表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/75

《ゲリラボス》3

「……ああ畜生」


 後退り。


 地下駐車場。

 収容数にして1000台規模の広さ。


 その真ん中までやって来たところで、やっと私はその過ちに気がつけた。


 天井からぶら下がった明かりの陰った部分にびっしりと敷き詰められた緑の光点。

 その光源の全てが私を認めた瞬間にごろごろ転がるのを止めて、こっちを凝視する。


「……忘れてた。」


 私が呟いた瞬間、非活動(ノンアクティブ)の緑色光源の群れが一斉に自爆待機中の黄色に変わっていった。


 狭いところに潜むのがお得意の自爆毬ことディストラクター。

 こんな好都合な場所に群れない訳がない。


「最悪……」


 次の瞬間には、無数のディストラクター達が私目掛けて襲いかかってきた。


「……やんなるね、本当にっ」


 初弾を放ったのは、ぎりぎり取り出すのに間に合ったAA-12。


 更にもう片手にM11-87を構えて、360度全方向から押し寄せてくるディストラクターに応戦する。


 右、左、右、左、左、右、左


 続々火を吹く火薬が鋭い反動になって腕を伝わる。

 目まぐるしく移動する銃口の先で、散弾を食らった自爆エネミーたちがオイルと金属の血肉を撒き散らしながら爆ぜる。

 足下は瞬く間に廃品の山となり、更に振り回すようにして撃つ二丁がその上から薬莢をふり撒いていく。

 足を取られないようにしつつも絶えず視点と足場を変え続ける動作は、昔少しだけやっていたダ〇レボの動きを思い出させなくもない。


 しかし開始早々、チューブ延長で7発装填に増量したM11-87が排莢口をぽかんと開いたまま言うことを聞かなくなる。

 弾切れだ。


 このマヌケ面がいつ見てもレミィに通じない。


 近距離の対単数ならこの取り回しの良さを存分に発揮できるが、数に囲まれてしまうとこんな風にすぐに音を上げてしまうのがこいつの弱点だ。


 弾を一発ずつ詰め直す暇もなく、私はM11-87を放り出してAA-12を滅茶苦茶に撃ちまくる。


 ディストラクターは自爆以外の攻撃手段は有しておらず、装甲もかなり薄いため、単体なら玩具感覚の22口径拳銃でも倒せると言われるくらい弱い。

 故に発見が遅れることがなければ対処も簡単なタイプの敵である。


 だがこうも群がられては話は別だ。


 一球でも撃ち漏らしたら即アウト。

 振り払おうと一瞬でも隙を見せれば他のやつらに集られて、間も無く火薬達磨の完成だ。三秒後には欠片も残さずに吹き飛ばされる。


「どんだけいるんだっての……!」


 撃っても撃っても減らない敵に、私は逃げの姿勢に入っていた。


 鹿撃ち用のOOB(ダブルオーバック)32発が空になったドラムマガジンを換えながら、嫌に柱だらけの駐車場を走り回る。

 このまま地上に逃げようかとも考えたが、それも途中で諦めた。


 こんな状態で出て行ってもあの空飛ぶ戦車男にミンチにされるだけだ。


「だからってここで千本ノックってのもな……」


 こうなればもしもの為の"とっておき"を使うしか無さそうだ。


 右手にある二つの指輪の内のひとつ。

 キュウとの契約を示す指輪だ。

 レミィのと同じくそれにも赤い小さな結晶が三つ嵌まっていて、何処か毒々しい色の輝きを放っている。


「支配権三つ!」


 私の声に応じて、その結晶三つが爆ぜる。


『支配権』

 これがこの前説明し損ねた特殊アバターのルールのひとつだ。

 (マスター)と特殊アバターの間には、形上の主従関係が存在する。

 だがそれは、キュウの自由な行動を見ても分かる通り特殊アバター自身の思想や行動を表だって縛るものではなく、どこまで行っても所詮『形』でしかない。


 そうなれば必然的に通常のプレイヤーよりも高いステータスを持つ特殊アバターが有利になり、両者のパワーバランスには歪みが起こる。

 そのバランスを取るためのルールがこの『支配権』だ。


 具体的には『特殊アバターへ言うことを聞かせる』権限で、一週間にひとつのペースで回復、キープできるのは最大三つまでとされる。

