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神羅転生物語  作者: watausagi
最終章 降臨
140/217

魔王、現る

◇◇◇◇◇


今日は遠征当日。

みんなで仲良く歩いて移動。

ワイワイガヤガヤ1年生。


〜〜〜〜〜


大量発生しているラットアットは既にちらほらと見えているが、思ったより数は少なく、ピット君MK-Ⅱで事足りる。

念の為、全ての生徒にスライムを配置。これで明日の自由行動も安全。

さらにさらに念の為、何かあった時に等間隔でクミとリル、それにホワドラを急行せる。大体こんな感じかな。


「大丈夫ですか、シンラさん?」


俺が明日の計画を練っていると、前を歩いているミランダ会長が話しかけてきた。


「平気です。明日の事を考えていましたが、大丈夫そうですね」

「それは良かったです。

……ところで、何故レティスさんを背負っているのでしょうか?」

「ああ、眠たそうにしていたんですよ」

「眠たそう?

……すこし、甘えすぎじゃないでしょうか?」

「え、そうですか?」

「……」


甘え? そんな事……いや、ミランダ会長がそう言うならそうなのか?


本気で今後のことを考えていると、ミランダ会長が「あっ」と、何かを思い出したかのように俺に喋り出した。


「次期書記候補なんですが、ステラさんに決まりました。先ほど許可ももらいましたし、これは確定事項です」

「ステラが? ……そうですか」


妥当だな。特待生で主席入学。


俺が納得していると、双子書記は不満らしくブーブー言っている。


「やっぱりそうなるのー?」「がっくしー」

「何か不満でも?」

「「双子じゃないじゃん」」

「……残念ですが、今期の生徒に双子はいません」

「「えー」」


何をそんなに双子にこだわってるのか……


「ーーーそうだ、ミランダ会長。夕飯は生徒会も自分達で作るのですか?」

「はい。材料は他よりもほんの少し上等ですが」


おっ、久しぶりに俺も作る……


「だったら私が作りますね。お兄様は休んでいてくださいよ」

「……はい」


〜〜〜〜〜


「ほら、レティス起きろ〜」

「……」

「レティス〜?」

「……」

「ふーむ……ご飯だぞ」

「……ん、……おはよう」


あ、やっぱりこれで起きるんだ。


俺はファナ達が作ったご飯をレティスに渡し、自分の分を食べる。


ーーーやっぱり、美味い。ファナは料理が上手だ。

ま、意外なことといえば、ミランダ会長が全然料理出来なかったことくらいかな。


『わたしも手伝いますよティファナさん』

『あ、それでしたら、そのお野菜を切ってくれると助かります』

『分かりましたーーーでは……』

『っ!? ちょ、ちょっと待ってください! どうして剣を?』

『心配しなくとも大丈夫です。私、こう見えて剣の腕前には自信があります』


驚いた。はっきり言って絶句した。

刀ならともかく、そんなぶっとい剣じゃ潰れるだろうに。

かといって包丁を渡すと……


『あのぉ、ミランダ会長、何ですかこれは?』

『おかしなことを言いますね、みじん切りというものですよ』

『みじん切り? これはどちらかというと(野菜の)ミンチになってますけど』

『なるほど、切りすぎた、という事ですね』


驚いた。はっきり言って呆れた。

ペースト状にしてどうするんだ。お陰でメニューを変えることになったらしい。

料理が下手、というより料理を知らないみたいだった。


「……お代わり」


おっと、俺も早く食べないと。


〜〜〜〜〜


「お休みなさいお兄様」

「ああ、お休み」


夜、俺は男なので別のテントで寝ることになった。

考えてみれば、生徒会で男は俺だけ。もしかして俺は男運がないのか?(男運って何だよ)


まあいい、今はラットアットについて考えよう。

だんだんと数が増えてきている。が、向こうが数なら、こっちも数で勝負だ。

大量発生か何だか知らないが、大人しくスライムの糧となってもらおう。


……それにしても、多いな。ラットアット。


◇◇◇◇◇次の日


異常事態が発生した。

ラットアットの大量発生?

