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序~若干少女、青春トラウマ劇場~

このジャンルに手を出すのは初になります。

至らない所もありますが、アドバイスや感想、評価などを下さるとありがたいです。


ver5.0.0、お付き合いください。

 図書委員になったのは、別に本が好きだったからという訳でもなければ、図書室が好きだったからという訳でもない。


 だから下校時刻を回ってまで本棚の整理だなんて、苦痛でしかないのだ。


 九月も末に差し掛かったのに、胸元にじんわりかいた汗が不快極まりない。

 今年は去年よりも妙に暑い。

 エルニーニョ現象がどうとかと、今朝のテレビが言っていた気がするのだが。

 なるほど、久々に気象予報士の仕事っぷりを垣間見た。


 私は埃っぽい本棚に返却図書を捩じ込み、目を細める。


 夕方の日差しが窓からほぼ真横から飛んできて、非常に目によろしくない。

 私はその鬱陶しい夕日を睨もうとして、しかしその眩しさに勝てるわけもなく舌打ちするのだった。


 苛立ちに任せてブラインドを下ろしたら、途中で紐が絡んで降りてこなくなった。


 傾いたまま宙ぶらりんになったブラインドが『それみたことか』と嘲笑わんばかりに揺れている。これは椅子の上によじ登らないと機嫌を直してくれないタイプの絡み方だ。


 ええい、鬱陶しい。放置だ。


 私は大人しく作業に戻る。


 一人の図書室は静寂にして陰鬱、湿気のある暑さが私の神経をすり減らす。


 人間の大して長くない一生において、恐らく最もはっちゃけるべきであろう『高校二年生』という期間を、私は今日もこの陰鬱に費やしていく。


 そうだ。

 私はいつも一人だ。

 陰気で卑屈なひねくれ者で、そのわりには嫌にかさばるプライドがこの薄い胸にどっかりと居座っている。

 陰気なら陰気なりに陰気な連中と陰気な会話で盛り上がってもいいのだが、趣味がゲームぐらいしかない私にそんな器用な真似などできず。

 かといって教室の隅で固まって某アプリゲーなんかの話に興じている男子どもの輪に入れるほどの熱意もなく、というかプライドと羞恥心がそれを許せず。


 故に、中学から毎朝一言二言交わす程度の仲の一人以外に、友人という友人は持たない。


 せめて、誰か一人でも横にいてくれれば気も楽になるのだが。


 いったいぜんたい誰が借りるんだか、表紙が随分傷んだ夏目漱石の『こころ』を片付けながら私はぼんやりと思う。


 いや、この場合の一人というのは本当に限りなく一人なのだろう。一人というか個人だ。


 私は口のなかで彼の名前を転がす。


 ああ、畜生。

 一年上の先輩に好意を抱くとは、遂にこの私も焼きが回ってきたようだ。


 私もとうとう、色恋の風に当てられた『乙女』の仲間入りである。楽園追放もすぐそこだ。


 幼少より同性異性問わず接触を絶ち、孤高のぼっちゲーマーを貫いてきたこの私をここまで落ちぶれさせるとは、青春ってこわい。


 皆まで言うまい、諸君の察する通りである。私は男目当てにこの図書委員の枠を取った。

 出来ることなら持てる時間すべてを自室に置いてあるゲーム機に注いでいたい私が、自ら手を上げてだ。


 正直、名簿に私の名前が書き込まれるのを見たその時は、何かに憑かれていたのではないかと疑ったくらいだ。


 恐らく、こうでもしないとこの地味で根暗で友人も一人の他いない私が、誰にでも優しく、穏やかで、なんというか知的オーラに満ちた彼の先輩に近づける訳がないと、第六感が感じ取ったのだろう。


 ああ、笑える。

 というか実際鼻で笑った。

 今一人でよかった。誰かに見られようものなら、元より大したことのない私の評判は完全に奈落の底だった。


 そう、一人だ。今隣にいるはずなのはあの人なのに。

 この日は私とあの人が当番の日だったはずだ。


 だが見ろ。

 私は、やはり一人なのだ。


 理由は簡単。

 あの人に頼まれたのだ。


「今日は忙しいから頼む」と。


 普段の私なら「すんません」の発言のみで一蹴する所だが、相手があれだとそうもいかない。

 下げられた頭になすすべもなく、気がつけば了承していた。




 まあ、今思い起こせばこの瞬間が一番幸せだったのかもしれない。

 私は近づいていたんだ。

 もはや単なる妄想に過ぎないのかもしれないが、私は確かにあのとき最も彼に接近していた。


 そして、その日の午後五時半頃まではずっとその気でいたのだ。


 今となっては悲しいかな過去形なのだが。



 ここからはあまり気持ちのいい記憶じゃないので、なるべく生傷には触らないように語ろう。

 かなり遠回しな語り口になるが、その点はどうか各々の想像力でどうにか補完していただきたい。


 自宅への帰りに通る某ファストフード店から出てきた制服の男女と正面からぶつかりそうになる私。

 何だ、この見てて腹が立つようなバカップルもどきは。と思いつつ目線を上げると。



 ああ、畜生。


 思い出すんじゃなかった。


 見覚えのある顔ふたつが都合悪そうにしている。


 中学からの一人しかいない友達と、でもって今や名前を思い出すだけでも死にたくなるあの人。


 忙しいはずのあの人。


 その時、憑き物と一緒に色々と抜け落ちた。

 なんだか落としてはいけないような気のするものまでも、きれいさっぱりに消えてなくなってしまった。


 すれ違い様に掛けられた言葉だけが、たまに風が吹くみたいに帰ってくる。


「その、ごめんな」



 話せるような内容と言えばこんなもんだ。

 青春ってこわい。この一言に尽きる。


 さて、以上をもちまして私のトラウマ劇場は無事閉幕である。


 いい加減生傷を舐めるのにも飽きた。

 自分の傷ほど不味い傷はあるまい。

 変に塞がって、化膿してしまえばなおのことである。


 そろそろおまちかねの本編に入る準備をしよう。

 ちなみにこの話は忘れてくれて差し支えない。

 私と言う只でさえ見映えの悪い生物が、更に見映え悪くひねくれてしまって、部屋から一歩も出なくなった経緯を話したまでなのだから。



 では、括りもなにもないが、次回よりお付き合いいただこう。



 話は一気に一年ほど飛ぶので、その点は注意されたし。



次回から遂に本番です。

お付き合いありがとうございました。

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