討伐クエスト
会ってみたい。テルもユキもそう思った。
「どうやら相当なバケモンらしいぞ?たった1人で300人を全滅させたとか、数人のパーティーで5000の軍に相対して1000を急襲で殲滅、残り4000は降伏させたとか。」
(正真正銘のチートだな。益々会ってみたくなったな。)
別に力試しをしたい訳ではない。純粋に自分達以外の日本人に興味があった。
「それでだ、異世界人を召喚したのは陛下御自身だ。お前さん達の事も知れれば保護に動くだろうな。しかも、差別の被害者だ。」
しばし考えてテルは決断した。
「セリカ陛下とセリカ陛下が造ろうとしているこの国を見届けようと思います。ユニークスキルについては必要とあらば使いますし、それに対してこちらに不都合な事を要求してくる輩には実力行使させてもらいますが。」
「ああ、構わんよ。この不安定な時勢に詰まらん事でトラブルを起こす様なヤツはいらん。」
ゼマティスはニヤリと笑う。
(俺をダシに綱紀粛正も進めようってのか。食えないな。)
テルはそう思い苦笑するが。
「ゼマティス殿、今は不安定な時勢なのか?」
ユキが尋ねる。そういえば転移者であるユキには説明が必要だったとテルは自分の落ち度を反省する。何しろゼマティスから呆れた様な視線が飛んで来たからだ。『お前はそんな事も説明していないのか』と。
「ああ、お嬢さん…「ユキだ。」
「そ、そうか。ユキ。さっき話した通りセリカ陛下はこの国を根本から作り直そうとしている。だが今までの体制で甘い汁を吸っていたヤツは当然反発するわな。ここから南に領境を接しているカムリ領がそうだ。どんどん戦線が南に下がってきているからそのうちこの街も混乱するかも知れないなぁ。」
「なるほど、スタイン殿やストラト殿、モーリス殿の悲しむ顔を見たくはないなあ?テル。」
もう十分絆されてるじゃないか、と苦笑するテル。だがユキがその覚悟なら自分もそうする。それだけだ。
「まぁ、ここだけの話にして欲しいんだが…」
どこかバツの悪そうな顔でゼマティスがボソボソと話す。
「優秀な冒険者を繋ぎ止めておけないってのはギルドマスターの無能を示すもんだ。」
さらにゼマティスは開き直ったような顔で声を大にして言い放った。
「どうか俺の為にもこの街で活躍してください!!!」
バァン!!とテーブルに手を付き額を擦り付けるように頼み込むゼマティスは受付嬢さんが言うように威厳の欠片も無かった。
「ぷっ…ははは!初めからそのように本音を出してくれても良かったのにな。なあユキ?」
「うむ。全くだ。まあ、これでゼマティス殿の秘密を握った訳だから立場的には五分五分だな。」
「ああ。五分五分どころか六四でも七三でも構わねえよ。お前さん達がこの街を守ってくれるんならな。」
ユキはゼマティスをなかなかの男だな、と評価した。口では自分の為などと言っているがこの男が案じているのは徹頭徹尾この街の事だ。恐らく街の住人の立場で物事を考える為に貴族連中とは反りが合わないのではないか。その点で考えれば自分の評価を上げたいと言うのもある意味本音か。
テルもゼマティスが結局本音しか語っていないのを感じ取った。この男なら信じてもいいかも知れない。
「俺が話したい事ってのはこれで終わりだ。後はゴブリン討伐の指名依頼の件があるがそっちは受付で聞いてくれ。今日はわざわざ済まなかったな。ありがとよ。」
「いえ。こちらこそ、有意義な時間でした。」
「美味い茶菓子をご馳走になった。ありがとう。」
「おう、よかったら少し持って行くか?」
「ほ、ほほほ本当か!?」
「あ? あ、ああ。よかったらどうぞ?」
お土産に茶菓子を包んで貰っているのをキラキラした目で見つめているユキを見て
(餌付けされたな… 飴玉一つで誘拐とかされないだろうな?)
などと若干失礼な事を考えていたテルだった。
◇◇◇
「それではこちらが指名依頼の内容になります。かなりの好条件ですね。余程ギルドマスターに気に入られたようで。」
受付カウンターで受付嬢さんから説明を受ける2人。
「討伐クエストが発布されてまだ1日ですが戦力は整ったと判断したので明日の朝出発となります。ギルドが馬車を手配していますがテルさん達はどうなさいますか?」
「俺達はムスタングに乗って先導しますよ。」
『ムスタング』の名前を聞いただけでテルの馬だと分かる受付嬢。この街ではテルがムスタングを家族のように大事にしている事を大勢の人間が知っている。
「よう、傷面!明日は案内してくれるんだろ?宜しく頼むぜ!」
「あら、テルにユキちゃん!あんた達が案内なの?クエスト受けてよかったわ!明日は宜しくね!」
「こっちこそ宜しく頼むよ。ああ、明日は油断しないほうがいいぞ?上位種も確認したし数は『少なくとも100以上』だ。200かも知れんし300かも知れん。」
「ああ、心に留め置くよ。」
討伐クエストを受注した冒険者たちと言葉を交わし、テルとユキはギルドを後にした。
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