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《ゴーストタウン》

 ○●●○●●


「お、落ち着け!!」


 コンテナの中に紛れ込んでいた特殊アバターを前に尻餅を着いたままの相棒の肩を揺さぶりつつ、男は自動拳銃を握り直す。


「まだ眠ってるようだ、慌てるな……!」


 声を絞りながら言い聞かせるが、やっと立ち上がった相棒は未だM60軽機関銃をガタガタと言わせていた。


「それはわかるけどよ……おまえ、起きたらどうするつもりだ……!?」

「そんなの俺たち二人でどうにかなるわけないだろう!……先ずは応援を呼ぶ、お前はそいつを見張ってろ……」


 この特殊アバターが一体何の化身なのかは分からないが、装備も満足に整っていない三流プレイヤーが二人纏まったところでどうにかなる相手とは思えない。


 軽機関銃を装備した仲間に見張りを頼みながら、男は収納の小窓から無線機を取り出す。


「電波が通りにくい、俺は一旦外に出るぞ」

「おい、待てって!俺一人で……」

「大丈夫だ、すぐ戻る」


 無線を手にコンテナを出ていった相方を半ば涙目の状態で見送ったが、ここで怖じ気づいても仕方がない。


「畜生、来るなら来やがれ!蜂の巣にしてやる!」


 半自棄になりながら、照準を寝息を立てる少女に定めた。


 だが、そんなことなど露知らずといった顔で少女は眠り続ける。

 時々「ううん」と唸ったり、寝袋の中でもぞもぞと動いたりはするが、一向に目覚める気配がない。


『ひょっとしてこいつ、このまま起きないんじゃないか?』


 軽機関銃を構えながら、そんな考えが兆す。

 ここまで騒いだって、てんで起きる様子がないのだ。きっとこのまま朝まで目覚めないに違いない。

 そう思うと、なんだかこうやって寿命を縮めるような思いをして冷や汗を垂らしているのが馬鹿らしくなってきた。


「……。」


 男は試しに少女の方へと近づいてみる。

 片手を伸ばして、目を閉じた少女の顔の前で手のひらを振った。


 やはり起きない。


 そのまま顔の前でパチンと指を鳴らす。


 全く起きない。


「……」


 男はいつの間にか口のなかに溜まっていた生唾をごくりと飲み下した。


『少しなら触ったって起きないんじゃないだろうか』


 心臓が高鳴り、先程までとは違う興奮が湧いてくる。

 目の前にいるこれが、化け物じみた力を秘めた特殊アバターであることに間違いはない。

 だがそれ以前に、その姿は端麗な少女の形をしているのだ。


 吸い寄せられるように伸ばした手指から、絹のように滑らかな金髪がさらりと流れ落ちる。

 露になった柔らかな頬や白いうなじが、暗い密室の中で僅かに光を讃えているようにさえ見える。


「んん……ミケぇ……くすぐったい~」


 その首もとをなぞるように撫でた指先に、少女は僅かに身を捩って反応する。

 だが嫌がる様子はなく、むしろ心地良さそうな表情で、更にその手を招き入れるように身を寄せる。


 この『ミケ』と言うやつが少女の(マスター)なのだろうか。

 どんな男かは知らないが、こんな美少女を横に侍らせている姿を思い浮かべた瞬間に、どうしようもない感情が胸のなかで膨れ上がった。


 嫉妬や憎悪にも似た感情が、猛烈な怒りを伴いながらその男の熱を煽っていく。


「俺の横にもこんな娘がいたら……」


 いっそこの少女を自分の物にできればどんなにいいだろうか。

 勿論、それは叶うはずのない願望だ。だが、今この瞬間だけなら確かに味わうことができる。


 そう思うと、もはや男の目には何も写らなくなっていた。ただ、無防備な寝息を立てる少女の寝顔だけが意識のすべてを占めていた。


 周りのすべてを忘れかけていたその時だった。



 ガシャン



「っ!?」


 手から落としてしまった機関銃が、床とぶつかって大きな音を立てた。

 閉めきった金属のコンテナの中で、その音は必要以上に大きく響く。


「しまった……!?」


 慌てて離れようとしたが、もはや遅かった。



「ん?」



 少女の目がパチリと開き、透き通った青い瞳が至近距離からこちらを見上げている。

