最後の……最後の大会……
◇◇◇◇◇
《いよいよ最後の競技です!》
《そうね……第三競技、すごく考えたわ。
シェリーちゃんのマネマネは大変だし、簡単すぎるとシンラ君が優勝するのが目に見えて面白くないし、だからといって不公平はダメでしょ?
そして、考えて考えて、考えて考えて考え抜いた結果! 第三競技は名付けて“わたしを楽しませよう” に決定!》
《なんだか最後までグダグダになりそうな予感が……》
《いいのいいの。これが終わればラストスパート突入だから。
ーーそれじゃあ早速始めましょう。エントリーナンバー1番、レティスちゃん&キューちゃん!》
もくもくと湧き出る不思議な煙が突如現れる。それが晴れて徐々に姿を現したのは……
「……どうも、どうも」
「キューキュー」
《きゃー可愛い! ポイント+100!》
《可愛いだけでポイントがもらえるのは不公平じゃ……それと加算式なんですか》
《上限なしのね。
それじゃあレティスちゃん。何か面白い話でもしてちょうだい?》
……普通、王族を楽しませる話をできる人間がどれだけいようか? 散々生まれながらの地位が原因で、面白い話、醜い話、悲しい話、楽しい話、沢山の人間から聞いたであろう王族に。
そう、普通はいない。
だけど、そんな必要はないのだ。 世界の真理はただ一つ。可愛いはーー正義!
「……この前、キューと一緒に、稽古をしていたら」
《していたら?》
「……おちた。キューの作った落とし穴に、おちた」
(想像……妄想中)
《可愛いわね。+200点》
《可愛ければ何でもいいんですね……》
「……目の前に、チョコ3つ」
《うんうん》
「……右手に1個。左手に1個。最後の1個、どうすればいいか分かんなくて、ずっと悩んでた」
(想像…妄想中)
《なんておバカで可愛いのかしら。+500点》
「……いつの間にか、手に持っていたチョコが……溶けていた」
(妄想中)
《もう+1000点!》
《ーーご、合計1800点……いきなりこんな点数で大丈夫なんでしょうか?
本当におバカなのは、もしかしたらペルセフォネ王女なのかもしれません……》
どうやら、真理を知らない人間がいるようだ。
◇◇◇◇◇
《セレナちゃん&ヒトラン君!
さあ、私を楽しませてちょうだい! 》
この競技内容はさっき知られた。
つまり、王女を楽しませる話をすぐに作れという無理難題。
そうそう思いつくものではなかった。
「お、面白い話…面白い話……」
「ガルルッ……」
お手上げ状態だ。
《うんうん、何でもいいのよ何でも。
そうね……最近の出来事なんて面白そうだわ》
「最近の出来事……この前シンラの食べかけのアイス……って違う違う! 私ったら一体何を!
最近の、最近の……あれはついこの間。シンラがヒトランの尻尾を踏んで、驚いたヒトランが辺り一面焼け野原にしちゃったんだけど、その時火が私の服に燃え移って、服が焼けたのをシンラに見られて……って違う違う! 私ったら一体何を!
最近の、そうよ最近の出来事……先週の土曜日。シンラが作ってくれた料理はとても美味しくて、もしも夫婦になれたとしても……って違う違う! 違う違う!」
顔を真っ赤にするセレナ。元々顔の赤いヒトラン。
最早、魔物競技大会とは何だったのか?
