……ファッションショー?
◇◇◇◇◇
《次の競技は、“誰が素晴らしいでshow”です!!》
《却下》
《えぇ!?
あ、あのペルセフォネ王女。却下とは?》
《今に始まった事ではないけど、ネーミングセンスの欠片もないわ》
《では、何か良い案をお持ちで?》
《そうね……それは、“みんながみんな素晴らシーン”!》
《最初に私が言ったやつと大差ないです! 》
《だったら、“凄いのはあなたdeath”!》
《今からファッションショーをやろうと思っているんですよ!? deathなんて使っちゃいけません!!》
◇◇◇◇◇
魔物競技大会は、その直前まで何の競技があるか分からない。
それ故に面白いのだがーー
「なんだこれ?
第二競技は、“みんながみんな素晴らしいfashion show death”?
何をやるかは分かるんだが、ネーミングセンスとか以前の問題だな……」
◇◇◇◇◇
《もう競技名については諦めて、早速選手の登場です。順番はこちらが勝手に決めております。
ーーまず、エントリーナンバー1番。レティス選手!》
もくもくと湧き出る不思議な煙が突如現れる。それが晴れて徐々に姿を現したのは……
「……おいで」
「キューキュー」
《おぉ〜とても可愛いですねぇ。
どこから用意してきたのか、レティス選手だけでなく、モサリスさんも第四魔法学園の制服を着ています。
ピチッと張った制服がとてもグッドです。新しく入学してきた初心なあの頃を思い出せてくれます》
《そうね……ん?
どうしたのかしら、急にキューちゃんがモジモジしはじめたけど?》
《ーーあぁぁっあ!? 見えます! 私には見えます!
あれはそう、『いいのかなぁ、合ってるのかなぁ、このクラスで本当で間違っていないのかなぁ』という、誰かが経験しているであろう場面です!!》
《そ、そうなの……あ、じゃああれは遂に教室の扉をくぐり抜けて……》
新しい学校。
知らないクラスメイト。
いまだ姿の見えない教師。
どれもが不安でたまらない。つい昨日まで心の中でくすぶっていたこれからの学園生活への期待は、この教室へ来る前に裸足で逃げ出してしまったらしい。
姿見で確認した自分の制服姿はどこか誇らしかったのだが、今ではひどく滑稽に見えてしまう。
まるで、小さな子供が背伸びをしているかのような、そんなどうしようもない気分だ。
だがーー
「キュー……キュ!」
ーーこのままでは、何も始まらない。
よく言うではないか。
「やらない後悔よりやる後悔」
愚者は経験から学び賢者は歴史から学ぶらしいが、ならば自分は賢者のようにその言葉を重んじて、愚者のようにそれを今から試すとしよう。
このちっぽけな頭でも、自分が賢くないことくらいは知っている。何もしないで、何も起こらないのは分かっている。
だったら、この一歩を、確実に、踏み出して、始まるのだ。
新しい学園生活が!
……いつの間にか不安は元の期待で塗りつぶされ、手は当たり前のようにドアを開けていた。
「キュ、キューキュー」
失礼します、と、ここは職員室でもないのに言ってしまった。
恥ずかしさで顔が瞬時に火照るが、幸運にも中には1人の少女だけ。
その少女はこちらを見て、緊張している事に気付いたらしいが、その表情は何も変わらない。何も考えていないのか、表情に出していないだけなのか、前者はあれだが後者だと凄い。
ただ、その少女は優しかった。
すぐにこちらが何の不安を抱えているか悟り、そして、仮面のような顔の口だけが動き、喋った。
「……ここは、2組」
2組……2組……2組。
さっき自分が言われたクラスはーー2組。
「キュ、キュ〜〜〜……」
《おお、感動的です! 良かったです!
これで何の心配も消えて……はっ、まさか!?》
「キュー! キュー!」
意味もなく、喜んでしまう。
さっきまでの心配は消えて、今は体に羽が生えたようだ。
2組。
それをどれだけ確認したかったことか。
クラスを間違えるなど、よっぽどのムードメーカーでなければ話のネタにされて、今後の生活に支障をきたしてしまうところだったのだから。
さて、後はどこに座るかだ。
自由なのか? 自由だったらこれ幸い。心優しき少女の側に露骨にならないよう近づきたい。
「……ここは、2組」
「キュー?」
それはさっきも聞いた。
……もしや、これは少女の必死なアピールなのでは? もっと会話をしていたいという、不器用ながらも自分に伝えているのではないか?
