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《暗闇のなかに》3

『エデンの樹』現在確認されているキャラ


・白蛇

・白衣女(リリム)

・パペット(エト&ネコ)

・黒霧

・黒山羊


※チェーンソー(マリィ)





「おーきーてー!」


 何かが頭を掴んでゆさゆさと揺らす。

 堪らず目を開けると、目の前にはフリルのあしらわれたブラウスをやわらかに持ち上げる豊かな双岳。


 眼前数十センチで繰り広げられるその光景に、円卓特務隊第七班班長カズマは目を見開いていた。

 それは、男子の憧れ。華美な衣装の上からでも十分に分かる、見紛うことなき魅惑の巨乳である。


「え、なにこの天国……?」


「ん?おきた?」


 緩やかにカーブする金髪をふわりと甘く香らせながら、目の前に現れたのは武骨なヘルメットと、10人中8人は振り向きそうな美貌だった。


 少女はカズマの頭を掴んでいた手で、その頬っぺたをぐにぐにと触る。


「むぅ、まだ寝惚けてる。おきて、おきて!」


「わ、わかった!おきた、起きたからいててて!」


 そう言いつつも、表情は緩みっきり。至福のそれである。

 こんな美少女に起こしてもらえるなんて、どう考えてもごほうび以外の何物でもない。


 しかし、その後ろでドアが鳴ると共に、その幸せは吹き飛んだ。


「目が覚めたようですね」


「あ、レミィ」


 自分の頬をぐにぐにと触っていた少女が、ぴょんぴょんとその傍らへと駆け寄る。


 部屋に現れたのは、黒いスーツ姿のこちらも美少女。

 後ろに纏めた髪と凛とした出で立ちが、その可憐さを引き立てている。


 一見正反対な美少女が、二名並んでいる。


 健全な男子なら見とれるところだが、その組み合わせに彼は思い出してしまった。

 自分がここにいる理由を。


「っ!?」


 慌てるが、最早遅い。背後に回された腕は手錠で壁を伝う金属の配管と繋がれている。


「くそっ……ああなんでこうなっちまった……」


「一応、教えられる範囲で状況を。」


 スーツの方の少女は、そんなカズマを見下ろしながら言った。


「ここは常夜の町周辺の無制限空間の廃墟。貴方が気を失ってから、十分と少し、それくらいです。」


 記憶が頭のなかで渦のように再生される。

 違法薬物の密造所破壊作戦の日から二日後だ。

 件の『エデンの樹』に関する情報収集のために寄った常夜の町で気を失った。


 見たところ、この特殊アバター二人にやられたのは間違いなさそうだが。


 だとしたら、誰の差し金で、何のために


 淡々と告げるレミィに、カズマはやっとのことで平静を装って見せた。

 今はそれを考えたところで仕方ない。

 それより、脱出の糸口を見つけなければならない。


 不適に笑って見せ、揺さぶりをかけてみる。


「わかってるんだろうな……俺たちは円卓の人間だ。これが知れたらどうなるか……」



 その右耳を、.45口径の一撃が掠めた。


「づぁっ!?」


「簡単に質問に答えてもらうだけです。無用な発言は控えるように。」


 少女の煙らせるUSPは、自分達が携帯していた物だ。


「無茶苦茶しやがって……ただですむと……!」


「キュウ」

「あいさっ!」


 遮るように言うと、少女の横に何かが放り出された。


 全身を縄で巻かれ猿轡を噛まされているが、カズマには一瞬でわかった。

 同行していた部下の一人だ。


「ロウ!」


 気を失っているのか、その声に反応はない。


「そう、簡単な質問に答えてもらうだけです。」


 繰り返すと、銃口が向いたのは自分の方ではなく、ロウの方だった。


「やめろ、くそ、卑怯だぞ!」


「……。」


 再び銃声。

 倒れたロウの肩からダメージ演出が迸る。


 見上げたその目は、脅しなどではないということを十分に物語っていた。


 少女は口にする。



「答えなさい。譲の居場所は?」





 ●●●○●●





 妙な夢を見ていた。


 周りは何処を見渡したって真っ暗で、足が地面に触れているのが奇妙に感じるほど何もない世界だった。


 そこにぽつんと、私と、そしてもう一人。


「これで、いいんです」


 レミィは笑っていた。

 とても不思議な笑顔だった。


 幸せそうで、寂しそうで


 たぶん、私には一生かかったってできない顔だ。


 何をやっているのか、自分でも分からなかった。


