終末へのカウントダウン
◇◇◇◇◇
パーティも無事に終わって、シンラは家に帰っていた。
そして聞こえた。
《もしもしシンラさん》
と、その言葉はどこか、元気がなさそうに思えたのは、果たして気の所為なのだろうか?
「ラファエナか。あ、邪神っていうのを倒したぞ」
《あ、知ってますよ。見てましたから》
プライバシーとは何なのか。
そうだ、ここは異世界なのだ。
《私が伝えたいのは、シンラさんが中級の邪神を倒してしまったことにより、大幅に神に近づいたという事です。
体に少し異変はないですか?》
「異変……確かに力がみなぎるというか……でもちょっと待ってくれラファエナ。神に近づいたって、それ……」
《気をつけてくださいねシンラさん。シンラさんほどの存在が神になってしまうと、もうその世界には干渉できないのかもしれないんですから》
頭にガツンと衝撃がきた。そんな錯覚に陥るほど、キツイ言葉だ。
「っ……そう、だな。確かそういうシステムだったな……
なあラファエナ。1つ考えついたんだが、ファナを神にすることは出来ないのか? つまり〈神様プロジェクト〉に選ばれてない人間って事だけど」
《この前言ってませんでしたっけ? 無理です。
〈神様プロジェクト〉に選ばれてない生き物が、神になる資格のない生き物が……ぜ、絶対に神になる事は、ありません! ありません、ありえません……そんな事……そんな事……!!》
「お、おいラファエナ!?」
《神に……なるっ……いや、だ……めっ……》
プツリと……
ーーー……何も……聞こえなくなった?
ラファエナがいつもいる白い空間も、転移で行けなくなっていた。
他にあてがない。
シンラはただ、呆然と立ち尽くすしかなかった。
◇◇◇◇◇
結局どうも出来ないまま、シンラはマイホームに帰ってきた。
直ぐにいつも通りになると信じて
ーー信じきれなくてーー
パーティでたくさん昼ごはんを食べてきたからお腹も空いてないのに
ーーそんな気分じゃないのにーー
夕飯の時間となった。
「………」
いつも楽しいはずの時間が、どこかシンラには苦しく思えた。
そんないつもと違う様子を、周りが気づかないはずもない。
「あの、お兄様、どうかしたのですか?」
「……え?」
「怖い顔をしていますよ」
「あ、ああ……いや何でも……」
「何でもない筈はない筈です。
お兄様のそんな顔、初めて見ましたよ」
妹の声を聞いて、こんなにも辛かったのは生まれて初めてだった。
今はそっとしてほしいと、八つ当たりしてしまうかもと、そんな自分が嫌で……
「……まあ、何かはあった」
「何かとは?」
「……それは」
頭に思い浮かべるさっきの出来事。
『ファナを神にすることは出来ないのか? つまり〈神様プロジェクト〉に選ばれてない人間って事だけど』
『この前言ってませんでしたっけ? 無理です』
聞こえないラファエナの声に、叱られた気がした。
「……いや、やっぱり何でもない」
「お兄様!」
「なんでもっ……本当に何でもないんだ。ーーご馳走様、美味しかった」
シンラは逃げるように席を立ち、隠れるように部屋に入った。
みんなの声がしたのに、妹の声がしたのに、それすらも無視して……シンラは、ただ眠った。
◇◇◇◇◇
「ーーん……ここは……っ」
慌てて起き上がり、周りを見渡すと、そこは真っ白な空間だったーー辺り一面。
いつもと違うのは、後ろに気配がしたこと。つまり……
「ラファエナじゃないのか……」
「そこまで残念そうにされると、こちらも少々良い気分ではないですね」
「……悪い。えっと、神様……だよな?」
目の前にいる人物は、1度もシンラと顔を合わせようとしていない。
「はい、私は唯の上級神です」
ーーー上級神の時点で、唯って事はないよな?
