特待生パーティ……当日
◇◇◇◇◇
第4魔法学園。
ダンスホール。
夜7時。
『ーーーという事だ。
今日くらいは羽目を外して楽しみな』
学園長のその言葉を合図に音楽が鳴りだし、それはつまり、特待生パーティの始まりを意味した。
〜〜〜〜〜
周りを見渡すが、そこまで数は多くない。ホール自体大きい場所じゃないし、俺はこのくらいの数が丁度いいから問題ないが。
「お兄様、お飲物を取ってきますね?」
「えっ…いや、それは俺が……」
「取ってきますね」
「……はい」
ちょっと待てば、飲み物くらいいずれくると思うが、あんなに嬉しそうだからいいか。スキップしてるし。
「ーーー楽しんでるかい?」
できた妹だなぁ…結k……
と思っていると、後ろからそんな事を言われた。
後ろを振り向くと、声で分かっていたがやはり学園長だった。
「開始数10秒で何言ってるんですか」
「ああ、私の質問が悪かったね。
つまらないか? と聞こうとしたんだ」
「え、俺の言い方が悪かったですかね?
開始数10秒で何言ってるんですか? と言ったんですが」
俺の言葉に、ケタケタと笑う学園長。
耳は悪くなかった。性格が悪いらしい。
「悪いね。年寄りになると、どうも話を簡潔に済ませたくなるもんなんだよ。
つまりだ、私が言いたかったのは、人生つまらないか? と聞いたんだ」
何でダンスホールで、人生をどうのこうの言わないといけないのだろう。
「規模が大きすぎて、口にするだけでも恥ずかしいです」
「まだまだガキだねアンタ。
でも、私は本当に疑問なんだ。
ハイエルフとして私は長い時間生きてきたが、周りを見てはこう思っていた。
何でこんなことも出来ないのか?
何故ここまで言って分からないのか?
ってね」
おいおい、一応学園長という身分が何てこと言ってるんだよ。
……でも、今更だがこの人はすごい存在なんだよな。
魔法の力が平均的に高いエルフの中で、その1番なんだから。
「ちょっとしか面白くない人生だった。
だが、アンタはどうなんだい?
タダでさえ計り知れない、その馬鹿げた力。
アンタの目には、この世界がどんな風にうつっているのかねぇ?」
「だから、規模が大きすぎるんですって。
正直何を話したらいいか分かりません」
「ふ〜ん……そうさねぇ……
例えばの話だが、私がこの王都を壊滅させるのに30分。
アンタはどうなんだい?」
王都壊滅?
創造魔法で王都全滅爆弾←0,2秒
ポチッとな←0,3秒
ドカーンッッ←0,5秒。
つまり……
「1秒です」
「ヒュ〜、言うことが違うね。
私は子供の頃魔王が怖いと育てられたが、それよりはるかに怖い存在が目の前にいるよ」
……怖い、か。誰か言ってたな。
力がある者が善い行いをして、それは勇者や英雄と呼ばれるが、力があり過ぎる者はどうしたって化け物と呼ばれる。
……あれ、誰が言ってたっけ?
「ーーー兄様、お兄様!」
「……あれ、ファナ?」
「大丈夫ですか?
何か学園長と話していたようですが?」
気づくと学園長は消えており、飲み物を持ったファナが目の前にいた。
結局あの学園長は何が聞きたかったのだろうか。
「あれ、お兄様これは……」
「ん……ダンスタイムというところかな」
音楽が一層激しくなり、各々はステージへと上がっていく。
……学園長もいた気がする。
「よし、俺たちも踊ろうか」
「っ、はい!」
……俺の周りはおかしい。
ありえない現象を苦笑でかえす仲間達。普通は恐怖するものじゃないか? 恐れと畏怖を抱くものじゃないだろうか?
でも、そんなあいつらだからこそ、俺はこうして普通に暮らせているのだろう。
「もう、早く行きましょう!」
俺は今、幸せなんだな。
◇◇◇◇◇おまけ
「……パクパク」
あー……この子(※レティス)は食べることしか頭にないのかしら。
と、私ことアティは思った。
シンラといる時でさえ、恋愛感情はあるものの家族といった気持ちの方が大きいように見えるし、ましてやシンラ以外の男と喋った事すら見ていない。
人には欲が3つあると言っていたが、この子は食欲と睡眠欲に半分半分つぎ込んでしまったみたい。
「……パクパク……ん?」
こちらに気づいた。
「……あげない」
ビックリだわ。
まだ、こんなにたくさんの料理もあるのに、まさかあげない発言を貰ってしまった。
王女として見ていないのは好感が持てるが、これはそれ以前の話じゃないかしら。
でも、なぜか憎めないのは、この子の純粋さがあってこそなのかもしれない。少し羨ましい。
「……ん……でも、ちょっことなら」
そう言うと、スプーンの先っぽ半分にお肉の切れ端をすくった。
「はぁ……ありがとう、と言っておくわ」
「……感謝されるほど、ではない」
全くその通りと思う。
いつからここは、この子の許可を取らないといけなくなったのだろう。
別に欲しいわけじゃなかったが、断る理由もなくそれを食べる。
「……おいしい?」
「ええ、美味しいわ」
「……そう………あげたの、後悔」
呆れた。
◇◇◇◇◇おまけ
「はぁぁぁぁ〜〜」
珍しい。
と、私ことセレナはそう思った。
目の前にいる戦闘狂(シンラがそう言っていた)のエス……テルがため息をしている。
「どうしたの?」
「お前は、確かセレナだな」
「覚えていてくれて光栄だわ」
私は少し忘れかけていた。
同じ家にいるといっても、全く接点がなかったのが理由と思う。
「で、そんなに長いため息をついて何かあったの?」
「実はだな、剣をあいつ……シンラに没収されてしまった。マナー違反だとさ。
お陰でイライラとストレスがたまっていくばかり。右手が疼く!」
なるほど、そういうことなら私も納得できる。
シンラから罰ゲームとしてあれが無かった1週間、思わず虚空に喋りかけてしまうところだった。冗談ではなく、その場面をシンラに見られたから1日取り戻される期限が早くなったと思う。
それほどまでに私はあれを大事にしていたと、改めて実感した。
だってアレは、シンラが私にくれた初めての武器。
本人は気にしなくていいと言ったが、私から言わせて貰えばそういう問題じゃなく、どうしようもなく嬉しいのだ。これはしょうがないのだ。
「くそ〜、決闘の約束がなければ今すぐにでも」
どうやら、それなりの対価をシンラは必要としたらしい。まさか闘いとは思わなかった。
……これはあくまでも私の主観だけど、エステルと戦っているときのシンラは、時折悲しい表情を見せる。
「まあまあ、今日はパーティなのよ?
ちょっとくらい我慢しないと」
「……そうだな」