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神羅転生物語  作者: watausagi
最終章 降臨
152/217

メリーは泣く

◇◇◇◇◇7月25日 夜


エドが自分の剣の整備をしている。やり方は俺が少し教えた。

とはいってもまだまだ素人にすぎず、しかし素人だからこそ1つ1つの工程が丁寧だ。


ーーー ふと、エドの手が止まる。どうやら道具が、ギリギリ手が届かないくらい離れたところにあるらしい。

タイミングよく、その道具の前にはメリーが座っていた。


「メリーさん、それ取ってくれるか?」

《…………自分で取ってくださいね。クスクスクス》

「そ、そうっすよね」


メリーにお願いをしたエドだったが、あっさりと断られた。少し可哀想だなぁと思わない事も無くはない。


《クス…クスクス……………ちょっと、私外に行ってきますね》


メリーはそう言うと、すぅーっと壁をすり抜け、行ってしまった。いつもと変わらず自由な奴だ。


「なあシンラ」

「ん?」

「俺いっつも思うんだけどさ、壁と天井とか色んなもんすり抜けるって、なんかすげーよな」

「そうか?」


俺もやろうと思えばやれる。もしもエドがそんなにお望みなら、臨死体験の出来る薬でもあげてみよう。


「おっ、どこ行くんだシンラ」

「メリーのところに行ってくる。

……少し気になってな」

「?」


◇◇◇◇◇


メリーは家の上空にユラユラと揺れていた。あれはきっと星を見ているんだろう。 7月7日ほどではないが、確かにこの世界の星は綺麗だから見惚れても仕方ない。


地球が汚すぎたとしても、やはりこの世界は格別綺麗だ。


「こんな所で、何を考えてるんだ?」

《っーーと、お兄さんでしたか。

……昔のことを思い出していました。お兄さん達に会う前です》

「昔……聞かないほうが良かったか」

《とんでもないですよ!

むしろ、どーんと自慢してあげましょう。是非聞いて欲しいです》


メリーは小さく、いや薄く笑った。薄いって何だよと自分でも思ったが、なんとなくその言葉が浮かんだのだ。


どうも、薄っぺらで。


何かを隠しているような……そんな気がしたのだ。


《私、お兄さん達と初めて会った、あの館に住んでいました》

「あぁあそこか、結構広かったぞ」

《パパとママはそれなりの地位も持っていましたし、でも、だからこそ忙しくて、私に構っていられる暇なんてなかったんです》


ーーーーー

✳︎月✳︎日

パパとママは忙しいの

私と遊ぶ暇なんてないの

……寂しいなぁ

ーーーーー


《幼いながらも、それはしょうがないと分かっていて、幼いから、泣くことしかできなくて、いつも部屋でメソメソしていました。

私のやる事といえば、窓から見えるこの星を、ただ眺める事だけ……》


メリーは空へと手を伸ばしーー止めた。代わりに笑顔になる。それはどこからみても、限りなく、偽りなく、メリー自身の姿だ。


《でも、そんな時に現れたんです。今わたしの目の前にいるのではない、最初のお兄さんとお姉さんが》


ーーーーー

✳︎月✳︎日

今日はお兄さんとお姉さんが来たの

一緒に遊んでくれたの

でもまた帰っちゃった

……また、会えるかなぁ

ーーーーー

✳︎月✳︎日

お兄さんとお姉さんが

名前を教えてくれた

カムラお兄さんと

ラファエナお姉さんだって

ーーーーー


《お兄さんとお姉さんは、たくさん私に会いに来てくれました。いっぱい遊んでくれました。

楽しくて楽しくて、心の底から笑いがこみ上げてくるんです。

幸せでした》


『ーーーだーめ。見つかっちゃうよ? そしたら私たち、もうここに来られなくなるかも……』

『いや、まだ遊びたいの!』

『だったら小さな声で笑いましょ?』

『小さな、声?』

『そう、小さく笑うの』

『……ク、クスッ……クスクス』

『うん! やれば出来るじゃない!』

『ーーーラファエナ、僕は君の方がうるさいと思うんだけど……』

『えっ、あ、ごめんなさい』

『ク、クスクスクス』


メリーは物思いにふける顔をした。きっと、そのお姉さんとお兄さんを思い出しているんだろう。


その顔がとても幸せに満ちていたのを見て、俺はほんの少し……嫉妬した。


《本当に、楽しかったです。

お兄さんは何でも出来て、ある日お姉さんが、嬉しそうに何かを持っているのを見つけました》


ーーーーー

✳︎月✳︎日

お姉さんが何かを持っていた

それなに?

って聞いたら

「お兄ちゃんがくれたの」

って言って、嬉しそうに

てかがみっていうのを

大事そうに持っていた

自分の顔が映るなんて

すごい!!

ーーーーー


《それは、今迄に見たどんな鏡よりも、鮮明に、綺麗に写るんです。私は私が2人いるように思ったものですよ》

「へぇ……」

《そうそう、お姉さんはかくれんぼが上手でした。かくれんぼというより、見つけるのは下手で、隠れるのが上手いんでしたっけ。

私はもちろん、お兄さんだって、お姉さんを見つけることは1度も出来ませんでした。

……そして、ある日ーーー》


今まで楽しそうに話していたメリーの顔に、影がさした。


《ーーーお兄さんとお姉さんは来なくなりました》


ーーーーー

✳︎月✳︎日

さびしいよぉ

なんでもできるお兄さん

かくれんぼが上手なお姉さん

なんで……

いなくなっちゃったの?

ーーーーー

✳︎月✳︎日

今日もこない……

さびしいよぉ

ーーーーー

✳︎月✳︎日

……さびしいよぉ

ーーーーー

✳︎月✳︎日

さびしいよぉ

ーーーーー

✳︎月✳︎日

………

ーーーーー


《なんで来なくなったのか、それは今でも分かりません。多分、これからもずっと。

でもいいんです。だって……》


メリーは俺の方を向いた。


《今はとっても、楽しいですから!》

「楽しい……………か」

《はい! クスクスクス》

「今はって、俺たちがいるからなのか?」

《恥ずかしいですよ。言わせないでください》

「そっか……でも」


だったら、だったらメリー……教えてくれ。どうしてなんだ。


「なんでお前は、泣いてるんだ」

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