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神羅転生物語  作者: watausagi
最終章 降臨
175/217

勇者もどき達

◇◇◇◇◇


どれくらい時が経ったのか、自分でもよく分からない。

ただ、徐々に視界が戻り、目を開けると……


「おお、これで我々は!」

「勇者様! 勇者様!」

「じゃが、なんで1つは……」


かなりの年をしたおじちゃんおばちゃんやらが、顔をくちゃくちゃにして、鼻を啜りあげながらはしゃいでいた。

一瞬見たことを後悔するが、まずは状況整理が大事だろう。


まずは勇者という単語。

………え、勇者? 勇者ってロールプレイングゲームにあったりするアレの事? 勇者あああとかのやつ?


よく分からないので、周りを見渡す。


「っ!」


これは驚いた。

この変な現象にあったのは俺だけではないらしい。あの時俺がチラッと見た、2人の女の子がいる。

表情から察するに、何が起こっているのか分からないみたいだ。不安とかすかな恐怖が滲み出ている。……もう1人のほうは、興奮した表情が見られるのは気のせいか? こちらは少し期待という感情も混じっている。


「勇者様! 勇者様!」

「3人もいるとは圧巻だ!これで我々は!」


前では、相も変わらず大はしゃぎ。

このままじゃ埒があかないと、取り敢えず1番優しそうな人間に声をかけーーようとしたが、その必要はないらしい。


「勇者様! 何が起こっているのか分からないのかもしれませんが、私についてきてください。

王直々にお話があります 」


嘘は……ついていない。

だけどこいつなんて言った? 王様?

じゃあここは日本じゃないのか? だとしても日本語が流暢すぎる。

でも嘘はついてないし……一体なんなんだ。パラレルワールド的なやつか?


取り敢えず、今は従うしか他あるまい。


どうしようもない現実とは、今まさにこの時なのだ。


◇◇◇◇◇


王様と聞いて不安だったが、心配は無用だった。

名前が同じで不快だから死刑じゃ。という印象しかない俺は、なけなしの礼儀作法をシミュレーションしていたが、連れてこられた先は広間とかそういうのではなく、ごく普通の部屋。

「俺たちを緊張させまい」とのこと。

やけに慣れてないか? と思ったら、話を聞いていくうちに理解した。


信じられないことにここは異世界というものらしく、俺たちは力ある勇者として召喚されたらしい。

異世界と聞いて、中学生くらいの女性が泣き出したが、もう1人が優しくなだめている。自分も不安でたまらないというのに、きっと優しい人間なのだろう。……異世界と聞いて、慰めている女がなおのこと期待の表情を浮かべたのはやっぱり疑問だ。あれはそう、生き別れた兄弟か何かを待ち望んでいる感じ。


「それで王様、つまりこう言っているんですか?

この世界の魔王が危険だから、別の世界の人間を拉致してまで倒してほしい、と」

「うっ…ううむ。

そう……なるな」


あの顔は、本気で申し訳ないと思っている。それくらい切羽詰っていたという事だろう。

嘘、ということは限りなくありえないので、洗脳、なんていう異世界よりはありえそうなものを目の前の人間たちが受けているかもしれないと邪推したが、獣人族なるものを連れてこられてはどうしようもない。

