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《朔太郎》5

「……。」


「……ん?」


 今のはキュウではない、私だ。


 所変わらず、常夜の町が誇る鬼ことママの営むショップ。


 レアリティ6のXM8のレベル上限数解放、つまり新たな特殊アバターの誕生。そのおめでたい瞬間に立ち会う事を許された私なのだが


「キャロ……?」

「……。」


 どうもキャロの様子がおかしい。


 カウンターの上の愛銃は赤い光に包まれ、既に準備は万端。だが、キャロは伸ばした人差し指を細かく震わせるばかりで続く動作に出ようとしない。


 恐らく、キャロにしか見えない《YES》の項目に触れようとしているのだと思うだが。


「どうしたよ?」

「はひっ!?」


 私が二度目の声をかけると、キャロはやっと肩を跳ねさせた。


「え……えと……なんて、いうか……」

「なんていうか?」

「その……」


 たっぷりと言い淀んだ末に、キャロは顔を真っ赤にして、伸ばしたままの人差し指をもう片方の手で揉み始める。


「な……なんだか……緊張しちゃって……」

「緊張……」


 難解な顔をする私に、キャロはあっちこっちへ視線を泳がせている。


「その……う、うまくやれるかなって……。こういう場合って……第一印象ってすごく重要じゃないですか?……それなのに、こんなにガチガチだったら……わ、わかってるんですけど……そう思ったらなんだか余計に……」

