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《ふたば同盟》4

 

 まだ崩れていないのが奇跡に見えるような元建築物、現鉄筋コンクリート群の切れ間に、油屋とろろはいた。


「見っけ見っけ、ミケゾウちゃん見っけ~!」


 ばってん印と赤い点の浮かぶレンズの中で、やっと振り向いたちびっこアバターがローマの休日に出てくる"真実の口"みたいな顔になっている。


 三つ積み上げたビールケースに銃を預けつつ、スコープを覗く彼女はむふっと鼻息を荒げる。


 さて、手始めに相方の面白い帽子の方を撃ってはみたが、どう動くだろうか。


『助けに戻ってきたら面白いなあ』などと思いつつその動向を窺ってはみたが、やはりというか躊躇う素振りさえ見せず相棒を見捨てていくのが見えた。


 何か言っていたが、そこそこな距離もあってよく聞き取れない。


 まあいい、何もないならあの帽子には早いところ退場して貰おう。

 スコープの赤い点をすいすい動かして、地面をばたばたやっていた帽子頭を一発で吹き飛ばした。


「どうしよっかな~。すぐ撃っちゃうの勿体ないかにゃ~。もっと近くでも見たいかにや~。」


 さっさと仕留めてしまった帽子から照準を移し、今度は埃っぽい路地をすたこら逃げていくチビを追う。

 埃を撒き散らし、瓦礫を蹴っ飛ばし、たまに振り向きながら走っていく姿がなんともコミカルである。


「うん、かわいい。イイネ。ああ……あのほっぺた銃口でツンツンしたいな……ちょっと強めにぐにぐにしたいな……。ちょっと先っぽにちゅってしてほしいな~。そのあと優しく頬擦りしてもらってさ?で、ちっちゃいお口にぐりぐり~ってつっこんでさね、乱暴にこうじゅぷぅってさ……最後にバーン!百点満点!!」


 今日の得物は、フルサイズのライフル弾を放つバトルライフル『M14 EBR』。黒い塗装と武骨なシルエットを眺めながら頬を緩める。

 重い、弾がでかい、連射に向かない。主力兵器としては時代遅れな火器として、後続の新世代アサルトライフル『M16』に追い抜かれる形で忘れ去られてしまった銃『M14』。しかし、その火力と射程が近年改めて注目され、簡易狙撃用の改修を受けて再び戦場に舞い戻ったのがこの姿だ。

