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《朔太郎》4

 ○●●●●●




 がぎんっ


 握った柄に走る鋭い衝撃。


「見なよ、この見事なスイング……」


 振り抜いたショベルは、超音速でキャロへと迫っていた拳銃弾をしっかりと捉えていた。

 そのままテニスラケットのような扱いで銃弾を弾き返し、私は目の前で目をひんむいていた見覚えのある顔面へ返しのひと振りを見舞う。


「修造だってびっくり仰天だね、こりゃ」


 たぶん、今の私の顔は今月一番のどや顔だったと思う。






 ○○●○○○




「……」


 目の前の光景に、キャロは言葉を失っていた。


 ショベルの腹で男の横っ面を殴打。嘘みたいな勢いで叩き飛ばした彼女は、ショベルの腹、ちょうど拳銃弾の命中して傷になってしまった部分を指先で擦りながら振り向いた。


「全く、私のキャロをよってたかって……。やるんならもっと私好みな感じでやれっつの、エロ同人みたいに。」


 いつも淡々としていて、それでいて何が気に入らないのか常に不貞腐れたような表情の猫耳チビ。


 ミケゾウだった。


「あ……み、けぞうさん……わたし」


 キャロが何か言葉をかけてやることも忘れているうちに、無数の銃口が動いた。


「おまえっ!」

「なにしやがんだよ!?」


 後ろで待機していたプレイヤー狩りの一団だ。

 リーダーがあんなに堂々殴られたのだから、当然と言えば当然の反応だろう。


「……ああ、結構多い」


 その銃口の先にいるのは、勿論舌打ちをしているミケゾウだ。


「あの……わたし……わたし……キュウさんが……!」


 言いかけたキャロを、頭を乱暴に掻き回すミケゾウの手が遮った。


「いいのいいの、後で聞く。キューちゃんも頭空っぽなぶん頑丈にできてるから心配ない。キャロのせいじゃない。」


 ミケゾウはそう言いながら首を鳴らし、手に持ったショベルの柄でトントンと肩を叩いた。


 ちょうどその時、殴りとばされた男が頭を振りながら立ち上がった。

 間一髪で気絶判定を免れたらしいが、深夜の駅前で見かける酔っ払いが如く足下をふらつかせている。


「おまえ……さっきのゴリラ女ァ!?」

「ん?」


 その声に反応し、ミケゾウは首を傾げる。

 顔の形が若干変わった男をぼんやりとし目で眺めると、やっと思い出したのか「ああ」と言った。


「……おまえ表で見たハイエース野郎……。わざわざ追っかけてきたか、ゆとり世代にしては根性あるのな。田舎暮らし長い?」

「ウルセー!いちいちおまえなんか追いかけてくるか化け物め!あと出身は福岡だ!文句あるか!」

「福岡……あぁ、そう。また微妙な……。まあどうでもいいや。なんかの縁だと思って、もっかいぶん殴る。」


 ぐるぐると肩を回し始めたミケゾウに、銃を構えていた男たちから嘲笑が投げ掛けられる。


「ぶん殴る?おまえ、この数相手に一人で何かできる気でいたのか?頭大丈夫かよ?」

「頭下げるなら今のうちだぞチビ!」


「うるさいな。おまえら今からそのチビにボコボコにされんだかんな?」


 その態度が気に入らないのか、ミケゾウは眉をぐっとよせる。


「それに、一人でもないし。」


「なに……」


 その台詞も終わらない内に、男たちの足下になにかが転がった。

 自販機で買えるジュースのミニ缶の様な物が、数えて三つ。


 気がついた誰かが悲鳴のような声をあげた。


「グレネードだぁぁあ!!」


「バーカ。」


 目を細めたミケゾウの目の前で、慌てふためく三名が緑色の煙に沈んだ。


 辺りに煙を撒き散らす非殺傷手榴弾、スモークグレネードだ。

 それを三つも放り込んだので、辺りは自分の伸ばした手の先さえ見えない濃い煙幕におおわれしまった。


 戸惑いと恐怖で悲鳴が木霊するなか、ミケゾウの楽しげな声が聞こえた気がした。


「さて、皆でスイカ割りだ。」


 こうして、爛々と光るミケゾウの二つの目も緑に飛び込んでいく。


 そこからは全て、視界全面緑の世界の出来事。


 殴る音、悲鳴、何かが砕ける音、躊躇しながらの短い銃声、殴る音、悲鳴、殴る音、悲鳴、滅茶苦茶な銃声、殴る音、何か引きちぎる音、命乞い、殴る音、地面を叩くようなバタバタという音、何かへし折る音、殴る音、殴る音……


