表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神羅転生物語  作者: watausagi
最終章 降臨
170/217

咲き狂って、裂き喰らう

◇◇◇◇◇


2回戦。サクランVSファナ。

勝者が、次の決勝、シンラとあたり優勝をあらそう。


◇◇◇◇◇


自分の対戦相手を知ったファナは、密かに燃えていた。交流会3日目の事を、しっかりと覚えていたのだ。

シンラの好意を受け取らず、挙句の果てには失礼極まりない言葉(だった気がする)。

少なくとも、負けるのはプライドが許さない。

決勝でシンラと戦う時に言うセリフは、もう決めてある。


ーーーーー

『お兄様、この戦いが終わったら……結婚しましょう』

ーーーーー


完璧だ。


「でも、そう簡単には勝てそうにありませんね……」


心は燃えても、頭は冷や水を浴びたが如く冷静。でなければ負けると、本能で分かるほどに目の前にいる相手は強い。

自然と額から汗が流れた。


「ーーーお前は強いな」

「え?」


いきなり口を開いたかと思えば、突然そんなことを言ってきた。まさか喋りかけられると思わなかったファナは、言葉に詰まってしまう。

それを知ってか知らずか、サクランはまだ続ける。


「さきの戦いを見た。お前は強い。

魔法も体術も、ああ……お前は素晴らしかった」

「ぁ……えっと、サクラン……さんでしたっけ。そういう貴女も弱いはずはないでしょう?」

「そうだな。私はお前よりも強い。

だから私の手は真っ赤なのだ……」


ーーあの目……


深い、深い、憎しみの目。その奥底に見える、後悔。時折見せるかすかな絶望。

混濁とした感情が渦を巻いている。


ーー私はあの目を知っている気がする


何時(いつ)何処(どこ)で、誰だっただろうか?

思い出せない。

最近のような気もするし、もっと昔だったような気がする。

はるかに遠い人で、とても近しい人が見せていたような気がする。

でも……思い出せない。


「知っているか?

