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神羅転生物語  作者: watausagi
最終章 降臨
150/217

死神、キュルウェルと一緒

◇◇◇◇◇


せっかくの夏休み。俺は何をしようかと思っていた。……そう、思っていた、だ。

いつの間にか、俺は死神としギルドに来ている。


何故?


他にもやりたい事はあるだろう。

例えば寝る。これは大好きだ。

『寝る』という事について、少し考えみよう。

『寝る』。それは至高にして悦楽。

三大欲求にも加わっている、生きる上での人生エリート的存在。

まだ社会の善し悪しを何も知らない赤ん坊でさえ、『寝る』素晴らしさは理解していると思う。邪魔したら怒るから。


……と、もっとまだまだ語れるくらい俺は寝る事はわりと好きだ。


じゃあ尚更、今なんで死神としてこのギルドに来ているのか?

そこが俺は疑問、と同時に、ああやっぱりと納得もする。


何度も言うように俺は死神だ。そして死神は俺だ。

誰でもない、俺自身だ。


◇◇◇◇◇


「という訳で、何かいい依頼はあるか?」

「……何がどういう訳かは知りませんが、死神さん指名の依頼ならありますよ」

「俺指名?」

「はい。厳密には後もう1人ですがーーーこれです」


シルヴィアが自分のポケットから出した依頼を見る。


要約するとこうだ。


・ちょっと名のある盗賊が、エルフを捕まえて奴隷にしているらしい。退治退治。

・キュルウェルと一緒


……要約したとは言ったが、内容的にはどこも間違っていない。つまり、大雑把過ぎる。


「キュルウェルと一緒か……」

「ご不満ですか?」

「まさか」


むしろ嬉しいとさえ思える。Sランク冒険者で親しくなれそうなのはアイツしかいない。


「そうですか。なら後もう少しだけ待っていてください。

恐らく昼前には来ますから」


◇◇◇◇◇


言われた通り、ギルド内で待っていたら、思ったよりも早くキュルウェルは来た。


「どうした死神、機嫌が悪そうだな」


顔を合わせた最初の一言がそれとは思わなかった。


「何故そう思う?」

「威圧が漏れてるぞ」

「ああそうか……実はな、さっき絡まれたんだ。

『お前なんか怖くねー』『ぶっ飛ばしてやる』と言われた」


久しぶりだった。

ギルド内であんなに喧嘩を売ってくるやつなんて、もう無いとすら思っていたのに。


「なんとも命知らずな奴だったんだな。

お前の事を知ってたのかそいつは?」

「知ってた。

だけどそいつ……6歳って言ってたな」

「……」


シルヴィアが言っていたから間違いない。

6歳のちびっ子は、俺も早く冒険者になりたかったらしく、そこで周りの奴らが、

『ははは、死神に勝てたら冒険者になれるかもな』

なんてバカなことを言ったらしく、ちびっ子は涙目で俺に喧嘩を売ってきた。


「それで?」

「俺が声をかけようとしたら、我慢の限界だったらしく、命乞いをしながら号泣したよ」

「そ、それは災難だったな」

「いや、まだここからなんだ。

そのちびっ子の姉かなんだかも出てきて、2人一緒に土下座までされた」

「……」


まさか、声をかけただけで命乞いをされるとは思わなんだ。

周りの視線の痛さ!

シルヴィアの冷たい目が、俺を静かに見ていたよ。


「ま、まあそう気にすることでもなかろう。

俺にもそういう経験はある」

「キュルウェルも?」

「結構頻繁にあるぞ。

今日だって色んな人間に避けられた。少し周りを見れば、こちらを見てコソコソしてたり、俺の顔を見て叫び声を上げたりな」

「ふーん、それって全員女性だったろ」

「よく分かったな?」


キュルウェルに悪気はないんだ。きっと。


◇◇◇◇◇


俺たちは王都を出た。

なんでかって? なんとなくだ。


「それで、どうするんだ死神」

「まずは盗賊にご挨拶をするか」

「ふっ、お前がいると早く終わりそうだな」


早く終わらせるさ。

あんまりエルフと関わりたくないしな……


〜〜〜〜〜


結論、無理。


盗賊にご挨拶。これは普通にクリア。創造魔法でもなんでも使ってボス盗賊その一味を一網打尽。


しかしここで1つ問題。

下っ端が丁度エルフ狩りに出掛けてるという事で、すぐさま向かったんだが、一足遅かったらしく馬車の中にはエルフの気配がする


俺とキュルウェルは気配を消してコソッと様子を伺っている。


「しかし驚いた。

まさか盗賊に協力者がいたとは。……それも魔族とはな」

「関係ない。

さ、任せたぞキュルウェル」

「俺だけか」

「魔族相手じゃ不安か?」

「ふざけるな、Sランクは伊達じゃないんだぞ。

よし分かった。お前はそこで見物してるといい。すぐに終わらせてやる」


キュルウェルは俺の挑発に乗って……る訳じゃないらしい。

油断は見当たらない。しかし余裕がないわけでもない。

適度な緊張感を持ち、肩の力を抜いている。


「お言葉に甘えるよ」


キュルウェルがーー動いた。


◇◇◇◇◇


馬車の中は、エルフが数名。下っ端盗賊数名。そして……魔族が1人。


「いやー! でも流石っすね兄貴!