 阿鼻叫喚の音声の嵐が止む頃、やっと緑色の煙幕が晴れた。


「ふう、つかれた。流石にプレイヤーはタフだから体力使う。」


 ミケゾウが一人で額の汗を拭っていた。


「あ……あわわ……」


 その光景を前に、キャロは煙幕が張られていて良かったと心から思った。

 この惨状が出来上がるまでの行程を生で見ていたら、恐らく失神程度ではすまなかっただろう。


 ある者は全身のあらゆる関節をめためたに破壊されまるで水揚げされたタコのように潰え、ある者はどういうわけか頭から地面にめり込んだままズボンを下ろされ尻からダメージ演出を撒き散らし、またある者は内股になりながら胯間を押さえ白眼を剥きながら泡を吹いている。


 倫理的にも物理的にも、人の為せるものとは思えない。もはや鬼の諸行である。

 敵とはいえ、ここまでくると同情せざるを得ない。



「ば、化け物……!?」


 あまりの光景に口が塞がらないキャロだったが、横から聞こえた声に身を引いた。

 初めに殴られたラテン系の男である。


 どうやらあの緑の悪夢の中を生き延びたらしい。


 その手にはいつの間に拾ったのか、ロシア製の自動小銃AK-108が握られていた。

 震える銃口が向いているのは、未だ意識を取り戻さない男たちを爪先でつついているミケゾウだ。


「っ!?」


「ぶっ殺す……ぶっ殺す、ぶっ殺す!!」


 このままでは、ミケゾウは撃たれる。

 この距離ではいくら彼女でもただでは済まないだろう。


「ミケゾウさん!!」


「あ?」


 振り向くミケゾウだが、もう遅い。


 キャロは咄嗟に腰のホルスターから自動拳銃ベレッタ90-Twoを抜く。


 照門の先に捉えるのは、AK-108でミケゾウを狙う男の頭。


 ーー撃たなくちゃ、撃たなくちゃ、撃たなくちゃ


 何度も頭の中で唱えるが手の震えは治まらず、照準が定まらない。


 ここで自分が撃たなければ、撃たれるのはミケゾウ。

 自分を守ってくれたミケゾウがやられてしまう。


 それだけは絶対に嫌だ。


 緊張と恐怖で冷たくなっていく指先に力を込める。


 ーー変わらなきゃ


 自分に言い聞かせる。

 このままの自分ではいけない。

 こんなに弱くて、頼りない自分では駄目だ。


 ーー変わらなきゃ、変わらなきゃ


 もっと、強い自分に

 今の自分ではない、別の自分に。


 目を閉じては駄目だ、きちんと標的を捉えて一撃で仕留める。


 見つめた標的がぐにゃりと歪む。

 それが、小銃を抱いたまま目に涙を浮かべる自分に見えた。


 ーー変わらなきゃ


 ーー例え、今ここで自分を殺すことになっても


 でなければ、守りたいものを守ることさえできない。

 変わらなければならない。

 ミケゾウのように、負けない強さを



「やめてっ!!」



 叫びと共に引き金が絞られて、ハンマーが下りた。

 スライドが跳ねるように下がって、高温のガスが銃口で爆ぜた。


 だが


「あ……れ……」


 放たれた弾丸は大きく狙いを外して、男の右足を掠めた。


「うがっ!?」


 また外したのか


 背筋が冷たく凍る。


 一瞬そんな感覚に囚われたが、今度は違う。


 誰かの手が、銃を握ったキャロの腕を掴んで狙いを逸らしていた。


「え……!?」

「ダメだよっ!」


 横にいたのは、頬を赤くして怒気を示すキュウだった。


「キュウ……さん?」

「キャロ、ダメっ!」


 キュウは繰り返すと、震えるキャロの手を握りながら言った。


「撃ちたくないものは、撃っちゃダメ!絶対ダメ!