 暫く寝ぼけたようなまばたきを繰り返したあと、少女は口にした。



「ミケじゃない?おじさんだれ?」






 ○●○●●●






 この世界に警察がいなくてよかった。

 制限速度完全無視、無免許無灯火ノーヘルメット。見つかったら間違いなく連行である。


「ここか……」


 横滑りさせたタイヤで埃を巻き上げながら停車すると、私は暗視ゴーグル越しに無人の町を眺めた。

 トラックの巨大なタイヤ跡は、確かにこの町の中へと続いている。


 私はエンジンを切ると、ここまで世話になった足から飛び降りた。

 燃料計の針はEの寸前で虫の息だったので、たぶん帰りには頼れないだろう。

 つまり、こいつは元の持ち主の元には帰れそうにない。


「悪い約束しちゃったな……。」


 どうやら前世からの借りパク癖はここでも健在らしい。

 馬鹿と手癖は死んでも直らんと見た。正確にはまだ死んではいないのだが。


「ま、元からガス欠寸前だったし、仕方ないか。」


 その点は私の責任の範囲ではない。


 スタンドを立てながら取り出したレミントンM11-87を肩で担いで、私は町へと踏み込んだ。


 この近くに敵が潜んでいるのなら、流石にこのうるさい上に酷く目立つ足は使えんだろう。こいつとはもうお別れだ。

 いったいどれ程の距離になるかはわからんが、ここからは親からもらった二本の足に頼るとしよう。


 それにしても、気味の悪い町だ。

 特殊エリアではないようだが、何処かで風に吹かれた扉がぱたぱた言う音や古い家屋が軋む音以外には、自分の足音しか聞こえない。


「カウボーイの幽霊でも出てきたり?」


 半ば冗談に呟いたその時だった。


「……」


 左右に崩れかけた木造屋を見る太い道の真ん中に出たその時、私はふと足を止める。


 何かいる。

 第六感じみた感覚が私にそう告げている。


 その微かな予感が確信に変わった瞬間に、私は片手の散弾銃を構えながら振り向いた。


「おまえ、だれ?」


 片手に握ったM11-87が向いているのは、たった今何者かが歩み出てきた横路。


「ほう。後ろから、なんて無粋な真似をするつもりはなかったんだが……まさか先に気付かれちまうとはな。」


 聞こえてきたのは、感心したような声音。

 闇の中から出てきたその姿に、私は眉を寄せた。


「あ?」


「やっと見つけたぜ」


 皮のブーツを鳴らしながら、キザったらしい仕草でリボルバーを回す男。

 怪訝な目を向けりるのも気にならないのか、男は私の真正面までやって来て器用に回していたリボルバーを腰のホルスターにすぽりと納めた。

 鍔を低く被ったテンガロンハットの下から覗く目は鋭く、暗闇の中で光を放っているようにさえ見える。


「……。」


 暫し沈黙する私。

 この格好を表現する言い回しなら数多あるだろうが、敢えて選ぶとすれば『西部劇』だろうか。


 返す言葉が見当たらず眉を潜めたままの私に、男は続ける。


「しかし、賊どもの頭が女だったとは」


「あ?」


 思わず二回目の「あ?」が出た。


「とぼけるな」


 すっかりわけの分からなくなってしまった私に、男は鋭い口調で言う。


「ここで隠れてたネズミどもに話は聞いたぜ。連中のリーダーは十分後……そう、きっかり今、一人でここにやってくる予定だってな!」

「おいおい、お前なに言って……」

「おっと、臭え芝居はよしな。」


 警告するように上げた手と言葉が、私の口にしかけた文句をことごとく遮る。


「もうネタは上がってんだ、観念した方が身のためだぜ」


 何処か芝居臭い、役者じみた言い回しが鼻につく野郎である。

 まあそれに関してならどういう具合でも構わんが、困ったことに話を聞いてくれる相手では無さそうだ。現に、ベルトのホルスター辺りに添えられた右手は、私と喧嘩する気満々である。


「……ったくさぁ……勘弁してくんないかな……。」


 どうやら賊の一人という訳では無さそうだが、このままではどうにも不味い。

 私は一先ず銃を下ろし、首をかしげて見せた。


「ちょっと役入ってるとこ悪いけどさ、少し頭冷やさない?