 今回は近い距離にも対応できるように、銃の斜め横にオフセットのアイアンサイトを取り付けてある。


 これを気に入った点は、なんといってもこのゴツゴツ感。これで女の子をいじめる図は魅力的だ。


 よし、今日はこれで女の子をいじめてみよう。幸い付き合ってくれそうな娘が一人いる。


 というのがことの顛末である。


 後ろからの狙撃を気にしているのか、ややじぐざぐ走行気味に逃げていくミケゾウ。

 面白いので撃ってやろうとも思ったが、瓦礫の隙間に頭を突っ込んでお尻をふりふりやりながら潜り込んでいくのが見えたので中断。


「……おお、今のお尻よかった……すごい、かわいいミケちゃんのお尻!おおお!」


 よし、決めた。


「今日はあのお尻を撃とう。」


 そうと決まれば行動は早い。

 スコープを覗いて、にやりと笑った。










 ●○●○●○








「やっほーい、ちゃんミケ~!げんき~?生きてる~?」


 そんな声と共に弾丸が瓦礫をぶっ叩くのを聞いた時には、さすがの私も腹の底が冷たくなった。


 やはり、というか、ここまでできる人間など、もはや彼女を置いていないだろう。


 油屋とろろだ。


「ちょいちょい~、聞こえてた?ミケゾウちゃ~ん?せっかく二人きりになったんだからさ~?遊んでよ~!」


 そういってまたガツンガツンと弾がぶつかる。

 まさかとは思ったが、わざわざ私とタイマン張るために会いに来てくれたらしい。感動的な話である。


 私としてはうまく隠れたつもりだったのだが、揺さぶりなんてかけてきた辺り、こちらの居所は完全に掴まれていると見て間違いない。

 恐ろしい人だ。


「バケモノかよあの人は……」


 射線は見えた。しかし、遠いのと消えるのが早いのとで出所が見えない。それなりに射程の長い物を選んできたようではあるのだが。


 それにしても弱った。

 今のを見た限り、頭でも尻でもはみ出した側から吹っ飛ばされるだろう。


 かといって、このまま引きこもりをやっていてもじり貧だ。


「落ち着けって……」


 相手はあの油屋とろろだ。この程度で揺さぶられていては命がいくつあっても足りない。


「聞いてるちゃんミケ~?とろろ先生さびしーなー!相手してほしーなー!」

「あいあい聞いてますってー」


 一先ず用心で入れておいたスモークグレネードを二つ取り出す。

 同時にピンを抜いて、瓦礫の中から転がした。


「さーせん、パスでー」


 緑色の煙幕がたちこめるのを見計らって、私は瓦礫の山をもそもそと這い出す。


 改めて確信したが、あれは無理だ。今の私ではどうやっても近付けない。とろろ先生には悪いが、今日のところは退散させていただこう。


 この身はキャロの弾を食らって死ぬという使命を帯びている。いくら相手がとろろ先生とはいえ、それを易々差し出すわけにはいかないのだ。


 煙のなかを地べたをずりずりと匍匐前進。

 あの距離だ。もはや地面と一体化を果たした私の姿など見えるわけがない。このまま逃げてしまえ。


「さてさて、ウザい帽子も無事死んだし私はキャロの弾丸でももらいにッぎゃああい!?」


 突然、地面を這っていた尻を熱いものが舐めた。


 尻を押さえて転げていると、後続の銃声と声が飛んでくる。


「こらあ!そこ逃げるんじゃないよー!そのプリティーなお尻をよこしやがれー!!」


「マジかよあの人やべえ……!?」


 この分厚い煙幕越しに、かすりとはいえ当ててきやがった。これはいよいよ人間業ではない。


「見えるぞー!私には見える!とびきりキュートな女の子がなァ!!ふはははははは!まてまてまてー!」


 もはや地面と仲良くしている場合ではない。泡を食って二足歩行に切り替える。


「嘘だろ嘘だろ嘘だろ……なんだよ何で当たんの!?」


「まーーーてーーーい!あははあははははははは!やっほーーい!!」


 さっきよりも声が近い。

 まさかとは思ったが、やはりそうだ。走って追っかけてきていやがる。

 たまらず私も走り出す。


「おかしいだろそういうゲームじゃないってば……ちょっ!?」


 また弾が飛んできた。

 今度は真後ろからだ。腰のやや上、右の脇の下少しを通り抜けていった辺り、本気で尻を狙っているらしい。


「待てー!ちゃんミケ待てー!!おとなしく私と戦いなさい!ついでにズボンを下ろしなさい!」


「なに言ってんのあの人……!?」


 声がまた近づいている。

 そろそろ振り向けば顔が見えそうだが、今はとにかく走ることに神経を使っていないと、本気で尻を吹っ飛ばされる。


 とにかく、開けた場所は不味い。狭いところに逃げ込まなければならない。


 ところがどこを見回しても倒壊寸前の廃墟祭り。これでは埒があかない。


「くそ……市街地だろここ!どっか……壁ないの壁!」


「壁だ壁だって、今はちっぱいよりお尻だよミケちゃ~ん!!」


「うるさいほっとけ!」


 こうやって逃げ回っていると、ついこの前ヘリコプターの化け物に追い回されたのが思い出される。


 あのときは地下駐車場に逃げ込んだのだが


「地下……地下……地下!!」


 困ったときは地下に逃げ込むというのが、ちょっとした条件反射になってしまっている。なるほど、引きこもりも極まれば地底人に格上げとなるらしい。いや、人としては格が下がっているような気もしなくはないが、今はそんなこと言っている場合ではない。