 そんなの、後で後悔しちゃう。ずっとずっと悲しくなっちゃう。そんなのダメ!絶対ダメだよ!」


 彼女の見たことのない表情に呆然とする。

 だが、同時にどうしようもない涙が溢れてきた。


「でも……わたし、守らなきゃ……弱いままじゃダメだから……強くならなきゃ、変わらなきゃ……ミケゾウさんみたいに……」

「弱くなんかない!」


 突然キャロの手を握る力を強くする、


「キャロは優しいの、弱いんじゃない!

 ヒト(プレイヤー)にもキュウたち(特殊アバター)にも優しい!だから弱くなんてない。キャロは変わらないで!キュウ、今のキャロがすき!」

「キュウ……さん」


「クソォ!!」


 その時、被弾した足を抱えていた男が雄叫びを上げた。

 どうやら狙いを切り替えたらしく、銃口はキュウとキャロの方へ向いている。


 血走った目をいっぱいに開きながら、男は獣のように吠えた。


「死ねえええええ!!」


「やだもん!」


 返したのは、隣にいたキュウだった。


 流れるような動作でキャロの手から銃を取ると、素早く四回引き金を引く。


 四発の銃声が立て続けに響き、同時に男の両手、両膝が赤く弾ける。


「なっ……!?」


 あまりの早業に驚く間もなく、その腕から小銃が落ち、支えを失った体がバタンと倒れた。


「ふんっだ……!」


 キュウは薄く煙る銃口を一吹きすると、西部劇のガンマンのように銃を回しながらキャロのホルスターへとそれを収めた。




 ○●●○●●




「おい、レミィ。おまえなにしてるか!危うく私もキャロも死にかけた!」


「すみません、嬢。」


 腰に手を当てる私の前でレミィが頭を下げている。

 非常に珍しい光景である。


 だが、別にコントなんかじゃない。きちんと事情がある。

 レミィには裏から煙玉を投げ込んで、私があの善からぬ男どもを成敗している内にキャロとキュウを救出するようにと命じていたのだが、見ての通りキャロとキュウに危険が及ぶという失態を犯したのだ。