 こんな可愛げ溢れる美少女がさ、夜中に殺しなり物盗りなりって、そんな野蛮するように見えるか?」


 さっき物盗りの真似事ならしてきたのだが、それをこいつにばらす気はない。


「ハッ、三文芝居もいいとこだ!俺には分かるぜ?確かに見栄えばっかりはいいが、その目はどうしようもねえゲス野郎の目だ!」

「……ぐぬぬ」


 咄嗟に返す言葉が出ない辺り、私も思い当たる節があるらしい。悲しい限りである。

 とは言ったものの、こんなところで道草を食っていられる私ではない。


「とにかく聞けって。私は星風組の便で来た客。こいつらに盗られたもん取り返しに来ただけだから。」

「嘘をつけ。その便ならこの俺も乗り合わせてたが、おまえみたいな顔はちらりとも見やしねえ!」

「……ぐぬぬぬ」


 確かにその通りなのだろう。私はトレーラーには乗っていないのだから、この男が顔を見ていなくて当たり前だ。

 となると、いよいよ面倒なことになってきた。


 私は片手に提げたM11-87を威圧的に動かしながら、声を低くする。


「悪いけどおまえにはつき合ってられないから。今すぐ通してくんない?身内が拉致られてん超ピンチなの。」

「そんな出任せ、俺が信じるとでも思ったか!」

「そうかい……」


 もはや手段を選ぶ余地はない。強行突破しかないようだ。

 私は下ろしていた銃を上げた。


「邪魔するなら、そこでくたばっててくんないかねッ」


 照準の先に、未だホルスターから飛び出たグリップを触ったままの男が収まる。

 相手の守りにもよるが、頭や胸さえ外せば死にやしないだろう。


 引き金を絞りきる、僅かその瞬間。


「遅い!」

「ッ!?」


 散弾銃を握った私の左手が弾けた。

 手の中から散弾銃が落ちて、足下で跳ねる。


「いっ!?」


 手首を握ると、そこには弾丸を食らった赤いダメージ演出が走っていた。


「女を撃つのは主義に反するが……相手が極悪人ってえなら、容赦はできねえ。」


 何が起こったのかさっぱりわからなかった。

 目の前で無防備に立っていた筈の男が、いつの間にか銃口を煙らせたリボルバーをこっちに向けていたのだ。


 シングルアクションアーミー

 コルト社製の傑作リボルバーだ。

 だが、私が知っている形とは少し違う。カスタム品らしい。


「今のは弱装弾だ、次出るのはマジの殺しの弾だぜ。敗けを認めるな今のうちだぞ。」

「冗談言うなってこのマカロニ野郎……!」


 何から何までよくわからん奴だが、そんじゃそこらの雑魚では無いことはわかった。

 今のは恐らくスキルか何かに違いない。


 SOGOにおいて拳銃は他の火器に比べて火力に欠ける代わりに、色の強いスキルを持つことが多い。たぶんその類いだろう。


 だが、困った。

 得物は落とした。今拾いに行けば間違いなく弾が飛んでくる。

 次こそ脳天にでも当ててくるに違いない。


「あんたの敗けだ、おとなしく盗ったもん全部返してお縄になりな!」

「返すも何もおまえな……」


 恐らく、次の被弾は避けられない。

 だとしたら、如何に避けるかというよりも、何処に受けるかを考えるべきだろう。


 ついでに、なるべく距離も取っておきたい。

 さすがの私も、こんな得体の知れない奴と正面を切ってやりあう気にはなれない。


「やなこった……よっ!!」


 相手の呼吸をはかり、私は落としたM11-87に飛び付くように踏み出した。


「くそ……」


 SAAの銃口が私の動きを追ってくる。


「間に合えッ……!!」


 一発目の銃声が聞こえると共に散弾銃を拾い、私は正面に見えた古い建物に向かって突っ込んだ。


「どりゃあ!!」


「なにっ!?」


 全身に衝撃が走り、視界が舞い上がった埃に煙る。

 壁を貫いて飛び込んだ建物の床でごろごろと転がり、私の体はカウンターに衝突して止まった。どうやらここは西部劇風の酒場らしい。


「痛い……チクショー」


 弾はどうやら私の肩に当たったらしい。

 ダメージは入っているが、まだどうにかなる程ではない。


 二発目三発目は壁をぶち抜いた衝撃で確認できなかったが、何処か別に被弾した様子はないのでセーフだろう。


「クソッ!往生際が悪いぞ!」


 外から悪態が聞こえてくる。

 どうやら、生身で壁をぶち抜いて逃げるのは予想外だったらしい。


「そう言うお前は物分かりが悪いっつのバカ!アホ!× ×!」


 撃ち返してやりたいところだが、壁と埃で姿が見えないのでとりあえず思いつく限りの表現で反撃してやるに止めておいた。


 私は木片や埃を散らしながら立ち上がり、アイテムのアイコンに手を突っ込んでAA-12を引っ張り出す。装着されているのはスラッグ弾のしこたま詰まったドラムマガジンだ。


