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神羅転生物語  作者: watausagi
最終章 降臨
172/217

笑顔の華 涙の雨

◇◇◇◇◇


「………っ……こ、ここは」


短くない間目をつぶっていたのだろう。目を開けた瞬間、視界が白で潰され顔をしかめてしまう。

……何でこんな状態になっているかが理解できるほど、サクランは既に頭の中を整理出来ていた。


シンラ・アリエルト。


【半竜化】を使って手も足も出なかったわ【竜化】でさえ無意味なのかもしれないという、あまりにも非現実な現実。

あれで人族というのだから、世の中間違っているとサクランは思う。


「おはよう」


そんな非常識は、サクランの気持ちを知ってから知らずか、呑気に挨拶をした。

気配からなんとなく予測していたサクランは戸惑うことなくーープイッと無視する。


「あれ、それはヒドくない?」


何か言ってるが、無視無視。

なんで無視するか自分でもよく分からないが、無視無視。

それはプライドだったのかもしれないし、ただ単に恥ずかしかっただけなのかもしれない。


「何やら怒ってますかサクランさん?」

「っ……さんをつけないでくれ!

今、背筋がゾッとした」


決勝戦、あれだけ自分に怒鳴っていたのに、と。


「やっと喋ってくれたな。よかったよかった。

話したい事いっぱいあるんだよ」

「……話したい事?」


人族とは思えない人族の話。

嫌な予感がする。いや、嫌な予感しかしないサクランだった。


「俺さ、人を殺したことがあるんだよ」

「……だから、何なんだ?」


そう珍しい事ではない。

人が死ぬ、殺される、殺す。生きていく中でどれも体験することだ。

だけど、そんなことを思いながらも、サクランは何となく分かっていた。

シンラ・アリエルトはきっと私と同じなんだろう、と。


「目の前で大事な友人が殺されそうになってたからさ、そいつを殺したんだ。

分かるだろ? 君なら」


分かる。

痛すぎるほど、分かってしまう。


「君の話も聞いたよ、サクラン。

これはどっちでもいいんだけど、俺に話してくれないか?」


何故?


「ーーー………私は、物心ついた時から刀を握っていた」


こんなにも、話したいと思っているのだろう?


「ーーー私の父はカムラ流三代目当主 イチョウ。私が生まれて1年たったばかりだというのに、刀を握らせていたらしい。

その事は温厚な母が初めて激怒したのだが、そんな母に父が反抗したのも、また初めてだったそうだ」


私は……


「ーーーそして、私は偶然か当然か、その道の才能があった。

私は父を喜ばせたくて、そんな父を見て喜ぶ母を喜ばせたくて、暇さえあれば刀を振った」


……どうして欲しいんだろう?


「ーーー幸せだった。本当に幸せだった。

……だが、春のある日、大規模な盗賊の集団が村を襲った。

元々平和な村で、戦力となるのは私と父くらい。だけど、父は丁度その時大きな怪我をしていたんだ。……私が模擬戦をした時につけてしまった傷だから、尚更自分がなんとかかしなくちゃと思った。殺らなくちゃと、思ったんだ。

そこからはあまり覚えていない。

気付くと死体の絨毯に立っていて、上には血の木が生えていた。

やがて全ての血を吸い終わったらしい巨大な木は、形を崩し、真下にいた私に降り注いだ。

最初から血が付いていた手に、少しマシだった体に、これでもかと血がまとわりついたよ」


丁度咲いていたサクラの花びらが手に落ちてきて、それは真っ赤に染まってしまった。


「ーーー私は段々と我を取り戻してきて、そして怖くなった。

人を殺したのは初めてだった。

頭が真っ白になっていき、急に体が崩れ落ちそうになり……ふと、横を見た。母に背負われている父が、村のみんなが立っている。

だけど……今でも鮮明に浮かぶ。あれは怯えだ。私を見て怯えていたんだ。

1人は心細くて手を伸ばしたのに、後ずさりされたよ。

……血まみれの手を伸ばされても……なぁ。そりゃあ嫌だろう」


最後に見た、怯えから一転父と母の怒りの目は、私に近づくなという事だったのだろうか?


「違うぞ」

「え?」


心を読まれたのか、それとも口に出していたのか、そんな事を考える暇もなく手を握られる。


「お前の手は人殺しの手なんかじゃない。救いの手だ。

お前は村を守ったんだよ」

「救いの手?

どれも力のある盗賊千人と、それを無傷で殲滅できる女。

一体、どっちが害となる?」

「知るか知るか。勘違いやすれ違いなんて誰得だよ。

ーー行くぞ」

「……どこに?」


シンラはその言葉に何も答えず、ただ、不敵な笑みを浮かべるのだった。


◇◇◇◇◇


シンラは、ホワドラに乗っていた。

ファナ達は先に帰らせて、自分達は東に東に移動している。

転移はーー止めておいたのだ。


「おい! もしかしてと思うが、まさか今向かっているところは……」

「そう、お前の故郷だよ」

「何故だ!?

