え、また?
◇◇◇◇◇
入学式が終わる。
もう昼少し前で、ちょうどいい具合にお腹が減ってきたところだ。
俺はファナ達を先に家に帰らせて、ステラを迎えに行った。
桜の花びらが舞い、いかにも新しい年がきたかを感じさせる。どこの世界でもこういうのは変わらない。
風が舞って出来るピンクの壁(これは言い過ぎだな)の向こう側に、何か嬉しそうな顔のステラと、その横には……誰かいた。
ステータス確認で見ると、どうやらあの子がイリー……ん? 本名はイリアなのか。知らなかった。
「ーーーステラ!」
俺が少し大きめの声でステラを呼ぶと、さっきまでの嬉しそうなが、さらに嬉しそうな顔をするので、見ててこちらが和む。
「先輩!」
「……いい響き、いや何でもない。
ところで頑張ってたな。あの無茶ぶりを。」
「はわわ!? わ、忘れてください!
あんなの全然忘れてください! ちっとも忘れてくださいよ!」
顔を真っ赤にしすふステラ。言葉もおかしくなるほど恥ずかしいようだ。
「いや、本当に凄かったぞ。
なにせ俺は、『面白くなかった』らしいからな。
ーーーそれと……」
俺はステラとの話を中断し、イリーの方に視線を向ける。
「初めましてだねイリア」
「………いえ……全然です」
ん? あれれ、俺の聞き間違いかな。イリアの方も日本語がおかしいような気がする。
イリアは何かを喋ろうとして、それが言葉にならないのか口をパクパクとさせるだけで、俺の顔から視線を外さない。
どうしたんだろう?
◇◇◇◇◇
どうしたんだろう?
イリーがさっきからお魚みたいに……っ! も、もしかして、先輩が死神だってことに気付いちゃったかも!?
「あ、あのぉイリー? 一体、ど、どうしたの?」
「……ちょっとこっち来て」
「え!? あ、引っ張らないでイリ〜!」
せ、先輩から離れちゃう〜
〜〜〜〜〜
「もう、先輩とこんなに離れて……急にどうしたのイリー?」
私のこの質問は、イリーにとっては癪にさわったのか、小さな声で怒鳴るという高等テクニックを繰り出してきた。
「どうしたの? じゃないわよ!
あれってシンラ・アリエルト先輩でしょ! 2年の!
何であんな大物と一緒で、しかも親しげなのよ!?」
「し、親しげ!?
え、えへへ。そうかな?」
「バカ! 惚気てるんじゃないわよ!
私はステラのそんなだらしない顔が見たいわけじゃないの。質問に答えて欲しいの!」
質問って、先輩となんで親しげかって事?
じゃあ、もしかしてイリーは先輩の事を、死神だと見抜いたわけじゃないんだ……
「コホン、そのぉですね。私と先輩は、説明すると長くなるから、それは省いて、色々あったからこうなってるの」
「……え、もしかしてだけど、それで答えたつもり? なんでそんな満足そうな顔してるの?」
「あれ、ダメだった?」
「説明を省いたらダメでしょ」
「そっか、じゃあ説明すると、
まずは私の……家に先輩がやって来て」
はいストップと、イリーから容赦無く話の腰を折られてしまった。せっかく説明しようと思ったのに。
「なんで貴女の家に先輩が来るのよ」
「それは……院…おばあちゃんが先輩に頼んだから」
「貴女のおばあちゃん何者? 仮にも平民なのに、頼んだだけで辺境貴族を呼べるなんて……」
「ま、まあそれはいいとして、続きね。
まずは先輩が私の……弟や妹と遊んでくれて、それに私も付き合って」
はいストップと、(以下省略)
「なに遊ぶって? 何をやらせてるの? それ普通じゃないわよ。アリエルト家の長男を、一体どうすればそんな、こき使えるの?」
「んー……クレイジュース?」
「ジュース!? 対価ジュース!?
ますます分からない!!」
「ま、まあそれはいいとして、続きね。
それから時が経って、金毛九尾の白狐出没事件が起きた時に、その副産物として私がピンチだったところを、颯爽と現れた先輩が助けてくれたわけで」
「それは羨ましいわね」
「そ、そう?
ーーーそれから、先輩が私に魔法を教えることになって」
「そこが少しおかしいのだけれど、今更ということで納得するわ」
「うん、それで先輩から魔法の練習としてキス……コホンコホン、効率の良い魔力回復の為その練習を」
はいストップ(以下省略)
「貴女がいきなり饒舌になったその前が気になるわ。というか耳を疑ったわ。
キス? キスって何?」
「魚のことだよ。
それで、先輩から魔法を教わった私は、だから先輩と親しい? のかな」
どうにか説明終わり!
でも、完全には納得してないイリー。私をジローっと見てくる。
「なるほどね、主席入学っていうのもその賜物という事かしら。
……それで? 本当にシンラ先輩とは魔法を教わるだけの仲なの?」
「当たり前だよ」
『ーーーお〜いステラ! 何やってるんだ、早く家に帰るぞ〜!
ファナが先に昼飯を作ってるんだから、待たせちゃ悪いだろ!』
タイミング悪く先輩の声が聞こえてきた。それはもちろん、私のすぐそばにいるイリーにも聞こえたわけで……
「……ねえ、今の発言は何かしら?」
「……」
「家に、帰る?
確かファナっていうのは、ティファナ・アリエルト先輩の事で、それがお昼ご飯を作ってるから、待たせちゃ悪い?
もしかしてステラ、そんなことはないだろうと思っているけど、まさか同棲でもしているのかしら?」
「……」
「なんとか言ったらどうなのよ」
「……み、見つめちゃイヤン」
これでもかというくらい冷たい眼差しを、友達からもらってしまった。ショックだ。
「でも、イリーは何でそんなに先輩のことが気になるの? 死神さんが好きなんじゃないの?」
「それとこれとは別でしょ!!」
「あ、なんかゴメン……」
どうやら、触れてはいけないものに触れてしまったらしい。
が、そんなに強く言われても、ただ謝ることしかできない私。
そこに、幸か不幸か本人が来てしまった。
「ったく、何をやってるんだ?」
呆れ顔の先輩を見て、うずうずとなって急に大人しくなったイリーを見て、あることを思いついた。イリーの追求からは逃れられて、なおかつ今を穏便に済ませれる方法だ。
「先輩、先輩の家にイリーが来たいと言っているんですよ」
「ええっステラ!?」
「俺の家に?
まあ、それくらいなら別に構わないが」
「っ、本当ですか!?」
「あ、ああ。何もそこまで喜ばなくていいだろう」
ふっ、計画通り……
「だったら私、今すぐ家に帰ってお泊まりの服とか歯磨きとか準備をしてきますから、ちょっと待っててくださいね!」
「「えっ?」」
あまりの驚きに、イリーを止められず、さっさと帰らせてしまった。
「……先輩」
「どうしよう、俺はてっきり昼ご飯を食べるだけかと」
「私もです」
「だよな? 普通そうだよな?
……本当にどうしよう。ファナになんて言い訳をすればいいんだ」
「イリーって、いつもは冷静なのに、時々暴走すらから……
これで、また先輩の家に、1人女性が増えてしまいましたよ」
「ああ、絶対にメリーにからかわれる」
半ば私が招き入れてしまったかもしれないとはいえ、これ以上先輩に好意あるものが増えていくなんて、はぁ……憂鬱です。