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《ロクデナシに華麗なる日常を》2

注意:百合成分多めの回です。あとあんまり健全じゃないです。

苦手な方は次回まで読み飛ばして、察してください。

 

「ただいま~」


 玄関を開け放って、私は声を張る。

 ここにたどり着くまで、あっちへふらふらこっちへふらふら随分長い道のりだった気がする。だが、まあ無事帰れたので良しとしよう。


 腹のたつあん畜生だってぼこぼこにしてやったし、ただで酒は飲めたし、気分は悪くない。むしろ絶好調だ。


「おっとと……」


 靴を脱ごうと思ったのだが、どうも足下が揺れるようで難しい。

 悪戦苦闘していると、奥からやっとのことレミィが顔を出してきた。


「やっと帰ってきましたか……」


 何やらため息まじりのレミィ。

 こんな気分のいい日に、景気の悪いやつである。


「あいあ~い、おっかえり~ぃ」

「"ただいま"ですよ」

「そうだっけか?」


 何だか面白くなってきたので笑ってやると、またため息をつかれた。


「どれだけ飲んできたんですか?まったく……」

「どれだけってそりゃ覚えちゃいないけどさ?ああ……まあほろ酔い程度よ」

「ほろ酔いですか、はいはい。ほら座って、きちんと足出してください。」


 レミィがやれやれ言いながら私の靴を脱がす。

 過保護なやつだが、今日は気分がいいので許してやろう。


「一人で上がれますか?」

「ぜーんぜんOK」


 と、何故か床がぐらついて背中に壁がぶつかってきた。

 何だ、不親切な壁である。


「……はあ、わかりました。つかまってください。」


 レミィの腕が、私の体を綿がつまった人形のように持ち上げる。

 相変わらず見た目からは想像もつかないような腕っぷしである。まあ、レミィは特殊アバターな上に、マスターである私の恩恵も受けているのだ。たぶん同じ調子で居間の食卓やソファだって持ち上げてしまうだろう。