 この支配権の面白いところは、重ねて使用する数によって効果が少しずつ変わることだ。


 一つだけでは、命令を言葉として届けるだけでそれほど強い強制力はなく、素行の悪い特殊アバターの手綱を引き締める程度だ。


 二つなら、特殊アバターの意思に関わらずその命令を遂行させることが可能で、事実上の絶対命令だ。


 そして、最大の三つ使用。

 これが一番凄まじい。



 私は目前まで迫っていた自爆毬を殴り飛ばしながら、命令する。


「今すぐたすけて、キューちゃん!」



「はぁい!」



 地下駐車場に、ここにはいない筈の声が響く。


 同時に私の目の前で強い風が渦巻き、飛びかかってくるディストラクターの群れを吹き飛ばした。


 そして次の瞬間、


「え?」


 渦の中からいくつものグレネードが飛び出し、あちこちでカランコロンと跳ねる。


「ちょっ、ちょっ、ちょっ、ちょっ……!?」


 これはもしやスタングレネード。

 しかもこんな天井の低い空間でこの数。


「どかーん!!」


 気の抜けるような声を合図に、私の意識は閃光と爆音に沈んだ。




「……けっ……ミケっ……きて……ぃケぇ!」


「う……んん……あ?」


 耳鳴りがする、目の奥がじんじんする、頭がガンガン言って世界が揺れている。


 薄く開けた瞼の向こうに何かが見えるが、ぼやぼやと不明瞭で何が何だかさっぱりわからない。


「ミケ!」


「……あ……あと五分。」


「大変、ミケが月曜日の朝みたいになってる!」


 その声はてんで意味不明な事を言うと、私のパーカーのポケットをごそごそと漁る。

 それが結構くすぐたいのだが、やはり動きたくない。


「あった!ミケ、注射あったよ!」


「あ?」


 疑問符を呈した瞬間に、右の太ももに何かがぶすりと刺さった。


「あいっ……てて……」


 畜生、寝起きの乙女に何てことしやがる。

 なんてことを考えてると、いきなり全身が火を吹くように熱くなり……


「ひいぃぃっ!?」


「わ、ミケ起きた!すごい!」


 歓声を上げるキュウの前で、私はポップコーンみたいに飛び上がった。

 全身の血液が凄まじい勢いで循環している。

 頭はギンギンに冴えて、肉体は今すぐあの空の彼方まで走れと叫んでいる。

 とにかくヤバイ、まるで体内で宇宙の始まりが凝縮されているような気分だ。


「うおぉぉ!キューちゃん、おまえ今なに打ったぁぁ!?うおぉぉ!」


 今までにないくらい目を見開きながら問い質すと、キュウは面白そうに頷く。


「黄色いラベル!」

「活力剤打っちゃった!?」


 活力剤。

 一時的にプレイヤーの全ステータスを底上げするアイテムで、打たれるとこの通り大変なことになる。

 ピンチの時のためにいつでも取り出せるポケットに忍ばせておいたのだが、まさかキュウが使ってしまうとは誤算だった。


 かなり値の張るこのアイテム、効き目はもはやレッ〇ブルだとかモン〇ターだとかいうレベルの話ではない。

 もちろん、寝起きの人間にいきなり投与していい薬品でもない。


 現実世界だったら間違いなく頭が爆発してショック死していただろう。


「あぁぁ……やべぇ、やべぇ、やっべぇ……!?」


 この溢れ出るエネルギーをどうにか抑え込み、私はやっと地面に尻をついた。


 周りを見ると、スタングレネードを食らった自爆毬どもが一つ目小僧みたいなランプを黄色に点滅させている。

 どうやら全員故障らしい。


 なるほど、こういう対処法もあったのか。

 覚えておこう。


 さて、私の窮地に突然降ってわいてきた我らがデストロイヤーだが、これが支配権三つの力である。


 三つも重ねてかけることで、この権限は『命令』の域を越えた力を発揮する。

 基本的な効果は二つの時の絶対命令と変わらないが、それに加えて『その命令の実行を可能にするだけの力』を対象に与えることができる。

 勿論内容によっても効果の振れ幅はあるが、この世界の法則(システム)を歪める事さえ可能だ。


 例えばこの前レミィを呼んだときは、『今すぐ』という節を命令に加えたので、『空間の超越』という本来なら為しえない筈の力を発揮させた。

 今回も似たようなもので、その現象がキュウに起こったというわけだ。


