく笑みを浮かべる受付嬢さんことローランド。


 「う…あの。なんかすみません…」


 「いいんですよ。でもちゃんと憶えて下さいね?他の冒険者の皆さんの事も。」


 「そうですよね。うん…。ローランドさん、こちらこそよろしくお願いします!」


 「それでだな、ローランドをお前さん達の担当に据えたのには訳がある。」


 いつになく真剣な表情をしたゼマティス。冒険者に担当の受付嬢を付けるなど聞いた事がない。その訳というのに興味がわいたテル。


 「いくら実力があるにしてもお前さん達には冒険者としての経験が圧倒的に足りてねえ。本来Aランクってのはそれなりの経験を積んだヤツが昇り詰めるもんだ。お前さん達は特例中の特例だからな。ローランドをアドバイザーにしようって訳さ。」


 足りないのは経験。戦場での立ち回りなら十分に経験を積んでいるが冒険者ならではの知識というものが足りていない。ゼマティスはそう言っている。ならばこの場にいる冒険者達はキャリアだけなら全員テルの先輩である。それならば。


 「みんな!聞いてくれ!」


 テルは声を張り上げる。突然の事に皆の視線が集中する。


 「ええと…今日俺とユキはAランクに昇格させてもらった。だけど俺はこれまでずっとソロでやって来たからみんなの事をよく知らない。でもAランクとして恥ずかしくないようにするにはみんなからいろいろ学ぶ必要があると思うんだ。だからみんなの事をよく知りたい!みんなの事を教えてくれないか? 俺はテル!傷面(スカーフェイス)じゃなくてテルだ!宜しくお願い致します!」


 テルは腰を90度に折り曲げ自分の本気を示す。いつの間にかテルの隣にユキが立っておりユキも同じように頭を下げる。


 「テル。ユキ。俺はさっきまで執務室で一緒だったから顔は見覚え有るだろ?Bランクのシモンズだ。一応、お前らが昇格するまではこの街じゃトップランカーだったんだ。分からねえ事があったらドンと来い。」


 シモンズの自己紹介を皮切りに次々と自己紹介が始まる。ちなみにユキのシモンズに対する印象は深い。お菓子をくれたいい人その2である。その1はもちろんゼマティスだ。


 テルとユキが街のみんなに溶け込んでいく。この光景を見ていたスタインとストラトは目を細める。心を閉ざしていたテルの事情を知るこの2人とっては感無量だった。


 そして賑やかだった宴も終わり、皆それぞれに帰路についた。


 「じゃあな、テルにユキちゃん!明日からまた頑張ろうぜ!」


 「テル、ユキ、たまには一緒に依頼うけようぜ!それじゃあな!」


 その場にいた全員がテルをテルと呼ぶようになっていた。当たり前の事がテルにとっては嬉しく感じられた。本当の意味で受け入れられた気がして。


 

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