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神羅転生物語  作者: watausagi
最終章 降臨
154/217

前を向く

◇◇◇◇◇8月100日


「お兄様、今日はクッキを焼きましたよ。

レティスったら、こっちが止めないと全部食べちゃうんです」


ーーー


「……ん、抱っこ」


ーーー

「あっお疲れのようならおやすみになられては? も、もちろん! 膝枕などという選択肢もあります……よ?」


ーーー


「……ん、ココで寝る」


ーーー


「クーネったらヒドイんですよ。

セレナとヒトランが一緒にいたら、なんとそこに水魔法をお見舞いしていたんです。

まあ、さらには、その後怒ったセレナ達が追いかけてきて、偶々レティスとキューちゃんの落とし穴に、ひっかかっていたんですけど」


ーーー


「……あったか」


ーーー


「ステラは良い子です。

さっきもお皿洗いを手伝ってくれたんです。

お皿は見事割れましたけど、やっぱり良い子です」


ーーー


〜〜〜〜〜


この頃、ファナの俺に対するスキンシップが激しくなった。

言わずもがなーーあの日からだが……なんというか、常々思うがよく出来た妹だ。


因みに、レティスがよく抱きついてきたり、膝の上に来たり、はたまた夜に俺を抱き枕してくるのは、恐らく関係ない。


「ーーと、俺は苦笑いを浮かべつつも、嬉しいという気持ちを隠せないのであった」

「何バカなことを言ってるのよ。

ほら、口を動かす前に手を動かしなさい。死神だかなんだか知らないけど、ちゃんと働いておくれよ」

「言われなくとも」


おばちゃんからのセリフで分かったと思うが、俺は今、死神でギルドの依頼を受けていた。

これ以上ファナに迷惑もかけていられない。ここはけじめをつけるべく、夏休み最後かもしれないギルドで、精を出そうと思う。


「ほへぇ〜力持ちなんだね。一気に10本も持ち運ぶとは。

あたいは1本が限界なんだけど、いやぁ助かった助かった」


俺が依頼ーー薪割り用の木を運ぶ依頼をしていると、満足げに笑顔になるおばちゃん。

……いや、アンタ十分に凄いぞ? この木、他より小さいとはいえ、その1本がどれくらい重いと思ってるんだ?


「はいはいはい……っとと、ここでいいよ。しっかり乾燥しないとね。

じゃご苦労さん。こんなに早く終わるとは思わなかったよ。どうだい? 依頼とは別に蜂蜜酒でも飲んでいかないかい?」

「遠慮しておく。今日はまだこれからやる事があるんでな」

「そうかい、まっ頑張りな」


◇◇◇◇◇


「ーーはい依頼成功です。

それと……これも受けるんですね」


俺は依頼の報酬をシルヴィアから受け取り、同時に新しい依頼を受けた。


「無くし物探し、ですか。

さっきからSランク冒険者が受けるような依頼じゃありませんが、どうしたんですか?」

「気分転換。悪いか?」


最後はからかい半分で聞いた。が、シルヴィアは慌てふためく事もなく、何かの書類仕事をしながら淡々と言った。


「いえ、全然。というより今更でしたね、こんな話。悪いどころか、むしろ賛成です。

例えSランクだろうがなかろうが関係ない。死神さんのその考え、私嫌いじゃありません。普通に好きですよ」

「……ただの気分転換だって」

「無くし物、見つかるといいですね」


……今回は負けた。そう感じた。

異世界に来て、初めてかもしれない。シルヴィアさん恐るべし。


◇◇◇◇◇


依頼主は平民の女の子(と、その保護者)。

どうやら、幼い頃に親からもらった大事なペンダントがないらしい。


「わたし、大事にしなきゃって思って、それでね、どこかに隠したの。でも分かんない! わたし、無くしちゃった」


ああ、そういう経験はありそうだ。

ここは誰にも見つからない、的なことを考えていたら、自分も見つけられないという事だろ。

この女の子は、自分からペンダントを無くしてしまった事を親に言い、自分のお小遣いを使って依頼を出したんだと。


「お願い、大事な物なの! お礼にパンケーキを焼いてるから、食べてって!