「暴れたりしないでくださいよ。」

「大丈夫、今私すっごい気分いいから」


 体がふわふわ浮いて、レミィのあったかいのといい匂いがする。

 何だか生まれたての赤ん坊になったようだが、悪くない。むしろずっとこのままでもいい気がする。


「つきましたよ。もう遅いんですから、おとなしく寝てください。」

「ええー」


 折角夢心地だったというのに、レミィが私をベッドに下ろそうとする。


「まだ何かあるんですか?」

「いいじゃん、もう一周~」

「なんですか、それ?」


 結局、私のリクエストは呆気なく却下され、味気ないベッドに下ろされてしまった。


「すこし待っててくださいよ。今着替えを出します。」


 ぼやぼやする私の視界に、私の着替えを出そうとするレミィの尻が見える。

 レミィの尻なので、勿論いつも通りレミィの尻なのだが、今日はどうもそそるというか、生意気な尻である。


「レミィー?」

「なんですか?」


 私の寝巻きを手にしたレミィが私の履いているズボンのベルトを外している。


「少しは協力してください。腰の方でつかえてます」

「なぁ、レミィー」


 うんざりしたのか、するするとベルトを抜き取るレミィはむくれたまま口を聞いてくれない。

 なんだ、つれない奴だ。


 そっちがその気なら、こっちにだって考えがある。


「レミィはキスとかしたことあんの?」


「っ!?」


 私のズボンを下ろしかけたレミィが、爆発した。


「な、なんですかいきなり!?」


「なにその反応ー?ぷふっ……!」


 何だか面白くなってきた。

 顔を真っ赤にするレミィに、私はにたにた笑って見せる。


「あんの?ないの?」

「い、今聞くんですか!?この状況で!」

「なに、何かあんの?」


 わざとらしく目を細めると、レミィはむくれ顔で私の両足からズボンを引っ張る。


「あ、ありませんよ……。何もありませんし、そんな……キスなんてしたことも、あるわけありません。」

「そりゃそーだねー」


 レミィは特殊アバターなので、生まれてからずっと私の隣にいるのだ。

 そういう過去があるわけもない。


「私はさ、レミィ」

「……。」

「あるよ」

「!?」


 またレミィが爆発した。


「じょ、嬢!?」

「嘘よ、嘘」


 本当に面白い奴である。

 大笑いしてやると、意外にもレミィはため息ばかりで怒ることはなかった。


「……。」

「安心した、今?」

「あ、安心……?」

「なに、違う?」

「わかりませんよ、そんな……」


 寝巻きのスウェットを手に握ったまま、レミィは目を背ける。


「なにレミィ?怒った?」

「怒ってはいません……ただ……。」


 暫くの無言。下着一枚になってしまった私の下半分がすーすーする。


「すこし……ほんのすこし、怖いと思いました」

「こわい……」


 意外な、とても意外な一言だった。


 今までに見たこともないような顔のレミィが、私を見下ろしている。


「あなたは私の事をすべて知っていて、でも、私はあなたのことを全然知りません。」


「全然知らないって……そんなことないだろ。レミィは私の事……」


「いいえ、私が知っているのは、この世界のあなただけです。」


 そこで、やっと私ははっとした。


「私は……別の世界のあなた……黒江黒瀬のことは、知らないんです。」


 すっかり黙ってしまった私の横に、レミィが腰を下ろす。


「私が知らないあなたが何処かにいて……それが私にとっては、とても怖い。」


「そうか……」


 そう思うと、何だか私たちは不平等なのかもしれない。

 私はレミィのことを全て知っていて、だがレミィは私の全てを知ることができないのだ。


「まあ、つまりレミィはさ」

「……」

「欲張りだなおまえ」

「え?」


 くすりと笑った私に、レミィは目を丸くした。


「だって、わかんないなんて当たり前じゃん。それをぜんぶぜーんぶ知りたいとかさ、レミィは欲張りだ。」

「私は……」

「別にいいよ、私もそれに関しちゃおんなじ。まあ、昔の私なんて大したことないよ、今の私と比べちゃ。だからさ」

「きゃっ……!?」


 レミィの腕を引き、私の隣にぼふりと落とした。

 すこしばかりアルコールが効いているが、その程度でどうにかなる私の腕力ではない。


「じょ、嬢……!?」

「今の私で勘弁してくんないかね、って?」


 目を白黒させるレミィの上に飛び乗ると、咄嗟に上体を守ろうとした両腕を布団にしっかりと押さえつける。


「酔っぱらいに上取られるなんてまだまだだなあ、レミィ?」

「じょ、嬢……やめてください!」

「なに?やめてには聞こえないけど?」

「そんな、いきなりなんて……っ!?」


 その口を塞ぐように、私はレミィに覆い被さった。


「ん……んん!?」


 抵抗する両腕が布団を掻くが、私の力にはかなわない。その抵抗も弱々しくなるころに、私もやっと唇を離した。


 興奮に頬を紅潮させたレミィが両目に涙を貯めている。


「……ひ、ひどいですよ、こんな……」

「ひどいってこたないだろ。おまえがほしがったんじゃん?どうよ?」


 今にも泣きそうなレミィがまだ腕をほどこうとしている。


「は、離してください……お酒くさいです……」

「そこはガマン」


 再びお見舞いしてやろうかと顔を近付けたが、レミィは顔を背ける。


「嫌です……」

「……え~」

「そんな乱暴な……」

「あ~もう、わがままなレミィだな。わかったってば。」


 どうやらこいつはもっとロマンチックなのがお好みらしい。なら付き合ってやる。


 手を離してやり、固く瞼を閉じるレミィの目元に小さく口づけする。


「……あ」


 突然の柔らかな仕草に驚いたのか、急に体を強張らせたレミィの喉元を指先でなぞる。

 すると、硬く凝り固まっていたものが解れたのか、誘われるように目と目があった。


「……これでいい?」

「……嬢……」


 これも見たことのない表情だ。

 まるで熱に当てられたかのようにとろけた瞼と、荒く湿り気を帯びた息。


 無意識にその体を撫で上げると、何処か苦しげな吐息と共に身を震わせる。それでいて手が離れれば、次の刺激をねだるような貪欲さを秘めた目が私を見上げる。


 それをまともな神経で見ていられる私でもない。


 気がついたころには、何もかも忘れてレミィの体をまさぐっていた。

 腰から胸元へ、強弱をつけて走らせる指先で、レミィが圧し殺した悲鳴にも聞こえる声を出す。


 頭が湯立っているのは、もうアルコールひとつのせいなどではないだろう。

 目の前で息を荒げるものに夢中で、夢か現かもはっきりしない。


 余裕も糞もない状態で、何かにとり憑かれてしまったような感覚が、自分でもすこしだけ怖い。だが、レミィの息づかいや匂いを感じると、それさえも一瞬で忘れてしまう。


 それを何度も繰り返す。


 しかし、レミィの乱れたシャツに手をかけたところで、やっと一瞬だけ正気が戻ってきたような気がした。


「……。」


 今更ながら「やってしまった」という不安というか、躊躇いのような物が兆した。


 だが、白いシーツに肢体を埋ませ、上気した頬にうっすらと汗を滲ませたレミィを見ていると、何だかこっちが逃げ場を失ったネズミになったような気分になってきた。 


 これではどっちが追い詰められているのだか、てんでさっぱりだ。


 一旦おちつこうと呼吸を繰り返してみるが、期待と不安とでない交ぜになったレミィの目がそれを許してくれそうにない。


「嬢……」


 吐息に紛れるような切なげな声と、レミィが欲しがるように伸ばした手が、私の首筋に触れる。


「……あぁもう」


 もう散々だ、頼むからそんな目で私を見ないでくれ


 誰にともなく口にして、私は考えるのをやめた。


 一つずつボタンを外す手間も惜しんで、いつも傍らにあるレミィのシャツを剥いだ。


「……っ!」


 少し驚いたように身を捩ったが、更にその裏の下着に手をかける私の手を拒むことはなく、ただぎゅっと唇を結んでいる。


 少しだけ開いたカーテンから差し込む月明かりに、レミィの白い肌は光を帯びているようにも見える。


 絹のような肌の上に指を這わすと、柔らかいのに、同時にぎゅっと引き締まっていて、なんだか不思議な感覚だ。


「あ……」


 レミィが突然呼吸を乱して、やっと自分がやっている事の意味を思い出した。


「本当に……やんの?」


 急に弱気になった私が可笑しかったのだろうか。

 レミィも忘れかけていた羞恥を滲ませつつ、微笑みを浮かべた。


「おねがいします」


 さっきまで泣くなり震えるなりしていた癖に、今さら卑怯な奴である。


 ここまでされたら、私も呑まれる他ないだろう。


「……おねがいされた……」



 酔っ払いなんだから、いまさら怖じ気づく私でもないだろうが



 最後に思い浮かべたのがそんな言い訳じみた言葉だったのが、少し悔しい。



 こうして私は、酔っ払いの過ちを一晩中繰り広げたのである。




空気に飲まれると一気に失速するミケ。


一方実はめっちゃ楽しんでるレミィ……



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