「第一印象って……面接じゃないんだからさ。リラックスしろって。」

「それもわかってるつもりなんですけど……それでも……」


 そう言うとまた深刻な顔をしながらカウンターとのにらめっこに戻った。


 なるほど。

 なんというか、彼女らしいといえばその通りなのだが、これでは一向に事が進みそうもない。


「……どうするよレミィ?」


 人差し指を揉んで、ぷるぷる震わせて、たまに大きく息を吸ってを繰り返してるキャロから少し下がり、私はことの成り行きを傍らで見守っているレミィに耳打ちをした。

 私の背伸びに合わせたのか若干腰を低くして聞いたレミィは、「どうもなにも」と真面目な顔。


「これは彼女の問題ですから、私たちがとやかく言うことではないでしょう。彼女のペースでゆっくりやっていけばいい、それがベストですよ。」

「いや、そうなんだけどさ……そうなんだけどさ」


 私の言葉は口のなかで小さくなって消える。


 レミィの言う通りだ、私だってそんなことは分かり切っている。

 だがだからといって納得できるできないは別の話だろう。

 焦れったいものは焦れったいし、どうにもこれ以上に見ていられない。


「だってもう……なっ?親子丼もうそこだぜ……?」


 遂ぽろっと口から溢れた。

 内心焦った。レミィにでも聞かれたら一貫の終わりだが、大丈夫だ。たぶんバレていなかったと思う。


 私から見れば、もう箸も丼も小鉢までお膳に揃えて目の前に出されているような状態である。

 それなのにいつまでたっても丼の蓋が開かないなんておかしい。こんな事が許されていいのだろうか。いや、他でもない私が許せんのだ。


「ああ……もう限界っ!!」


 遂に私の中の何かがブチンと切れた。


「……。」


 こうなるだろうと予想はしていたのか、レミィも何か横槍を入れることなく、ただ深い溜め息をついていた。


 私はキャロの華奢ななで肩を壊れそうなほどガッチリ掴んで、ぐいっと引き寄せる。


「ふえっ!?」

「やろう、やっちゃおうキャロ!こういうのは勢い、勢いだぜ、勢いでだいたい片付く!ねっ!」

「勢いだなんて……わたし、まだ心の準備が……!?」

「大丈夫!痛いの最初だけだから!!」

「何の話ですか!?」


 私はキャロの肩を持って、しっかりカウンターに向かせた。


「大丈夫!押しちゃえ、押せる!3、2、1、はいっ!」

「は、ひゃいっ!」


 半ば無理矢理。

 遂にキャロはぎゅっと目を瞑って、私に見えない何かを指で押した。


「押し……ちゃった……!」


「……きたきたきたきた……!!」


 キャロと私の目の前で、XM8が真っ赤な光に包まれる。

 やがてその光は大きさを増しながら、徐々に人の形に近づいていく。


「きゃっ!?」


 キャロの契約の指輪に《支配権》の赤い結晶三つが発生する。


 そして、目の前の光が最大限に達したその時、突然弾けるような音を発した。


 赤い花弁のような光が散り、そのなかに立っていたその人物がにこりと微笑む。

 そして、意気揚々と口にした。



「ボクを解放してくれてありがとう!マスター!」



 その光景に、私は真っ白になった。


「……あ、あなたが……私のパートナー?」


 おずおずと、というか恐る恐る尋ねるキャロに、その特殊アバターはにこやかに頷く。


「うんっ!これからもよろしくね、キャロ!」

「……う……うわあああんっ!!」


 何故か突然泣き出すと、キャロはその胸に飛び込んで行った。


 泣きじゃくるキャロを抱き止めながら、その特殊アバターは困ったように笑う。


「あはは……ボクのマスターは泣き虫さんだね?笑ってほしかったのに。」

「うわええええんっ!!よかったよぅ……やっと、やっと会えたね……ふえええええん!!」


 たぶん、感動的な光景だったんだと思う。


 レミィはうんうんと熱く頷き、キュウは跳ねながら盛大な拍手を送り、ママは鬼の目にも涙を再現している。


 私だけがそれらしいリアクションを取れずにいた。


「……お、おとこ……だと……!?」


 目をキラキラさせたすこぶる美少年が、そこには立っていた。







 《朔太郎(サクタロウ)

