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初めての「守る」為の戦いから得たもの

 「「ただいまー。」」


 モーリスの工房に素材を預けて宿に帰った2人を待ち受けていたのはいつも出迎えてくれるストラトではなく。


 「なんだよ!どこ行ってたんだよ傷面(スカーフェイス)!あんまり遅えから始めちまうトコだったぜ!?」


 「そうよ?テルったらユキちゃんに変な事してたんじゃないでしょうね!?」


 (始めちまうトコだったって… もう出来上がってんじゃないのか?)


 出迎えたのは討伐クエストに参加した冒険者達だった。しかもすでに酒が入ってテンションが高い。日中あれだけの激戦をした割にはタフな連中だな、とユキは呆れ笑いだ。


 「テル、この世界の人は随分とタフなのだな。」


 「ああ、仕事に使う体力とは別なんだろ。」


 忙しく給仕をしていたストラトがテル達を見つけて駆け寄って来る。駆け寄って来て…


 「テル君!ユキちゃん!無事でよかったよぉ…オーガと戦ったって聞いて…心配で心配で…うえぇぇん…」


 そのままテルとユキにダイブして来て泣きじゃくってしまった。泣き止むまで暫く頭を撫でていたテルだったが周りがおかしい事になっている。静まり返って料理を片手に食堂の隅に退避しているのだ。


 (おい…ストラトちゃん泣かせるとおやっさんが…)


 (ああ、そろそろ来るぞ!)


 そこへ今日戦ったオーガよりおっかない顔をしたスタインが飛び出して来た。


 「おらあぁ!誰だ俺の可愛いストラトを泣かせたやつぁ!?」


 「やあ、おやっさん。ただいま。」


 「ん?おう、テルじゃねえか。ケガもねえようだし何よりだな。あんましストラトに心配掛けるんじゃねえぞ?ほら、突っ立ってねえで早く座れ。今日は美味いモンたらふく食わせてやっから。」


 「お、おう、ありがとう。」


 周りの冒険者達は拍子抜けである。いつものスタインならば客が相手だろうがストラトを泣かせたら最後大乱闘である。おかしい。今日のスタインは絶対におかしい。冒険者全員の共通認識だ。


 (お、おい… まさか傷面(スカーフェイス)の奴…)


 (ユキちゃんだけでなくストラトちゃんまで?)


 なにやら冒険者達がざわつき出したのでテルが訂正しようとしたが、


 「おう、おめえら誤解すんなよ。テルとユキはもうウチの家族だ。」


 「おい!おやっさん!それじゃあ言葉が足りないだろ!?」


 「なんだとぉ!?どこが足りねえんだよ!」


 「ほら!みんなを見てみろよ!?さらに誤解が深まってんじゃねえか!」


 「あん?」


 その時だ。扉を開けて客が入って来た。ゼマティスとシモンズ、それに受付嬢さん。


 「お?もう始まってんのか?悪いな、遅くなった。…ん?なんだこの雰囲気は?」


 ゼマティスは店内の微妙な空気に首を傾げる。

 

 オロオロしてるテルにクスクス笑っているユキ。ニヨニヨしているストラトに殺気立つ男共。そして憮然とした顔のスタイン。


 (はは~ん?)


 何やらピン!と来た感じのゼマティス。


 「おう、お前ら。こいつはな、もうおやっさんの息子も同然なんだ。」


 すごくニヤニヤして追い打ちをかける。


 「だからアンタまで何言いだすんだ!?」


 ゼマティスに抗議するテルだが、


 「てめえ…傷面(スカーフェイス)… ユキちゃんだけでは飽き足らず俺達のアイドルストラトちゃんまでも…」

 

 「羨ましすぎるぞこの野郎…」


 『はい!そこまで!皆さん落ち着いて下さい!』


 受付嬢さんの良く響く声が静寂をもたらした。


 「スタインさんはですね、身寄りもない可哀そうな身の上のテルさんとユキさんの身元引受人のような立場になったのです。ホントに可哀そうなんですからね!?それを何ですか!からかう様な真似をして!恥ずかしくないんですかギルドマスター!?」


 「う、すまねえ。」


 (そんな可哀そう可哀そうって…)


 「なんだよー、そうならそうって言えよギルマス!」

 「おやっさんもだぜ!?てっきり傷面(スカーフェイス)がストラトちゃんとよぉ。」


 「けっ!くだらねえ事でウダウダ騒いでねえでとっとと食いやがれ。せっかくの料理が冷めちまわあ。」


 「それもそうだな。では!僭越ながらこのゼマティスが音頭を取らせて戴きます!ゴブリンの群れの討伐と!おまけのオーガ討伐と!テルとユキ、2人のAランク昇格を祝いまして!かんぱーい!!!」


 『かんぱーい!!!……ってなんだとぉ!? Aランクだぁ!?』


 その日の祝勝会は楽しかった。テルもユキも、こんなに楽しく騒いだのは初めてかもしれない。


 この日、テルは自ら周囲に溶け込もうとした。この街に来て1年以上になるが顔見知りの冒険者達の名前はおろかギルマスや毎日世話になっている受付嬢さんの名前も知らなかった自分に気付いたからだ。どれだけ自分は心を閉ざしていたんだ、と苦笑する。


 (これからこの人達とこの街を守っていくんだ。みんなと本当の『仲間』にならなきゃな。) 


 


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