「ったく、日頃はうるさいくせにさ。自分が失敗してどうするよ。」

「実は、裏にもう二人仲間が潜んでいたらしく、彼らの奇襲を受けました。何とか撃退しましたが、一人には逃げられてしまい……」

「……何でガッツリ仕事してんだよおまえは。」


 思わず何もない空中をぶん殴った。


 これでは私も怒るに怒れない。

 伏兵を考慮しなかったのは、作戦を立てた私の責任だ。


 というか、プレイヤー二人の奇襲を食らっておいて目立った外傷が見当たらないのはどうかと思うのだが。


「それにしても……」


 私はその横でまだ震えているキャロの頭に手をおいた。


「災難だったね。また。」


「……。」


 キャロは俯いたまま震えるばかりでなにも言わない。

 それはまあそうだろう、あそこまでされてケロッとされたら逆に心配になる。


「……めんなさい……」

「あ?」


 ふと、か細い声がした。


「ごめんなさい……」

「キャロ……」


 キャロは震える声で続ける。


「わたしがしっかりしてたら……こんなことにはならなかったんです。……もし、ちゃんとわたしが戦えたら……こんなことには」

「もういい。」


 キャロの顔を自分の胸に押し付ける形で、それを黙らせた。

 ビクリと体を震わせるキャロの頭を撫でながら、繰り返す。


「もういい。キャロのせいじゃない。」

「ミケゾウさん……でもわたし……」

「"でも"は禁止。」


 別に、誰もキャロを責めている訳ではないし、責められることなんてなにもなかった。

 強いて言えば、彼女を責めているのはキャロ自身だ。


「キャロは充分しっかりしてる。私よりもしっかりしてるし、これ以上しっかりされたら、レミィが二人になっちゃうし。私はそんなのやだね。」

「ミケゾウさん……わたし……わたし」

「うん、怖かった怖かった。たんと泣きなって。もう終わったから。大丈夫大丈夫。」


 その言葉が呼び水となったのか、遂にキャロは大声で泣き始めた。


 これでこそ自然だ。


 たぶん、キャロがこうも魅力的に見えるのはそういう部分なのだろう。


 みんながみんな、この世界に囚われている。

 体だけではなく、心さえここの掟に囚われている。


 硬く重い銃を構えて、自分を殺しながら過酷な世界を生き延びようとしている。

 さっきのようなプレイヤーが出てきてしまうのが、その最たる例だ。


 まさか、まともな自分を保ったままあんな真似をしでかす奴などいるわけがない。

 かく言う私でさえそうだ。


 何処かでまともな自分を殺していなくては、こんな世界ではやっていられない。


 けれど、キャロはそんなものに囚われたりしない。


 信じたいものを信じるし、怖いものはきちんと怖いと言う。

 決して自分を殺したりはしない。


 脆く弱いようで、実は彼女ほど強いものなんてこの世界にはないのかもしれない。


「純粋なもんだね……」


 我ながらおっさんくさい事を考える私だ。


 何だかんだいってこの世界も殺伐とした世になったもんである。

 だからこそ、こうやって泣ける彼女には変わってほしくない。

 彼女には、ずっと魅力的なキャロのままでいてほしい。


 ……でもって


「……あぁ~ めっちゃいい匂いする……すぅ~、はぁ、すぅ~」


 キャロの髪の毛に顔を埋めて猛烈に深呼吸。

 私の世界は瞬く間に素敵なお花畑へと変わる。


 私は彼女の魅力を全力をもって受けとる。それに尽きる。


 この際だ、白状しよう。

 気取ったふりして坊さんみたいな説法を垂れていたが、あれは単なる建前に過ぎない。

 乱闘中からずっとずっと、頭の中ではこの瞬間のことだけを考えていた。


「あぁ~幸せ~……脳みそ溶ける~……。」

「嬢!!」


 と、そこでレミィの邪魔が。


「な、何だよ!文句か!?」


 顔面をゆるゆるにしていた私は、ムッとして言い返した。

 一体の何の権限があって私の至福の瞬間を邪魔しようと言うのか。


 だがレミィは奮然と身を乗り出した。


「文句です!そのよだれを拭いてください!」

「なっ!?……じゅるる」


 いかん、こんな所でボロが出るとは。


「全く、貴女という人は……!」


 そう言うとさっさと私からキャロをさらって、肩を抱いて他所へ連れていってしまった。


「大丈夫ですよ、あなたはよくやりました。」

「ふえぇぇぇ……っ!!」


 レミィの腕の中でわんわん泣くキャロ。

 こうして、私の至福はレミィに奪われた。


「ぐ、ぐぬぬぬ……」

「……。」


 後ろから近づこうとしたらレミィに睨まれた。


 あいつめ、あの目はわたしの計画に気づいていやがる。

 流石レミィ、こんなところも鋭い。私の考えそうなことは全てお見通しだ。

 やはり、このキャロお嫁さん化計画の最大のネックとなるのは彼女だろう。


「見てろよ……畜生。」


 私は仕方なくキャロを諦め、転がっていた小石を蹴飛ばした。


「まあ、とにかく……キュウ、おまえ案外無事じゃん。死にかけてるってことになってるんだけど、こっちでは。」


「ん?」


 その辺をふらふらしつつ、自らが倒した男を指先でつんつんつついていたキュウがやっとこっちを向いた。

 本当に自由な奴である。


「『リベロ』にでも改名してやろうかな……」

「え、イヤだ、キュウはキュウがいい!」

