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《ゴーストタウン》4

 ●●●●●●



 廃墟と化した町の中心部。西部劇の舞台をそのまま再現したような景色のなかで、分厚い鉄板の装甲に身を包んだ大型トラックという物体は酷く浮いた存在だった。


 明かりの残らず死に絶えた無人の町は、墨を溶いたような闇に包まれている。

 その闇に紛れて音を殺しながら迫る集団があった。

 全身を黒一色の装備に包んだ男たち。星風組への襲撃から帰還した部隊だ。

 物音一つ立てず流れるような連携は、まるで地表を流動する真っ黒な液体を見下ろすようだ。


 こうして、気配を殺しながらトラックのコンテナの後ろについた彼らは後部扉の両側に一人ずつを置いて、その正面に分隊支援火器を構えたメンバーを複数配置する。


「……準備、整いました」


 アサルトライフル『ガリル』を手にしながらその様子を見ていた男にその報告が入る。

 アバターネームは『ハサン』。この砂漠を根城に活動する『殺し屋』たちの一派を束ねる頭の内の一人である。


 このコンテナの中には、星風組の者と思われる特殊アバターが隠れている。


『星風組……(つくづく)運のない連中だ。』


 今回の襲撃が、ただの夜盗の襲撃でないこと程度は彼らも気がついているだろう。

 彼らを目の敵にする同業者の差し金、そこまでは察しがついているはずだ。


 だが、まだ甘い。


 今回『星風組』へと襲撃を仕向けたのは、ひとつやふたつの組織ではない。


 この砂漠において覇権を争う六つの組織。それらが互いに資金を出し合い仕向けたのが、この殺し屋たち。西部砂漠地帯のみならず、その外からも召集された精鋭揃いだ。


 "出る杭は打たれる"


