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《キャロ》

 某日、ver5.0.0配信から三ヶ月と少し。

 更に正確に言えば、あのお化けヘリコプターを叩き落とした14時間後の話だ。


 暗く曇った空は、未だ雨粒が降ってこないのが不思議なくらいの不機嫌面を晒している。

 アクセサリやジャンク品を並べていた露店はその気配を感じてか何時もより早く店を閉め始め、行き交うボディアーマーの男たちも空模様を窺いながら心持ち早足になっている。


 いや、そんなことはどうでもいい。

 私の関心、心配はそんな常夜の町を行くツンと逸らしたむくれ顔に向いていた。


「あのさあレミィ、そろそろこっち向いてくれないかな?……ほら、ドーナツ奢るから、ね?」

「いりません。」


 やはりそっぽを向いたレミィ。

 数えるのも面倒なほど繰り返してきたやり取りに、私は深いため息をついた。

 失敗に終わってしまった仕入れから一晩明かして本日。特殊エリアを出た無制限空間で落ち合って以来、レミィはずっとこんな調子だ。


「ああ、じゃああれだ。今度どこか美味しいもの食べに行こ……」

「嬢!」

「は、はいっ」


 雨雲より先にレミィが雷を落とした。


 びくんと背筋を伸ばした私に、レミィは本日三回目の説教を始める。


「そんな話ではありませんと言った筈です!貴女は何を考えているんですか!

 トラップの発動までは許すとしましょう、不用心にも貴女を行かせてしまった私にも責任があります。

 ですが、ディストラクターに襲われて逆上し、あろうことかベルゼブブに挑むなんて!」

「うぅ……」


 レミィよ。あの自爆団子やお化けヘリコプターなんかよりも今のおまえの方が百倍怖いぞ、気付け。

 呻く私に、レミィは尚も重ねる。


「アイテムロストだけで済んだのが奇跡です!単独でボスに挑むなんて、命知らずにも程があります!

