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神羅転生物語  作者: watausagi
最終章 降臨
180/217

人の心は複雑で

◇◇◇◇◇


クロイヌは、久しぶりに自由を感じていた。

ユニークスキルを使いたかったが為とはいえ、やはり城は合わなかった。

唯一の問題、メイドさんは家へ置いてきて自分は買い物に出たので、尚更だ。


「ん、良い匂い」

「美味しそう!」

「これは……面白い!」


気づけば、両手いっぱいに沢山の食べ物を抱えていたクロイヌ。


「異世界の誘惑、恐るべし……」


ちゃっかり目的の食材も買ってあるので、目標は達成してある。

胃も心も満足となったクロイヌは、満足げに家に帰ろうとするがーー


ぐぐっ


と、いきなり、荷物が重くなった。


「んん?」


成長の早い食材でもあったのかな? と、異世界に慣れてきたクロイヌはそう疑問に思ったものの、重くなった荷物を顔の前にまで持ち上げるとーー何かいた。


「……え、だれ?」


◇◇◇◇◇ー家ー



モッキュモッキュモッギュモッギュ


「美味しいだろ?」

「ん……とっても……」


バクバク……ゴックン


「おいしー」

「それは良かった」


クロイヌの目の前では、男か女かも分からない(綺麗ではない身なりと、小さい歳も原因の一つ)ほど中性的な顔をした子供が、頬をいっぱいにしてクロイヌの買ってきた食べ物を食べている。

みすぼらしい服装をしているので、噂に聞いたスラムの子供かなと思っている。


バリバリムシャムシャゴックン



「ふー……いっぱい」

「よしよし良い子だ」


さっき、荷物にひっついていた子供を、とある理由で自分の家に連れてきたのだ。


「お腹がいっぱいになったところで質問いいか?」「うん」

「名前は?」「知らない」

「お家は?」「ない」

「人の物を盗んだりは?」「怖い」

「好きな食べ物は?」「食べられる物」

「もったいない……じゃあ嫌いな食べ物は?」「食べられない物」

「ほーほー……じゃあ最後に、ここの家に住みたいか?」


淡々とした質問に淡々と返していたスラムの子は、最後の質問だけ少し考え込みーーニッコリと笑った。


「うん!」

「オーケーオーケー。

ーーメイドさん来てくれ!」


ガチャ


「何かご用です……か……誘拐?」


たったの一声でこの部屋へと入ってきたメイドさんは、まず子供に気づいて、クロイヌを見て、躊躇なくそう言った。


「仮にも勇者にむかって何を言ってるんだ」

「では、特殊な性癖か何かですか?

すいませんクロイヌ様。さすがの私もそれにはついていけないかと……」

「俺は普通だ」

「では、そこまでたまっていたというわけですね。ご安心くださいクロイヌ様。そのような若い子に手は出さずとも、私が痛いのを我慢して……」

「こんな時に冗談言わないで、早くこの子をお風呂に入れてやってくれ。それと新しい服も頼んだ」

「分かりました」


そこからは早かった。

メイドはすぐに子供をお風呂に入れて、浸からせてる間に布から服を作り上げ、着替えさせた。

子供はボサボサだった髪も綺麗にまとまり、汚れが付いていた体はさっぱりして、やっと見た目から女だという事も分かった。


◇◇◇◇◇


「さて子供、まずは名前がないと不便だからそこから考えたいと思う。

何がいい?」

「わからない」

「ワカラナイ? 変わった名前だな……省略してワカナにしよう。

ワカナ……若菜……ワカナ。うん、我ながら上出来だ。

これからよろしくな、ワカナ」


一瞬ポカーンとしたワカナだったが、新しく出来た自分の名前を、噛みしめるように何度も何度も心の中で呟く。


そして、そこで緊張やら何やらが吹っ飛んだのか、張りつめた弦がピンっと切れるように、ソファでコロンと寝てしまった。


「クロイヌ様は、何故この子を家に?」


メイドさんは、さっきからずっと疑問に思っていたことを口にする。


「お腹が空いてそうだったし?」

「この子はスラムの子でしょう。

まさかクロイヌ様は、スラムにいる全員の人間のお世話をするつもりですか?」

「出来る限りの事はしてやりたいと思うが、そんなにうまく事は運ばないんだろ?

俺はそんなに頭はよくないし、身の丈にあった行動をするよ。それと、この子じゃなくワカナだ」

「……つまり、ワカナだけ贔屓にすると? それは正しいのでしょうか?」

「はあ? だったらなんだ、今ワカナを家から放り出せばいいのか? それは違うだろ。

責任だなんて言葉を使うつもりはないが、そんな勝手な真似は出来ない。

俺は、俺の為にワカナを家に連れてきた。ただそれだけだ」

「……出すぎた真似を申し訳ありませんクロイヌ様」

「っ……」


この時、クロイヌは気づいてしまった。

それは気づいたというよりも、さらなる疑問を作ってしまった結果になったのだが。


「メイドさんは、誰もが羨むような容姿をしてる」

「いえいえ」

「力もある」

「いえいえ」

「家事全般をそつなくこなす。優秀な人材だ」

「いえいえ」

「だけど何でーー俺はメイドさんを好きになれないんだ?」

「…………」


今度は、メイドさんが頭に疑問を浮かべた。

それもそうだろう。

いきなりお前を好きじゃないと言われても、リアクションに困るだけだ。


「あの……クロイヌ様?」

「悪い、変なこと言った。

俺は自分の夕飯を作ってくるから、メイドさんは若菜をよろしく頼む」

「わ、分かりました……」


◇◇◇◇◇おまけ


ワカナ、8歳

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