 XM8改め、彼はそう命名された。


「……朔太郎?思ったより渋味をきかせるのね、いい名前じゃないの。」


 グラスに酒を注ぎながら、ママはさっきから一変にこにこしっぱなしのキャロに笑いかけた。


「はい、前の世界で飼ってたウサギの名前です!噛みはしませんけど……よくいたずらする子で、でもわたしが寂しいときにはいつも足下にいてくれる、とってもいい子でした」


 何でも、ここに来る前まで彼女の飼っていたオスの兎の名前らしい。

 聞いての通り随分と仲が良かったらしく、語る口調も何処か興奮気味だ。

 母親と二人で考えてつけた名前なのだそうだ。


 ちなみに自分の名前はその兎の好物、人参(carrot)から来ているなどというから、根っからの兎好きである。人参だけに。


 その名前を何度か口のなかで転がしたママが呟くように言う。


「……お母さんセカチュー世代かしら?懐かしいもんねぇ。」


「せか……?」


 ママの言葉に首を傾げるキャロ。


 ああ、そうか。

 キャロの年代ならあの名作を知らなくて当然だろう。

 かく言う私でさえ風に聞いた程度の知識しか持ち合わせていないのだから。


「たぶん違うと思います。お母さんは本が好きだったので……本棚の中から選んだんです。……えっと」


「"萩原朔太郎"でしょうか?日本近代詩の父と呼ばれるほどの有名な詩人です。」


 レミィが言うとキャロは大きく頷いた。


「そう、それです!お母さんの本棚で見た名前です!レミィさんは何でも知ってるんですね。」

「たまたま記憶していただけですよ。」


「それより……キャロ?」


 そんな会話の中、キャロの背中からの声。

 朔太郎と命名された特殊アバターが、またも困ったように笑っている。


「少し……重いかな?」


 それもそのはず。

 朔太郎はさっきからずっと座った膝の上にキャロを抱えているのだから。


 だが、キャロはそんな朔太郎を見上げて嬉しそうに足をぶらぶらさせる。


「いいでしょサク!せっかく一緒になれたんだから、もうちょっと!」

「はぁ……キャロはワガママさんだなあ。それとも甘えん坊さん?」


 困りつつも何処か嬉しそうに首を傾げた朔太郎の胸に顔を埋めるように抱きついた。


「お願い、サクだーいすき!」

「しょうがないマスターだなあ。いいよ、ボクもキャロのことだーいすき。」



「ーーーーーーッ!!」



 腹の底から噴き上がってきた何かを氷も差さない酒で圧し殺し、私はカウンターに空のグラスを叩きつけた。


「やいクソッタレ!!酒だ、酒を注げェ……一番強いヤツ!少しでも薄めたらカウンター叩き割るかんなァ!!」


 簡潔に述べよう。

 自棄飲みに走っている。


「ンもうぅ~、ミケゾウちゃんったら~?いきなりどうしちゃったの?おかしな子ねぇ。」


「ウルセェー!!おかしいのはこの世界だ!世の中全部だ!!あぁ畜生、今なら全人類をまとめて呪殺できるぞ、今の私にならできるぞ!!ウガーー!!」


 こうしてママがたった今注いでいた酒をかっさらってひっくり返すように煽る。


 こうでもしていないとやっていられないのである。


「だって男だぜ!男!!キャロの特殊アバターなんだからもうむっちゃかわいい娘出てくるかと思ってたら、な!?」


 そりゃあ朔太郎も美形だ、なかなかの美形だ。見た目にして凡そ"ショタ"属性のカバー範囲内と思われ、その道の愛好家見れば鼻血吹いて卒倒するレベルの仕上がりだ。


 だがそもそも男なのである。どれだけ可愛らしくても男なのである。

 つまり、私としてはノーサンキュー、否、思いきりノーを叩きつけざるを得ないのである。


 その上に、だ。


 なんとあろうことか私のキャロまでかっさらっていく始末だ。

 こんな事が、果たして許されてもいいのだろうか。

 いや、仮に何者がそれを看過したとしても、少なくともこの私が許せない。


 故にさっきからこの腹の底から上ってくる灼熱のマグマを、ひたすらアルコールで抑え込んでいる次第である。


「それにしても、男性の特殊アバターなんて珍しいですね。」


「え?」


 レミィのその一言に、朔太郎は膝の上からじゃれてくるキャロに満更でもない顔で相手をしつつ、首を傾げる。


「うん、キュウも初めて見た。男の子の特殊アバター。」


 重ねてきたキュウに、朔太郎は何故かぐっと眉を寄せた。


「もう、みんな揃って失礼しちゃうなあ。」


「え?」

「ん?」


 ママも含め、一同が疑問符を呈する中でキャロが不思議そうな顔で言った。


「え、朔太郎は女の子じゃないですか?ね、サク!」

「そうだよ、ボクは女の子!みんなひどいよ!」


「……。」

「……。」

「……。」


「……な、んだと……」


 最後の一句は、もちろん私だった。





「あぁ……飲みすぎた」


 真っ白なシーツにずっぽりと体を沈め、私はさっきからぐらりぐらりと回っている天井を見上げている。


 ああ、違うか。回っているのは私の目だ。


 結局あのあと私は更に飲み続けて、遂に動けなくなってキャロのホームエリアまで担ぎ込まれた。

 その二階の客室のベッドの上で私は熱を持った自分の額をぴしゃりと打った。


 なるほど、さすがのSOGOもあそこまで飲めば潰れるものとみた。