「さて……ここも片付いた事だし」


 私は大きく伸びをすると、地べたにごろんと横になった。


「撤退封じ解けるまでここでかくれんぼでもするかね。」


「かくれんぼするの?鬼はだれ?じゃんけんする?」


「ちょっとまって!」と筒みたいに握った両手を覗くキュウ。

 ああ、そうか。キュウは今呼ばれたばかりで状況を伝えていない。


「あれだよ、鬼は外で飛び回ってるヘリコプターのお化け。」

「ん?」


 私の言葉に首を傾げたキュウ。

 だが外に何かいるということは理解したらしく、こくこくと頷いた。


「わかった、ここで隠れる!」




 ……というやり取りから三分くらい経ったか。

 いや、私の三分は人と比べてかなり早かったり遅かったりするから宛にならんのだが、それくらい座っていたのだが


「あぁクソ、なんか座ってる自分に腹が立ってきた。」


 結構うずうずしていた。


「……ううん、キュウ外に行きたい。飽きた。」


 辺りをうろちょろしていたキュウも似たような感じだ。


 私は怠け者だ、それは認めよう。

 だがだからといって待たされるのが好きかどうかと聞かれたら、それはまた別問題だろう。

 つまり私は待たされるのが大嫌いな訳である。

 たぶん今街角リポーターに「世界で一番嫌いなものは」とマイクを向けられたら、即答で「待たされることだ」と言うと思う。


 まあ明日のこの時間あたりに同じ質問を受けたら「おばあちゃんの玉子焼き」あたりにでも変わっている思うが。

 あの馬鹿みたいな甘さと言ったらない。だし巻きかバター風味しか知らなかった私としてはちょっとした衝撃体験だった。


 とにかく私はこの「待つ」という行為が苦痛で苦痛で仕方なかった。

 この落ち着きの無さは、さっき打った活力剤の効果もあってだろうか。

 だとしたらとんでもない薬もあったもんである。


「う~ん」


 私は薄暗い地下駐車場を見回しながら唸った。


 外に出るのは危ない。

 それは分かっている。

 さっきあのヘリ男に殺されかけたばかりなのだ。あんなのを二度目だなんて考える気も起こりはしない。


「探索しようか……。」

「たんさく?」


 腰を持ち上げた私に、動かなくなったディストラクターの腕をもいで蹴鞠にしていたキュウが振り向いた。


「うん。ここ結構広いし、端から端までぐるーっと回ったら部屋とかあったり」


 もしかしたら前のマップのように隠し部屋があるかもしれない。

 むしろ折角蛇の穴に飛び込んで来たのだからそれくらいあってもいいだろう。


「たのしそう!」

「でしょ?あとそのボール遊びやめて超こわいから。」


 ということで私たちは暇をもて余して、洞窟探検ならぬ地下駐車場探検を始めることにした。

 ちなみにリアルの駐車場はとても危ないので良い子のクソガキどもは悪ふざけにも真似をしないでほしい。


「しっかしつまらんもんだな駐車場」


 何か特別に面白いものを求めていた訳ではないが、それにしてもつまらないものだ。

 私は呟きながら、何の気なしに手近の軽自動車の窓ガラスを叩き割った。


 運転席に頭を突っ込んでダッシュボードから収納まで漁ってみる。


「うわ、びっくりするくらいなんもない」


 出てくるのはせいぜい小銭(日本円)程度で、拾ってもたいして意味は無さそうだ。

 この世界では車場荒らしじゃ食っていけそうにない。


「ミケ、なにしてるの?」

「はんざいー」

「キュウもやりたい!」

「やめとけやめとけ、レミィが怒るよ?」

「じゃあやめる」


 しばらくそんなことを繰り返しながら、私たちはふらふらと駐車場を歩き回る。

 カツンカツンと足音ふたつが反響する。

 頭上でちらつく電球、掠れた路面表示、埃っぽい放置車両。


「……あ?」


 そんなつまらない光景の端に、私はふと妙な物を見つけた。

『火気厳禁』の赤錆の扉がある。

 ここに飛ばされた時といい扉とは相性の悪い私だが、ここまできたのだからきっと面白いものに違いない。というかそうであってほしい。


「キューちゃん、どうよ?」

「わかんない」


「わかんない」か。

 キュウのその手の反応はたまにとんでもない出来事の予兆だったりもする。

