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神羅転生物語  作者: watausagi
最終章 降臨
183/217

ストーカー

◇◇◇◇◇


ここは城の二階にある、“歴史室”。真実を書物化した本の部屋。

歴史室とは名ばかりに、それ以外の本ももちろん兼ね備えている。

例えば魔法の練習本やら、王子と姫の淡い恋物語や、明日の献立表総まとめ集やら。


おかげで何回増築したか分からないほど、年々この歴史室は大きくなっていった。


そんな歴史室に、初めてマイが足を踏み入れた時は、まるで家の近くにあった私立図書館みたいだなぁ、などという感想を持ったくらいだ。


ズラリと並ぶ、本、本、本。身の丈を軽々と超える本棚。

日本人としての常識か、この部屋で喋るのは躊躇わせる雰囲気を醸し出していると思わせる。


……いや、実際に喋ってはいけないのだ。少しでも大声を出してみようなら、ここにいる司書さんに物理的に止められる。

今は最早慣れ親しんだこの部屋。マイは司書さんとも仲良くなっていた。

司書さんの見た目は、金髪で身長150も満たない小柄の男の子だから、側からみれば姉弟に見えるのは見回り兵の秘密。


「あっ、おはようルイ君」


思わずポンポンと頭を撫でるマイ。


「おい……! その明らかに下の子に対する態度はやめろ!

僕はもう14歳なんだからな!」


司書ことルイ君は、今すぐにでも目の前にいる女に怒鳴りたいのだが、ここは神聖なる本の領域。静かに怒るという高等テクニックで済ませた。


「ご、ごめんねルイ君。可愛かったからつい……」

「嬉しくないぞ!

可愛いとか言われても全然嬉しくなんかないんだからな!」

「えへへ、まあまあ」


頰をぷく〜っと膨らませる司書の姿は、本人がどう言おうと可愛いのだった。


「まったく……それで、何故貴様はここにいるんだ?

あらかた歴史は教えたはずーーどうした?」


何かが違うと、司書はマイを見てそう思った。

第一印象は「うるさい奴」。最初こそ我慢していたらしいが、堪え切れなくなったのか歴史室ですごいすごいと喚いた無礼者。

第二印象は「失礼な奴」。人のことを可愛いなど、いたって不本意な事を言われる日々。

聞けば勇者らしいが、そんなのは関係ない。神聖な場所を侵すのは罪だ。


……だがーー今はどうだ?


人とは常に何かを演じて生きてると司書は知っていたが、特に目の前の勇者はそれが顕著だ。

おちゃらけた雰囲気はない。口をキュッと結び、目は覚悟の意思が映っている。


「ルイ君。昔の歴史に私の知りたいことはなかったよ。

だからね、現代(いま)を知りたいんだ」

「いま……? 最近起こった出来事なら教えてやれるぞ。元々そのつもりだったしな」

「じゃあさ、こういうのに聞き覚えはないかな? 『異端の子供』とか『異常すぎる力』とか、そんな人物に心当たりはない?」


変な質問だ。あやふやで不確定な疑問。

けれでもそれに当てはまる人物を、ルイは2人……否、1人知っている。


「ーー死神」

「しにが、しにがみ?

ああ、えっとね、そういうのじゃなくて……私が言いたいのは人間、それかエルフとかで……」

「違う。これはあくまでも二つ名。

死神とは現時点における最強のSランク冒険者。我が国誇る元Sランク冒険者、フランも1度会ったことがあるらしいが、信じ難いことにあの化け物は『あれには勝てない』などと断言した。そんな化け物以上の化け物が死神という事だ」