冗談じゃない。これはそれ以上だろ。


まるでラットアットの絨毯だ。

倒すことより死体処理が面倒。グラトニースライムが頑張っているんだぞ。


俺たちは、急遽1年生達のところに向かい、怪我をさせなくとか、そんかな余裕は無く、殲滅作業に向かっている。


『えー、こちらホワドラ、こちらホワドラ。シンラ殿、大量発生しているのはラットアットだけじゃないようです』


「なに!」


『今、急に目の前へ、ビッグシォーンが現れたと思ったら、ゾロゾロと湧き出てきました』


マジかよ……これもう遠征中止にした方がいいレベルだろ。


「とりあえず分かった。

1年生に傷一つつけず、対処してくれ」


『了解です』


ホワドラとの連絡を切り、俺はこれからどうしようかと思っていると、今度はリルから連絡が来た。


『ご主人様、大変です!』


「なんだ?」


『どうやら、大量発生しているのはラットアットだけじゃないようです!』


「……」


『今、私の目の前にカーネルが現れたと思ったら、ゾロゾロと出てきたです!』


「……オーケー、頑張ってくれ」


『はいです!』


元気な声で、いい返事。リルは天然だ。


さーて、じゃあ、俺も動くとするか。

諸悪の根源。討たせてもらおう。


◇◇◇◇◇


1年生は怯えていた。

魔物の……気持ち悪さに。


「き、キモ……」

「うわー、これ絶対に夢に出るよ。

視界がラットアットでいっぱいだ……」

「ちょっと、そんなにボーッとして、あれは魔物なのよ? もっと危機感を持ったらどうなの」


女子生徒はそう言うが、その言葉に説得力は皆無だった。

何故なら、自分だって 何も動いてないのだから。いや、動く必要がないのだ。


「だってよぉ、なんか……スライム(・・・・)が倒してくれてんじゃん」

「そうそう、炎とかブバァァって出してんじゃん。

あ、今轢いた」

「……そうね。信じられないけど、全部スライムが倒してくれそう。

これ生徒会の2年生が使役してるっていう話だけど、変わった人そうね」

「いや、超のつくイケメンらしいぞ」

「え、本当!?」

「食いつくな面食い。イケメンなら目の前にいるだろ」

「……笑えばいいのかしら」


……ここの1年生は、呑気だった。


◇◇◇◇◇


一方、こちらの生徒は、もう泣きそうだった。


「ちょ、ちょっ…何これ……何なのよ一体!」

「うるせぇよお前、ちょっとは静かにしてろ」

「出来るわけないでしょ!