 つまり本当に分からないので、こちらとしては非常に怖かったりもするのだが。


「いくか。」


 どうせ表にも出られないのだから行ってみよう。

 もしかしたらこの状況から上手いこと抜け出せるルートなのかもしれない。


 後ろにAA-12を構えたキュウを控えさせて、私は扉のノブを回した。

 少し軋むが、問題なく開いた。


「お?」


 始めに見えたのは、黄色い点だった。

 そして、それが自分のお腹あたりに体当たりして来るようにしがみついたことで、初めて何が起こったかに気がついた。


「でぃっ、でぃすっ、うをっ自爆きたー!?」


 ここにきてまさかの自爆毬の不意打ちだ。

 自爆モードに移行して赤いランプを点滅させるディストラクター。

 引き剥がそうと手を伸ばすが、それに気が付いたのか四本腕は俊敏な動きで私の背後に回り込む。


「キモいキモい!?うわキューちゃん取って!これ取って!ちょお取って!」


「う、うん!取る!」


 やり取りが凄まじくマヌケだ。

 だが仕方ないのである。背中に爆発物がくっついたら大抵の人間がこうなるに違いない。


 慌てて伸ばしたキュウの手が円いボディをがっちりと掴んで強く引っ張る。

 勿論私もキュウが引っ張るのは逆方向に思いきり踏ん張る。

 馬鹿力二人の引っ張り合いに耐えられるわけもなく、爆発寸前のディストラクターは剥がれた。


 だが、そこで聞き捨てならない音を私は聞く。


 ぶちぶち、と。

 途端にすとんと軽くなる背中。

 いや、重荷がひとつ取れたから軽くなるのは当然なのだが、それにしてもやはり軽い。


「あれれ?」


「わっ、爆発しちゃう!」


 振り返った時には、キュウがそのディストラクターを放り出していた。


 宙を舞う哀れなディストラクター。

 だが彼(もしくは彼女)が命散らすその寸前まで抱いていたのは


 一瞬の光景だったが、私は確かにそれを目撃してしまった。


「私のリュックサッ……!!」


 赤く点滅する目が、最後の最後にしてやったりと笑っていた。




 爆発音。




「ミケ……大丈夫?」


 ディストラクターの自爆により焦げ付いた地面に手を着きながら、私はなんとか頷いた。


「だい、大丈夫、たぶん大丈夫」


「ミケ、嘘ついちゃだめだよ?」


 くそ、頭すっからかんのキュウさえまともにあしらえなくなるとは、私もやられたもんである。


 だが仕方ないのである。

 折角集めたレア物たちが、たった今跡形もなく爆破されてしまったのだ。

 これで響かない奴がいるのなら、きっとそいつは人間ではない。

 人間の皮を被った悪魔か何かに違いない。


「酷い……酷すぎる」


 さすがにあれは無しだ。


 不意打ちだけならまだ許せる。

 しかしだ。

 突進してきて、しがみついてきて、爆発する。

 ただそれだけのザコエネミーが、あんなすばしこい動きで私の背後を取るなんて普通あり得ないだろう。


「うう……畜生……畜生……!」


 私は固い地面を何度も殴ると、やっと顔を上げた。

 さっき開けた扉がある。


 その向こう側にあった物に、私は歯を食い縛った。

 散っていった火器達の無念を胸に私は立ち上がる。


「キューちゃん……」


「……ミケ?顔こわい……」


 私は『火気厳禁』の扉を潜りながら、若干腰の引けているキュウに言う。


「あの外にいるでっかいハエ。あれ落とすぞ。」


 どうやら、私の怒りはそうでもしないと収まりそうにない。


 私は手を着いたそれをざらりと撫でながら、その部屋を見渡した。


 大量の燃料缶と、その他よく燃えそうな薬品の数々。

 地下駐車場の一角に隠されていたのは、燃料庫だった。



ディストラクターのランプの色は

●通常時:非活動モード=緑

●発見時:自爆待機モード=黄

●自爆寸前:自爆モード=赤点滅

という設定です。


ちなみに自爆モードじゃなければ撃っても燃やしても爆発しないという安心安全の信頼設計です。


次回、遂にミケゾウVSお化けヘリ

ご意見ご感想、質問他、なんでもお気軽にとうぞ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