「フランさんって……あのフランチェスカさんだよね? クロイヌさんと戦ったあのかっこいいメイドさん。

戦うメイド……いいなぁ」

「……話を戻すぞ。

死神はその顔、名前、一切が不明。ただ男としての認識が高いな。

特徴といえば、赤目で、背中に身の丈以上の鎌を持ち歩いているらしい」


最後の言葉があまりにも異常だったマイは、思わずキョトンとした。


「かま?」

「鎌だ」

「かま……鎌……うん、ロマンだけど、でも鎌って戦いにくいっていうか、実戦向きじゃないんじゃないの?」

「鋭いな、その通りだ。

何故鎌を持っているかは知らんが、仮にもSランク。ただの鎌ではない事は確かだな。

僕としては不気味すぎて、1度会ってみたいな。クックック」

「会いたいんだ。

ーーでも、それだけじゃ分かんないなぁ。難しい! 情報不足!」


言葉尻は元気がいいものの、それは空元気だと気付いたルイは、もう1人の名を口にする。


「それともう1人。生まれながらにして天才、鬼才と言われた異常な人族がいるぞ。

人族となのに早熟すぎて、一部では不気味と称されていたほどの男だ」

「その人の名前もわかんないの?」

「いや分かっているとも。タスピニア王国の辺境貴族。アリエルト家長男、シンラ・アリエルトだ」

「………え?」

「だから、シンラ・アリエルト……って、お前本当にどうした!?」


生まれの環境のせいか、観察眼に長けていたルイは……そうでなくともマイが涙をこぼしていたことは気付いただろう。

ただ、悲しいから泣いたのではないらしく、笑いながらも安心しているというか、とにかく変な表情をしているとルイは思った。


「シンラ……シンラ……神羅……!! シンラ神羅……うゔっ、うぅぅ良かっだ。よかっだよぉ〜……私、よかっだよぉ!」


称号を初めてシライシに見せた時、マイはおかしな態度だった。

本心では嵐のようにいろいろな感情が渦を巻き、混ぜくりあっていたのだ。

まさかまさかと思い、そんなに甘くないと否定しーーきれなくて、どうしても期待してしまう。

その期待を、夢を、それだけで終わらせたくなかったマイは、メイドさんに教わった以外の詳しい歴史をここで学んだ。


わずかな情報も聞き逃さまいと、そしてついに、偶然で済ますにはありえないほど確かな情報を得た。


シライシの前では年上ということもあり、常に誰にもバレないよう強がって、そんな緊張は今日プツリと消えた。

流れた涙はもう止められない。現実だと認識したくて、心や口の中で何度も神羅シンラとつぶやいている。


……正直にいって、ルイは目の前の光景は意味がわからなかったが、ふんっと鼻を鳴らすと、かつて父親がそうしてくれたようにマイを優しく抱きしめた。

身長が残念なので、直立しているマイの前に椅子を持ってきてその上に立っていることは秘密。


「よかったな」

「ゔんゔん、よかったぁ!」


精一杯マイを慰めようとしているルイは、うっすらと目を細める。


ーー僕が思う死神第一候補はシンラ・アリエルト。興味はあったが……


普段は自分を子供扱いするせいに、今は赤子のように泣きじゃくるマイをチラリと見る。


ーー……止めておくか


〜〜〜〜〜


「あ〜スッキリした!」

「なーにがすっきりしただ。こんなに僕の服をビショビショにしやがって、これ高いんだからな!」

「ご、ごめんごめん」


少し前はただの学生だったマイは、どうしても金銭的な話は弱かった。


「それに、神聖なる本の領域でビャービャー喚きおって、場所を考えろ場所を」

「う〜わたしが悪かったから、ね? 許してルイ君お願い!」

「その言葉には聞き飽きた」

「これが最後だから! さっきのルイ君少しかっこよかったし!」


ピクリ


「……かっこいい?」

「へ? あ、うん、とっても、すっごくカッコよかったよ」


ピクリピクリ


「そ、そうかカッコいいか。可愛いではなくかっこいいか」

「かっこよかった! 男の中の男!」

「フ…フ…フハハッ! そうだろう、そうだろう。僕は男の中の男! かっこいいのだ! 可愛いではなくカッコいいのだ!」


誰かに言い聞かせるよう……明らかに自分に言い聞かせるよう、大声で叫び。

神聖なるなんちゃらはどこに行ったのやら。


「ルイ君かっこいい!」「僕はかっこいい!」

「男の中の男の!」「そうだろう……クックック」


無邪気な笑顔を浮かべるルイを見てマイは思う。

ーーーあ、ダメだ、やっぱり可愛い


そして、そんな2人を隠れて見ていたクロイヌは思う。

ーーーなんか楽しそうだなぁ……

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