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神羅転生物語  作者: watausagi
最終章 降臨
141/217

そして、2人は出会った

◇◇◇◇◇


「運がいいだけ……ならば試してみるか? 小娘の力を」


ニヤリ、と魔王は笑う。その名に相応しいほどは実力があると思っている。

ギリッ、と大男は歯ぎしりする。あの方(・・・)と比べればちっぽけな力だと思ってる。


「ちっ……」


しかし大男は、自分が目の前の小娘魔王に勝てないことを分かっている。認めたくないが、現実を見ないほど阿呆ではない。


それでもーーー勝算はあった。


「ったく、どいつもこいつも俺の邪魔をしやがる」

「当たり前だ。お前の勝手な行動を肯定してしまうと、それは父上を否定する事になる。決して認められるものではない。

……大体、何故人族を襲うのだ」

「何故かって? 理由がいるのか? そこに理由がなきゃ襲っちゃダメなのか?

違うぜ。誰も足元の虫には気を配らないんだ。俺たち魔族が虫ケラに気を配る必要がねえんだよ」


虫ケラ=人族、という事なのだろう。


大男は力があった。それ故に傲慢さもある。


「私達に力があるのは確かだ。それは変えようのない事実。

しかし、では何故今まで魔王という存在は倒されてきたのだ? 本当にお前の足元にいるのは虫ケラか? その実、恐ろしい獣の尻尾でも踏んでいるのではないか?」

「けっ、あんなの勇者とかいう、いけ好かない野郎の仕業だ」

「だが、その勇者はまぎれもない人族だったぞ?」

「……」


大男は口をつぐんだ。

それは、魔王の言った言葉に、少なからず思うところがあったという事だろう。


「考えてみるのだ。

人族と争うことに何の意味がある? いやない。得こそなければ損しかない。それを知って尚争う奴は、無能呼ばわりされても仕方がない。

これが最終通告だ。

人族と争うな。

ここで退かなければ、私はそれなりの対処を取らざる得ない」


ゆらり、と魔王の雰囲気が変わる。

そして、それはーーー大男も同じ。


「誰がテメエみたいな小娘の言う事を聞くかよ。

俺だけじゃねえぜ。あんたにはカリスマってもんがない。

今、何もしていない奴でさえ、あの方が現れればどうなる事やら」

「なんだ、心配してくれてるのか?」

「…………お前が俺を止めるというなら、はっ! そいつは構わねえさ!

力にはーーー力で屈服させてみろぉぉ!!」


瞬間、女子生徒には2人が消えたと感じて、次には大男と魔王が拳と拳をぶつけりあうのが見えた。と思えば空中で蹴りがぶつかりあってる。


離れた所にいるのに、2人の放つ威圧は女子生徒が動くことを忘れるほど、ビリビリと肌がしびれるくらい強大だった。


…… ぷるん


女子生徒は、手で震えたスライムを見てハッ! となる。


今すぐここを離れよう。


そう思って無理矢理足を動かし、チラリと魔王の様子を不安げに見つめ……今はしょうがないと、歩き出したところで女子生徒は気付いた。


ソレ、がこちらを見ている事に。


「……グルッルゥゥ」

「ゔぅっ……もうイヤ」


手の中で、プルンとスライムが同意した。


女子生徒は目の前の魔物の正体を、おおよそながら分かっている。

それは本でしか見たことのない、これからも現実では見たくなかったと思っていた魔物。ただの魔物ではない。


それは天災級魔物。


特徴として、狼に翼が生えたような体。目が3つ。螺旋状のツノが5本。

その名もウールフバッド。


こんな特徴の塊である魔物を、女子生徒は分からないはずがなかった。


「なっ、あんなものまで!?」


空で激しい攻防を繰り広げていた魔王は、女子生徒の危険に思わず体を固めてしまう。


でも、それがいけなかった。


ガシリ、と大男に体を掴まれてしまう。


「くっ! 離せ!」

「ハッ、甘かったな。俺はあんたに勝たなくてもいいんだ。

1人でも人族を殺せば、それだけで目的の半分は達成される」

「こ、このっ……!」


大男に体を固定されてしまった魔王は、厳密に言うと大男の腕ごと千切ればそれから逃れられる。

しかし、できるだけ大男に傷を負わせたくなかった魔王は、ここで迷ってしまった。


戦場での迷いは死に直結する。


この場合、賭けられた命が魔王ではなく、女子生徒だったというだけだ。


「っ……[深淵の……]」

「無駄だって知ってるだろ? 俺のユニークスキルの1つは【魔力妨害】。

俺が触れているなら、誰も魔力を操れない。魔法なんてもってのほかだ」

「くそっ……兄さん!!」


魔王は腹立たしげに大男を睨み、だけど時など止まるはずもなく、ウールフバッドは余裕しゃくしゃくと女子生徒に近づく。


「うぅ〜ゴメンねスライムちゃん………ん?」


ーーー誰もがその時見た。

大男も魔王も、女子生徒もウールフバッドも、スライムも、それは見ていた。


フワフワ〜


と、鉄の塊がウールフバッドと女子生徒の間にゆっくりと入り込む。あまりにも場違いであり、何かの冗談なら笑えた。


しかし、これも知る者なら、フワフワ漂う鉄の塊が、場違いでも冗談でもない事が分かる。


だって、鉄の塊。その名は……ピット君MK-Ⅱなのだから。


シュピンッ


「「っ!?」」


魔王はかろうじて見えた。

鉄の塊から、何か半透明が出てきて、高スピードで刹那にウールフバッドの首を切り落とした事を。


それだけではなく、鉄の塊は魔王と大男の間にも、今度は大男が認識できるスピードで迫り、驚いた大男が魔王を離した。


こうなればもう……魔王は勝ちだ。


「よく分からんが、少し眠ってもらうぞ兄さん」

「っ……グゥゥッ!」


鳩尾に一撃叩き込まれた大男は、フッと意識を失う。

その大男を優しく担ぐと、魔王は何処かに行こうとしてーーーある男の姿を捉えた。


銀色に少し金がかかった髪。深く燃えるような赤い目。


そう、シンラだ。


シンラも空に浮かぶ魔王を見て驚いていた。

ステータス確認で確かめ、魔王がここにいることではなく、すなわち、女かよ!! と、期待を裏切られたかのように表情は暗かった。


「……」

「……」


しばらくの間2人は見つめ合い、先にシンラが興味を失せて座り込む女子生徒に近づいた。

魔王は自分が無視に近い対応を食らったことに苦笑いを浮かべ、今度こそ帰っていった。

(近い内に……また会おう、人間)


〜〜〜〜〜


女子生徒に近づくシンラは、優しく声をかけた。


「君、大丈夫?」

「……いえ、きっと今日は眠れませんよ」

「そ、そうか……思ったより大丈夫そうだなぁ。

ーーーまあいい、そしたら俺が眠りにつかせてやるよ」

「えっ……?」


女子生徒は驚いてシンラを見るが、急に意識が遠ざかり、段々と世界から切り離される錯覚を覚えた。


最後に聞こえた言葉。


「起きたらもう、忘れているよ」


その真意を測れる事なく、完全に女子生徒は意識を失った。

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