「上級神か。なら、ラファエナが今どうなっているのか知ってるのか?」
唯の上級神の横顔が、悲しいものに変わっていく。
「その事なのですが、単刀直入に言いますと、今さっき貴方の世界にさらわれました」
「俺の世界にいる……って、さらわれた?」
「これは私達の落ち度です。
まさか意識のないラファエナを人質にとって、グランウェールに逃げ込むとは」
「あ、いやちょっと待て、最初から説明してくれないと分からない!」
貴方の世界にいる。
さらわれた。
人質。
一体どれから驚けばいいのか。
「ーーそうですね。まずはラファエナの事から話しましょう。
ラファエナは本来、〈神様プロジェクト〉に選ばれていない人間なのです」
「選ばれてない? だったら……ああ、創造神カムラか」
「え、そのひらめき怖いです」
「冗談言ってないで、それより、合ってるかどうかは分からないが俺の考えを話すぞ。
まず、元人間であり最上級神で創造神のカムラ、それと下級神のラファエナは兄妹。
そして、何故かは知らないが創造神カムラは死んで魂が輪廻転生の輪に組み込まれ、その魂はーー俺」
「……全部、合ってます。
大体分かっているらしいので、あまり時間がない事もあり手短に話しますね。
過去の記憶が貴方の言葉により蘇りつつあるラファエナは、そのまま気絶してしまいました。
そこで……うかつにもラファエナを、完全に上級の邪神となったアウスという奴に人質にとられて、そのままグランウェールへと逃げ込まれました。
このままではラファエナが危険です。
邪神の側にいると、邪な気にあてられてラファエナが邪神となってしまう可能性があります」
「だったら今すぐにでも……」
「今のあなたでは、アウスに勝てませんよ?」
「……それでも、行かなきゃならない。
ラファエナが邪神に? そんなのダメだろう。絶対に嫌だ。
それに、ここがっ」
シンラは胸を抑える。
「魂が、叫んでるんだ。死んだはずのカムラが、訴えかけるんだ。
ラファエナは俺の妹だとっ」
「そう、ですか……分かりました。
ラファエナの事をよろしくお願いします。あの子の傷を癒せるのは、貴方しかいません。
それとーーゴメンなさい。私のせいで……貴方がたに迷惑をかけてしまいました」
◇◇◇◇◇
シンラの意識は戻った。
周りを見渡しても、そこは見違えるはずのない自分の部屋。
「っ……」
確かに、分かる。
格の違いというか、そこまでの存在の気配が遠くでした。
中級神とは比べものにらないくらい……これが、上級神。
「だけど……行くんだ」
創造魔法は使えなかった。
多分、使えなくさせられてるんだ。相手は上級神。やっぱ滅茶苦茶。
そう思いながらも、俺は窓から外に出ようとして……
ドガンッッ!
と、後ろの扉が開い…壊れた。それはもう木っ端微塵に。
煙が晴れた向こうには、マイホーム内にいる全員の姿がいる。
「私達が何度も、何度も何度も何度も何度も呼んだというのに、それに応えないと思ったら、一体何処へ行こうとしているのですかお兄様?」
周りには、氷の杭が浮かんでいる。もちろん電気を帯びているらしく、バチバチ音を鳴らしながら。
ーーーあれ、反抗期かなぁ……
「落ちつけファナ。俺は月を見ようとしていたんだぞ?」
「嘘」
周りの気温が一気に冷える。
みんなや、それにレティスが震えているのを見て、シンラは焦った。
「分かった! 分かった!
ーーー……ふぅ………ファナは俺の事を全ては知らないって、昔言ってたよな?
それは、俺も同じなんだ。
自分が何者なのかを完全には理解していない。
だから今、それを知るためにも俺は行かなきゃならない所がある。倒さなきゃならない敵がいる」
「……帰ってきますよね?」
『今の貴方では、アウスに勝てませんよ?』
「帰ってくるさ。当たり前だろ?」
そこからはよく覚えていない。
気づいたらシンラは空を飛んでいて、一直線に邪神のもとへ向かっていた。ラファエナの所に向かっていた。
◇◇◇◇◇オマケ
運命神ポリュンス。
最上級神に一番近いと謳われている上級神。
ただ、その力はあまりにも強大で、ポリュンス自身も制御出来ない。
ポリュンスが何かを見るだけで、見られた対象は否応なく壮大な運命を歩むこととなる。
にも関わらず、好奇心旺盛な性格が災いして、誰かを見る事をやめられない。
最近では、地球人である「中村」を見たとかなんとか。