 ただ、体が勝手に動いて、そして



 彼女に向けて、引き金を引いた。










「っ!?」


 目が覚めると、真っ黒な背中が部屋を後にするところだった。


 今の夢はいったいなんだったのか。

 いや、あれは本当に夢だったのか。


 拘束された椅子を鳴らしながら、私はその背中に叫ぶ。


「黒山羊!何なんだよ今の!おまえが見せたんだろ、なあ!?だまるなよ、答えろよ!おい!」


 私の声に、奴は一瞬だけ立ち止まった。

 しかし反応はそれきりに、振り向くことさえせず奴は消えていった。


 重い扉が、ゆっくりと閉じた。



「クソッ!!」


 訳が分からない。

 びくともしない椅子の上でもがきながら、私は叫んでいた。


 いくら足掻いても無駄なことはわかりきっている。だが、何だか身体の内側から炙られているような感覚がして、じっとしていられないのだ。


 あれは何の映像だ。


 私がレミィを殺すのか。


 いや、そんな訳がない。


 あんなの、ただの出鱈目に違いない。


 頭のなかで繰り返し言い聞かせるが、それでも体の奥で煮え立つなにかが収まらない。


「クソッ!!黒山羊!黒山羊ーーッ!!」


 あいつが、何かしたに違いない。


 そう思い込むことが、自分を保つためにできる精一杯だった。





 声が枯れるまで叫んで、体が動かなくなるまでひたすら暴れていた。


 その間、誰が現れることもなく、何が起こることもなかった。


「なんだよ……なんだってんだよクソ……!」


 急に全身が冷たくなってきたような気がした。

 誰も来ない暗い部屋で一人きり。

 こんな世界が、これから永遠に続くのだろうか。


 そう考えると、どうしようもない感情が溢れてきた。


 こんな筈ではなかった。


 私はただ、何の変わりもない退屈な日々を延々過ごしていたかっただけだ。

 その為に邪魔になる何かを取り除きに来ただけなのだ。


 それだけなのに、私がいったい何をしたというのだろうか。


 また眠くなってきた。

 どうやら暴れ続けて疲れていたらしい。


 たぶん、時間なら文字通りに死ぬほどある。


 眠いなら、眠ろう。


 そう思いながら、目を閉じた。


 しかし、その直後に音がした。


 外で扉が開く音。

 同時に、女の叫び声。


 全身に鳥肌が立った。


『いやッ!いやぁぁぁぁ!やめて!もういや!ここから出して!!きゃあああああああ!!』


 がしゃがしゃという台車を押すような音も混じり、音が近づいてくる。


『なぁに?そんなこと言っちゃだめでしょ?これからもっとステキなことするんだから。』


 誰かが喋っている。


 それが何なのかは分からないが、それでも近付いてはいけない物だということは分かる。


 拘束を解こうともがきながら、私は来るな来るなと念じていた。


 楽しげなハミングと空を裂くような悲鳴が、扉の前で止まる。


「到着~!今日も一日ご苦労様でした~!」


 扉が開き、何かが部屋に入ってくる。


 それと同時に、部屋の明かりがついた。


「おはよう、元気にしてたかな?」


 ストレッチゃーの上で、ベルトに固定された少女が悲鳴を上げている。


 それを押しているのは、白衣に眼鏡をかけた女だ。


「はいはい、アナタはもうお休みのじかん!」


 暴れる少女の首筋に、白衣の女は注射器を突き刺す。

 一瞬で事切れたように黙った少女を横に、女は私の方に歩いてきた。


 背筋が冷たく震える。


 眼鏡の向こうで目を細目、女はまた注射器を取り出した。


「アナタの夜は……まだ、こ・れ・か・ら……だよ♪」


 首に針が刺さり、半透明な薬剤が流れ込む。


 恐怖の中で頭がぐらりと回って、何も見えなくなった。






 からから、からからと体が細かく揺れている。


 浮遊感。


 再び目を開けると、暗い通路の景色が私とすれ違うように流れていく。


「もう起きた?」


 見上げると、あの女が笑っていた。

 逃げようと体を動かしたが、やはり手も足も固定されている。


 今度は車椅子だ。


 背後の女に押されるままに、通路が流れていく。


 この程度の拘束なら破壊できるはずだ。

 全身に力を込める私を、見下ろす彼女がくすくすも笑った。


「たぶん無理だよ~。だって、今のアナタのステータスは10分の1まで制限されてるんだもの。」


 その目の奥に見えた言いようもない狂気に、体が固く動かなくなった。

