ウィスキーボンボン
◇◇◇◇◇
……ふー……俺は今あきらかに疲れてる。
肉体的ではなく、精神的にだ。もうクタクタ。ベッドばんざい!
まあ、何で疲れてるのかというと、原因はステラの友達イリアだ。こんなことを言うのは失礼だが、正直、後輩が増えるなら男がよかった。いや、本当に失礼で今更という話なのだが。
でも、俺だってイリアが嫌いというわけじゃない。だが先程言った通り、俺がクタクタな原因なのはイリアのせいなんだ。
ここ数日で分かった事。
何故かイリアが俺の事を……崇拝に近く尊敬しているような気がする。
根拠なく言っているのではなく、これは、実際に俺が体験したからこそ言える事実なのだ。
例えばーーー
◆◆◆◆◆
『おいイリア? なーんで俺の後ろにいる?』
『そんな、シンラ先輩ひどいです。
私は後ろにすらいたらダメだと言うんですか? レティスちゃ…先輩は膝という領域を侵すことすら認めているというのに。
ここの家は、格差社会だったのですね……』
『おいおい、ちょっと待って。
動くなよ、そこを絶対に動くなよ。そして俺から離れろ。なるべく遠くだ。
ったく、ファナは何をしているんだ……』
『距離を置かれている?』
『だからそうじゃなくて! って動くな!
分かるんだからな。例え目が見えなくても分かるんだからな。
そしてイリアは、ここが風呂場だという事をまず前提条件において話せ!』
『お背中を流そうと思っのに……』
◆◆◆◆◆
ーーー結局、強制的に黒穴で遠くに飛ばした。
それに、これだけじゃない。まだまだある。
例えばーーー
◆◆◆◆◆
『お疲れのようですねシンラ先輩。
私が運びましょう。どこに行けば?』
『何で俺は椅子で座ってるだけで、疲れてる認定を受けなきゃならないんだよ。
それに俺はもうすぐ寝るんだ』
『ベッドですね、分かりました。
じゃあ私がベッドまで運び……ベッド……ベッド……頑張ります』
『いや何が?』
◆◆◆◆◆
『いけませんシンラ先輩。手が汚れています。私が拭きましょう。
……あれ、水がないですね。
しょうがありません。舐めて……』
『お前水魔法使えるだろ』
『っ!?』
◆◆◆◆◆
ーーーとか、ちょっと異常だと思う。少し怖いくらいに。
「ステラ、どうにかならないか?」
「多分、絶対無理です」
「そっか……」
ファナからはイリアの事で説教されて、もう散々だ。
少し考えてみたが、やはりイリアが俺の事を崇拝している意味がわからない。
シオン曰く、俺はそこそこ(※過小評価)有名らしいが、イリアまでくると意味不明。何か理由あっての行動なのか……?
「シンラ先輩〜!」
「うっ……」
もうちょっとで答えに辿り着きそうだったのに、噂をすればなんとやら、ご本人が登場。
「な、何か用か?」
「肩が凝っていると思いまして、マッサージをしようかと。
なので、裸で横になってください」
「裸になる意味が分からない」
「安心してください。私も裸になりますから」
「もっと分からない!」
これは流石におかしすぎる。こんなに意味不明な事をイリアは言わないはず。
ステラだって、イリアは普段クールです(全く信じられないが)。と言っているくらいだし。
一体どうしたと言うのだろう?
「イリア、これ何本に見える?」
俺は右手をピースにしてイリアに見せる。
俺の不安を知ってか知らずか、自信満々の得意げな顔を浮かべたイリアは、当たり前のように言った。
「6ですね」
片手! 片手だよ! 5本以上になることが異常なんだと気付いてくれ!
「酔ってるなイリア。水でも飲んだ方がいいんじゃないか?」
「酔ってませんよ。お酒なんて私飲みませんし」
完全に酔っ払いフラグをたてたイリアに俺はステータス確認をした。
結果、ウィスキーボンボン。
「弱すぎだろ……」
「もう、さっきから何を訳のわからないことを言っているんですか。
早く裸になって下さい」
「ちょっと少しイリー。趣旨が全く違くなっているよ!?」
「ステラもどう?」
「え、私? 何で……」
「2人で……どう?」
「……いいかもしれません」
ステラ!?
俺はステータス確認をする。
結果、ウィスキーボンボン。
「お前もか!?」
そういえば、言葉がおかしかった気もする。
「さあ、シンラ先輩……」 「先輩……」
じりじりと近寄ってくる2人をどうしようかと考えていると、
「[氷結雷針]」
「「っ!?」」
ヒュッ!!
という音と共に、何かが飛んできた。
それはイリアとステラの髪をかすめ、スパンっと壁に突き刺さり貫通していった。
一体、誰なんだー(棒読み)
「[雹結雷針]」
「っ!!」
臨戦態勢を整えていたイリアとステラは、でも無駄な悪あがきにしかならなかった。
さっちとは違い、数の暴力に抵抗虚しく、ビクンビクンと2人は身体を震わせたのち、ドアからゆらりと入ってきたファナに足を掴まれ、引きずられながら部屋から出て行く。
「あのーファナさんや、何をするおつもりで?」
「……調教…育です」
言い直せてない。聞き方によっては超教育という、なんか凄い感じに聞こえる。
「ぐ、具体的には、どのような事を?」
「言葉で分からないようならば、その体に直接言い聞かせるまでです。
まさか、こんなところで雷魔法が役に立つとは思いませんでした」
「いや、役に立つのはおかしいぞ? 何をする気だ…ですか?」
しかし俺の言葉虚しく、その言葉を最後に、ファナは完全に部屋から出て行った。
去り際に見たファナのステータス確認。
結果、ウィスキーボンボン。
◇◇◇◇◇
ちょっと危なそうだったので、シンラ君が、安全に後輩2人を連れ戻しましたとさ。
ウィスキーボンボンは、その後マイホームで見かけることはなかったという事らしいです。
因みに、意外とレティスちゃんはパクパクと食べても問題なく、どちらかというとセレナさんの方が目が据わって怖かったです。
◇◇◇◇◇