 私はいつも言っている筈です、嬢。貴女はもっと自分を大切にしてください!」


 その言葉に、私は目を伏せる。


『自分を大切に』


 確か随分前にも似たようなことを言っていた気がする。

 私はため息をつくと、肩を竦めながらうなずいて見せた。


「わかったよ。……もうちょっとやりようはあった。今度からあんなことしませんー。」

「やりようはあったって……」

「あーあー、もういいよ。言われなくたって、もうあんなのと喧嘩なんてごめんだってば。

 もうヘリとは喧嘩しない。」

「はあ……」


 ため息がレミィに伝染。

 軽くこめかみに手を当てたレミィが独り言のように溢す。


「やはり貴女はそういう人……迂闊だったのは私のようです。」

「ごめんってば。はいはい、もうこの話やめようって」


 手を叩いて話を終わらせてる頃、やっと例のやらしいネオン看板が見えてきた。


 私としてはもうそれだけで憂鬱になる。

 帰りたい。


「あぁ……」


 扉の前で一旦立ち止まった私の背中をレミィが急かす。


「そんな顔をしないでください。私たちはこれから謝罪に行くんですよ?」

「"謝罪"ね、はいはい」


 何となくだが、ここにくる度に同じことを繰り返している気がする。

 またため息をついて、仕方なくノブを捻った。


 私が扉を潜ると、頭上で鈴がちりんちりんと言った。

 そして何時ものごとく野太い声。


「あら~、ミケゾウちゃんじゃない?仕入れはうまくいったかしら?」


 ああくそ。

 市街地のボスがベルゼブブならこの町のボスはギガンテスだ。

 カウンターの向こうでママがグラスを磨いていた。


 私はカウンターまで重い足を引きずると、レミィが何とか持ち帰ってくれた空のリュックをカウンターに置いた。


「どうしたのよ、空っぽじゃない?何かあったの?」

「何もくそも、途中でベルゼブブとエンカウント。で、これ。」

「ベルゼブブですって!?」


 空のリュックから目を上げたママが悲鳴じみた声を発した。

 申し訳ないが"うるさい"の文句しかでないので、なるべく黙っていて欲しいものなのだが。

 まあ彼……彼女……?に限って私の望み通りに動いてくれるなんてことは無かろう。


 耳の穴に小指を突っ込んだ私に、ママはどすどすとカウンターを越えてきた。


「大丈夫なのっ!?ベルゼブブって、あの航空機型のボスエネミーよね!?」


「そ、それ以外にいない……うわ近い近い近い、レミィっ!」


 悲鳴を上げた私に、レミィは聞こえないふりをしてそっぽを向いた。

 こいつめ、私の嫌がるところを的確に突いてきやがる。


「き……きちんと叩き落として来たってば、リュック吹っ飛ばされたけど……!」


「叩き落としたって……ちょっとミケゾウちゃん、アナタ何したの!?危ないことはしてないでしょうね、このママが黙ってないわよ!?」


「だから倒したって……ああ、触んな!触んな!」


 私が腕を振り回して逃げ出すと、やっと荒ぶるギガンテスもおとなしくなった。

 私はその間合いを隔てる盾のように置いたレミィのジャケットを引っ張りまくる。


「レミィごめんって!謝るからもうこれ以上私をあの化け物に近づけないでくれ!」

「貴女が今後、二度と危険な真似はしないと誓えるのなら。」

「う……ぐぬぬ……」


 たぶんここで頷いたら、レミィは今後一生説教のネタに困らんだろう。

 それは非常に困る。


「はあ……」


 お互いにため息ばかりのやり取りである。

 唸ってばかりの私に諦めたのか、仕方なくと言った様子でレミィが前に出た。


「リュックサック三つの内、ひとつは紛失、ひとつは自爆系エネミーの攻撃によりロスト。残りのリュックに積めたアイテムも、撤退により持ち帰れませんでした。

 申し訳ありません、ママさん。」


 丁寧に頭をさげるレミィに、ママは気の毒そうな顔で手を振る。


「良いのよぉ~、アタシの方こそ悪かったわ。まさか、あんな強敵が出るって知ってたなら行かせたりしなかったわよ?こっちこそ謝らなきゃね。」


「なら酒の一杯でも出して……」

「嬢!」

「……何も言ってませんって……」


 レミィの雷に肩を竦める私。


「でも困ったわね……」


 ママは顎に手をやると、何を考えているのか難しそうな顔で唸り始めた。


「アルトくんにも別のお仕事頼んでるし、キザキくんにもこの前頼んだばかりだわ……」


 どうやら私たちの失敗がえらく響いているらしい。

 確かに、店を見回して見れば前よりも品揃えが悪くなっているように見えなくもない。


 暫く考え込んでいたママだったが、どうにか区切りを付けるとレミィに申し訳なさそうに頭を下げた。


「今日の所はこれまでってことでいいかしら?さすがに続けて仕入れに出てもらうのも悪いわ。」

「ママさん、忙しいのでは?」

「そうね……確かに。新しく参戦してきたプレイヤーからの注文が多いんだけど……でも、イベントも昨日で終わっちゃったし、また今度頼むことにするわ?そのリュックはアナタたちにあげる。ちょっと足りないけど、手間賃だと思ってちょうだい。」


