昔からずっと
◆◆
ぴーあーるカツドウと似たような……というよりほとんど同じ話なので、くどいと思われる方は、飛ばしても構いません。
◆前書き◆
◇◇◇◇◇
「メイドは辛いよ」
ある所に 王子がいて、その婚約者がいて、そしてーー私……メイドがいました。
最初はお戯れかと思いました。だ、だってそうでしょう。まさか、王子が私の事を好きでいてくれたなんて、思いもよらなかったから。
でも、私だって王子が好き。ずっと好きだった。本当ならその気持ちを素直に受け取りたい。
だけど……悲しいな。
身分が違いすぎる。私と王子では、結ばれるはずもない。
「ああ王子。どうして貴方は王子なの」
1人、星に呟く。
この夜空を見上げるだけで、せめて今を忘れようとした。
「ーーそれを言うなら、何でカミューがメイドなんだ」
「っ……あ、貴方は、確か……護衛騎士のバルムンクさん」
どうやら、1人じゃなかったらしい。
もしかして聞かれてたのかな?それは恥ずかしいよ。
今が夜なのを感謝します。
私の顔は、真っ赤になっていると思うから。
「どうしてここに?」
「簡単な話だ。
か… (言ったらファナに殺される気がする)女の子が一人寂しくしてれば、気になりもする」
「嬉しいです。でも、今は護衛に専念した方がいいんじゃ……?
誰がどう見ても、貴方は仕事を放棄していると思われます」
「構わないさ。
俺は国に忠誠を誓った身だが、それ以上に生まれながらの男。
今にも泣きそうな声をしている女を助けないで、どこの面下げで騎士だと言い切れる?」
驚きました。このお方は、なんと逞しきことなのでしょう。
「貴方は強いんですね。
バルムンクさんが真の騎士なら、私のメイドはとんだ偽者。
主人となる相手に恋をしてしまうなど、禁忌中の禁忌だというのに」
不思議と、バルムンクさんになら私の秘密を明かしてしまってもいいと思えてしまった。
話すにせよ話さないにせよ、向こうはなんとなく分かっていた気もするけど。
「ーーそれで、アンタは諦めるのかい?」
「……しょうがない事なのです。
もう半月もすれば式が挙げられます。
これは神が諦めろと言っているのでしょう。人の身である私が逆らえるはずもありません。
……それに、言えないよ」
「そうか……お前は意外と、くだらないな」
むっ、女性に対して失礼。
そう言われても、仕方ないけれど。
「メイドさん。
こんな護衛騎士の言う事は聞かなかったことにしてもいい。だってこれは、独り言だ」
「なにを……」
「想いを届けたいのなら、立ち止まってばかりじゃいられない。何もしなければ、何も始まらないんだ。
ハッピーエンドにせよ、バッドエンドにせよ、後悔だけはしたらいけない。
奇跡なんてそうは起こらないが、運命なんてそんな簡単なものじゃないが、そんなもんなくたって出来ることはあるだろう」
「バルムンクさん……」
「じゃあなメイドさん。俺はそろそろ戻る。
最後に1つーー頑張れ」
バルムンクさんは、そのまま護衛に戻ったのでしょう。
残ったのは、ただただ立ち尽くしかなかった、哀れなメイド。
「……そういえば、王子様に告白の返事をしていませんでしたね。
私の想いを言うくらいなら、神様も許してくれますでしょうか?」
空を見上げても、もちろん神様はいないが、キラキラ光る星たちが、私に元気をくれました。
〜〜中略〜〜
ああ、やっぱり私はダメなメイド。
いつまでたっても王子様と向き合えず、遂に式の日となった。今頃きっと、婚約者と愛を誓っているはず。
そう、王子様も私の事などすぐに忘れてしまう。このまま私が何もしなければ、綺麗さっぱり問題なし。
『何もしなければ、何も始まらないんだ』
問題……なし。本当にそうかな? 私は、私はこのまま何も出来ずに……
教えてください。誰か私に教えてください。こうして空を見上げるだけの私に、何をすればいいのか教えてください。
『奇跡なんてそうは起こらないが、運命なんてそんな簡単なものじゃないが、そんなもんなくたって出来ることはあるだろう』
……そうでした。貴方は既に私に教えてくれてたんですね。
私がやる事なんてただ一つ。
想いを伝える、それだけ。
〜〜〜〜〜
走りに走って目の前に、佇む1人の護衛騎士。
「バルムンクさん!」
「……決まったみたいだな。
いいのか? 今中に入ってアンタのやりたい事をすれば、きっと大混乱間違いなし」
「いいんです。覚悟は決まりました。
後悔だけは……したくないんです!」
「……そうか。だったら俺からは何も言わない。さ、ここを通りな」
護衛をしない騎士だけど、貴方は立派な男です。
「ああ王子、今行きます」
私は今更ながら鼓動が早まる。覚悟を決めたからこそ、体が火照り身が震える。
でも、立ち止まってはいけない。この先に王子が待っているんです。
「ーー王子様!!」
「っ……カミュー!?」
中はガヤガヤ大騒ぎ。(あれ、アティが不機嫌そうにしている? やっぱりシンラ君とが良かったんだね)
式の邪魔が入るなど、前代未聞な事だから、それは必然だったのでしょう。
私がした事なのに、思わず笑みがこぼれてしまう。
私に会えて嬉しいと思っていてくれてるのでしょうか? 王子がそんな顔をしてくれているなんて、私は幸せ者です。
ーーーだから、聞いてください私の想い。
「王子! あの時言えなかったことを今言います! 私は、貴方のことがっ!?」
背中が熱い。
どうして。
斬られた?
