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歴史上の有名人

本作品は『いや、自由に生きろって言われても。』のスピンオフ作品です。

 「て、て、ててて…」


 「はい、落ち着いて深呼吸ぅ。」


 「すぅー、はぁー、すぅー、はぁぁぁぁー。」


 「はい、じゃあもう一度。」


 「て、テル?」


 「うん、いいね。もう一回。」


 「テル…」


 「よしよし、それでいいよ、ユキ。」


 テルが上杉の末裔だと知った途端に恐縮したユキは頑なに『殿』とか『若様』とか『御曹司』とか『御館様』とか、とにかく尊称で呼ぼうとする。それでは困るとテルは『上杉』の強権を発動させ何とか『テル』と呼ばせる事に成功した。もう明け方近い時間になっていたが。


 「…テル…むにゃむにゃ…」


 そしてユキは睡魔に負けてしまう。そしてテルも糸が切れたように眠りに落ちた。


◇◇◇


 『コンコン!』「テルくーん!ユキちゃーん!朝ごはんだよ!」


 「……」


 「開けるよ?」


 なかなか食事に現れない2人を心配に(別な意味でも)なり、部屋まで起こしに来たストラト。そして扉を開けた先で見た光景は。


 「ちょっ!こらー!なんで一緒のベッドで寝てるのさー!!!」


 「…んにゅ?ストラト?おはよう?」


 「ん?もう朝か?騒々しいな……あっ!?」


 「2人ともそこに座りなさい!」


 何故2つのベッドがあるのに同じベッドで寝る必要があるのか物凄く問い詰められ、しかし実質寝落ちしてしまった2人はまともな言い訳が出来る訳でもなく。


 「「すみませんでした!朝ごはん抜きは勘弁して下さい!」」


 と平謝りする事しか出来なかった。


 「もう…ズルいよぉ、ユキちゃんばっかり…」


 テルには聞こえていないがユキにはしっかり聞こえていた。この辺りはテンプレと言うヤツだろうか。


 結局、お互いを知り合う為の情報交換が長くなり、眠気に耐え切れずあの状態で寝てしまったと言う殆ど事実の言い訳で納得してもらい、なんとかストラトの機嫌も直った。しかし、


 「おしゃべりで盛り上げるならあたしも仲間に入れてよね!」


 と微妙に難しい約束を取り付けられた。


 「それじゃあ、ギルドに行ってユキの冒険者登録をしてくるよ。もしかしたら依頼を受けるかも知れないけど夕食には戻るから。」


 テルはそう言いユキと連れ立って宿を出た。


 「ギルドに行く前に武器屋に寄って行こう。」


 テルはいきなりユキに告げるがユキには持ち合わせなど無いので困惑する。


 「その、て、て、てててて、テル、私には持ち合わせが無いのだが…」


 「はは、そうは言っても無手じゃ冒険者は出来ないよ。貸しにしとくから。」


 にこやかにそう告げるテルだったが言われたユキの方は心中穏やかではいられない。

 (むう、これ以上借りが増えては…)


 「ここが武器屋だよ。さ、中に入ろう。」


 目的の武器屋に着き、テルがユキに入店するよう勧める。武器屋というか、職人の工房のようだ。壁に掛けられていたり無造作に置かれていたり、あまり綺麗に展示する気はないようだ。それにしてもテルの言う通りここは異世界なのだとユキは再認識した。何しろ剣ひとつ取って見ても日本の物とは全く違う。


 「よお、傷面(スカーフェイス)頼まれたモノなら出来てるぜ?」


 店の主人らしき人物がテルに向かって言っているようだが『スカーフェイス』とは?ユキが疑問に思う。


 「ああ、俺の渾名なんだ。左頬の傷痕のせいでね。でもみんな悪気がある訳じゃないんだよ。」


 「ん?なんだ?おめえが女連れとは珍しいな?」


 「ああ、今度パーティーを組む事になる『ユキ』だ。よろしく頼むよ。これからも何かと世話になる。」


 「『ユキ』と申す。以後、お見知りおきを。」


 ユキはペコリと頭を下げるが店の主人はと言うとあんぐりと口を開けたまま固まっている。


 「おい、どうした、モーリス?」


 「ハッ!? いや、お前がパーティー組むとはなぁ…こりゃギルドは大騒ぎになるぜ?」


 しばしトリップ状態だった店の主人、名前は『モーリス』といい、腕利きの職人だ。そして種族はドワーフである。全く見かけない訳ではないが頑固で無愛想が種族特性みたいな物で、人間の集落に混じって生活する個体は少ない。


 「モーリス、それより頼んでたヤツ。」


 「あ、ああ、えーっと…これだな。」


 差し出された物を見てユキは目を見開く。モーリスが差し出したのは苦無(くない)が4本、それに忍刀。


 「随分と変わった得物だな。このカタナは短めでしかも反りがない直刀だ。かなり珍しい造りのカタナだぜ。それにこっちのクナイ?だったか。これも冒険者が使っているのは見た事がねえ。王都の方にいる裏組織が似たような武器を持ってるってのは聞いた事があるがな。」


 「て、テル?これは?」


 「ああ、勝手な事をして済まなかったな。ユキの所持品がかなり傷んでたから修繕に出してたんだ。どうだ?」


 「うむ…素晴らしいな…ありがとう、モーリス殿。」


 深々と礼をするユキに


 「ばっ、バカ!俺は仕事をこなしただけだ。礼ならそこの傷面にしやがれ!」


 「ああ、そうだな。ありがとう。」


 もう、ユキの中ではテルの株はストップ高だ。一方のテルは修繕に出す前の武器の状態を見ていたが故の疑問を口にする。


 「ユキが戦っていた相手はかなりの手練だったのか?」


 そういう疑問が浮かぶ程にはユキの忍刀はボロボロだった。


 「ああ。恐らくは『飛び加藤』だろう。それに『望月』もいたようだ。私も運が悪い。」


 テルは驚愕した。『加藤段蔵』と『望月千代女』。どちらも後世に名を残している忍びである。忍びはその特性上、素性が明らかになる事自体が稀なので後世に名を残しているのは余程の手練か大物の可能性が高いだろう。気になるのはユキがこちらに飛ばされて来たのなら、戦っていた武田の忍びはどうなったのか。そこである。



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