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ギルマスと食いしん坊

 翌朝、朝食を終えてお茶を飲んでいると。


 「おーい!テル!ギルドから客だ。」


 「おう。」


 どうせ指名依頼の件で受付嬢さんが来たのだろうと気軽に食堂を出て行ったのだが。


 「おはようございます。テルさん。朝早くからすみません。こちらはギルドマスターの『ゼマティス』です。テルさんとお話がしたいと。」


 「朝から悪いな。ゼマティスだ。依頼の件も含めて色々と話したい事があるんだが付き合って貰えないか?ああ、黒髪のお嬢さんも一緒で。」


 (ギルマスが直接?しかもユキも?)


 テルが怪訝な顔をしているのを見てゼマティスは苦笑しながら言う。


 「まあ、気持ちは分からんでもないが、そう警戒してくれるな。お前達の仕事振りが優秀なんでな。少し話を聞きたくなったのさ。」


 あまり楽しい話にはなりそうにないな、と思いながらもどうせ断っても無駄だろうと諦めるテルだったが。


 「こちらから話す事はあまりないと思いますが、どちらでお話を?」


 ゼマティスはふと考え、


 「そうだな。支度が出来たらギルドへ来て貰えるか?俺の執務室で話そう。美味い茶菓子くらいは用意しよう。」


 「わかりました。準備ができ次第伺います。」


 「おう、じゃあ待ってるぜ。」


 去り際に受付嬢さんが寄って来て、

 「ギルドマスターはあれでも現役の頃はAランクの腕利き冒険者だったんですよ。威厳とかはありませんけどね。」


 と耳打ちしていった。


 「おーい!早く行くぞー!」


 「はーい!」


 離れた所からゼマティスが受付嬢さんを呼んでいた。確かに気さくな人ではあるな、とテルは悪くない印象を持った。


 食堂に戻るとユキやストラトが心配そうにテルに話し掛ける。


 「テル君、ギルマスが直接来るなんて何か厄介事?」

 「『ぎるます』と言うのは組織の頭領のようなものなのだろう?そのような身分の者が直接出向くとは重大な事案ではないのか?」


 重大かどうかは分からないが厄介事なのは間違い無いだろうな、とは思うテル。


 「ギルマスの印象は悪くなかったよ。まあ、内容の方は行ってみない事には分からないな。ユキもご指名だ。美味しい茶菓子を出してくれるそうだ。」


 「そうか。それは楽しみだ。では早速行こうか、テル。」


 茶菓子と聞いてテンションが上がるユキを見て微笑ましくなるテルとストラト。


 「おい、テル。おめえすげえじゃねえか。ゼマティスはなあ、見込みのあるヤツには自ら出向くって話だぜ?元Aランクが目を掛けるんだ。お前は前途有望ってこった。」


 スタインがそんな事を言う。もしかしたら【能力】を隠している事がバレているのかと心配になったテルだが。


 「なに、心配いらんよ。私がついている。」


 ユキの一言で気分が軽くなる。


 「ふふ。そうだな。じゃあ行こうか。おやっさん、ストラト。行ってくるよ。」


 ユキとテル、ムスタングに揺られてギルドに到着。茶菓子が楽しみでウキウキしているユキとは対照的にどこか浮かない顔のテル。


 (ユキって食いしん坊属性持ち?)


 今にも鼻歌でも歌いだしそうなくらいご機嫌なユキを見ているとそんな事を思う。


 「ほらっ、テル!早く行こう!」


 同時に先程までの憂鬱な気分がいつの間にか晴れているのに気づいて可笑しくなった。

 

 (天然で癒し系?いや、戦国時代の庶民がそうそう菓子なんて食べられないだろうな。大名や大商人が食えるくらいか?きっと楽しみで仕方ないんだろう。)


 ギルドに入ると受付嬢さんが出迎えてくれ、3階の個室に案内された。


 応接用のソファに座るよう促され、テーブルにはユキお待ちかねの茶菓子と紅茶が。


 「おう、良く来てくれた。まぁ、それでも食って待っててくれ。この書類片付けたらすぐ行く。」


 ゼマティスが執務机の書類の山の奥から顔を出して声を掛けた。それを聞いてユキがテルをチラチラと見上げる。『お預け』された犬っぽいな。そう思いながらユキに頷くテル。


 忍びとしての諜報活動に於いていろいろな職種の人間に扮する必要があったのだろう、食べ方は非常に上品だった。


 (農民から武家の娘まで、殆どの身分の人間になりきる訳だから教養なども叩き込まれたんだろうな。)


 やがてテーブルの対面にゼマティスが座る。


 「どうだ、美味いだろ?」


 「うむ、このような菓子は今まで食した事がない。素晴らしかったな。」


 ユキは満足気だ。


 「それでゼマティスさん。話とは?」


 いきなり本題を切り出すテル。


 「せっかちなヤツだな。まあいいだろ。まず、ゴブリンの巣穴の調査、ご苦労だったな。助かった。それで、もう分かってると思うが討伐クエストを発布するから参加してくれ。指名依頼だ。」


 「ええ。それは。でもそれだけじゃありませんよね?」


 「ああ。実は今回の調査の手際がCランクにしちゃ出来すぎなんでな。少し今までの依頼を精査させて貰った。」


 「……」


 「結果、お前は目立たないようにソロで依頼をこなして来たがそれが返ってお前の非凡さを浮き彫りにしている。つまり何故かは知らないがお前は力を隠している。そして今まで頑なにソロに拘って来たお前が突然連れてきてパーティを組んだお嬢さん、あんたも訳アリだな。」


 「…何の事かわかりませんが。」


 「まあ、そんなおっかない顔すんなよ。俺の話を聞いてからでも俺を嫌うのは遅くないと思うぜ?」


 それもそうか、と妙に説得力のあるゼマティスの言葉に頷きもう少し話を聞く気になったテルだった。

  

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