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神羅転生物語  作者: watausagi
最終章 降臨
162/217

ぴーあーるカツドウ?

◇◇◇◇◇


交流会も終わり、もうすぐ武闘大会があるなぁと普段通りの学園生活を過ごせると思ったら、空気読めない学園長に呼び出された。


「ーーそれは、つまり宣伝?」

「ああ、私も一応学園長という身分だからね。チャンスが今目の前に来ているんだ。ここは見逃せないよ」

「……すいません。衝突な話だったもので、頭が混乱しています。

整理するとーー」


① 俺の年代で、第4魔法学園スゲェェェになった。

②ステラの年代で、去年より大幅に生徒が増えた。

③来年はもっと数を増やそうと、学園内で催しをすることとなった。

④それぞれのクラスごとに決められた役割をこなしてくれ。

⑤簡単に言えば、今年から第4魔法学園フィーアに、文化祭的なものが出来たのだ。


「ある程度理解しました。久しぶりに学園長がまともな事を言ったので驚いていますが」

「ちょっと待ちなさい。いつ私が……いや、何でもないよ。

それより、予算やら日程やらとにかく全ては生徒会長に一任しているから、詳しいことはそっちに聞いておくれ」


前言撤回。こいつやっぱダメだ。


「1人じゃキツイと思うから、もちろんアンタも頼んだよ。

ーーそうそう、アンタのクラスなんだけどね、催しは〈演劇〉だから。

後で台本は渡しておくよ」


……演劇?


◇◇◇◇◇☆台本☆


「メイドは辛いよ」


※かなり省略しております。


ある所に 王子がいて、その婚約者がいて、そしてーー私……メイドがいた。

最初はお戯れかと思いました。だってそうでしょう。まさか、王子が私の事を好きでいてくれたなんて、思いもよりませんでしたから。


でも、私だって王子が好き。本当ならその気持ちを素直に受け取りたい。


だけど……なんと、この世の無情さか。


身分が違いすぎる。私と王子では、結ばれるはずもない。



「ああ王子様。どうして貴方は王子なの」



1人、星に呟く。

この夜空を見上げるだけで、せめて今を忘れようとした。


「ーーそれを言うなら、どうしてアンタがメイドなんだ」

「っ……貴方は、確か……護衛騎士のバルムンクさん」


どうやら、1人じゃなかったらしい。

もしかして聞かれてたのかしら? それは恥ずかしい。今が夜なのを感謝します。私の顔は、真っ赤になっているでしょうから。


「どうしてここに?」

「そりゃお前さん。可愛い女の子が一人寂しくしてりゃあ、気になるってもんよ」

「まあ嬉しい。ですが、今は護衛に専念したらどうでしょうか?

誰がどう見ても、今の貴方は仕事を放棄していると思われますよ」

「いいって事よ。

俺は国に忠誠を誓った身だが、それ以上に生まれながらの男。

今にも泣きそうな声をしている女を助けねえで、何が騎士かってんだ」


驚きました。このお方は、なんと逞しきことなのでしょう。


「貴方はお強いんですね。

バルムンクさんが真の騎士なら、私のメイドはとんだ偽者。

主人となる相手に恋をしてしまうなど、禁忌中の禁忌だというのに」


不思議と、バルムンクさんになら私の秘密を明かしてしまってもいいと思えてしまった。

話すにせよ話さないにせよ、向こうはなんとなく分かっていた気もするけど。


「ーーそれで、アンタは諦めるのかい?」

「……しょうがない事なのです。もう半月もすれば式が挙げられます。

これは神が諦めろと言っているのでしょう。人の身である私が逆らえるはずもありません」

「そうかい……アンタ意外と、くだらねえんだな」


あら、女性に対して失礼ね。

そう言われても、仕方ないけれど。


「メイドさん。

こんな護衛騎士の言う事は聞かなかったことにしてもいい。だってこれは、独り言だからよう」

「なにを……」

「想いを届けたいのなら、立ち止まってばかりじゃいられないよな。何もしなければ、何も始まらないんだぜ?

幸福の終わりにせよ、不幸の終わりにせよ、後悔だけはしちゃなんねえ。

奇跡なんてそうは起こらねえが、そんなもんなくたって出来ることはあるだろう」

「バルムンクさん……」

「じゃあなメイドさん。俺はそろそろ戻るぜ。そろそろダチに怒られる」


バルムンクさんは、そのまま護衛に戻ったのでしょう。

残ったのは、ただただ立ち尽くしかなかった、哀れなメイド。


「……そういえば、王子様に告白の返事をしていませんでしたね。

私の想いを言うくらいなら、神様も許してくれますでしょうか?」


空を見上げても、もちろん神様はいないが、キラキラ光る星たちが、私に元気をくれました。


〜〜中略〜〜


ああ、やっぱり私はダメなメイド。

いつまでたっても王子様と向き合えず、遂に式の日となった。

今頃きっと、婚約者と愛を誓っているはず。


そう、王子様も私の事などすぐに忘れてしまう。このまま私が何もしなければ、綺麗さっぱり問題なし。


『何もしなければ、何も始まらないんだぜ?』


問題……なし。

本当にそうでしょうか?