だって、だって目の前で天災級魔物がいるのよ!?」


目の前にドラゴン(女は分かっていないが、これは特級)がいて、しかもそいつが自分の事をジロジロ見てたら誰だって泣く。むしろよく耐えている。


「だから黙れって」

「無理よ! 大体、アンタは何でそん何落ち着いていられるのよ!」

「分かんねえのかよ?お前は昔っからバカだなぁ。

見ろよあの目。俺たちを食べることしか考えてないぜ、アレは。

そして見ろよあの口。あんな歯だったら、俺たちなんて一発だ。おやつ代わりに十分って事だよ、はっ、笑えるぜ」

「……そ、アンタはもう諦めてるのね」

「痛くねえよう、祈るしか……ねえなぁ」


男は現実を見ていた。

女もそれに見習い、落ち着きを段々と取り戻す。


だからだろう。


目の前の出来事を、冷静に観察できたのは。


「……ん? っ……おっさん!?」

「え、嘘!」


白髪をたなびかせ、颯爽と現れた男。チラリと見えた横顔は、思わずホッとするほど、心の底から安心できる優しげな顔立ちだった。ただしその目は、ギラリと光る銀目である。


そんな白髪の男は、男と女が止める間もなく、見えるのがやっとのスピードでそのドラゴンに近づきーーー蹴り落とした。


「「は?」」


目の前にドラゴンがいるという事実を受け入れていたのに、目の前の事は許容範囲外だった。


白髪男が蹴り落としたドラゴンは、慌てて体制を整えようとするが、その前に白髪男が目の前まで来て、そっと、男と女に聞こえるか聞こえないかくらいの声で喋った。


「それ以上何かしようものなら……殺しますよ」

「ギャオッ!!??」


あまりの迫力に、特級のドラゴンは恐怖で震える。


「さ、痛い目を見ないうちに、自分の故郷へ帰りなさい」

「ギャァァォオォォ!!」


最終通告に、脱兎の如く逃げ出したドラゴン。

残ったのは、優雅に佇む白髪男だけだ。


「「……」」

「ーーーお2人さん、では、私はまだ他に用があるので、お気をつけて」


ボーッとしている男と女に、これまたいい声で喋りかけた白髪男は、1人森の奥へと消えていった。


「……なぁ」

「なによ」

「……めっちゃくちゃカッコよかったな」

「そうね、惚れたわ」

「マジかよ。いや、でもしょうがねえか。

あれは男でも惚れるわ」


男と女は知らない。

今まさに助けてくれた男が、実はさっきまで自分達を食べようとしていた魔物と同じ存在である事に。


◇◇◇◇◇


最後に、こちらの女子生徒。


仲間とはぐれてしまい、迫り来るラットアットに、最初こそどうにかしてたものの、だんだんと魔力が切れて、もうあと僅かというところでスライムが殲滅してくれた。

今は肩に頼れるスライムを乗せて、みんなの所に戻ろうとしていたところ。


だが、現実はそんなに甘くなかった。



「う、うそ……」


目の前にいきなり現れたのは、全長4メートルは超えるほどの大男。


「なーにが嘘だってぇぇ?」


大男の手には、プルンプルンと揺れるスライムが握られており、ブンブンと振り回されている。

たった1匹のスライムでは、敵うはずもなかったのだ。


「い、いや……やめてよ。可哀想……」

「ったくよぉ、そんなに泣くんじゃねえよ。むしろ泣きたいのはこっち方だってんだ、ふざけやがって。

なんだなんだ、俺はけっこ〜〜〜う前から準備してたんだぜ? それがこれじゃあ、あまりにもヒデェじゃねえか!!」


ブンブンと振り回されていたスライムは、その容赦ない遠心力により、


ブチッ


と、ちぎれて、女子生徒の前にぼとりと落ちてきた。


「そんなっ!」


元々優しい性格なのだろう。

自分を助けてくれたとはいえ、スライムをここまで気にかける人などそういない。

女子生徒は慌ててスライムに近寄り、そっと抱きかかえる。


……プ、プルンッ


幸いにも、スライムは死んでなかった。シンラのスライムは伊達じゃない。


「けっ、ムカつくぜ。

そんなスライムごときに俺の計画が邪魔されるとはよぉ、正直ショックだわ。

ありえねー事に、どうやら天災級魔物までいやがるらしい。

こんなん誰が予想できるってんだ……ん?」


大男はチラリと女子生徒を見る。


「良かった。本当に良かった……」


信じられないことに、女子生徒は大男を無視してスライムの無事を喜んでいた。

大男の言葉など無視して、スライムを優しく撫でていた。


ーーーブチッ


それは確かに聞こえた。


募る募るイライラが、限界まで来ていたのだ。


「あぁ、マジふざけてやがる!

いいさ、テメエだけでも殺してやる!!」


大男は手を前にかざす。


女子生徒は何かを感じ取ったのか、尚も自分を守ろうとする(女子生徒にはそう見えた。実際その通り)スライムを、自分の体で覆う。


その目から、現実の非情さに訴えかけるよう、一雫の涙をこぼしーーーその時に聞こえた。


「殺されるのは……どっちだ?」


鈴が鳴るような、いつまでも聞いてていたいと思える、現実離れした美しい声。

物騒な言葉を言いながらも、その美しさは(ほころ)びることもなく、逆に凛々しさを伝えさせる。


「っ……小娘が偉そうに!!」


女子生徒は恐る恐る顔を上げた。


離れたところには大男。

そして、自分の目の前には、大男と比べれば心許(こころもと)ない、身長140センチくらいの女の子の背中が見えた。


「おいおい、小娘とは非道いじゃないか。

仮にも私は、お前の主という立場だろう」

「けっ、お前みたいな貧弱を、俺はぜってぇ認めえねえぞ。

血筋だけで選ばれた、運がいいだけの魔王(・・)様よぉ!!」

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