「冗談。ていうか見てみよ、ほら」


 私はAA-12の《損傷度Ⅲ》の表示を見せた。


「死にかけじゃん、おまえ」

「わあ、本当だっ!大変っ!!」

「大変って……」


「バカかおまえは」と私が言おうとしたその時、突然キュウが白眼を剥いて、思い出したかのようにぶっ倒れた。


「……え」


そのままうんともすんとも言わなくなってしまった。


数秒ほどフリーズして、私はやっと理解が及んだ。


"これはヤバい"と。


「キューちゃぁぁぁぁぁんっ!?」


 悲鳴の中で、キュウはぐるぐると目を回していた。


 全く、どういう作りをしていればそうなるのかさっぱりわからん。


「れ、レミィ!キューちゃんが……わわかっ、わからんけど……えぇっ、どうしよう!?」


「落ち着いてください、嬢!!まずはエリアから出ましょう、フラッグもすぐ近くに……」


 かくして、私たち一行は気を失ったキュウを担いでクリアという形でエリアを出たのだった。





「キューちゃんふっかーつ!!」


 スナック&ガンショップ~ロマンス~


 常夜の町が誇る化け物の根城である。


「ちょっとミケゾウちゃん?今なにかシツレイなこと考えてなかったでしょうねえ?」

「……言い掛かり……マジで言い掛かり……」


 先程までの死にかけっぷりが嘘のように跳ね回っているキュウを盾取るように、私は横に身を寄せた。


「そう?ならいいのよ。」


 たった今AA-12の修理を終えたママはカウンターの向こうで続く作業に戻った。


「すごい……本当に直ってる!?」


 さて、そんな私の横では元通りに修復されたXM8を手にしたキャロが目をきらきらと輝かせていた。


「ママさんは常夜の町でも五本の指に入るほどの職人ですから。」


 そんなキャロの姿を見ながらレミィ。


「なんでおまえが得意気……」


「あらぁ~、嬉しいこと言ってくれるじゃないのレミィちゃ~ん!」


「あぁ……うるせ」


 ママに被せられたせいでつっこむ気が引っ込んだ。


 まあ、レミィがあんな風に褒めるのも頷ける。


 実のところSOGOの銃の手入れなんてプラモデルを弄るよりも遥かに簡単な仕様になっている。


 必要スキルさえ揃っていれば後は画面操作、後は放置だ。損傷度やスキル使用者のステータスによって必要時間やコストは変わってくるが、大抵はそれで全て片付く。

 まあ、素人相手のゲームにその点のリアリティを押し付けられても仕方ないので、文句を言うつもりはないのだが。


 だが、このママという化け物は違う。


 何処で体得したのだか、プロ並の(実際にプロを見たことは無いのでその点はあくまで表現の域なのだが)手付きで銃を分解。

 破損したパーツのみをスキルで修復、残りのパーツは自らの手で丁寧にかつ手早く手入れしながらまた組み立てを行う。


 スキルを使用するのは限られたパーツのみなので、時間も短縮できコストも抑えられる。

 故に、彼女……彼?の仕事は迅速かつ低予算、そして仕上がりも抜群だ。


 あの化け物を誉めてやるなんて正直私の曲がった根性が許さんのだが、こればかりは認めてやる他あるまい。


「さて、こんなもんかしら?」


 と、そこで本日三件目の仕事を終えたママがカウンターの向こうからのっしのっし出てきた。


「え、もう?」

「すごく早いです!」


 驚いている私たちに、ママは気色悪いウィンクで返す。


「ただの組み立てくらいお安いご用よ?サービスでいいわ。」

「本当に?いいんですか?やった、ありがとうございます!!」


 キャロは嬉しそうに跳び跳ねながら、ママが屈むような姿勢で差し出したそのアイテムを受け取った。


「それにしても、こんなに珍しいパーツを……よく揃えたわね?正直アタシも驚いちゃったわよぉ?」


「はい、頑張って探しましたから!」


 自慢気な顔でそれを受けとるキャロ。


「決め手はウチのキューちゃんだけどなー」


「キューちゃんでーす!えへんっ!」


 さて、そんな外野(私たち)など気にせず、というかもう目に入らないといった興奮。

 キャロは仕上がったそのアイテムをカウンターの上に置き、そして自らの愛銃XM8をその隣に並べた。


「やっと……やっと揃った……!!」


 念願達成もすぐそこの彼女の目には、薄く涙さえ浮かんでいる。


「悲願達成、ですね」

「キャロ、良かったね!」

「ああ、よかった。……これで念願の親子ど……んっんん。」


 カウンターの上には、全く同じ形のXM8が二つ並んでいる。


「後はこのアイテムと……」


 キャロが用意してあった必要なアイテムをそこに加えると、カウンターの上に赤い光がともった。


 この光景は私も二度見てきている。


 たぶん、キャロの目にはこういう表示が見えていることだろう。


 《 レベル上限解放 を行いますか?YES/NO》


 特殊アバターXM8 Sharpshooter(キャロ仕様)が、今ここで誕生するのだ。




た、タイトル回収が間に合わない!?

ああ、なんたる誤算……かくなる上は禁断の術に手を染めるしか……。


まさかの《朔太郎》5決定。


それでは、感想や評価などお待ちしております!

お付き合いありがとうございます!そして次回もお楽しみに!

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