どこから。
後ろ?
でも、でも後ろは……
崩れ落ちる私の体。首を動かし見たものは、涙を流したバルムンク。
「どう……して」
「悪いメイドさん。
俺を恨んでくれても構わない。だけど俺はアンタが※※※。
今ここでアンタが想いを伝えれば、処刑台に送られるのは知っていた。
だから俺が殺した。俺の責任。逃げはしない。
処刑台に送られるのは俺だけだ」
本当はとっても怒りたいけれど、そんな悲しい顔をしてたら卑怯です。
赤い水たまりなんて気にせず、今は貴方の涙を拭きたい。
「でも、ごめんなさいバルムンク……私はやっぱり……王子が好きなの」
「それを俺に言ってどうする?
ほら、主役がもう来た」
バルムンクは他の兵に捕まった。(そして何故か凍りついた)
涙声で私の名前を叫ぶのは、私の愛しい王子様。
「カミュー! ダメだカミュー!
死ぬな。死ぬなよ!!」
「貴方はいつも、そうやってわがままばかり……」
思い出される過去の記憶。
貴方が私を助けてくれた。貴方がそばにいてくれた。
いつか貴方を……エド君を守りたいって思ってたのに、これじゃあ何にも出来ないよ。
その手を離したくないって願ったのに、それすら今の私じゃ大変で、涙を流す暇もない。
「守るって誓ったじゃないか! 俺が……! ずっと守ってやるって言ったんだよ!
だから死ぬなカミュー!! 」
「……王子……好きです」
「っ……ああ、ああ! 俺も……俺も大好きだカミュー!
俺はバカだ。今の今まで、自分を誤魔化してきた!
お願いだカミュー! チャンスをくれよ……俺にもう一度……守らせてくれよ!!」
「ごめんなさい、エド君。
ずっと言いたかったよ……私といてくれてありがとう。最後にもう一度、私は貴方がーー大好きです」
最後の力でキスをして、想いを遂げれたメイドの私。
処刑台の上じゃなく、王子の下で死ねるのなら、死んだあの世でバルムンクに礼を言わないと。
「ーーーレーーー!! ーーレーーーミーーー!ー!!」
もう、意識が遠のいていきます。
これが幸せな終わりだったのか、不幸の終わりだったのか、なんとも決めがたい話だけど、少なくとも想いは告げた。キスもできたし、エ……エド君から好きだと言われた!
王子にはこれから悲しい思いをさせるけど、ごめんなさい。私は最後に幸せでした。
他の誰がなんと言おうとも、私にとっては幸せな終わりです。
来世というのがあるのなら、欲を言ってもいいのなら、生まれ変わりはメイドがいい。
確かにメイドは辛かったけど、王子に会えなかった方がよっぽど辛かったはず。
……私が助けを求めたら、また、エド君は来てくれるかな。
ーーー赤く広がる血の海に、私の目からこぼれ落ちたのは、王子の目から流れているのは、暖かくて尊い想いの涙。
先に逝きますバルムンク。
待っています王子様。
〜end〜
◇◇◇◇◇
感想
・何故か王子とメイドの名前が変わってたりしていたが、見ててドキドキした
・え、あれ演技?
・ああおいらは分かったぞ。これでカップル誕生なんだな。けっ……。
・バルムンク様!
・雪だるまに栄光あれ
◇◇◇◇◇
結論から言うと、死者が出らずに良かったと思う。
唯一の被害は、普段の恨みか知らないが、俺を本気で拘束しようとした他の護衛騎士役が氷漬けにされたくらいだろう。
そして1つ、ある問題がある。
王子とメイドだ。
『き、気にするなよレミー』
『うっうん! もももちろんだよ!
あれは劇だもんね!』
『そ、そうだぜ。
全部ただの演技だもんな!』
『……そう…ですね』
『おうよ!』
『……』
『……』
劇が終わった瞬間これである。
エドに対して、クラス中の女子が冷たい視線を送っていた。
本人もそれに気付いていたが、よほどパニクっていたのだろう。オロオロするしかなかったようだ。
ーーーこれからエドとレミーはどうするのか。 こればっかりはどうも出来ない。というよりしない方がいいだろう。
でもまあ…………俺がレミーと一緒に何かをしたって文句も言われないよな。