ここは、本当に異世界なんだと考慮した上で、しっかりと言葉を選ばないといけないだろう。

幸い話のわかりそうな人達だ。俺は気兼ねなく話せる。


「王様、期待を裏切るようではありますが、俺は戦いというのを……少ししかしたことありません。

魔王を倒せる実力などないと思われます」

「いや、それは違うのだ。

勇者として召喚された貴方がたは、きっと特別な力があるはず。

勇者としての力。ステータスと唱えれば、自分の力が示される、と言われております」


ふーん? まるでゲームじゃないか。

ステータス


ーーーーー

出身 異世界

名前 ハクバ・クロイヌ

年齢19歳

称号 異世界人 光の神に愛されし者 闇の神に愛されし者 家族思い 料理人 若干の姉ラブだった

スキル 料理 加速思考

ユニークスキル 鑑定 クッキング父さん

ーーーーー


ステータスと言った瞬間、半透明なガラス板のようなものが現れた。

それは俺だけじゃないらしく、こちらからはガラス板は見えないが、女2人が驚いている事からそれが分かる。

タップすれば詳細が分かるらしく、称号から順に見ていくことにした。


異世界:異世界の住人


ここが本当に異世界だと、改めて実感した。


光の神に愛されし者:心に尊き光を持つ者。光魔法に卓越した可能性あり。

闇の神に愛されし者:心に深き闇を持った者。闇魔法に卓越した可能性あり。


これはスルーしよう。でも、魔法というのが気になる。あるのか? あるんだろうな。


家族思い:家族思いだなぁ


まんまだ。


若干の姉ラブだった:所謂シスコン


これは否定したい。


次はスキル。料理はそのまま料理が出来る人間らしく、称号の料理人も似たようなもの。

加速思考は、なんか考えるのが早いらしい。


ーーーそして、恐らくだがこれが1番大事。ユニークスキル。


クッキング父さん:貴方の作った料理を食べたものは、無条件に好感度アップ。(なお、ショタとロリに効果絶大)ステータスアップの料理も作れるぞ。

他にも色々あるから、試してね。


……これだけ説明が適当すぎないかい?

王様の言っていた特別な力に、俺は不安を覚えるしかなかった。

そもそもこれらの適当な説明は誰がやってるんだ? 一発ぶん殴ってやりたい。


〜〜〜〜〜


自分たちが置かれた状況と、ステータスについてを考えていたら、結構な時間がかかってしまった。

その間黙って見ていた王様に好感が持てるが、部屋の隅にいる護衛も王様のこういうところは知っているのか、若干の苦笑いですんでいる。


「ふぅ……王様、1つ提案があります」

「何でも言ってくれ」

「はい、私達に力がある事は分かりました。ですが、心の準備はまだまだ。

ここは一旦。同郷の2人だけで話がしたいと考えております」


若干言葉使いが変かもしれないが、見逃してもらおう。


「それもそうだな。

わし達はお願いをする立場。頼るほかなかった弱者。

例え貴方がたが戦わない道を選んだとしても、その時はわし達も覚悟を決めよう。

せめて安全な地へ送ることをここに誓う。

……外で待っておる」


外で待っておる?

フットワークの軽い王様だ。ああいうのは周りがダメだと残念なことになるが、逆に優秀だと、民に慕われるいい王様になりそうだ。


「………」

「………」

「………」


3人きりとなった俺たち。

ここは、歳が一番上である俺からいこう。


「まずは自己紹介からしよう。

俺は黒狗 白刄……だったんだが、この世界じゃクロイヌと名乗らせてもらおう。

歳は20歳、よろしくな」


出来るだけ、相手に不安を感じさせない表情を浮かべる。そういうのは得意だ。

少しは緊張を解せたらしい。俺の次におっきい方の女子が自己紹介を始める。


「私は、梅宮 舞と言います。マイって呼んでください。

歳は17です」

「あ、私は白石……シライシです。シライシって呼んでください。絶対にです。絶対。

歳は15です。

あ、あの、よろしくお願いします」


マイって子が自己紹介をすると、つられるようにシライシちゃんも喋りだすが、何故だろう。名前を聞いてはダメな気がする。


「オーケー。マイとシライシだね。

えっと……ズバリ、これからどうする?」

「………」「………」


何も答えない、いや答えられない。

当たり前だ。

地球に帰りたいってのが本音だろうし、それは無理ときた。目の前の2人が落ち着いているのは、純粋にすごいと思える。

俺はあれだ。やっと料理人の道を歩もうとしていたのに、若干怒りはあるものの、特に親しい人間はいない訳だし、まだマシだ。

この世界の現状を知れば、少しでも良心がある奴は知らんぷりも出来ない。自分に力があるなんて聞いたら尚更だ。


「まだ何も決められない、でいいのかな。

じゃあ俺から1つ提案。

魔王とかなんとかをどうするかはともかくとして、しばらくはここに厄介になる。まだここの世界に対して知識が足りなすぎるからね。

その後は、今度こそ各自で自分の道を決める。これでいいかな?」

「……わたしもそれに賛成です……けど」


マイが俺を見つめる。

その表情はーー疑惑と不信。


「なんでそんなに冷静なんですか?」

「俺が? 冷静?

いや、こんなの普通だろ」


俺がそう言うと、マイはそれ以上何も言わずに、俺たちは廊下で待たせているであろう王様を迎えに行った。


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