 ぶっ倒れることこそ無かったが、頭はぐらぐら、足元はふらふら、意識も不明瞭で濁ったぬるま湯の深くに潜っているような気分だ。


 それにしても、偉く立派な家である。


 SOGOのホームエリアは、pt(ポイント)を使うことで改装、増設などのリフォームが可能だ。

 まあ、こんな破落戸ばかりのゲームで部屋の内装にまで気を回す奴など稀なのであまり話題には上らないが、真面目に手をかければ結構な仕上がりになるとか。


 見たところ、キャロはここでは珍しくかなりの拘り屋らしく、広く綺麗に仕上がった住まいはもはや豪邸とも呼べるレベルに達している。

 六畳そこらの客室二つまでも拵えている辺りから見ても、それに費やしたptや情熱は並のものではない。


「……うちもそろそろ弄るかな……」


 私の隠る寝室が一つ、家の鉄砲娘たちの眠る部屋が一つ、アイテムの管理やら何やらをする作業場が一つ、そして三人で飯を食う台所。

 何か不足があるわけでは無いが、軽い模様替え程度でも良いだろう。


 そんなことを酔っ払った頭でぼんやりと考えてみたが、八秒後に諦めた。

 残念ながら家には(pt)がない。

 仮に提案してもレミィが「却下」と一言口にするだけだろう。


 そこを押して通す程の情熱が、そもそも私には欠如しているのだから、諦める他ないだろう。


 それに、こんな状態では明日の朝までこの決意が記憶として持つかさえ怪しい。あくびでもしたそばから忘れるに違いない。


「ふわぁ……」


 言っているそばからあくびが漏れた。

 案の定今ので全部忘れた。


 それにしても、気持ちがよくない。


 あの特殊アバター。


 結局、彼改め彼女がきちんと「女の子」であることは発覚したのだが、それでも私の気は全く晴れなかった。


 残念ながら、《ボクっ娘》は管轄外である。

 どうもあの雰囲気は肌に合わない。普通に顔を合わせていく分にはまだいいが、食えるかとなると駄目だ。無理にいったら食あたりにでもなると思う。


「あぁ……くそ」


 改めて思ったが、私も下らない女である。

 これではもうある種の男性不信だ。


 あんなちっぽけな失恋ひとつで、私はどうも男という生き物が恐ろしくなってしまったらしい。

 脆弱にも程があるだろう。


 もしかすると、私は初めからそれに気付くのが嫌でこんな方面に走ってきてしまったのかもしれない。

 全く、いかにも私のやりそうなつまらない逃避である。


 なんだか、そう思うと自分が情けなくなってきた。


 いや、情けないのは今に始まった話ではないか。


 散々に不貞腐れた上にこんな酔っぱらいかたをして寝込んでいる時点で、既に十二分に情けない。


 キャロは、きっとすごく嬉しかったろう。

 この世界にやっと"家族"ができた訳なのだから。


 それを私は、情けないと言えなければ果たして何と形容するべきだろう。


「……クソッタレ……か。」


 いかん。酔いも過ぎると訳のわからん事ばかり考えてしまう。

 それを追い払うように頭を掻き回すと、無理矢理目を閉じた。


 もう遅い。寝よう。

 こんなときはふて寝に限る。


 そんなとき、頭の端っこから部屋の扉が開く音がした。


「あぁ……だれ?」


 今は誰かと話をするような気分ではない。

 レミィだったら追い払ってやろうと不機嫌を前面に押し出して応じると、ベッド脇のサイドボードの上でガラスが鳴る音がした。


「あ、まだ起きてたんですね、よかった」


「っ!?」


 続けて聞こえた声に、私は吹っ飛ばされるように体を起こした。


「きゃっ、キャロ……!?」


「わっ、その……驚かせる気はなくて……ごめんなさい?」


「あぁ、いやいや、全然オッケー、問題ない……。」


 私は両手を振って答えると、霞のかかった目を何度か擦った。


 どうやら、たちの悪い夢という訳でもなさそうだが。


「お水持ってきました?なんだか、とっても辛そうにしてたので。」

「ありがとう……ありがとう」


 何か一言付け加えるつもりだったのだが、よく思いつかずに結局二回重ねることになった。

 そんな私に、キャロは心配げな表情を浮かべる。


「本当に大丈夫ですか?」

「……ああ……」


「大丈夫」と言おうと思ったのだが、頭がぐらついたのでどうしようもなく頷いた。


「……ぼちぼちかな」


 とりあえず曖昧に笑ってごまかし、キャロの差し出した水の入ったコップを受け取った。


「それにしてもさ……いいの?」

「へ?」


 尋ねた私にキャロはなんのことか分からないようで首を傾げる。

 そんな表情が、私のささくれ立っていた部分を下手に撫でた。先程まで煮えていたなにかが、またぶり返してきた。


「朔太郎……。私のことなんて気にしなくてもさ、二人で仲良くやってればいいじゃん。」


「……。」


 そんな私の顔を、黙って見つめるキャロ。


 そこでやっと気がついた。

 まずいことを言ってしまった、と。


 居心地の悪くなった私は、冷たい水を一気に煽ってから逃げ込むように布団の中に潜った。


「ねむたい、ねる。」


 それっきり、私は固く目を閉じて押し黙った。


 たぶんあと数秒でもキャロの目を見ていたら、この家から逃げ出してしまうだろう。

 それくらいどうしようもない気分だった。


 できれば、彼女にも黙ってこのまま出ていってもらいたい。