英雄や勇者といった類は、皆が力を持っている。そこに例外はない。

だが、化け物や怪物もそれに等しく、力を持っている。

きっとお前は前者なのだろう。 その容姿も相まって、皆から(たた)えられる。

そして私はーー」


その言葉も、知っている気がする。


「ーー後者だ」


〜〜〜〜〜


まるで……厨二病? 中二病? とやらを大人になって暴露された気分だ。

これは恥ずかしい。耳を塞ぎたくなるのを必死に堪える。


だが、それよりもーー


ー本当……イライラする。


〜〜〜〜〜


「ーー後者だ」

「それはどういう……っ!?」


気付いたのは、奇跡。

勘。運。

それがなければ今頃、既に負けていた。


「やっぱりお前は強いな」

「くっ……速い」

「足の動きにちょっとしたコツを、な」


コツ。ただそれだけで、いつの間にか背後を取られていた。

超高スピードで動くシンラを見ていなければ、反応すらできていなかった。


「……む、その棒は縮むだけが取り柄かと思っていたが、何かあるな」


サクランにとって知る由もないが、それはシンラが創った際に付与した。

破壊不能。


「厄介だ……本体を叩く」


サクランは刀を持っている。

背後から斬りかかろうとして、ファナの棒に阻まれたが、そもそも力量が違う。

独特で、真っ直ぐで、力強く柔軟。

ただ防いでいただけのファナは、刀の動きについていけず、切っ先が手に当たってしまう。

そこを見逃すわけがないサクラン。痛みで強く握れきれていなかった棒を、サクランは大きく場外に弾いた。


「うっ……」


これはまずいと、ファナは自身の周りに鋭い水のバリアをはる。

鋭い……とは、バリアがサクランの服に当たり、そこがビリビリに切り裂かれてしまうくらいだ。


「はぁ……はぁ……」


まだ始まったばかりだというのに、こんなにも汗と疲労ーーいや、本来戦いとはこういうものなのだろう。

一切の妥協も許されず、少しの油断は命取り。戸惑いは後回し。慢心は捨て覚悟を決めて……


ーーーそこでファナは、右手に違和感を感じた。


「何……これ」


白魚のよう……だった手。サクランに傷をつけられたその手に、


綺麗な紅い花が咲いていた。


思わず目を疑う。しかし、それは右手にはしる痛みで現実だと、否応なく理解した。


「血っ……の花」


ユニークスキル、もしくは刀に何かしらの効果があるとしか考えられない。

嫌な予感がしたファナは、その花の周りーー皮膚ーーを風魔法で削り取る。

叫び声をあげそうになるが、口を噛んで必死に堪える。

骨もかすかに見えて、しゃれにならないほどかなりの血が流れるが、それよりも気になるのは先程の花。

自分の皮膚を見るのはいい気分ではないが、そんな悠長なことは言ってられない。


美しい……


その花は。


恐ろしい……


その根っこ。


皮膚には、根っこが生えていた。ただの根っこなわけがない。根の先には口がある。口はこびりついた血を必死で吸い、代わりに花が大きくなる。


完全に血を吸いきった根っこは行き場をなくし、綺麗だった紅い花は原型を留められず、バシャリと血に還った。


「もし、あのままにしていたら……体の中で……」


ゾッとする。

恐怖、などいつ以来だろう。震える体に喝を入れた。

今の今まで相手の波に飲まれている。何とか空気を変えないと、水の向こうに見えるサクランは余裕の表情だ。斬れ味を確かめているのか、刀を地べたに擦り付け、薄く笑っている。


「綺麗だろう。その花は」

「ふ……ふふ、残念ながら、私の趣味とは合いませんね」

「それはすまない。だが、咲かせてもらうぞ!」


また、常人には反応できないスピードで動くサクランに、ファナは[水弾]、[水刃]、[水鞭]。こちらも常人には避けれないはずの攻撃だが、知っての通りサクランは常人ではない。当たるどころかかすりもしないとは、なんの冗談か。

……ひとつ言えることは、笑えない。

もっと大技をだしたいのだが、その瞬間、隙を突かれて終了。

氷魔法は気付かれないが前提条件として、使えない。雷魔法も同様。

どうしても威力の低い魔法を使わざる得ないのだ。



「[水時雨]!」

「遅い」


そんなわけがない。

音速か、それ以上の速さをどうして避けれようか?

全てを避けるサクランが異常で、その異常は刻々とファナに迫る。

魔法を使っては足止めをし、その隙に後ろや横へ移動。

ファナは何とか打開策を考えていた。


……考えていた。のだが、思いつかない。

普段なら、1つくらい策は浮かんでもよかったはずだ。

しかし、今は戦場。

呼吸すらままならない状況では、酸素が頭までまわらない。手に傷を負った今では、ろくに体術も使えやしない。


「厳しいですね……ん?」


ファナは魔法を止めてしまう。

それは、サクランが止まったから。

これを、チャンスとは思えない。むしろ、ピンチだとすら思える。


「ーー【百禍繚乱】。私のユニークスキルだ」



ーーやはり。


予想は正しかった。

自分も持っていないーーもちろん愛しのシンラは別としてーーそれほど珍しい……ユニークスキル。

1つの疑惑が確信となり、そのお陰で、さらなる疑惑を増やす。


ーー何で今それを……?


「私が傷をつけたその箇所に、花を咲かせる。

唯の花ではない事はお前も知っているだろう。

私の花は、栄養を求める。それはさっきの血であり、時に養分であり、大概は魔力を喰らい、貪欲に育つ。

言ってる意味が分かるか?」


分からない。

言ってる意味は分かるが、何故今言っているか分からない。

親切? ありえない。

だとするとこれは……慈悲。


「ここの地面は堅さを維持するためか、魔力で満ちている。

そして、おまえが今立っている場所。

そこはもう、侵食してある」

「えっ……」


その言葉を正しく認識する間も無く、視界がぶれる。

話に気を取られていた。

足元が崩れ落ち、その隙間に見えるのは、石の花。花弁ひとつひとつが鋭く、ファナが落ちる間にそれが体を傷つける。


「ぁぁっっ!!」


『私が傷をつけたその箇所に……』


さっき、ファナに花が咲いたのは、サクランが()で傷をつけた場所。それは、サクランが直接的ではなく間接的な傷もそれに当てはまるということ。


ーーなら、石の花は?