 殺意とも違うこの感触。獲物の身体をねぶるような、湿った感触だ。


「どうする気だ……?」


「どうって?」


 私の言葉に、女は耳元で囁くように言う。


「とっても楽しいコト……だよ?」


 湿った熱い吐息が首を嘗めるように掠める。体に震えが走った。


 抵抗する術を持たない私を乗せて、車椅子はからからと進む。

 ついたのは、閉じ込められていた部屋のものと同じ、重い鉄の扉だった。


 女が扉を押し開く。


「ようこそ、私の部屋へ……」


 部屋は暗く、私の目には何も見えない。

 私を押し潰すような暗闇に震えていると、背後でスイッチが鳴り、部屋に明かりがついた。



「っ!?」



 その光景に、呼吸が止まりそうになった。


 私を取り囲むように置かれた台の上には、手術道具のような器具が大量に並べられている。

 壁には大型の刃物やペンチ、炉のような物が見える。


 目を見開いていると、女が注射器を手に現れた。


「これがなにか、わかる?」


「……?」


「コットンキャンディの元になったお薬よ」


 そう言うと、それを自らの手首へと突き刺す。

 薬液が流れ込むと共にその背筋がぞくりと震え、そして恍惚とした表情で吐息を溢す。


「んっ……アハッ、きたきた……!」


 蕩けた飴細工のように微笑むと、女はLPガスの青い炎を溢す炉から、赤く熱せられた焼きごてを取り出した。


「あの薬の本質は、快楽そのものではなく、それを受け取る感覚そのものを解放すること……」


 空気に触れた焼きごてが威嚇する蛇のように鳴っている。


「システムのかける感覚の抑制を解放して、本来の感覚を返してくれる……つまり、見ててね……見ててね……」


 眼前まで迫っていたそれをどかし、女は自分のシャツの胸元を大きく広げた。

 異常なまでの興奮と期待で、呼吸は乱れ、その肌には汗が玉のように浮いている。


「……っ!?」


 それに続く女の行動に、私は目を疑った。

 焼きごてを自らの胸に押し付けたのだ。


 胸の奥が痺れるような悲鳴が、部屋中にこだました。


 女は焼きごてを自分の胸に押し付けたまま、身体を折ってびくびくと震えている。


「ふふ……ふふふふふ……わかる?わかる?」


 焼きごてを落とすと、女は私の方へとしなだれかかるようにして倒れてきた。


「これが本物の痛み……誰もが忘れかけてた生身の感覚……」


 その手にはいつの間にか、先程と同じ注射器が握られていた。


「まっててね……いまアナタも連れてきてあげる……私とおんなじ世界……」


「やめろ……よせ、よせ!」


 次の瞬間、私の唇を何か柔らかいものが覆った。

 口付けされていると理解したその直後には首に鋭い痛みが走り、体の中を熱を持った何かが駆け巡る感覚があった。


 未知の感覚に悶える私の耳元で、熱い吐息が囁く。


「ようこそ、私の世界へ……♪」


 薬の効果か、それとも興奮でおかしくなったのか、視界が激しく明滅している。


「薬が持つのはざっと一時間……短いから、そのぶんたくさん楽しも……♪」


 女が台の上から大きな鋏を取るのが見えた。

 もう片手にガスバーナーを取ると、その炎で刃先を丁寧に炙る。


「消毒はきちんとしないと……これでよし」


 女は私の顔にかかった前髪を指で分け、目元にまた小さく口付けする。

 柔らく暖かな感覚と、冷たい恐怖が同居して何が起こっているのか頭が追い付かない。


「大丈夫、心配しないで?よく切れる鋏だから……」


 そう言いながら私の顔の前で自分の小指に鋏を当てる。

 二枚の刃がその細い指の肉に沈み、繊維質に粘る肉を、硬い関節を音を、立てて切り落とした。


「ぅん……んっ……あはは♪ね?」


 私の膝に落ちた自分の指を払うと、私の顎を指で持ち上げる。


「ちょきちょき、ちょきちょき、まずは髪を切ります……♪」


 鈍い光沢を帯びた鋏が、目元にかかっていた私の前髪を数本散らす。

 刃先が細い髪の毛を丁寧に分け、リズムよく音を立てる。


「綺麗な髪の毛、綺麗なお顔……」

「ッ!!」


 突然熱を持った刃先が、私の目元を薄く掠める。

 その様子に笑ったのか、顔をあまい吐息が撫でた。


 私の顔に落ちた髪の毛を、シャツの袖で柔らかく拭う。


「じゃあ次は」


 鋏が音を立てて閉じ、私の瞼に触れそうなほどの距離で止まった。



「右目をかき混ぜます♪」








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