私がいても怯えさせるだけだ! 一体何のために私が1人学園に来たと……」

「だから、それは勘違いだって」

「勘……違い?

そんな、そんなはずはない! お前だって同じなんだろう? だったら分かるはずだ!

母が……優しい母が……あの日から私を見るたびに、怯えた目をしているんだぞ」


サクランは苦しかった。胸が引き下がれるという言葉が、何の言葉の綾ではない事をその時感じた。


「ファナを知っているか? お前がボコボコにした俺の妹」

「……ああ」

「お前が痛めつけたファナが、お前を交流会で初めて見たとき、お前が俺の手を払いのけたその時、こう言ったんだ」


『違いますよお兄様。

先程の方、目に恨みがこもっていました。

ただぶつかっただけで人を恨むなんて、お門違いというものでしょう』


「どうだ? お前は俺を憎んでたのか?」

「え……いや、そんな事はないぞ」

「だろ? つまりな、お前が血まみれにした賢いファナでさえ、そんな勘違いをしてしまったんだ。

怯えた目って、それ、本当にお前に向けていたものなのか?」

「………だが」


ここから先は、サクランが喋れることはなかった。

それは何故か?

ファナの事を言い出した時点で、再び怒りが湧き出てきたシンラが、まず声が出ないように空気を調節して、嫌がらせのように【魔糸】で縛り上げ、バンジージャンプを始めたからだ。

高い所というものを、この世界の住人は慣れていない。サクランはまだ竜になった事があるとはいえ、それも数えるくらい。怖いものは怖い。

この時ばかりは傍観を決め込んでいたホワドラも、可哀想だと思い、ゆっくりとした安全運転を心がけたのだった。


◇◇◇◇◇


顔を青くして、ゲンナリとしたサクランを引っ張り、シンラは村に入ってサクランの家に来た。

何故こんなにもスムーズなのか。それはもう、シンラが一度来たことがあるからだ。サクランパパとサクランママとも話をつけてあるから。

今日ここにサクランが来たのは、計画通りなのだ。


「………」

「………」

「………」

「………」


だけど、サクランからすればたまったものではない。

気がついたら自分の家で、家族プラスαと1つの机を囲い座っていたのだ。パニックにならなかっただけ褒められるレベルだ。


「………」

「………」

「………」

「………」


ーーーやっぱり……あの目。


誰が、何を喋っていいのか分からない状態。

シンラも黙っていたが、これではいけないと口を開こうとするが、その前にサクランが喋り出す。

掠れた、小さな声で。


「シ、シンラ……もういいだろう? 私はーー」

「いや、ダメだ。このままじゃお前、後悔したまま死ぬ事になるぞ。

……知ってるかサクラン?」


掠れた、小さな声。


「命って、案外簡単に無くなるんだぜ?」


それが、あまりにも心のこもった言葉に聞こえたのは、サクランだけではないだろう。

だからサクランパパも、シンラの言葉は胸に染み込んだ。


「ーーーすまなかった、サクラン。

私は確かにあの時……怖い……と、思ってしまったのかもしれん」

「っ……」

「だが! これだけは信じてくれ! お前は何も悪くない。悪いのは俺たちなんだ!

サクラン、お前はあの時……赤ん坊のように手を伸ばしてたもんなぁ。その手を取ってやらなかったことを、今でも後悔してる……!」


遂に、サクランパパは泣き出した。

大の大人が、自分の父が、初めて泣くのを見たサクランは、ひどく動揺してしまう。


「う、嘘……」

「嘘じゃないのよサクラン」

「っ……な、なら……ならなんで! なんで……私を見るたびに……あんな目を……」

「お前が、私達に近づこうとしなかったからだ」

「私、が?」

「俺はすぐにでも謝らなければいけなかったのに、お前が俺たちを遠ざけているから、もしかしたら嫌われたんじゃないかって、謝っても許してもらえないんじゃないかって、怖かったんだ。自分勝手な話だが、自分の娘に拒絶されるのが怖くてたまらなかった。

……そんな訳ないのになぁ。お前は村1番強くて、村1番優しい子だと分かってるのに」


サクランパパはサクランに近づく。

自分でも気付いていないのだろう。ボロボロと涙を流してる娘に。……また、そんな父も、自分が泣いてるなんて微塵も気づいていないのだが。


ーーーシンラは少し前に庭に出ていた。

きっかけ作りの役目は終わったから。

この後どうなるかは、自分には関係ないのだから。

あのまま同じ場所にいたら、見当違いな嫉妬をしてしまうと……気づいてしまったから。


◇◇◇◇◇


どれくらい時は経ったのか、シンラは少しづつ移動している月を眺めていると、妙にすっきりとした顔のサクランが来て、

「学園をやめて、またこの村で住むことになった」


と言った。


そう簡単に学園をやめれるものでない、とシンラは思ったが、同時にあの学園長ならここまで見越してのことだろうと、再びホワドラに乗ってアインスに向かう。


「……そういえば、私だけ話してお前の話は全然聞いていない。少しズルいんじゃないか?」

「ずるいって…………分かった。あれは俺がまだ幼かったころだーー」

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