 ほう。

 見た目や振舞いこそ化け物のそれだが、これまた器のできた人間である。

 その人の良さにはただただ脱帽だ。

 私はそんなことを思いつつレミィの後ろで爪を弄っている。


「ですが……」


 何かを言いかけたレミィだったが、それだけを言ったきり黙ってしまった。

 どうしようもなく口を閉じると、渋々リュックを取った。


 たが、一歩下がるとまた深々と頭を下げる。


「次回こそ、きちんとお役に立てるよう努力します。」

「あら、そんなに気を張らなくてもいいのよ?」

「いいえ、失礼します。」


 空のリュックを手にしたレミィが店を後にしようと扉に向かう。

 だが、その場で爪を弄ったまま動かない私に気が付いたのか、扉の直前で振り向いた。


「嬢?」

「うん?」

「いいえ、今日はもう……」

「おう。やい、オカ……んっんん……ママ。」


 私は削れた爪のカスを吹き、カウンター越しの大男に手を上げる。


「あら……?」


 私の方から声をかけるというケースはかなり希だ。

 それに少し驚いた顔をしたママだったが、すぐに磨こうと手にしていたグラスを置いた。


「なにかしらミケゾウちゃん?」

「あの……あれだ、リュックってあれだけ?在庫無いの?」


 初めは外人観光客に道を聞かれたみたいな顔をしていたママだったが、やっと日本語だと気付いたらしく頷く。


「……あ、ええ、まだあるわ。」

「おう、それよこせ。ふたつ。」


「じょ、嬢!」


 慌ててレミィが止めに入る。


「ん?」

「嬢!私たちは失敗したんですよ?それなのに貴女はまだ何かを集る気ですか?」

「集るって……レミィ、おまえ本当に私のこと信頼してないな……」


 とりあえずと言った様子でリュックサック二つを出してきたママからそれをふんだくると、「今度こそ無くすなよ?」と念を押しながらキュウにひとつ背負わせる。

「わ、今度は青だよ!キュウこれ好き!」と喜んでいたので、たぶん大丈夫だろう。


 キュウにしっかり「うん!」と頷かせると、私はカウンターに肘を着いた。

 ……身長が足りなくて椅子に飛び乗ったことに関しては仕方ないとしてくれ。


「三日以内にAR(アサルトライフル)SMG(サブマシンガン)合計20丁、これで問題ないよな。」

「え?」

「20丁だって」


 やはりポカンとしているギガンテスに、私は頭を振って椅子を飛び降りた。

 戸惑うレミィの横を抜けて、私は店の扉に手をかける。


「嬢……!?待ってください!」

「うるさいうるさーい。私今忙しい。」


 扉の鈴がちりんちりんと言ったところで、やっとレミィが私の後ろに追い付いてきた。

 さっさと店を離れて行く私に、レミィは何度もまばたきしながら聞いてくる。


「どういうことですか?20丁?」

「いや、三日あれば問題なく集まると思うけど?」

「そういう問題ではなく……まさか貴女が自分から進んで……」

「勘違いはするなよレミィ。」


 続く言葉を遮り、私はレミィに人差し指を突きつける。


「これは私の持論だけど、貸し借りの話は『ナマモノ』なわけ。

 長らく放っとくと腐って大変なことになる。どんなにちっちゃい話だろうと、処分はなるべく早い内に済ませないと。」


 私は空のリュックを背負うと、さっさと町の外に向かい始めた。

 そんな私に、何故か不安そうな顔のレミィと、やっぱり何も理解していないらしいキュウが続く。


 肩を解そうと歩調がゆるんだ私にレミィが並ぶ。


「話は分かりました……ですが、行き先は?」

「適当。賑わってそうな場所に潜って、取れるだけ取る。」


 手段としてはオーソドックスだ。

 いい漁場には人が集まる。ちょうど鳥の群れで鰯の群れを見つける具合だ。

 だがレミィは私の提案に渋い顔をする。