 と、そんなとき、頭から突っ込んだ自動車に塞がれかけた地下への階段が現れた。

 崩れていたり埃にまみれていたりで分かりにくいが、地下鉄の表示が見える。


「……マジかよ」


 これは、私もいよいよ地底の神に気に入られてしまったらしい。

 こうなったらもう退くという選択肢はない。神のお導きだ、都合がいいようならとことんすがり付くのが私のポリシーである。


「おりゃあああああ!!」


 ボンネットがひしゃげた廃車を乗り越え、いざ埃っぽい地下へと、階段の手すりを滑り降りた。






 ○●●○●●







「あれれ」


 わたわたと逃げていたミケゾウが、ぶつかっていた廃車を飛び越えて消えた。


 地下鉄の駅か何かだろうか。


「なるほど、やるじゃないミケちゃん」


 ここなら長物に追い回される心配もない。


「ん……どうしようかにゃー。ショットガン持ってたしなー。」


 ああいう狭い場所は完全に彼女の土俵だ。頭から突っ込んでいくのはあまり賢くない。


「……ま、いっか」


 さっきはこっちのペースでやったのだ。今度は向こうのペース、それでもいいだろう。


「ミケちゃ~ん、今から入るよー!!」


 入り口にめり込んだ車の上に飛び乗りながら、暗い穴のそこへと呼び掛ける。

 もちろん、返事はない。


「まったく、ミケちゃんシャイガールだな。そそるな。」


 所々崩れた階段へと飛び降りると、湿気と黴の臭いが鼻をついた。

 下で派手に水漏れでも起こしているのか、落書きだらけの壁や天井には湿気で嫌な染みが浮いている。


 なかなか暗いが、ライトは装備に入っていない。もっとも入っていたところで、的になるリスクの方が高いのでつけないのだが。


「お邪魔しま~す。ちゃんミケいるかな~?」


 そこかしこにケミカルライトが投げてあるが、ミケゾウの物か。真っ暗闇に困るのはお互い様ということらしい。


 階段を降りると、足下がずるりと滑った。


「おっととと……?」


 早速湿気による洗礼だ。暗くてどうともつかないが、足下が藻か苔かでぬめっている。

 耳を澄ますと、何処からか水音がしなくもない。


「うえーっ、ばっちいー。」


 ホームまで降りると、雨水なのか水道管がやられたのか、線路は完全に水没。放置された車両が水浸しになりながら傾いていた。

 辺りはいよいよ黴とぬめりだらけで、びっしりと落書きだらけの壁とあわせて、地獄のような有り様だ。


 それにしても、暗い。

 そろそろ目がなれてくる頃合いだろうが、それにしても遠くを狙うのは無理そうだ。

 こう狭ければどうせ背負ってきたM14も働けないだろうが。


「ミケちゃ~ん!とろろせんせー来たよ~!いるう~?」


 呼び掛けた声が、真っ暗闇の向こうへこんこんと響いていく。


 相変わらず返答はなし。

 微かにぴちゃりと水が垂れるのが聞こえたばかりだ。


 しばらく耳を澄ますと、一人うなずいてからにっと笑った。


「そう?じゃあ行くからねー!」


 一歩を踏み出した、その瞬間。


「なあんてね……」


 すかさず半身をそらすと、高い銃声と共に太い射線が壁を叩いた。12番のOOバックの散弾だ。



「むふふふ……ちゃんミケ発見しましたにゃ~♪」







 ○●○●○○






「マジかよ……!?」


 柱の影から構えていた散弾銃を握りながら、私は開いた口が塞がらなくなった。

 カマをかけてきたかと思ったら、こっちのレンジに入ってきた側からあっさり私の不意打ちを避けやがった。


 相手が相手とはいえ、さすがに角待ち戦法は大人げない気がしていたが、まさかあんなにあっさり避けられてしまうなんて思うまい。


 油屋とろろという女は、ここにきて更に化け物っぷりに磨きがかかっている。


 初手を逃したとはいえ、ここが私の土俵だということに変わりはない。だが、今のを見ていると本当に勝てるのか怪しくなってきた。


 ええい、こうなったらこっちも勝負である。


「来ないんですかとろろせんせー」


 声から位置が掴まれるリスクはあるが、その点は初手を避けられた時点で諦めている。カマをかけると、早速嬉しそうな声が返ってきた。


「なんだいるじゃんちゃんミケ、構ってくれないかと思ってたじゃーん!」


「それより来るならとっとと来てくださいよ、待ってんですから」


「あらそう、とろろ先生うれしー。けどちょっと待ってねー、いまお着替えしてるの。ちょっととっておきの勝負服をね。」


「あ?」


 また何の揺さぶりのつもりか。

 だがもう気にするつもりはない。どんな手を打ってこようとフィールドの利はこっちのものだ。全力で当たれば怖くはない。そのはずだ。


 追加の散弾をM11‐87に突っ込んで、油屋とろろが出てくると思われる箇所に照準を置く。さっきは失敗したが、今度こそ決める。出てきた瞬間に吹っ飛ばしてやるのだ。


 だが、柱の影から再びその姿が見えたとき、思わず指が動かなくなった。


「……え?」


「ハーイ!ミケゾウちゃん、お・ま・た・せ☆」


 体のラインに沿ってぴたりと吸い付くような真っ黒なスーツ。ついでに首にはスカーフを巻いている。その他の荷物は置いてきたのかインベントリにしまったのか、身に付けている武器は両腿のレッグホルスターの自動拳銃二丁と、加えて両方の肩越しに二本の棒状の物を背負っているのが見える。


