閑話 〜進んだ世界は終わりを告げる〜
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フランチェスカは、誰に対しても距離を置いていた。
元々竜人族は、寿命が長い。竜の血が濃ければ濃ゆいほど、それは数百…あるいは千にまで到達しうる可能性もある。
母が普通の人間で父が竜人族のサクランは、比較的血が薄い方で、千にまではいかないと思うが、メイドさん……フランチェスカはそうではなかった。
既に竜と人間という種族が混じり合っているので、こういう言い方はおかしいが、フランチェスカは純粋な竜人族。
出自は、エルフと同じく他の種族と関わり合いを持たない孤高の生命体、竜人族。その独立した村から好奇心だけで1人、世に出てきた変わり者。他の竜人族からしたら狂ってるとさえ言えた。
村を出てフランチェスカは直ぐに冒険者として名乗りを上げた。
寿命が長いとはそれだけで技術を磨く時間がとれるという事だ。竜の力、だけに溺れず努力を怠らない。
最強のSランク冒険者になるのは、時間の問題だった。
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力もあり、そして何より美しい美貌の持ち主であるフランチェスカは、早々に恋をすることをやめていた。
その類に興味がなかったわけではない。確かに子孫を残すという感情は寿命が長いせいで無いに等しかったが、それでも周りが結ばれるのを指をくわえて待つだけというのは寂しいものだった。
ならば、何故恋をしなかったのか?
ーーーそれはやはり、寿命だ。
仲間が……死んでいく。
友が……死んでいた。
受付嬢は……皆知らない人に。
自分と同じ時間を歩む者は、不幸な事に彼女の周りには存在しなかったのだ。そういう理由あって、死んだ仲間と約束した王家を見守るという事をメイドとなって遂行している。
だから、恋はしない。
幸せを感じられても、後に寂しさだけが絶対に残るのが分かってるのなら、そんなものは無いほうがいい。
一生処女で何が悪いというのだ。女の楽しみを知らない? 大きなお世話。
……と、さっきまで彼女はそう思っていた。
「……今なんと?」
「だからー、寿命が増えちゃったんだって。それも千年くらい。
迂闊だったよ。ちゃんと効果を確かめて食べればよかった。長寿の生き物でも使っちゃったかなぁ。
娘の死を見ることになりそう……いや、いっそ同じ物食べさせるか……?」
「……それはまた」
ーー本当に、クロイヌ様は面白い。
「んー、というかメイドさんが持ってくる食材ってみんな常軌を逸してるんだよなぁ。
知らないよ〈覇黒破酷蛇王の肝〉って。何だよ〈神の味噌〉って。
お陰で身体がどんどんおかしくなる」
「……フフ」
「ん? え、今笑ったメイドさん?」
「さあ、どうでしょう」
今の彼女に、恋をやめたという理由が無くなった。
「そういえば、私はママと呼ばれていましたね」
「あーワカナは変に頑固だからな。
何度も言うのやめさせたんだが、そこだけは譲ってくれないらしい。全く、迷惑な話だ」
「……そうですか」
この先フランチェスカがどうなるかは、彼女自身……それと、クロイヌ次第となった。
ーーなんだか、クロイヌ様のお料理を口にしたくなってきました