兄貴のユニークスキルは本当最高っす」

「ふふ……照れますよ。私なんてまだまだです」

「ははっ、ご謙遜を。

魔法が効かないなんて、エルフの野郎ビビってやがる」


下衆た目で、縛り上げられているエルフを盗賊が見る。

エルフは悔し紛れにキッと盗賊を睨んだ。

しかし、それが気に食わなかったのだろう。魔族のやんわりとした注意を聞きながら、ゆっくりと恐怖をあおるようにエルフへ近づき、手を振り上げーーそこから動けなくなった。


「……ん?」


周りの盗賊はそれが見えていたが、理解はできなかった。

急に目の前へ人が現れたと思ったら、次の瞬間仲間が消えて、今度は隣にいる奴が消えて、そして今度は……目の前が真っ暗になった。


〜〜〜〜〜


「ったく、荒いな」


死神は、馬車から吹っ飛ばされてくる盗賊達を縛り上げていた。

皆意識は失っている。


「っ……エルフまで投げた」


今度は意識を失っていないが、何が起きたのか分からないのだろう。フンワリと投げられたキョトンとしている。


死神はそれを魔法で受け止め、縛り上げられている鎖を解いた。


「ふぅー、お手並み拝見だな」


〜〜〜〜〜


キュルウェルは、魔族をじっと睨んでいる。


「貴様余裕だな」

「私が? いえいえ、怖くて体が自由に動けないんですよ」


未だヘラヘラとした態度の魔族を見て、キュルウェルの目つきが鋭くなっていく。


「ふざけた奴だ。

で、何故魔族が賊の手伝いをしている? 」

「そんな怖い顔をしないで下さい。

ーーーいえね、別に手伝いをしているわけではないんです。

エルフっていうのは厄介でして、早めにその芽を摘んでおこうとしただけなんですよ」

「なるほどな。それで魔法が効かないお前が、こうしてエルフ退治をしているわけだ」

「……聞かれてましたか」


ここで魔族の笑みは消える。動きで分かっていたが、目の前の相手はかなり危険だと再認識したらしい。


「どうする? 素直に捕まれば、腕の一本くらいで済むぞ」

「おやおや、優しいんですね。

ですが……それは出来ません!」


背中に隠してあった剣を取り、そのままキュルウェルに飛びかかるが、あっさりと避けられる。


「遅い」

「ふっ、分かってます……よ!」


避けられることは想定済みだったのか、驚きもせず淡々と剣で斬りかかる。

それは魔族らしい力も技も十分な強さだが、キュルウェルにはかすりもしない。


「っ…ふ〜ん……逃げ足が速いんですね〜ぇっ!」


ことごとく避けていたキュルウェルだったが、何か魔族が企んでいることに気づく。


「魔法か!」

「[破爆]」


魔族が行った火魔法の攻撃で、馬車は完全に壊れる。

うまく避けたキュルウェルが、チラッと離れたところにいる死神を見ると……


「頑張れよぉ〜

ほら、お前らも応援しろ」

「「「……」」」


呑気に観戦していた。

周りは結界を張り、エルフが傷つくこともない。


後で一発殴ろう。


そう決意したキュルウェルだった。


「ーーー完全に不意打ちだと思ってたんですけど、流石ですね。

私じゃ敵いそうにありません」

「だったらこれ以上無駄な抵抗は……」

「おっと早とちりはいけませんよ。

確かに私のユニークスキルは、貴方みたいな身体系のスキルと相性が悪い……ですが、そんなもの使わなくても負けはしませんよ」


訝しげに魔族を見るキュルウェル。

魔族はニヤッと薄く笑った後、ポケットから石ころの様な物を取り出した。


「なんだそれは?」

「これはですね、便利ですよぉ〜。

ちょっとココがおかしい科学者が作った石なんですけど、これを体に取り込むだけで、いつもの何倍もの力を……」


満足げに自慢していた魔族だが、あることに気づいた。


ーーー石がなくなっている。


慌ててキュルウェルに視線を戻すと、キュルウェルはつまらなさそうに石を持っていた。


そして、遠慮なくパキッと壊す。


「なっ……どうやって……」

「なに、ちょっと俺のスキルを見せただけだ」

「そ、それにしたって……」


速すぎる。


「ふー……何か勘違いしているようだから言わせてもらうぞ。

お前はさっき俺の事を、身体系のスキルだとかなんとか言っていたが、おかしな話だ。

俺はまだ、1度もスキルなど使っていなかったというのに」

「なにっ……それなのにあの速さだったのですか。

いやはやーー恐ろしい」


魔族は目にも留まらぬ攻撃をキュルウェルからくらった。

いや、実際にエルフには見えなかった。何が起きたのか、さっぱり分からなかった。


◇◇◇◇◇


ポカーンとしていたエルフは無事に送り届け、既に奴隷となっていたエルフも正式に買い取り送り届け、既に売られたエルフは、ちゃんちゃらおかしな事に、買った貴族どもが自分からそのエルフを手放し、それも無事に送り届けた。


何故貴族がそんなことをしたのか、簡単に言えば、魔法って凄(怖)い。


「これで殺気立ってたエルフもなんとか収まり、魔族も地下に拘束。

めでたしめでたし、だな」

「何がめでたしだ。どこもめでたくなどない。

魔族だぞ、魔族がいたんだ。これがどういう事なのかお前も分かるだろう」

「魔王が出たって?」

「その可能性は高い。むしろ、その可能性しか浮かばない」


キュルウェルは心配性だ。……魔王は実際にいたけど。


「なんにせよ、これで依頼は成功だ。

今回は凄かったなぁキュルウェル。

思ったより速かった」

「お前に言われるとムカつくからやめろ」


非道い言われよう。

もしやキュルウェルは俺の事が嫌いなのか?


「……ま、偶には一緒に依頼を受けてもいいがな」

「え、何か言った?」

「ふん、俺は帰るぞ」

「そ、そっか……じゃあな」


……もちろん聞こえてました。ごちそうさまです。

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