この日した約束を、俺たちは忘れない 中編
◇◇◇◇◇星夜祭
『わー! これ美味しい!』
『あ、走っちゃダメよ!』
『あーん、ウフフ』
……迷子になってしまった。
いやいや、この歳になって迷子? ありえない。ありえないだろそんなの。
どこかに迷子センターがあったとしても、絶対に俺は行かないぞ。
さっきからファナ達の気配を探ろうとしているが、かなり集中しないとゴチャゴチャして分からない。数の暴力め!
「って、冗談言ってる暇はないな」
そう、迷子なんて明らかにおかしい。
……いや、魔力は感じなかった。だとするとユニークスキルか?
悪意、は無さそうだから別に放っておいても良さそうなので、この際強引にファナ達と合流しようか考えていると……
「ーーーシンラ・アリエルト」
「ん?」
……後ろを振り返ると………なんか女の子がいた。
あ、なるほど!
「お嬢ちゃん迷子なのか」
「私はお嬢ちゃんでもないし、それに迷子はお前の方だろう」
ごもっともだ。
あれ、でもなんで俺の名前を知ってるんだろ?
気になってステータス確認をしようとして、それと同時に思い出した。
あの時の魔王だ。
「お前、魔……(いや、面倒だから知らないふりをするか)……マかパパとはぐれちゃったの?」
「だから迷子ではないと言っておるだろう!私は魔お……(もしや、私の事をおぼえてないのか? )……前に質問があってきたのだ」
「質問?」
「ああ、お前の事は知っている。
相当強いな。人族、いやそんな枠組みに収まらない強さ。
そんなお前に聞きたいことがある。
魔王を……どう思っている?」
「………」
答えづらい! なんて答えづらい質問なんだ!! 考える中で一番嫌な質問だ!
「そう、だな……可愛いと思うぞ」
「……何を言っている?」
しまった! つい無難な答えを言おうとして、なんか魔王から変な目で見られている!
「ゴホンッ……魔王ねぇ…そうだな、俺はどうでもいいかな」
「ど、どうでもいい?」
「ああ、魔王魔王言ったって、俺は実際に魔王を見たことないからな(※堂々とした嘘)。ひとくくりにどう思ってる? 何て言われたって答え用がない。
だからーーどうでもいい。
もしも俺に危害を加えようなら、俺の守りたいものに危害を加えようなら、その時はその時だ」
「……そうか……そうなのか……だったら! だったらもし、魔王が争いなどしたくないと言ったら、お前はどうする?」
へぇ、何となく分かってたけど、やっぱりそうなのか。
「別に協力してもいいんじゃないかな」
「本当か!」
「こんな事で嘘は言わないさ。
それより、何でそんなに嬉しそうなんだ? (※意地悪)」
「うっ……い、いや何でもない。私はもう帰る。
………また会おう」
若干顔を赤くした魔王は、人混みの中に消えていった。
ーーーその代わりと言ってはなんだが、後ろからまた気配がする。魔王の側近か?
「ーーーお前、気づいているな」
そいつは、悪意や敵意こそないものの、疑心に満ちているのがすぐに分かる。
「……魔王っていうのは、お忍びで祭りにでもくるのか?」
「やはりっ……何を企んでいる」
「別に何も企んでなんかいないって。むしろ何かを企んでるのはそっちじゃないか?
争うつもりはなさそうだったけど、なんでなんだ? 今迄の魔王は侵略だーって感じなのに」
「魔王様は平和を望みだ。
100年前からずっとな」
100年前……
「もしも魔王様に手を出したら、私はお前を殺すぞ。
例えそれが言いつけを破ったとしてもな」
そんな事より、100年前という単語を考えていると、側近(?)の気配はどこかに消えてしまった。
同時になんだかスッキリした感じになる。
《適応しました》
スキルには、【接触時ユニークスキル無効】が増えていたとさ。
〜〜〜〜〜
段々と自分が卑怯な存在(今更だな)になっていくのを、スキルと共に実感して、苦笑いを浮かべていると……
「ーーーお兄様!」
「ファナ!」
……後ろを振り返ると、我が愛しの妹がいた。
「やっと見つけましたよ。
気づいたら皆いなくなっていて、ついさっきお兄様の香りがこちらから……」
不穏な言葉は無視。
「じゃあ、まだ他のみんなは見つかってないのか?」
「はい……あ、去年は今頃丘にいましたよね? もうそこに集まっているかもしれません」
「なるほど、変に探すより丘にいたら確実だな。早速行こう。
………そうだファナ、小さな女の子から変な質問をされなかったか?」
「え……ああ、されましたよ。
魔王がどうとか言ってました」
「なんて答えたんだ?」
「私はよく分からなかったので、お兄様にお任せします、と」
俺はファナの答えに、思わず笑ってしまった。
なんというか、流石俺の妹だ。