私は、私はこれでいいのでしょうか?


教えてください。誰か私に教えてください。こうして空を見上げるだけの私に、何をすればいいのか教えてください。


『奇跡なんてそうは起こらねえが、そんなもんなくたって出来ることはあるだろう』


……そうでした。貴方は既に私に教えてくれてたんですね。

私がやる事なんてただ一つ。

想いを伝える、それだけ。


〜〜〜〜〜


走りに走って目の前に、佇む1人の護衛騎士。


「バルムンクさん!」

「……決まったみたいだな。

いいのかい? 今中に入ってアンタのやりたい事をすれば、きっと大混乱だ」

「いいんです。覚悟は決まりました。バルムンクさん私、後悔だけはしたくないんです」

「……そうかい。

だったら俺からは何も言わねえ。さ、ここを通りな」


護衛をしない騎士だけど、貴方は立派な男です。


「ああ王子、今行きます」



私は今更ながら鼓動が早まる。覚悟を決めたからこそ、体が火照り身が震える。

でも、立ち止まってはいけない。この先に王子が待っているんです。


「ーー王子様!!」

「っ……カミュー!?」


中はガヤガヤ大騒ぎ。

式の邪魔が入るなど、前代未聞な事だから、それは必然だったのでしょう。私がした事なのに、思わず笑みがこぼれてしまう。

私に会えて嬉しいと思っていてくれてるのでしょうか? 王子がそんな顔をしてくれているなんて、私は幸せ者です。


ーーだから、聞いてください私の想い。


「王子! あの時言えなかったことを今言います! 私は、貴方のことがっ!?」


背中が熱い。

どうして。

斬られた?

どこから。

後ろ?

でも、でも後ろは……

崩れ落ちる私の体。首を動かし見たものは、涙を流したバルムンク。


「どう……して」

「すまねえなぁメイドさん。

俺を恨んでくれても構わねえ。だけど俺はアンタが好きだ。

今ここでアンタが想いを伝えれば、処刑台に送られるのは知っていた。

だから俺が殺した、俺の責任。逃げはしねえ。処刑台に送られるのは俺だけだ」


本当はとっても怒りたいけれど、そんな悲しい顔をしてたら卑怯ね。

赤い水たまりなんて気にせず、今は貴方の涙を拭きたい。


「でも、ごめんなさいバルムンク……私はやっぱり……王子が好きなの」

「それは俺に言うんじゃねえ。ほら、もう来たぜ」


バルムンクは他の兵に捕まった。

涙声で私の名前を叫ぶのは、私の愛しい王子様。


「カミュー! ダメだカミュー!

死ぬな。死なないでくれ!」

「貴方はいつも、そうやってわがままばかり……」

「これで最後だから! だから死なないでくれカミュー!!」

「……王子、好きですよ」

「っ……ああ、ああ! 俺も……俺も大好きなんだよカミュー!」

「ずっとそばに居てあげたいけれど……もう眠たくなってきました。

……王子、最後にもう一度、私は貴方が……大好きです」


最後の力でキスをして、想いを遂げれたメイドの私。

処刑台の上じゃなく、王子の下で死ねるのなら、死んだあの世でバルムンクに礼を言わないと。


「ーーーカーーー!! ーーカーーミューーー!ー!!」


もう、意識が遠のいていきます。


これが幸せな終わりだったのか、不幸の終わりだったのか、なんとも決めがたい話だけど、少なくとも想いは告げた。キスもできたし、王子から好きだと言われた。


王子にはこれから悲しい思いをさせるけど、ごめんなさい。私は最後に幸せでした。

他の誰がなんと言おうとも、私にとっては幸せな終わりです。


来世というのがあるのなら、欲を言ってもいいのなら、生まれ変わりはメイドがいい。

確かにメイドは辛かったけど、王子に会えなかった方がよっぽど辛かったはず。



ーーー赤く広がる血の海に、私の目からこぼれ落ちたのは、王子の目から流れているのは、暖かくて尊い想いの涙。


先に逝きますバルムンク。

待っています王子様。


〜end〜


◇◇◇◇◇


……いや、重っ。え、これを俺たちがするの? ……やっぱ重っ。


「それは私が書いたお話しさ」

「ああ、道理で稚拙……いえ、素晴らしく感動的なお話でした」


本気の殺気をぶつけられたぞ。


「役は適当にアンタらが決めときな」


ーーーこうして、俺たちのクラスは、学園長自作の「メイドは辛いよ」の劇をする事となったのだった。

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