 だが、ベッドの隅に腰かけた気配は一向にいなくなってはくれない。


 いい加減どうしたものかと、少しだけ顔を覗かせたその時だった。


「じゃあわたしも……」

「……?」


 空間ウィンドウを指先でするすると操作しているキャロ。

 その体を白い光が包んだ。


 私がまばたきを三回は繰り返している内にその光は消えて、衣装の変わったキャロがそこにいた。


 淡いピンク色のパジャマ。


「……あぇ?」

「……よいしょ……えへへ」


 何事かと戸惑う私を他所に、キャロはいそいそと私の布団に潜り込んできた。


「きゃっ、きゅっ、きゃ、キャロ?え?」


 思わず声が上ずる。

 そんな私の横から顔を出し、キャロはにこりと笑う。


「一緒に寝ません?……いい、ですよね……」


「?」


 一瞬、頭のなかが真っ白になった。

 今、この可愛らしい生物は何と言ったのか、理解ができなかった。


 私の耳には何故か「一緒に寝る」という旨の発言に聞こえてしまったのだが、まさかそんなはずはあるまい。


「え、でも、だって……私は……その」

「ミケゾウさん、すこしだけ……お話しませんか?」


 キャロの言葉と視線に、私のつまらないごにょごにょは吹っ飛ばされた。

 キャロは少しだけ瞳を伏せると、布団の端をぎゅと握りしめる。


「わたし、ずっと怖かったんです。この三ヶ月間、ずっと。

 友達も、家族も、誰もいなくて。でも、一人でもやっていかなくちゃ、この世界では生き残れない……だから、頑張らなくちゃ、頑張らなくちゃって。でも、そう焦る度にどんどん追い詰められていくみたいで……」

「キャロ……」

「そんなときあなたが助けてくた。

 わたし、あのときすごく感動したんです。人って、こんなに強く、かっこよくなれるんだって。

 わたしは、そんなミケゾウさんに憧れたんです。」


 見つめる視線が眩しい。

 痛いほどに眩しい。


 なのに、もう目を逸らすことができなくなっていた。


「あの……ミケゾウさん。お願いがあるんです。」

「おね、がい……?」


 キャロは布団の中で意を決したように息を吸うと、一心に私の目を見つめた。


「こんなわたしでも、ずっと側に置いてほしい……。もちろん、足手まといになるかもしれませんけど……わたし、頑張って強くなりますからっ。だから、その……これからも、一緒にエリア潜ったり、戦ったり、してくれませんか?」


「……えっと、あの……」


 もちろん、答えなんて決まっている。

 だがさっきから舌が絡まって仕方がないのだ。


「ダメ……ですか?」


 目の前の潤んだ瞳が私を否応なしに攻め立てる。


「ミケゾウさんは……わたしのこと」

「あぁ、もうダメ限界っ!!」


 遂に、私のあってないような理性のたがが音をたてて弾け飛んだ。


 汗ばむほどの熱を持った布団の中で、私はその小さな体を強く抱き寄せる。

 それに驚いたのか軽い悲鳴のような短い吐息が耳元を掠めるが、それが更に私の捕食者の本能を掻き立てる。


 こうなったら、レミィも朔太郎も知ったこっちゃない。

 もう決めた。今晩やる。


 出会って初日とか、そんなことはもはや関係ない。


「ごめんっ、ごめんキャロっ……私、私、私……!」

「……っ」


 少しだけ冷たい肌が、私の火照りに火照った体に心地よい。

 初めは腕の中で軽く身を捩ったようにも思えたが、それきりに抵抗する様子は一切ない。


 これは向こうからのOKサインと見ていいのだろうか。

 だが私のなかには既にそれを判断する余裕さえも残されていない。


「……。」

「キャロ~っ!」


 手始めに思いっきりキスでもしてやろうと思って、少し身を離したその時だった。


「……ありゃ?」


「……すぴー……」


 目の前にあったのは、寝顔だった。

 間抜けな声を出して、ぽかんとする私。


「も、もしもーし?キャロ?……あ、あれれ……え?」


 抵抗もなくて当たり前である。

 何せ、もう完全に夢の中なのだから。


 思わずその柔らかな頬っぺたをぷにぷにやってしまったが、それでも起きない。


「……。」


 考えてみると、当たり前だろう。

 時間は結構遅いし、今日は色々と忙しかった。

 疲れもするだろう。


「……はぁ」


 完全に毒気を抜かれてしまった私はため息をひとつついて、その頭をひと撫でした。

 まさか、眠っている少女を襲うなんてことはできまい。

 もちろんそれもそれで美味いのだが、それはもう少し開発が進んでからの方がいいだろう。ギャルゲーにおいて焦りは禁物だ。


 それに、こんな天使の寝顔を見せられては捕食欲よりも庇護欲の方が勝ってしまう。


「おやすみ、キャロ」


 最後に、その額に軽くキスをして私も目を閉じた。

 彼女の匂いと体温を堪能しながらの安眠。これも十分にうまい。


 今晩はこれで満足するとしよう。

可愛い女の子だと思った?残念!ボクっ娘&変態ミケでした!


サク「しょうがないマスターだなあ(まんざらでもないため息)」

↑言われたい……。


さて、次回からどう話を伸ばしていくか、今のところ書きたい話がふたつあって迷っております。


それでは……次回もお付き合いください。

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