そんな今更な疑問が頭をよぎるものの、これが王女は気に入ったらしい。
《面白…いえ微笑ましかったわ。高ポイント確実ね》
◇◇◇◇◇
《次はヤミガミ&ステラ選手です!》
もくもくと湧き出る不思議な煙が突如現れる。それが晴れて徐々に姿を現したのは……
「あわわ、影! 影! 少し抑えてよぉ〜!」
ヤミガミから漏れ出す闇を必死で抑えようとするステラが現れた。
《さっきまでこの競技に不安を覚えていた私ですが、ステラ選手の話は気になって気になって仕方ありません。
色々な意味で期待ができそうです》
《そうね、ステラちゃんも可愛いものね》
《ああいえ、可愛いとかそういうのではなくーーと、まあいいです。
早速ですがステラ選手お願いします! 何か面白い話をどうぞ!》
2人の期待の視線を受けて、思わずたじろいでしまうステラは、大きく深呼吸をして気分を落ち着かせた。
「お、面白い話……えっと、面白いかどうかは分かんないですけど、最近の出来事といえば、私この間街でデートに誘われたんですよーー知らない男の人から」
《誰なのかしらそれは? 打ち首じゃ済まないみたいね》
「全くです! だってその男の人、私が嫌ですって言っても、無理やり捕まえようとしてきたんですから!」
《お願いだからその人の特徴を教えてちょうだい。死すら生温いと後悔させてあげましょう》
「あっそれは大丈夫なんですよ! 私がこの前シンラ先輩から言われたことを思い出して、相手を串刺しにした後ヤミガミの影で覆ってどこかに捨ててきちゃいましたから!」
さも当然のように、それが当たり前のようになんともない淡々とした口調。
ステラの浮かべた無邪気な笑顔は、とても魅力的だった。
《……そ、そう。まあ自己防衛ね。
念のために聞いておくけど、シンラくんになんて言われたの?》
「自分の身は自分で守れるように。殺ったら殺ったでちゃんと後始末もな……って」
《ふーん……ステラちゃん2000点》
「やったぁ!」
ヤミガミと共に喜ぶステラ。
《ペルセフォネ王女、良かったんですか? 少しポイントをあげすぎでは?》
《少し……怖かったわ》
※知らない男は死んでいません。今は猛反省しており、まっとうな人生を歩んでいる。
◇◇◇◇◇
《シンラ&スラァァアアイム! 我らが主人公です! どうぞ!》
《シンラくんカモ〜〜ン!》
もくもくと湧き出る不思議な煙が突如現れる。それが晴れて徐々に姿を現したのは……
「面白い話……か」プルン
テンションの低いシンラと、テンションが高いか低いか分からないスライムが現れた。
《シンラくんお願〜い!》
「そうですね……この前コップに入ったウォータースライムを、エドが水と勘違いして飲みそうになった事を話しましょうか?
それともフレイムスライムをエドが果物と勘違いして食べそうになった事を?
それともエドがグラトニースライムに食べられそうになったことを話しましょうか?」
《他にはないかしら?》
「他……この前レティスがライムの頬を突っついていた」
《うんうん!》
「この前レティスがスライムって言おうとして噛んだらしく、チュライムと言ってましたね」
《か、可愛い!》
「こんなのもあります。スライムをレティスがーーー」
ーーーこの後、もう1人の司会進行役が止めるまで、レティス可愛い話がしつこいほど繰り返されるのだった。
〜〜〜〜〜
《ペルセフォネ王女、少しレティス選手を甘やかしすぎでは?》
《そんな事ないわよ》
《いいえ絶対にそうです!
どうせ、優勝もレティス選手なのでしょ?》
《そうね……私考えたわ。
この大会は大好きなの。いつも王女王女とした生活は時々苦しくて、だからこんなにはっちゃけられる機会は滅多にないから、思わずはしゃいじゃった》
《ペルセフォネ王女……》
《で、思ったの。この第三競技を通して、いかに私がみんなを大好きか、一緒にいたいか、離れまくないか……そして気づいたわ。
今回はみんなが素晴らしかった!》
《ん? あの、ペルセフォネ王女?》
《だからもうみんな優勝!
はい、バンザーイ! バンザーイ!》
《やっぱりこんなグダグダになっちゃったじゃないですかぁあ!!》
◆後書き◆
次回!
「魔王訪問」
遂に始まる魔族との対決。勇者 (もどき)達は運命に抗えるのか!?
「あの方」とは誰なのか?
シンラを越える敵!?
これは、「神羅」が転生した物語である……