ミーニャの日記 2
✳︎月✳︎日
朝、エレナに起こされ、みんなと朝ごはんを食べた。
いつもは、掃除や、シンラ様とティファナお嬢様の身の回りのお世話をする。
今日はそれに加え、庭の手入れをした。
草を抜いて汗をかきはじめたので、私はいつも左側の髪につけている髪留めをポケットにはさむ。
これはアリー様が、私にメイド1年目の記念としてプレゼントしてくだった物だ。
プレゼントなんて初めてだった私は、とても嬉しかったので、今でも大事にしている。
私はそれから、しばらく庭の手入れをした後屋敷に戻った。
ーーー今思えば、なぜ気づかなかったかと思うが、案外そういう時ってそんなものだ。
………そう、私が屋敷に戻って、ふとポケットを見ると、あるはずの髪留めがなかったのだ。
私は必死に探した。
何度も何度もダメだと思いながらポケットを確かめる。
何度も何度も意味がないと思っても、同じ道を行ったり来たりした。
諦めたくないから馬鹿みたいに探して、でもやっぱり無くて、どうしようもなく泣いてしまいそうになった時、
「ミーニャ」
……シンラ様?
「なに?」
「えっと……これ…だよね?」
「っ!?これ……どこにあったの?」
シンラ様の手には、私が探していた髪留めがあった。
私はお礼も言わずに、思わずシンラ様に聞いてしまった。
そして、シンラ様の服は何か汚れているのに気づいた。
「これ……は?」
「あ、ああ、これ?これは…ちょっと、その……これが木に引っかかっていたから、取ろうとして失敗しちゃって、それで…土が…」
木?……!!そうか、庭で落としちゃったのか。
それにしてもシンラ様は、あまり貴族らしからぬ振る舞いをしている。
メイドである私にもエレナにも優しい。
公私は惚れ惚れするくらいしっかりとしているのに。
「どうしてこんなに汚れるまで……」
早く着替えよう……と言う前に、シンラ様が私に言った。
「これがないとミーニャ困るでしょう?ミーニャがこれを大事にしてる事は、僕もファナも知っているよ?」
「ーーーっ!!」
「ファナがさ、ミーニャが何か探してるみたいって考え込んでいたからさ、どうにかしなきゃって思ってそれで……っうぷ!?」
私は思わず抱きしめた。
「ミーニャ!?汚れるって、土がついてるんだよ!?」
……確かにすごく賢くて、とっても大人びていて、他の人とは違う。
でも、シンラ様はとても優しいんだ。
それに何より妹思いなただのお兄ちゃん。
これの一体どこが怖いと言うのだろうか?
私は、自分が前に考えていた馬鹿な思いを消し去るように、シンラ様を強く抱いた。
「髪留めありがとう。……それと、ごめんなさい。」
私に土がつかないようもがいていたシンラ様は抵抗をやめた。
「ーーーはぁ、ミーニャも汚れちゃったし、早く着替えよう?」
「……一緒にお風呂へ入ろうだなんて……大胆。」
「いや、言ってないよ!?」
その後、また抵抗し始めたシンラ様と無理矢理お風呂へ入った。
その時、ティファナ様に見つかり、ひと悶着があったが、結局アリー様とエレナもきて、みんなでお風呂に入った。
ーーーあの時、私がシンラ様にお礼を言った後、怖いなんて思ってごめんなさいという気持ちで謝ったのだが、普通そんなの分からないだろう。
……でも、と思う。
ちゃんと謝れてよかった。
シンラ様はきっと分かっているんじゃないかと思える自分がいるから。
シンラ様なら絶対に分かっていると信じてる自分がいるから。