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脱出

連載中小説『いや、自由に生きろって言われても。』のスピンオフ作品です。興味のある方は是非ご覧ください。

 5年後。家族との会話は殆どない。弟妹もテリー見下し嫌がらせ等をしてくるがテリーは特に反応を示さずやり過ごしていた。使用人たちの態度もまるでテリーなど存在しないかのようで、食事や洗濯等の家事も自分でこなさなければならなかったがこれに関しては傭兵時代のノウハウがあり、サバイバル生活もお手の物だった彼にとっては苦になるものでは無かった。


 テリーは魔物相手にひたすら実戦を重ね、戦闘能力を格段に上げていた。身長も伸び、筋肉も付き逞しく成長した。表情にはやや幼さが残るが精悍と言っていい顔つきである。5年前に使っていたナイフとショートソードは既に折れて廃棄している。現在は左右の腰にナイフを佩き、背中にバスタードソードを背負っている。


 そして左の頬には2本の傷痕が斜めに走る。魔物との戦いで抉られた傷だ。この傷を付けてからの家族はさらにテリーを侮辱するようになる。「出来損ないが更に下品になった。」「汚らしい顔になった。」と。


 血を分けた家族でもこんなものかとテリーは悲しくなるがこんな家族と今日でおさらばするかと思えば逆に清々しくもある。考えてみれば前世でも両親に捨てられたのだ。血縁などに何程の重みが有ると言うのか。


 一応は15まで育ててくれた家に一礼し門戸を出ようとしたが、テリーが出ていくのを邪魔するように邪な笑みを浮かべた少年と少女が立ち塞がった。


 「よう、()兄上、行くアテはあるのかよ?這いつくばってお願いしてみろよ?小遣いくらい恵んでやるぞ?ケヘヘヘ。」


 テリーは汚物を見るような視線で一瞥した後、弟らしきモノを無視して外に出たがそこには武装した兵士が10人程取り囲む様に待っていた。


 「父上の差し金か?殺したい程俺が邪魔か?」


 「これから死ぬ貴方が知る必要の無い事です。お覚悟を。」

 兵士の1人がテリーに剣を向けながら言う。後ろでは弟だったモノと妹だったモノがニヤニヤしながら眺めている。


 テリーは深く溜息をつく。出来れば事を荒立てたくはないが殺されるのはゴメンだ。自分が生きている限りこの家は自分の命を狙って来るだろう。ならば殺すか。テリーの思考は前世の傭兵のそれに切り替わっていた。敵は殺す、と。


 兵士が1人、斬りかかって来る。


 「うぎゃあああ!!」

 「な、なんだ!?どういう事だ!?」


 断末魔の悲鳴をあげたのはテリーではなく別の兵士だった。いつの間にかテリーの盾となる場所に立って斬撃を受けていたのだ。


 恐慌をきたした兵士はテリーに殺到するがなぜか瞬時に立ち位置が入れ替わり同士討ちになってしまう。テリーの不可思議な能力は自らの手を汚す事なく10人の兵士を全滅させた。


 「さて、コイツらも殺さなくちゃな。」


 テリーは少年と少女に近付いていく。


 「ひっ、く、くるな!」


 「こないで!こないでよ!」


 背中のバスタードソードを抜き2人に近付いて行くと騒ぎを聞きつけた母だった人や父だった人、それに使用人が外に飛び出して来た。


 「何をしているか!テリー!」


 父だったモノが何やら叫んでいる。


 「酷いではないですか。()父上? 約束通りこの家を出て行こうとしたら兵士10人に殺されかけましたよ。」


 「…貴様に外で動かれては困るのだ。我が辺境伯の家の長男が魔法の使えぬ出来損ないなどと知られてはな。」


 今度は騎士が10人飛び出してきた。テリーの顔はニヤリと笑う。10人の騎士が一斉にテリーに斬りかかるが今度は誰の立ち位置も変わらない。しかし命を散らしたのはテリーでは無かった。


 「ご、ごふっ、な、なぜ…」

 「た、たすけ…」


 「そ、そんな馬鹿な!?」

 「どうなっている?」


 血飛沫をあげて息絶えたのは弟だったモノと妹だったモノだった。


 「いやあああああ!」

 母だったモノは錯乱し、父は呆然と我が子の死を見つめていた。


 「貴様、何をした…貴様!一体何をしたああああっ!」


 自分を殺そうとした癖に勝手なものだ、とテリーは思う。剣を抜き襲ってくる父が斬るのは何故か自分の部下である騎士達だ。確かにテリーに向かっているのに斬る瞬間何故か騎士の前にいる。


 もはや半狂乱の()父が最後に斬り殺したのは自分の妻だった。


 「…お前は何なのだ?一体何者だ?」


 「先程襲って来た兵士に言われましたよ。『これから死ぬ貴方には関係の無い事です』ってね。」


 「貴様は親であるこの私を殺すのか!?」


 子である自分を殺そうとした人間が親を語るとは何とも言えない気持ちになるテリー。


 「一応、今まで育てて貰った恩義は感じていたので大人しく立ち去るつもりだったのを邪魔したのは貴方ですからね。せいぜい後悔して下さい。」


 瞬間、テリーの持っていたバスタードソードは()父親の腹に生えていた。


◇◇◇


 「さて、と」


 何にしても辺境伯たる貴族の家族と家臣が死に絶えたとあれば騒動となるのは必至である。テリーは逃亡の準備をしなければならなくなった。屋敷の中を漁り当座を凌げるだけの金と食料、小物を肩掛け鞄に詰め込む。そして武器庫へ行き出来のよい武器を数点。そして厩舎へ行き馬を1頭。


 「まるで強盗殺人じゃないか。」


 テリーは苦笑いする。さらに、自分と背格好が似ている兵士の顔の左頬に自分と同じ様な傷をつけた上で、自分のバスタードソードを遺体に握らせる。


 「なんとも稚拙な工作だけど地球で言えば中世レベルの文化水準だし俺が死んだと思わせるには十分だろ。万一バレても時間稼ぎにはなるだろうさ。」


 10才の誕生日までは幸せだったのにな、と懐かしいような悲しいような複雑な感情を抱きながら馬に跨りテリーは屋敷を去った。


 「お前は仲良くしてくれよな。」


 馬にそう語りかけながら。 

  

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