竜人族VS(暫定的)半神人
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決勝戦 サクランVSシンラ
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シンラは、ファナがつけられた傷や感じた痛みは、しょうがないと思っていた。
やや過剰気味だったとはいえ、そもそもここはそういう場なのだ。サクランに言われた通り、文句を言う筋合いはない。
だから、仕方がない……
ーーー胸に穴を開けるのはいいよな。うん、いい。死ななければ問題なしだ。向こうもやったんだし。手は削ぎ落とすか? うん、そうしよう。ファナはもうすぐ生き埋めになるところだったし……よし、埋めよう。
……仕方がない。とはいえ、シンラは結構ギリギリだった。
ギリギリ……アウト。許容範囲内を突破。
最愛なる妹の為ならば、この上なく悪逆極まりないことを犯せるし、道理や人の道に反した行いすらやってのける自身があるブラコン兄。
それはダメだろうと自覚があるものの、それの何が悪いと開き直りつつもある。
ーーーコロコロは控える……半コロコロだ。手や足を失くしたところで生やしてやる。痛覚は倍にしてやるか? いいな、それはいい。フ…フハ……フハハハハハハハハ!! ………………ふぅ落ち着いた。
心にもない事(?)を言うことで、ある程度シンラは平静を取り戻してきた。
冷静になった頭で、これからを考える。
恐らく、自分と似たような境遇であるサクラン。
だからシンラはイライラしていた。
同族嫌悪とでも言うべきか。はたまた、若い頃をビデオで撮られていて、それを大人になって家族鑑賞される気分といったところか。
とにかく、何もしないのは、ありえない。
ーーーさて、どうしたものか……アメよりも先に、鞭をやった方がいいだろうな。他人の言う事など、そうそう信じられたものではないし……ま、何とかなるか。
生物を超えた存在は、小さく自嘲気味に笑った。
人を凌駕してるだけの存在を頭に思い浮かべて、小さく、小さく笑ったのだ。
◇◇◇◇◇
サクランは、動揺していた。
強いとは分かっていた。そんな事は考えるまでもなく理解していた。主席入学とは運やコネでなれるものではない。武と知。その2つがどちらでも欠けていれば、そうそうなれるものではない。
つまり、油断などしなかった。今もしていない。
しかし、この差!
目を瞑り足も動かさず、左手は力を抜いて、動かしているのは右手、使っているのは小指一本だけ。
呼吸が乱れているどころか、欠伸までしているとは笑えてくる。
「何故っ斬れない!?」
シンラ・アリエルト。
試合開始早々、サクランに「お前は弱い」と言った男。
そして、それは何の強がりでも驕りでもなく、ただの事実だった事が今証明されている。
「このっ、化け物め!!」
思わず、口から飛び出たその言葉。
それが何を意味するか理解する暇もなく、シンラの口が動く。
「化け物……か。
それは、お前の事なんだろうサクラン?」
「っ!!」
観客からは、残像の残像が出来るスピードで動いていたサクランが急に立ち止まったので訝しむ。(もっとも、1番最初に、シンラが人間かどうか訝しんでいたが)
シンラはそれが予測できていたのか、ゆっくりと右手を下ろし、さらに口を開く。
「知っているか?」
「……何を」
「力ある者は、行動によって英雄となれる。力ありすぎる者は、否応なく恐れられる」
「それは……」
似たような言葉を、さっき自分が話した。
からかっているのか? そんな疑問が頭をよぎるものの、すぐに違うと分かった。
目の前の男はきっと……
「英雄か化け物か。
俺は後者ーーだと、思っていた」
「思っていた?」
「別に英雄だなんて言うつもりはないが、かといって自分を化け物呼ばわりするのも違うって、気付いたんだよ」
ーーー遅すぎたけどな
「そして、それはお前も同じだよサクラン」
「なっ…に……」
過去の記憶で、頭が赤い絵の具で塗りたくったように染まるサクランは、唇をキュッと噛んで耐えた。
そして、精神は耐えたが、いつの間にか目の前にいたシンラの突きによる肉体的な方面では耐えられず、その身が吹っ飛んでしまう。
ほとんど不意打ちだったのにも関わらず受身が取れたのは、流石といったところか、
「ぐぅっ、油断したっ……!」
卑怯、とは思わない。
「ーーー見ろサクラン。俺の手は真っ赤だ」
当たり前のように、その赤はサクランの肩から流れる血。
「俺はこの赤を誇りに思うぞ。
これは、勝利への一歩。
決して後悔などはしない……」
女だからとか、そんなのは意味をなさない。
「……だが、お前はどうだ?」
自身の手を、酷く憎んだ目で見るお前は。
「まわりくどい。何が言いたいんだ」
「聞いたぞ。
お前は、村で盗賊を返り討ちにしたらしいなぁ。千人も……」
シンラの手からは、1人分の血が滴り落ちている。
「……で、サクラン。
お前はそれを後悔しているんだろう?」
「ばかな、後悔などしていない!
これは誇り。私は村を守れたんだ」
「誇り? まるで、自分に言い聞かせてるみたいだな」
「違う。力があったから私は村を守れたんだ。一体どこに後悔がいる!」
強く、意思のこもったサクランの目を、シンラは冷たく見ていた。
「やっぱり……お前は弱いな」
2度目だ。
初めて、弱いと言われたサクラン。
彼女にもプライドはあった。
「【半竜化】」
竜人族だけが使える能力。
ホワドラが【人化】をして戦闘能力が下がるのに対して、こちらは逆に強くなる。
サクランの体に鱗が生えてきた。それは醜いどころか、美しいとさえ思ってしまう。
半竜化をした事により、今のサクランはさっきまでとは比べ物にならない。漏れ出す威圧感だけで、観客の中には気絶する人がでてくるほどだ。
しかし、シンラには関係ない。
「私は変身を残してるってか」
だったら自分はスーパーなんちゃらになろうかな、などと余裕を出しながら、やはり小指でサクランの攻撃を全て受け止める。
「まだ……弱い。
それじゃあまるで、子供が背伸びしてるだけだ」
「くっ、はぁ……はぁ……うるさい!」
「強がってどうするんだ。何で嘘をつくんだ
正直、村を守ったことを後悔してるんだろ?」
「まだ言うか!
後悔なんてしていない!」
ーーー本当、イライラする
「じゃあ何でそんな目をしてるんだ!
後悔なんてしていない? ふざけるな!」
「があっ!?」
竜の鱗を身に纏ってるはずなのに、それが全く意味をなさないシンラの攻撃。
腕を壊し足を壊し、内臓が潰れていく。
竜の生命力と再生力が無ければ、今頃死んでいた。
「逃げるな!
誇りなら、もっとちゃんと誇れ! 村を守ったなんて言う度に、そんな苦しい顔をするな!! 」
試合前の宣言通り、血の雨が降り注ぐ。
ーーー人ならば、何回何十回死んでいただろう。遂にサクランは意識が遠のいていく。
最後に聞こえたその言葉。
『………お前の手は、綺麗だよ』
気付かぬうちに、涙がこぼれてた。