「……確かに間違ってはいませんが……それを宛にすると他のプレイヤーとのエンカウント率が高まります。あまり嬢に向いているとは……」

「なに、不安?」

「……。」


 何故か呆れるたように黙るレミィ。


「分かりました。ただし、他のプレイヤーとの衝突は極力回避してください。貴女が戦闘区域内で喧嘩を起こせば、間違いなく死人が出ます。」


 予想はしていたがやはり口うるさい。

 私は「はいはい」と空返事を繰り返しながら欠伸をした。


「私と喧嘩して死ぬんだったら、悪いのはたぶん死んだ方だよ。」

「全く……。」


 レミィの小言を無視して、私は視界ウィンドウにリアルタイムのエリア情報を表示させる。


「……ああ、ダメだ。やっぱこの辺はイベント終わったばっかでがらんどう。」


 だとすれば、二つ三つほど町を経由してもう少し遠くのエリアに向かうことになる。


「……めんどい」

「言い出しっぺは貴女でしょう。」

「わかってる。わかってるけどさ」


 だからといってやる気の出る出ないは別問題だろう。


「……まずは、旧都市部北西の近くの特殊エリア……そこまでいく。町二つ経由するから。」

「了解です。」


「ん?」


 最後まで話を聞いていなかったキュウがやっと反応した。


「またお仕事?どこいくの?」


 ああ、また道すがら面倒なことになりそうだ。




 ポータル二つを通った隣の隣の町。

 そこから出た私たちは、目的地の旧都市部北西を目指していた。

 この辺りの無制限空間は廃市街地タイプ。

 廃棄されて長いコンクリートの町並みが、残骸だけを残して広がっている。

 平原よりは景色に飽きないし、今回は人気エリア周辺とあって他のプレイヤーとの遭遇率も高い。


 行く足帰る足それぞれだが、みんな揃いも揃って私たちに好奇の視線を向けていくのは変わらない。


「ったく……見世物じゃないっての、金取るぞ」

「仕方がありません。女性プレイヤーはここでは希ですし、特殊アバターを二人も従えるとあれば尚更です。」


 機嫌悪く爪を噛む私をレミィが諭す。


 ちなみに、今の私の格好は以前の仕入れの時のようにラフなものではない。

 あの格好は一人でブラブラする時用であって、今回のように中の人ありのプレイヤーと殴り合う可能性が出ればこっちも勝負着を用意しなければならない。


 デザート柄のカーゴパンツ、上はグレーのパーカーで変わらないが肘膝のプロテクターとプレート無しのタクティカルベストをガッチリ着ている。

 胸元に回復アイテムの注射器ケース、左腰の辺りに装弾入りのポーチ、その横にAA-12用のOOB散弾のドラムマガジンやらグレネードやらが吊るされていて、両胸の下辺りにはマジックテープでナックルダスターが止められている。


 背中から突き出して見える棒みたいなのは、この前露店で手に入れたスコップの柄を30センチ大に詰めて、エッジ部分を研ぎに研いだ特製殺人シャベルだ。

 素振りやイメトレ(要は一人遊び)程度ならしたが、まだ実戦で使ったことはないので結構ワクワクしている。


「それにしてもな……人多すぎない?」


 エリアの入り口、濃い霧の壁が迫るが辺りはとうとう人混みだ。

 平日のディズニ〇ランドくらいはあるだろうか。

 本場に行ったことがないのでどうとも言えないが。


 更にイライラし始める私にレミィが一言つっこむ。


「貴女が人の多い場所を選んだからです。」


 それもそうか、なら諦める他ない。

 少し落ち着かないが、まあマップ入りしてしまえばそれきりだ。それまで我慢しよう。


 そんなことを考えつつ人混みを避けようと道の端によった時だった。



「ー、ーーーーーー!」

「ーー、ーーー?」

「ーーっ、ーーー。」

「ーーー!」


「あ?」


 周りのガヤつきの中に争うような声が混じる。

 男の声複数と……


「ーーーっ!」


「お……?」


 この声は、女か?