 とろろは闇のなかでニヤリと笑い、背中の棒状のそれをすらりと抜いた。

 あれは、刀だ。忍者の刀だ。


 もう片方の手ではレッグホルスターの自動拳銃を抜くと、両方を構える。


「どーも、平成ニンジャとろろでーす。ニンニン、あいやーー!」


「……嘘だあ……」


 何をしでかすかと思えば、やっぱり何を持ってくるか分からない。

 口を開けていると、拳銃がこっちを向いているのが見えて咄嗟に柱へ身を隠した。


「うおっ!?」


 暗闇で銃口と弾を受けた柱が火花を散らす。


「そら、忍法9ミリ弾の術!くらえくらえー!」


 そっちがその気なら、いいだろう。受けてたってやる。


「どらあっ!!」


 柱から飛び出して、散弾の連射を浴びせる。

 しかし、相手はスカーフをなびかせながらひらりひらりと避けていく。

 表で追い回されていた時よりも明らかに身のこなしが軽い。どうやらあのコスチューム自体になんらかのスキルが働いているようだ。


「強すぎだろ、頭おかしいわ……!?」


 私の感知能力の低さでは、この闇のなか相手がどこに潜んでいるか探るだけで大変だ。こうちょこまか逃げ回られると堪らない。


「ほらこっちだよ~」


 どこからともなく飛んできた拳銃の弾が、脇腹を掠める。


 後ろか


 慌てて振り向くと、足下が滑ってバランスを崩した。


「うわっ……」


「すきあり!!」


 そこをすかさず、とろろが刀を手に飛びかかってきた。

 私は咄嗟に銃を手放し、背中に背負っていたショベルの柄を掴む。


「舐めるなあ!」


 半ば転げながら、腕力だけで振るったショベルの一撃が油屋とろろを闇のなかに弾き返した。


「うひょっ!?」


 水没した線路の方からどぼんと聞こえたが、私のM11‐87かとろろの拳銃か、もしくはその両方だろう。


 あれは探すのに苦労しそうだ。


「わひっ、おまた浸水っ……なんかお尻が濡れると変な気分にならない?ね、ミケちゃん」


 何処かで尻餅でもついているのか、水音と声だけが聞こえる。


 自らも濡れた床から立ち上がりながら、ぬるいんだか冷たいんだかの尻を手で触った。

 あんまりいい水ではないためか、気持ちぬるぬるする。


「……いいっすよ、何なら乗せられてやりますよ、ええ」


「うんうん、いいことだ。じゃあ第2ラウンド、あーゆーれでぃ?」


 暗闇の向こうに、二刀流の刃がぎらりと見えた。


「覚悟っ!!」


 湿った足音が接近してくる。


「完全に別ゲーだこりゃ……」


 チャンバラなんて久しぶりだ。

 だが、目隠しで鉄砲を撃ち合うよりかは何倍もましだろう。むしろ望むところである。


「おりゃっ!!」


 先手必勝。

 迫ってきた真っ黒な影に振り下ろしたショベルが、早速空を切った。


「おそーい!!」


 避けられたと覚る間もなく、慌ててショベルを脇腹のガードに回すと、ガツンという衝撃がきた。


「うわ、お胸ががら空きだぜって言いたかった」


「誰の胸がっ、がら空きかあああっ!!」


 筋力に関しては私が何倍も上だ。有り余る腕力に物を言わせて振り払う。


「やんっ、ミケちゃん意外とパワフルぅ?オッケー、ベリグー、ハッスルしようやー!!」


 しかし、吹っ飛ばされたとろろは難なく着地。再び鋭い動きで仕掛けてくる。


 今度はこちらが反応しきれずに、右腕に軽く刃がかすった。