「こうなったら絶対許さないからなマカロニ野郎。」


 壁は分厚く丈夫だが木製。

 あのリボルバーが放つ45口径弾程度なら威力を殺されるだろうが、こちらの12ケージスラッグ弾なら障子紙程の邪魔にもならんだろう。


 こいつで穴だらけにしてやる。


「おまえが悪いんだからな」


 舞い上がった粉塵の煙幕と木製の壁に遮られた向こう側、件のガンマン風の男の声が聞こえた方向にAA-12を向ける。


 しかし、引き金を絞ろうとしたと同時に、危険察知スキルが警鐘を鳴らした。


「をっ!?」


 慌てて伏せると、突然私の頭の後ろにあった埃まみれの酒瓶が音を立てて爆ぜた。


「なんだよ……ふざけんなよマジで」


 ガラスの破片と激しい異臭を放つ液体を被りながら顔を上げると、射線が伸びていたのは私が狙った方とはまるで別方向。私が逃げてくる時にこしらえた壁の大穴だった。


 埃の煙幕と夜の闇で不明瞭なその向こう側を、私は目を丸くして見つめる。


 まさか、あの一瞬で奴は移動したのか。

 だとしたらとてつもない機動力である。


 私は床に伏せたまま、その射線が伸びる先へとスラッグ弾の連射をお見舞いする。


 手元に薬莢が十個と少し転がった辺りで、射撃を中断。静かに耳を澄ませた。

 見えないとはいえ、あれだけ撃ったのだから一発くらいは当たっているだろう。


 そう思いながら暫く待つが、相手からの反撃はない。


 終わったのだろうか。

 心持ち首を伸ばしてみると、今度は店の窓が割れ、また別の酒瓶が爆ぜた。


「っ!?」


 立て続けに手近な木製の椅子やテーブルが木屑を散らす。

 地面にへばりつくようにしていた私に当たることは無かったが、あのまま立ち上がっていれば間違いなく食らっていただろう。


「あっぶね!うぇ、まずっ!」


 口の中に入った木屑を吐き出しながら、私はたった今飛んできた二本の射線を見上げる。新たにとばっちりを受けたのは、酒瓶が一本と木製のテーブル、その天板を貫いてきた弾にやられたセットの椅子だ。


 やはり、二発とも先程とは全く別の方向から飛んできている。

 あの様子だとこっちからの弾は掠めてさえいないだろう。


 私に当たらない辺り、こちらの姿が完全に見えているという訳では無さそうだが、位置は完全に割られている。対してこちらからはてんで位置が予測できないと来た。

 この差は大きい。


「くそ、あっちこっち走り回りやがって……何処だよチクショー!」


 直接この目で確認できれば大した苦労もないのだろうが、それを狙えばまたあの馬鹿げた早撃ちと正面勝負をすることになる。それだけは勘弁願いたい。


 しかし、もはや動きが素早いといったレベルの話ではない。

 いくらなんでも場所の移動が早すぎるし、そもそも動く気配さえ感じられない。


「DIO様かよあいつは……?」


 現実離れした早撃ち、射撃点の瞬間移動、もはや時を止めているとしか思えない。


 そんなスキルが果たして存在したかと記憶に呼び掛けてみるが、もちろんそんな物があるわけがない。


 また相手からの攻撃が止んだ。今度は長い、リロードだろうか。


 手早く済ませる予定だったのだが、これは予想以上に手間取りそうだ。


 いや、最悪の場合ここでこいつにやられる可能性さえある。


「くそ、こんなときに限ってさ……!」


 M11-87とAA-12を握った両手に力が隠る。


 私の焦りは、既に限界ラインを振り切ろうとしていた。




日頃ギャグ要員扱いですが普通に可愛いキュウちゃん、魔性の寝顔でした。


謎の彼のSAAは①フロントサイトを取り外し、跳ね上がりを抑制するガスポートを設けました②早撃ち用にハンマーを取り換え、高い物にチェンジしました③咄嗟に構えやすいようにトリガーガードも広めにとられています

という風に完全に早撃ちカスタムです。

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