お母さんは美味しいって言ってくれるの。だから食べってて」


なるほど、依頼報酬が少なかったのと、パンケーキが何故か加わっていた謎が解けた。


「あ、あの、パンケーキは嫌いなの?」

「いや違う」

「本当!?」

「こんな事で嘘はつかない。

早くそのパンケーキとやらを食べて、ペンダントを探すぞ」

「っ…うん!」


ここで貰わないのは、なんか違うしな。それに、後ろにいる親御さんの「断ったら承知しない」という目つき怖いから。

ここで食べなかったら、後でミンチにされそうだ。


〜〜〜〜〜


「ご馳走様。ーーで、早速だが、ペンダントの特徴は?」

「うん、えっとね、青で銀で、このくらい! 分からなかった? このくらいよ!」


バッと手を広げる女の子。


「すっごく可愛いのっ!」


ニコニコ笑顔でこっちを見てくる。


「綺麗なのっ!」


ウットリ何かを思い出す女の子。


うん、オーケー。このままじゃ埒があかないことは分かった。


「じゃあ、どこかに隠したと言っていたが、おおよその目処もたってないのか?」

「んん……壊れないように……箱に入れて……それで、分かんないの」

「なるほど、じゃあ、家の中か外っていうのも分からないのか?」

「……うん」


つまり、普通ならこの時点で諦めるーー普通なら。


俺は創造魔法を使い、〈シャーロック君(十分の一サイズ)〉を創った。

シャーロック君に知らないことはない。


「さてシャーロック君。ペンダントのありかは分かったか?」

「簡単な事さワトソン君」


ワトソンではないが。

俺のことを見てフフンと鼻で笑った後、ミニミ二虫眼鏡を構えた。


「まず、青と銀という特徴。これはこの事件で最も大切な事だよ。

ぼくは誇りに思う。まさか、このくらいの大きさだとはね」


バッと手を広げるシャーロック君。


「次に可愛い。綺麗。

……ふっ、そういう事か」

「それで分かるのか?」

「もちろんだよワトソン君。

不可解なものを取り除き、最後に残ったものが真実なんだ。つまり、消去法。簡単な推理さ。

真実は、いつもひとつさ!」


何度も言うが、俺はワトソンではない。


どうやらこのシャーロック君。俺のにわかホームズ像を元にしてしまったらしい。


それに最後、ドヤ顔で言われても、キャラ間違えているからな。


「もう結果だけ教えてくれ。

ペンダントは何処にあるんだ?」

「おっとすまない。どうやらぼくは少しおしゃべりらしい。

いいよ、ペンダントのありかはここの家の屋根裏部屋、入ってすぐ右に移動して、さらにそこの隠し部屋にある。

……これが、ただ見るだけの君と、観察したぼくの違いだよ」


最後にそう言うと、ポンっとシャーロック君は消えていった。

……お前は何か観察したか? 全く、ホームズファンに土下座くらいじゃすまないな。


〜〜〜〜〜


「ありがとね〜!!」


無事にペンダントは見つかった。

依頼はこれで成功。文句なしだ。


〜〜〜〜〜


「ーーはい依頼成功です。それで、まだ依頼を受けるのですか?」

「いや、いい。なんだか少し疲れた。今日はもう休む」

「……分かりました」

「じゃあな」


別れの挨拶もして、俺はギルドから出ようとすると、「死神さん」とシルヴィアから声をかけられた。


「なんだ?」

「またのご利用を、お待ちしております。なんなら、今度一緒にお食事でもいいですよ」

「……じゃあな」


この返しは適切ではないだろう。

だが、とうのシルヴィアは分かってたとばかりに、ただほんのりと笑みを浮かべるだけだった。


……なんというか、優秀な受付嬢だ。

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