 ハサンはその言葉を噛み締める。


 下手に目立つことさえなければ、こんなことにはならなかったものを。

 運が悪かったと見るべきか、それとも彼らを率いる『ハイタカ』という男の無能さだと見るべきか。


『車両ひとつ盗られた以上、奴等が報復に出るのも時間の問題……』


 そこを待ち伏せし叩くのが、今回の作戦だ。


 だが、ほんの小さな誤算が生じた。

 その待ち伏せの場に、鼠が一匹紛れ込んだのだ。


 万全を喫しているとはいえ、相手は武闘派と名高い星風組。

 不安要素は全力で排除しなくてはならない。


 彼は静けさの中でコンテナを見据える。

 あとは一言、指示を出すのみだ。


「まだメンバーが中に取り残されていますが、救出は?」


 その言葉を聞いてもなお、黒いフェイスマスクに隠した表情に変化はない。

 顎を引くように頷くと、短く口にした。


「……やれ。」


 それを耳にした兵士が大きく腕を上げて合図を出す。


 合図を受けた扉の前の兵士が、指でカウントを切る。

 それがゼロを刻んだ瞬間に、観音開きの後部扉の片側を開け放ち、もう片方の兵士が手榴弾を投げ込んだ。



 爆音



 細く開いた扉から煙が漏れ、辺りは再び静けさに包まれる。

 そのまま、暫しの間緊張を伴った沈黙が続いた。


「……中を調べろ」


 再び入った合図に、取り回しの利くカービンを装備した兵士三人がコンテナへと入り、分隊支援火器を構えた兵士がその後に続く。


 これで死骸が上がれば、作業はおしまいだ。

 だが、コンテナの中からクリアの知らせがこない。


「何があった。」


 ハサンが口にすると、コンテナの扉から出てきた兵士ひとりが彼に報告する。


「目標確認できず……もぬけの殻です」

「なに?」


 入り口前を固める分隊支援火器射手の間からコンテナへと踏みいると、彼の目に入ったのは床でずたぼろと化した寝袋だけだった。


「……グレネードの爆風を軽減したか……」


 今はもぬけの殻だが、ここに何かがいたことは確からしい。

 それになかなか素早い奴のようだ。

 だが、この閉所においてこれだけの対策で爆風を凌げる筈がない。


「周囲を探せ、獲物はまだ近い」


 黒い衣装の群れが、鉄板に身を固めたトラックのぐるりと取り囲む。


「いいか、絶対に逃がす……」


 その言葉が終わらぬその間に、静寂を彼方へ吹き飛ばすような爆発音が響いた。


 土くれが舞い、赤い光のダメージエフェクトが花吹雪の様に散る。


「グレネード!!」

「上からだ、注意しろ!!」


 飛び交う叫びと、悲鳴。途端に慌ただしくなる足音。


「なにが……!?」


 見上げたその瞬間、男たちは見た。

 黒い塊を二つ担いだ少女がコンテナの上から飛び降りる。


 砂ぼこりをたてながら着地すると、騒然とする現場をちらりと振り向いてから、一目散に駆け出していく。


「いたぞ!!」


 なかなか銃声が上がらないのは、この状況での誤射を警戒してのことか。


 だが、さっさと逃げていく少女の後ろ姿を追うばかりで、誰も彼女の着地点に残されたポーチの存在には気が付かなかった。


 そして一秒後。


 ポーチの中でピンの抜けた手榴弾が炸裂、仕舞われていたいくつもの火薬爆薬も誘爆し、高い煙が上がった。





 ○●○○○●




「う……うぅ」


 頭の芯を揺さぶられるような頭痛で目が覚めた。


 突然コンテナの入り口から何かが放り込まれて、次の瞬間には訳がわからなくなってしまったところまでは覚えている。


「おい、気が付いたか……!?」

「ここ……は……」


 仰向けのまま見上げた視界に、機関銃を抱えた相棒の顔が見えた。


「よくわかんねぇけど、やべぇんだよ!」

「……やべぇって?」


 ぐらつく頭を手で支えながら起き上がると、目の前に砂色っぽいヘルメットが現れた。


「わっ……もぐっ!?」

「しーっ!」


 少女の伸ばした手がその口を塞ぎ、自らの唇の前で人差し指を立てる。


「静かにしないと、見つかっちゃう」


 かなり近くまで顔を寄せてきた彼女に怯みながらも頷き、男は隣の相棒に視線を向けた。


『どういうことだよ、これ!?』


 真上には、コンテナの天井ではなく夜の空が広がっている。

 足下には先程まであった床ではなく、むき出しで乾いた硬い土だ。

 どうやら、いつのまにかトラックの外に運び出されていたらしい。


 建物と建物の間。

 追手から逃れ、今は身を隠しているという状況か。


『わかんねぇ、こっちが聞きてぇよ!いきなりグレネード投げ込んで来やがったんだ!』


 それを聞いて、男はすべてを理解した。


『くそ、俺たちお仕舞いだ!!』


『どういうことだよ、それ……!?』


 頭の緩い相棒はまだ気が付いていないようだが、やつらは最早彼らの味方ではなくなっているのだ。


『俺たちは見捨てられたんだ!このままじゃまとめて消されちまう!』


『嘘だろ!?』


 闇のなかで、驚愕に縁取られた目が血走っている。


「お……おれたち……おしまいだ……」


 手からM60を落として頭を抱えた相棒。


「大丈夫」


 そこに音を絞った、だが確かな声が響く。

 見上げた二人の目の前にあったのは、あの少女の笑顔だった。


「キューちゃん強いから。おじさんたちのこと助けてあげる。」


「……」

「……」


 ぽかんと口を開ける二人に、この状況をどう解釈しているのだか、彼女は妙に自信ありげな表情で胸を張る。


「おじさんたち、あの悪いやつらに追われてるんでしょ?だったら、キュウが助けてあげる。」


 彼女の中でいったいどのようなストーリーが展開されているかはさっぱり謎だが、少なくとも自分が狙われているとは毛の先程も思っていないらしい。


「大丈夫、しっかりついてきてね」


 二人が答えるのも待たず、少女はまだ立ち上がっていなかった男を抱えると、どこへ向かっているのだかさっさと行ってしまった。


「ちょ……待て、おまえ……」


「大丈夫大丈夫、キューちゃんほんとうに強いの。ミケが言ってたからほんと!」


 暗闇の向こうからその声だけが聞こえてくる。

 取り残された方は、連れ去られる相方の姿といつ追手が現れるとも知れない背後を交互に見ながらも、どうしようもなくその後に続いた。


「え?これ……えぇ!?」


 これは、かなり複雑な事態に陥ってしまった。

今回はかなり短めになってしまいました。

勘弁してください!


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