ラストメッセージ
私がここに来て何日が経ったのか正確な日付は覚えていない。
数か月のような気もするし、数年のような気もする。だが、自分以外の他者がいないこの場所において、時間など価値がない。何日経とうと何十年経とうと、私が他の誰かに会えることは、きっともうないのだから。
今まで我が物顔で地球を貪り続けてきた人類へしっぺ返しのように襲った大災害。それは容易く人類が築いてきた文明を容易く崩壊させ、ほぼ全ての生物をこの世から消した。
たまたま民間向けに作られたシェルターへ取材にきていた私は、地上を襲った数多くの災厄から逃れることが出来た。
それが不幸だったのか幸運だったのかわからない。いや、今思えば間違いなく不幸だったのだと思う。
自分というただそれだけが世界を形作るようになったその日から、私はここで暮らしている。幸い食料や水などは一人の人間が普段通りの生活を送ったとしても、一生のうちに使いきれない量が備蓄されていたので問題はなかった。
人類が今まで積み重ねてきた膨大な情報を収めた一台のパソコン、それがこのシェルターにある娯楽の全てだ。
生きる意味も死ぬ価値も見いだせないこの状況で私はただ生き続けている。呑気と思われるかもしれないが、気分としては永久に漫画喫茶へ閉じ込められたようなものだ。
ただ漫然と一日を過ごし、生きる為に生きているようなそんな状況。
一体何故私は生きているのだろうか。
ある日いつものようにパソコンをいじっていたら、何の奇跡か一通のメールが届いた。自分以外にも生き残りがいるのかと、喜び勇んでメールを開いた私はその内容に困惑した。
何も書かれていなかったからだ。
なんだただのバグかと思い、空白のページを閉じようとした私は、一つのファイルが添付されていることに気付いた。何ギガバイトにも及ぶそのテキストファイルの中身は、一つの創作物だった。
題名は「ラストメッセージ」
ある一つの種族を描いたSFとも歴史物とも言えない、そんな毒にも薬にもならないような内容の小説が延々と描かれていた。
送り主と連絡が取りたかった私は、その想像だけで書かれた内容に落胆し、一旦はメールを閉じた。しかし、何日か過ごす内に、あの小説には何か情報が隠されているのではないかと思い立ち、その作品を読んでみることにした。
もしかしたら生き残りがいるのかもしれない。そして、彼らが今どこにいるのかこれを読めばわかるのかもしれない。
そんなほぼ妄想と言っても良いような発想に憑りつかれた私は小説を読み進めたが、数百キロバイトまできたところで気付いた。
やはり、これはただの小説だ。何のメッセージ性もなく、空想で描かれた話。
私は時間の無駄だと思い、このまま読むのを止めようかと思ったが、そもそも時間など腐るほど余っている。特に何かをする予定もなかったので、私は小説を最後まで読むことに決めた。
小説を読み始めてから数十日が経った。
最初は暇つぶしのつもりで読んでいたが、思いのほかよく出来た作品で、日を追うごとにのめり込んでしまった。
読者の視線をよく理解したその描写に、私は時に笑い、時に泣いた。
あっという間に過ぎていく時間。
数年をかけて文庫本にして数千冊近いその作品を読んでいた私だったが、思いもよらないラストに思わず声を上げてしまった。
完結とは程遠い内容のところで文章が切れていたのだ。
慌ててもう届いてから数年前になるメールを再度開くが、添付ファイルは一つのみで他には何もない。
尻切れトンボのような状況に、そのまま数日を呆然と過ごしていた私だったが、ある日ふと思い立ちパソコンを開いた。
私があの作品の続きを書こう。
誰にも読まれることはないことをわかってはいたが、それでもあの作品が中途半端な形で終わってしまうことが耐えきれなかった。皺が増えてきたその手で文字を打ち込もうとして、はたと指が止まった。
何も思いつかなかったのだ。
そこから数日必死に頭を捻らせていたが、出てくる文章はもう見ることはない小学生の作文のような駄文ばかりだった。
失意と共に諦めようかとも思ったが、どうしても続きが見たい気持ちに耐え切れず、そこから苦難の日々が始まった。
今まで読んだ数多の作品を読み返し、資料として頭に叩き込んでいく。すっかり鈍くなった脳はなかなか想像を働かせてくれなかったが、それでもなんとか作品を読み返しては継ぎ足すように文章を書き連ねていった。
小説の続きを書き始めてから数年が経った。
今私は最後の章を書き進めている。
この作業を初めてから気付いたことがある。
私はもしかしたら、この小説の続きを書くために生き残ったのかもしれない。
そんなことがあり得ないのはわかっている。
私がここにいるのは偶然であり、誰かに意図されたものではない。
それでも私は思うのだ。
もしかしたらどこかにいる異星人がこれを読む日が来てくれるのではないか、と。
彼らは内容を少しも理解できないかもしれない。だが、それでもわかって欲しいのだ。
かつてこの星には生命があったことを、そこで生きてきた種族がいることを。
私はすっかり皺だらけになった指で文字を一つ一つ打ち込んでいった。
小説を書き終えてから数年が経った。
私の命もそう長くはないだろう。
既にあの小説は半永久記録媒体へ転写している。
例え人類がこの世から誰一人いなくなったとしても、いつかもう見ることは出来ない太陽がその命を潰えるその日まで、あの作品は残り続けることだろう。
果たして私のやったことに意味はあったのか、それはわからない。もう評価してくれる人もいない以上、そんなことは永久に訪れないだろう。
それでも何かをやり遂げた気持ちはあった。
ただ漫然と生きるには人生は長くて、何かを為すには短すぎる、そんな一文を思い出す。
確かにあの小説を書き始めてから、時間はあっという間に過ぎていった。ただ漠然と生きていた私にとって、あの小説との出会いが始まりだったのかもしれない。
ただ一人、孤独に続ける作業が、それでもただ楽しかった。
誰も読んではくれないかもしれない、それでもあの作品を残せたことに私は満足していた。
うつらうつらとする靄のかかった思考の中で、自分が打ち込んだ最後の一文を思い出す。そこには私の想いを気持ちを全て込めてある。
こうであってほしい、こうであってほしかった、その想い。
あの小説を最後に締めくくったその言葉は。
如何だったでしょうか。
いつも書いている別の小説が全く書き進まなかったので、ごちゃごちゃしたものを吐き出すように書いてみました。
特に内容と言える内容はありません。
どちらかと言えば伝えたい想いに近いです。
人類はなんで生まれてきたんだろうって昔からよく考えてました。
いつか人類が滅びるとしても、この世に様々な創作物が残るなら、意味はあるんじゃないかと今は思っています。
この作品もその中に含まれてればいいな、とそう思います。
最後の一文に関しては、みなさんならなんて書きますか?
人類が最後に残した作品の最後の一文です。
私なら多分、「そして世界は平和になりました」って書くと思います。
それでは、またいつかどこかで。




