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ギルマスの餞別でモーリスのテンションが上がった件

 Cランクのテルが特例で二階級特進、Aランク。これはまだいい。前例もあるらしい。しかしユキは昨日今日登録したばかりの新人だ。もちろん最底辺のEランクだ。それが一仕事したらAランクとは。そんな事がまかり通るのだろうか?


 (大丈夫か?このヒト?)


 テルも少々心配になる。


 「ああ、大丈夫大丈夫!俺はギルマスだぞ?何とかすっから!」


 (いや、このヒトがギルマスでホントに大丈夫なのか?」


 「なあ、傷面(スカーフェイス)。俺はBランクだがオーガとタイマンでやりあえるかと言ったら無理だ。王侯貴族やSランクしか持てないようなマジックウェポンでも有れば別だがな。でもお前らはやってのけちまった。そんな実力者をいつまでも底辺でぶらぶらさせとくのはこの街だけでなく世の中全てにとっても大きな損失だ。分かるよな?」


 それもそうか、とテルは思う。低ランクの冒険者は低ランクの依頼を受けるものだ。あまりに分不相応な依頼を受けようとすればギルドは止めようとする(強制力はないが。)。実力があるのにランクのおかげで安い仕事をしているテル達は実に勿体ない存在だ。


 「まあ、分かりました。実は今日の戦闘で武器をやっちゃいまして。話がそれだけなら急ぎで工房に行きたいんですよ。」


 そう言いテルは背中の長剣をゼマティスに見せてやる。


 「…お前、この剣でオーガの首を落としたのか!?」


 ゼマティスの見立てではテルの剣はそれ程いいものでは無かった。通常使うには不足はないが、オーガの首を落とせるような代物では断じてない。


 ゼマティスの問いに無言で頷くテル。


 「なので早めに報酬貰って、オーガの骨で武器をあつらえようと思うんですよ。」


 「…少し待て。」


 ゼマティスは奥の部屋へ行き何やら重そうな包みを持ってきた。


 「これも一緒に使うといい。Aランク昇格の餞別だ。」


 「!これは…」


 包みの中身はミスリルのインゴットだった。剣を一本打つなら十分な量だ。


 「今日はお前さんの定宿で祝勝会の予約を入れてある。それまでには戻れよ。」


 「…ありがとうございます!では、失礼します!」


 ユキと共に執務室を出て、受付で報酬を貰う。


 「あ、テルさん、オーガの素材はどうします?結構な高値で売れますよ?」


 『高値』の一言に心が揺れるテルだったが、


 「骨だけは引き取ります。後は買い取り頼んでいいですか?」


 「わかりました。では査定しておきますから明日にでもおいで下さい。今日はこれからお忙しいでしょう?私も後から伺いますね。」


 「じゃあお願いします。また後で!」


 テルは素材の骨とミスリルのインゴット重そうに持ちながらモーリスの工房に向かった。


◇◇◇


 「シモンズ、お前さんは連中の戦闘は見てないのか?」


 「ああ、俺達は突入した時にはもう終わってたんだ。」


 「そうか…」


 「ゼマティスさんは随分ヤツを買っているようだが何か胡散臭さがあるんだよな。自分を隠しすぎるというか。」


 「ああ。それは仕方ねえんだ。詳しくは話せねえが、聞いちまったら多分お前号泣するぞ?」


 「え??」


 「まあ、ヤツの生い立ちも含めて、他人に心を開いちゃ生きて行けない境遇だったんでな。それがスタインとこの親子やあのユキって娘のおかげで自分から溶け込もうとする兆しが出始めた。俺達年長者が見守ってやらなきゃよ?」


 「ふむ…なら今夜の祝勝会はいい機会だな。もちろんゼマティスさんも来るんだろ?」


 「ああ。スタインはあんなツラしてるが料理は絶品だからな。しかもお前、3割くらいは俺のポケットマネーから出してるんだからな?」


 「へっへ。そりゃご馳走様で。」


◇◇◇


 「おーい!モーリス!いないのかー?モーリスー?」


 「………」


 「なんだよ… いないのか?おーい!おっさん!いないのかー?」


 「誰がおっさんだこのクソガキャア!」


 「なんだよ。いるじゃないか。仕事だ。」


 「ん?急ぎか?」


 「ああ。長剣もナイフもこの通りでさ。このままじゃ仕事できねえだろ。」


 「…何をぶった斬ればこんなになるんだ?」


 「ああ。えーと…。オーガを2体。」


 「へえ、なるほどなぁ。オーガ…ってなんだとぉー!?」


 「ちょ、声でけえよモーリス。」


 「お前な、よく聞けよ?この剣はオーガを斬れるような剣じゃねえんだ。オーガなんて斬ろうとしたらポッキリだぞ?」


 「モーリス殿。テルは嘘などついていない。その剣で間違いなくオーガの首を刎ねたよ。一太刀でな。見事だった。」


 「…お前、何モンだ?」


 「あー…今日からAランク冒険者になりました。ユキもな。」


 「なんだとぉぉ!?」  


 「それでさ、このオーガの骨とこのミスリルのインゴット。こいつで武器を頼みたい。あと適当に。素材は余らせなくていい。ユキのサブウェポンを打ってもらってもいいな。」


 「へへへ。これだけの素材を並べられちゃあ断れねえなあ。よし、任せろ!そうだな…。一週間で仕上げてやるぜ!明日からは店閉めてやるからよ、その辺の好きな武器貸してやるから仕上がるまで代用品にしとけ!ほら、今から仕込みするから!」


 「あ、ああ。それじゃあ頼むよ。」


 「おっと、そうだ!好きにやらせてくれるんならお代はいらねえよ。Aランク昇格の餞別だ!」


 ゼマティスと同じような事を言うモーリスにテルとユキの心は温かくなった。


 生まれて初めて自分以外の誰かの為に戦ったテルと。

 生まれて初めて命令ではなく自分の意志で戦いに臨んだユキと。

 2人にこみあげて来る充実感は生まれて初めてのものだった。

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