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神羅転生物語  作者: watausagi
最終章 降臨
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黒狗 白刄

◇◇◇◇◇黒狗(くろいぬ) 白刄(はくば)


どうしようもない現実というのは、確かに存在する。

事実は小説よりも奇なりとはよくいったものだ。 時に非現実より非現実な現実に遭遇してしまうのだから、人生分からない。

……何故、こんな話をしてるのか?それは、今まさにその瞬間がきたからである。


◇◇◇◇◇


父と母は被害者だった。相手側のどうしようもない酒がらみの交通事故という、理不尽な暴力にあってこの世を去り、それが引き金となって、元々病弱だった姉も同じ所に逝ってしまった。


俺に引き継がれた莫大……とはいえない、まあまあな遺産。それを我が物にしようと、ギラギラした目を隠そうともせずに親戚どもは、糞に群がるハエのように群がってきた。

思えばあの頃から、身を守るための自己防衛術として、相手の表情を見ただけで、なんとなく考えている事が理解できたのだろう。


それが良かったかはともかくとして。



ーーそんな、後一歩で人間不信に陥りそうになった俺を助けてくれたのは、優しかった母のお父さんとお母さん、つまりは爺ちゃんと婆ちゃんだ。


『そんな目をせんでよか。

辛かっただろう?』


その一言で、俺がどんなに救われたか。


『ほれ食べれ食べれ。まずは胃をいっぱいにせにゃ、心も満たされん』


そんな事はない。2人の顔を見るだけで、俺はもう心が満たされていた。

爺ちゃんと婆ちゃんは優しかった。俺もいつかはあんな風になれたらと、その前に親孝行をしたいなと、学生ながらも夢見てーーそしてそれは、やっぱり夢にすぎなかった。


俺が高校を卒業して、調理師専門学校に行き、それからやっと社会人の一歩を踏み出したその時、爺ちゃんと婆ちゃんは天寿を全うした。

同時にだ、同時。最期まで仲の良い2人。

俺にとって3回目の葬式は、涙を流すことなく笑顔で見送れたと思う。


そして今日は、爺ちゃんと婆ちゃんが死んで丁度1年目。

家からは少し遠いけど、家族に会いに来た。

墓場はどうしても慣れない。孤独を感じさせるから、憂鬱だ。


「……父さん、母さん」


友達の両親に会っても、やっぱり1番は父さんと母さんだったよ。

授業参観、みんなは恥ずかしがってたけど、俺は誇らしかった。


「……姉ちゃん」


俺じゃあ頼りなかったかな?

キツイのに無理して笑顔作らなくても良かったのに、優しい所は親子そっくりだ。

……怒ったら1番怖かったけど。


「……爺ちゃん、婆ちゃん」


感謝しか浮かばない。

今の俺がいるのは、爺ちゃんと婆ちゃんのお陰だ。爺ちゃんと婆ちゃんがいなければ、俺は今頃壊れてた。


「……さ…ああ、言葉にするのは恥ずかしいやーーーん?」


ここにいるのは、俺だけじゃなかったらしい。遠くの方に2人、子ども……高校生くらい? の女の子がいる。

もう1人は少しばかり小さいので、多分中学生なんじゃないかと思う。


……あの2人も、誰か親しい人を失ったのか? あんなに小さいのに、可哀想な人生だ。

って、俺も人の事言えないか。


「と、そろそろ帰る……?」


衝突だが、体に違和感を感じた。


動かない。


ピクリともしないのだ。

一般男性少し上くらいの力で体を動かそうとするものの、見事に固定されてーーそこで気がつく。

足元に、何かよく分からん模様があるのだ。

幾何学的というのだろうか。そんな意味不明な文字列が円を描き、ジワジワと光り出したと思ったら、急に視界がぶれた。


「………」


言葉が出ないとはこのことだ。

人は極限状態に陥ると、喚くでもなく叫ぶでもなく、ただボーッとしてしまうらしい。

実体験の俺が言うんだ。間違いない。


あれ、でも俺は度々友人から「お前は少しおかしい」というめでたい言葉を貰ってきた事を思い出す。


あれは中学だろうか? 緑の怪物たる、周囲に恐怖と悪臭振りまくカメムシが、その時だけ狭く感じる教室を縦横無尽に蹂躙して、虫耐性マイナスなみんなが、本物の避難訓練よりもパニックになっている時、そのカメムシはこちらに来ていたので、誰かが「危ない!」と、まるで命の危機の如く叫んだのだ。

でも、こちらに抜かりはなかった。

最大まで芯を伸ばしたシャーペンで、こちらに向かうカメムシを突き刺した。

ばっちいので、窓にい行き芯を最後まで伸ばして捨てたが、一時期女子からは距離を置かれた気がする。


他には……高校生の時。 クラスメートに血気盛んな奴がいて、いつの時代からタイムスリップしたか知らんが、他校の怖〜いヤンキー達と喧嘩を始めるとのことで、何故か教室に残っていた俺まで呼び出された。

俺は早く姉ちゃんのお見舞いに行きたかったので、メリットデメリットを考えてマスクをしてミット帽を被り、早めに終わらせることにした。

ヤンキーからも引かれたのは意外。

これで顔バレは防げたので、まずは釘バット(笑)を持っている男に不意打ちで目を潰し、ヒョイっとその釘バットを借りて、隣で惚けてる阿呆の顔にぶつけた。(バットは投げるものだと、スマッ◯ブラザー◯で学んだ)

後の数人は、クラスメートと数の暴力で攻め込み、俺は平和主義なので遠くから見守る。

次の日から、血気盛んな奴の俺を見る目がキラキラしていたのは、多分気のせいだ。


ーーーというか、何で俺はこんなに昔の事を? はっ、これが走馬灯!


……なんて、バカなことを思っている間に、俺の意識は、どこか遠くへと置き去りにしてしまったかのように、儚く朧げになっていったのだ。

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