別名:あと一歩で(色んな意味で)廃人
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これは、少し時を遡り、まだステラやイリアがマイホームにいない、シンラ達が1年生の頃の話である。
冬休みが終わった次の週の土曜日、2月の14日……そう、バレンタインデーだ。
◇◇◇◇◇
シンラは、目の前の物にステータス確認を行いーーガッツポーズをする。
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カカオカオカオ:ガーナッガの丘陵地に自生してある。
ラファエナ補足:もうこれカカオです!
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「これでグランウェール産のチョコレートが作れる。
創造魔法を使いたくなかったから、丁度いい」
満足げな顔を浮かべるシンラは、早速チョコ作りを始める。が、何でバレンタインデーにシンラがチョコを作っているかといと……
「俺が作らないと、この世界にバレンタインデーなんて存在しないからなぁ」
満足げな顔に少し影がさしながら、シンラはボソリとつぶやいた。
まさかファナ達に、
『地球じゃこの日はチョコを〜』
なんて言えるわけがない。
「でも何もしないってのは寂しいし」
という訳で、シンラは1人キッチンでカカオカオカオを調理する。
「原材料から作るのは俺でも初めてだ。
まずは……切る」
目にも留まらぬ包丁さばきで、何個もあるカカオカオカオは数秒遅れて、気付いたように真っ二つになった。
中はびっしりと種子がつまっている。その種子は、何となく大きいアーモンドを思わせる。
「それで……これの果皮を取り除いて、発酵させればいいんだったな。
だけど……」
流石に発酵を待つわけにはいかなく、ここは魔法を使った。
「今回はここに、数日発酵させて、お日様で乾燥させたカカオカオカオ豆を用意しました。
次は……【錬金】」
ここでカカオカオカオ豆は選別され、砕かれ、大きさの揃ったカカオカオカオ豆を焙煎する。
やっと仄かに香りが出てきた。
「さて、次は……」
〜〜〜〜〜1時間後
様々な工程を、創造魔法以外の魔法で解決して、必要な材料を、出来るだけこの世界で似たような物を使い、カカオカオカオマスが出来上がった。
シンラは天才だった。
似たような物を使ったと言っても、それは似ているだけにすぎず、完全ではない。
しかしシンラは、その違和感を別の材料を使い、自分なりの完璧を生み出したのだ。
地球の知恵とグランウェールの食材、まさに夢の組み合わせ。
「ふー……やっとチョコレートが作れるな……ん?」
シンラが下を見ると、香りにつられてきたのだろうレティスがいた。
ペーストのカカオカオカオマスを見て、目がキラキラしている。
「……チョコ」
「厳密に言うとまだそうじゃないんだ」
「……欲しい」
「だからまだだって。これ食べても美味しくないぞ。
後でみんなにあげるし、気になるならそこの椅子に座っててくれ」
「……我慢」
「ああ、我慢だ」
トトトと椅子のところまで行き、ピョコンと座ったレティスを見て、より一層気を引き締めたシンラだった。
〜〜〜〜さらに1時間後
テンパリングも済ませ、味は完璧なチョコレートなった。
こんなにも早く終わったのは、やはり魔法という存在あってこそだろう。
「よしっ、後は見た目かな……」
チラリと、シンラが後ろを振り返ると、椅子の上で必死に我慢をしているレティスが見えた。
どれくらい必死かというと、フラフラと勝手に動く右腕を、慌てて左手で抑えつけて、今度は勝手に動く左手を、魔法で抑えつけて……とにかく可哀想になるくらい可愛い我慢をしている。
「あー……もうすぐ、だからな。
もうちょっと、後もうちょっとだ」
「……がっ…まんっっ」
「うん、俺頑張るから!」
涙目になってきたレティスを見て、胸を苦しませながら、さらに張り切るシンラだった。
〜〜〜〜〜10分後
完璧なチョコレートが出来上がった。
それは芸術。
食べ物の枠を突き破り、神の領域まで達したのがシンラ作チョコレート。
味・見た目・香り。全てが天元突破した極み。
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神のチョコレート:言葉にできない味。語り尽くせない見た目。終わりなき香り。
これを食べても、その味は1日しか覚えてない。脳が……いや脊髄が直感的に反射的に危険を理解し、その記憶を消すから。
何故なら、これの味を知る限り、他のものなど(言い方は悪いが)ゴミに等しい。
ラファエナ補足:私も下さいね!
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「うーん、名前に神がつくとは……」
ここまでくるとシンラも予想外だった。レティスでさえ、漂う香りだけで蕩けた顔をして満ち足りている。
みんなにあげるのが少し怖くなってきたが、あげない訳がない。
シンラは知人にこのチョコレートをパパッと渡して、最後にマイホームにいるみんなと食べる。
◇◇◇◇◇
偶然、神のチョコレートを口にしたのは、誰もが同時であった。
「「「い、いただきま〜す!」」」
パクっ……………
そして、口にした全ての人間はーー固まった。
何も喋らず、何も動かず、下から脳に伝わる味のだけが感じられ、逆に言うとそれ以外感じられない。
皆が意識を取り戻したのは、丁度24時間後だったとさ。
◇◇◇◇◇おまけ
余談だが、シンラの使役魔物ライムが進化した。
元は新・スライム
それから真・スライム
最後に、今回のチョコレートを食べて神・スライムとなった。