ファナは考えるより先に行動にでた。

まず足場を探し、水の推進力を加えたジャンプをして一旦地上に戻る。

そして、風魔法で自身の傷を抉り取る。チラッと紅い花が見えていたので、読みは正しかったといえよう。


右手と違って骨までは見えていないが、それでも大量に血が失われていく。

目眩がし、痛みは尋常じゃない。

それでも、ファナは、これだけは忘れてはいけなかった。


ーーー少しの油断は命取り。


「っ……!!」


ファナは、胸の少し下に違和感を感じた。

視線を下に移すと、これはどういう事だろう。剣が生えている。

何てことはない。サクランはとっくにファナの後ろへ回り、急所を外して剣を突き刺しただけ。


「かはっ……」


ファナは口から血を吐く。思ったよりも痛くないと、そんな事を考えて。

サクランは、ゆっくりと……ゆっくりと……ファナの体から剣を抜く。


ドシャリ


血の水溜りにファナは沈んでいく。

胸からは、それはそれは綺麗な紅い花が咲いたのだった。


〜〜〜〜〜


危険。

一刻も早く治療を行わないと。

そう判断した審判は、勝者を宣言する。


『ーーーしょ、勝者サクラン!!』


歓声はない。

サクランは気にせず後ろを振り返り、休憩室へと歩き出しーーー


「待てよ」


ーーー声のする方向に目を向けると……


「なっ……」


驚いた。

血の水溜りなど初めからなかったかのように消えていた。崩れた地面など何処だったかも分からない。ファナの体は戦う前と同じ状態だ。

……目の前にいる男は知っている。

主席入学。次に自分が戦う男。シンラ・アリエルト。

2回戦うところを見たが、相手が悪く、力量は測れなかった。

そんなシンラは、ファナをお姫様抱っこしている。


「随分と人の妹を痛めつけてくれたじゃないか」

「……文句を言われる筋合いはない」

「そりゃそうだ。

どちらかがこうなるかもしれない事は、ここで戦う上で覚悟していたはずだ。なにもこの件についてどうこう言うつもりはない。

……だけどな、それ以前の問題だ。

俺はお前を見てるとイライラするんだよ。どうしてくれる」

「……いや、知らないぞ?」


謎の現象に驚いていたサクランだったが、何よりシンラの理不尽な言葉に驚いてしまった。見ていてイライラするなど、初めて言われと思う。


「本当にイライラする。ファナを傷つけるは傷つけるは傷つけるは……」

「根に持ってるじゃないか」

「花を咲かせるって? いい芸だな全く。

知ってるか? 花ってのは水が必要なんだよ」

「それが何だというのだ」

「降らせてやるよ……血の雨を」


まごう事なき、宣戦布告。

ニヤリと口角が上がるのを、サクランは感じた。


「ほぅ……ただの人間が私に勝てるのか?」

「心外だなぁ。

ただの生物が、俺に勝てるわけないだろ」


実は……(当たり前だが)相当ファナを傷つけた事に根を持っているシンラは、自然と口調が荒くなる。


「殺ろうぜ。簡単に死んでくれるなよ?」


一触即発。

決勝が始まろうと……


『ピンパンポ〜〜〜ン。

えーシンラくんシンラくん、王女命令。

今から休憩入るわよ』

「あ、はい」

◆後書き◆

なるべく戦闘なしで、ほのぼのが書きたい……

次回、シンラVSサクラン。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