 聞き耳を立てようと立ち止まった私に、きょろきょろしていたキュウが振り向いた。


「ミケ、なにかあったの?」


この雑踏の中、レミィは私たちが離れたことに気づかなかったのか先に行ってしまった。


「いや……女子がいる。女子。」


 今さら私が言うことでもないが、ここでは女性プレイヤーは貴重なのだ。

 声が聞こえてきたらそりゃ気になるものである。


 どうやら何かを言い合っているらしいが、内容までは聞き取れない。

 だが、この構図は十中八九あれだろう。


「あれだ、ハイエースものだ」


 これで野次馬心を擽られない私ではない。

 生の××現場なんて、見ようと思って見られるモノではないのだ。


 私は期待に胸を踊らせながら声のする方角を探す。


「キューちゃん、私ちょっくら混じってくる」

「ん?」


 やはり首を傾げたので、私は手を振って先を急いだ。


「レミィにちょっと待ってろって言っといて!」


「わかった!」と聞こえた気がしたので、私は声の出所を探して足を早めた。


「ら、乱暴しないでください……!」

「乱暴って、そんなことないだろ?ただちょ~っとだけお礼くれてもいんじゃない?な、友人?」

「そうそう、さっき助けてやったじゃん?まさか忘れたとかないだろ。」


「おほっ……」


 思わず変な声が出た。


 雑踏ノイズから離れ、声の主たちに近づくにつれてやり取りも鮮明になる。

 なるほど、ちょうどいい具合に盛り上がっているようだ。これは見逃せない、急がなくては。


 聞き耳を立てながら壁づたいに歩くと、現場目前と思われる曲がり角にへばりついてそっと顔を覗かせる。


「……やってるやってる……」


 そこそこな装備に身を固めた男ら二人の被害に遭っているのは一人の少女だ。

身長は私より少し低いくらいで、グレーの戦闘服を着ている。


「おぉ、かわいい……」


 私のそれよりも明るい色の髪を左右に大きなリボンでふんわりまとめてある。長いまつげと不安げに動く大きな瞳はまるで小動物のようだ。

 立派な図体の男ばかりのここでは、まるでおもちゃの人形に見えてしまう小さな体。地から出る幼さのせいか、輪郭というか取り巻く雰囲気全体が丸っこく見える。私が察するに、中学生かそのあたりか。

 厚ぼったい戦闘服を着込んでいるが、その下は妄想するに易い。あと数年も待てば世の男子どもを狂わせるような、否、この段階でもマニア卒倒間違い無しのポテンシャルを秘めた発展途上ボディである。


 ……なるほど、運営め。おまえたちの趣味が見えてきたぞ。


 その胸に抱くようにしているのは、某国軍の次期主力とも囁かれた軽量アサルトライフル、XM8。私の記憶する形より少々長く見えるは、あのミニマムアバターが抱えているせいだろうか。

 玩具みたいなちゃっちい見た目の割りには動作面では優秀だと聞くが、あんなアバターが持ったらやっぱり玩具にしか見えない。


「ねえ、ちょっとぐらいいいじゃん?」

「や、やめてください!」


 腕を取られた少女が泣きそうな顔で腕を払う。

 ずりずりと後退りながら、抱えた銃を男たちに向ける。


「こ、これ以上近づいたら……撃ちます!」


「おいおい、今の聞いた友人くん?この子俺たちのこと撃つってさ?」

「うわっ、こえ~!おひざガクブル~!」


「でしょうねー……。」


 私は物陰からその様子を眺めながら呟いた。

 たぶんあの子は撃てない。

 今にも涙を溢しそうな目がそう言っている。


 もうこの世界は三ヶ月前とは違う。

 戦闘区域内で弾を食らえば、きちんと死ぬ。

 その事実がある以上、そう簡単に引き金が引けるとは思えない。


「ほら、そんな危ないオモチャはぽいしましょうね~」

「ひゃっ!」


 そうこうしている内に、少女の手から銃が呆気なく取り上げられてしまった。


 見た目通り腕力には乏しいのか。

 他に目ぼしい装備はマグポーチと拳銃(サイドアーム)のホルスターのみ。防具も腕や膝を防護する強化プラスチックのプロテクターのみで、胴体を弾から守るプレートキャリアは装備していない。

 ……まあ弾除けはサイズ的にも必要無いのだろう。


 しゃくりあげながら壁に背中を押し付ける少女に、いやらしい笑みを浮かべた男二人がじわりじわりと近付いていく。


「大丈夫大丈夫、俺たちがきちんと遊んであげるからさ」

「あんなオモチャなくても、楽しいことはいっぱいあるって教えてやるよ」


「お……やっとか。」


 飲み物でも用意するんだった。

 もはや顔どころか体の半分は覗かせながら、私は唾を飲み込んだ。


「うへへ……」


 気色の悪いよだれ混じりの笑い声が漏れる。

 私の声なのだが。

 スマホが無いのが残念だ。あったら容量を総動員させてでも録画してやったというのに。


 だが、私はその直後にある誤算に気づく。


「え?」



ご意見ご感想、気軽にどうぞ。

次回もお付き合いください。

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