だったら話は早い。
どうするか悩んでいたが、ちょうど良い。少女の隣へ座ろう。
「……ここは、2組」
「キューキュ」
そうそう、ここは2組なんだ。
「……だけどここは、2年の教室」
そうそう、ここは2年の………え?
「……あなたはーー1年」
「………………キュ…キュ…キュ〜〜〜!!??」
神は死んだ。
《あら、急に土を掘り出したわね》
《そんな呑気なことを言っている場合ですか? あれって恥ずかしいんですよ!
穴があったら入りたい……ってもしかしてーー本当に穴に入ってる!!
恥ずかしいから! それを隠すために土を掘って隠れている! 可愛い!!》
《……これって、ファッションショーじゃなかったかしら?》
《この際なんだっていいです! 可愛いからこれは絶対にポイント高いですよ!
何でこれを最初に出しちゃったんですか? 後の方がいいなんていうご都合主義は存在しないんですからね!》
《……ま、次いきましょ》
◇◇◇◇◇
《次は……えっと、ステラ選手ですね》
《大丈夫かしら? 緊張していないといいのだけれど》
《かりにも主席入学という素晴らしい功績をあげたんです!
やる時はやってくれるでしょう!
ーーエントリーナンバー2番。ステラ選手!》
もくもくと湧き出る不思議な煙が突如現れる。それが晴れて徐々に姿を現したのは……
「あ、あれ、マズイよこれマズイよ! どうしようどうしよう〜!?」
《……やる時は、やってくれるでしょう》
《そんな悠長なこと言ってる暇はないんじゃないかしら?
ヤミガミちゃん……真っ黒よ》
《あ、あれにはきっと訳があるはずでーーステラ選手! ヤミガミは一体何を着ているんでしょうか?》
その質問に、ステラは苦笑いを浮かべた。
「え、えへへ、実はちゃんとカッコイイのを着てたんです。本当ですよ!
でも、なんというか……ヤミガミに服を着させると、性質のせいでどうしても真っ黒になっちゃうんですよ」
《……0点》
◇◇◇◇◇
《ここで、お知らせがあります。
先ほど、ステラ選手に続きシェリー選手が0点となりました。
理由としては、マネマネがモノリスを真似て、さっきのレティス選手とモサリスさんのシーンをそっくりそのまま同じことをしてしまったからです。
ミミックの真似るという技が、ここに来て裏ままえとみ目に出てしまったという訳ですね。
さて、次の選手ーーエントリーナンバー12番。ティファナ選手!》
もくもくと湧き出る不思議な煙が突如現れる。それが晴れて徐々に姿を現したのは……
「クーネ、こっちよ」ぴょっこぴょっこ
《おぉーティファナ選手と、それに水の中にいるクーネが……あれは浮き輪にシュノーケル。海全開ですね。小さくてとても可愛らしいです》
《水の中でシュノーケルって……まあ、可愛いわ》
2人の評価に、ファナはほっと胸を撫で下ろす。
「良かったですねクーネ。セクス アクアカレントは使わずにすみそうです」
《……え、えっと、ティファナ選手は一体何でセクス アクアカレントを使うつもりだったのでしょうか?》
《脅しじゃないの?》
《そ、そんな、いくら最近ティファナ選手が怖くなってきてるからといって、それはないんじゃ……》
《そうね。でも、一応こう言っておきましょう。
クーネは可愛くて、ポイントは高いでしょう》
《保険ですか》
《保険よ》
◇◇◇◇◇
《次はイリア選手ですか。
私、正直彼女苦手なんですけど、一体どのようなパフォーマンスを見せてくれるのか楽しみでなりません》
《……ファッションショーよね?》
《張り切っていきましょうーーエントリーナンバー66番。イリア選手!》
もくもくと湧き出る不思議な煙が突如現れる。それが晴れて徐々に姿を現したのは……
《あ、あれ? イリア選手しかいない》
たくさんの疑惑の目が向けられたイリアは、余裕の表情を浮かべながらフッと微笑んだ。
「来なさいシャーラ!」
その声を合図に、奥からピキピキと音が鳴り、やがてそれは現れた。
氷の道。
青く透き通るそれが、一匹の龍のように形を成していく。
龍はとぐろを巻きながら、終着地点であるイリアの横で終わり、その道をペンチゴンが滑りながら登場する。
《なんという登場の仕方でしょうか! 登場1つで見るもの全ての心を魅了しています!