 参った。この女、エロ漫画家の癖に鉄砲もチャンバラも気持ち悪いくらい強い。


「ミケちゃんもう余裕なくなってたりする~?はい、もっといくよー!それそれっ!!」


「ちょっ、ちょっ、ちょっ!?」


 右からも左からも、上からも下からも、前からも後ろからも刀が飛んでくる。


 暗闇で視界が利かないのもあってか、まるで一人と戦っている気がしない。


「ほれほれ、ふらふらしてるとリンゴみたいに剥いちゃうぞ!エロい感じに!」

「このっ……!?」


 こうなったら自棄だ。


 今度は正面から刀の刃が飛んでくる。

 それを避けることもなく、私はショベルを大きく構え


「いてえええええっ!!」


 肩口に刀の刃が沈みこんで、真っ赤な光の粒がめちゃくちゃに飛び散る。

 だがここからが本番だ。


「くらえ平成ニンジャ!!」


 振り下ろされる刀が私の体をずぶずぶ切り裂いていくのも気にせず、思いきりショベルを振るった。


 いい当たり。間一髪、引いた刀で受けられたようだが、ショベルを握る感覚でしっかりわかった。今度こそ確実に入っている。


「うひゃん!?」


 その証拠に、油屋とろろは悲鳴のような嬌声のような高い声を放つ。

 軽トラックにぶつかられるような衝撃に耐えられるわけもなく、油屋とろろがダメージ演出を散らしながら飛んでいく。


 だが、まだだ


「オラッ!!」


 着地しようとした彼女に、今度はフルスイングでショベルを投げつける。


「んにゃっ!?」


 今度こそ驚いたとろろが、刀二本で上半身を守る。

 ガツンと火花が散ってショベルは何処かに吹っ飛んでいったが、油屋とろろが姿勢を崩したのでじゅうぶんだ。


「とうっ!!」


 私は地面を卦って飛び上がり、油屋とろろの上半身にタックルをしかける。


「あひゃあああっ!?」


「つ・か・ま・え・たぁぁぁぁぁっ!!」


 そのまま地面へと薙ぎ倒し、胸に股がる形で両腕を膝で押さえつける。

 これで相手は手も足も出ない。


 これには油屋とろろも顔をひきつらせる。


「あれ、あれれ?これって攻守交代だったり……する?」

「っすね」

「ああ……そう」


 昨晩今朝と、レミィをこんな形で仕留めて来たばかりだ。もはやこの固めを破る術などない。


 しかし、私も妙な癖がついてしまったようだ。こうやって人を押さえ込んでいると、なんだか妙な気分になってくる。私の拙い語彙力からひり出すとすれば『獲物を仕留めたオオカミの気分』か。口のなかによだれが溜まってきた。


 そんな私の眼光にただならぬ何かを感じ取ってしまったのか、油屋とろろは、やっとのことで苦笑いを浮かべる。


「み、ミケちゃんその目はネタよね?ネタなんよねそれ?」


「え、あ、まあ……うっす」


「なに、今なんで唾飲んだ?まさかのミケの人ガチ?」


「……。」


 返答はしなかったが、私の目に全てを理解したらしく、「やらかしたなー」と、油屋とろろ。


「ああ、とにかく?ね?あの~、なるべくノーマル向けのコースでお願いして……」


「……善処はします」


 口の端から垂れかけたよだれをすすって、指をわきわきと動かす。


 そうして、私は彼女の首を絞めた。



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