それにペンチゴンというらしいあの魔物。あれは甲冑を着ているんでしょうか? 妙に様になっています》
《凛々しいって感じね》
さっきまでの訝しげな声は歓声に変わった。だが忘れてはいけない。まだ、登場しただけなのだ。今のは始まりに過ぎない。
「シャーラ、[細氷]」
周りの空気が急激に冷えていく。
しかしそれを気にする者は誰もいなかった。皆、他の物が気になってしょうがないのだ。
それは空から落ちてきた氷の結晶。
太陽に照らされて、キラキラと輝く自然の宝石。
ふと、誰かがペンチゴンを見ると、凛々しく勇ましく、槍を空へと突き出していた。
《ファッションもさる事ながら、パフォーマンスまでこのレベル。
イリア選手凄いです》
《イリアちゃんは次席入学。
ステラちゃんがいるから目立ってないけど、彼女はとても優秀よ》
そう、イリアは優秀だ。
その優秀さはいつもステラに隠れているが、エベレストと富士山を比べているようなもの。
ただ、イリアの優秀さが目立ってないのはなにもステラの所為だけじゃない。
もう一つの理由は彼女自身。行き過ぎた暴走の尊敬も関わっているのだ。
「綺麗だな」
これは、生徒席にいるシンラの言葉。何の気なしに呟いただけ。
イリアとの距離は、100メートルも離れていて、本来聞こえない……はずだった。
「っ……シンラ先輩! いいえまだまだ序の口です。見てて下さい!
シャーラ!
[降りそそぐは死の脅威 凍てつく恐怖を心に刻め 死刺凍土]!」
綺麗なバラには刺がある。
さっきまで空から落ちてきた氷の結晶は、一つ一つが凶器に変わった。
太陽に照らされてキラキラと輝いていたのに、今はそれのせいでどんなに鋭いものか目に見えて分かってしまう。
無数の氷の剣が、地上に襲いかかり、
結果ーー会場半壊
※シンラが直しました。イリア0点。
◇◇◇◇◇
《次で最後です。
ーーエントリーナンバー365番。シンラ選手です!》
もくもくと湧き出る不思議な煙が突如現れる。それが晴れて徐々に姿を現したのは……
「任せたぞクミ」
「妾に不可能はありゃせんぞ」
《こ、これは着物!》
《人化した九尾に着物。破壊力抜群だわ》
正直乗り気ではないシンラは、観客の歓声には何も感じない。
「これが無難なところか」
「まあ待つのじゃ主。
まだまだ終わりではないぞ?」
「え?」
《んん? クミさんが何かをするそうですが、シンラ選手も知らないようです》
ある者は何をするか期待。
ある者は鼻をおさえて。
ある者は目を凝らす。
そして、クミは怪しく口元を歪ました。収まりきれない色気が漏れる。
「主はちと甘いーーライム、出番じゃ」
プルプル………パシャッ
《っ! あれは!?》
《人化していないライムちゃん。
限りなくその体を液体にして……》
《それがクミさんの体にひっついて……エロいッ!
見えそうで見えない。絶妙な悪魔のバランス! 女の私でも魅了されそうな美しさです!》
《明らかにポイント1番ね……男子勢の》
ある者は期待以上のパフォーマンスに顔を真っ赤にした。
ある者は遂に鼻から血を吹き出す。
ある者は過激な姿に失神してうーんと幸せそうに唸っている。
そして、クミは満足気に自分の主人へと目を向けた。
「どうじゃ、主? 」
「……」
「ん? どうしたというのだ黙りおって」
「……俺、あまりそういうのは好きじゃない」
がーん
《おや、どうしたんでしょうか?
クミさんが膝から崩れ落ちました》
《》
◇◇◇◇◇
《さてペルセフォネ王女。無事(?)に全て見終わりましたが、ズバリこの競技、一位は誰ですか?》
《みんなみんな素晴らしかったでshow》
《と、いう事は……?》
《全員第3競技出場ね》
《……そうですか》