マイホーム
◇◇◇◇◇
「わ〜ここがシンラさんの家ですか〜」
「広くて住みやすそうだな、気に入った」
家に帰ると、ラファエナとエステルが俺のマイホームの感想を言った。(エステルは何様だよ……)ラファエナは意味もなくチョコチョコンとドアや壁を触ったり、エステルは「室内での戦闘も考えて………いけるなコレ」なんてバカなことを言っている。
そこにファナがやってくる。
「お兄様、何故いきなり2人も増えているのですか?
エステルはまだ分かるとしても、もう1人の方との関係はなんですか? 仮とはいえ先生でしょうに、禁断の愛など兄妹だけで十分です」
「落ち着けって……な?
ほ、ほらセレナも何か言ってやってくれよ」
「そうね……貴方はそろそろ痛い目を見たほうがいいわね」
「えぇ〜……」
《ーーークスクスクス、なにやら賑やかですねぇ》
すると、何処からともなくメリーが現れた。
最近慣れて忘れていたのだが、メリーの存在は他に見たことがない。ここでエステルが慌てるのも仕方がないのだろう。
「なっ…な、なななんだ貴様は!」
《……クスクスクス》
「笑われた!? 私は今、笑われたのか?」
エステルとメリーがギャアギャア言うなか、ラファエナだけはボーッとしていた。
「どうしたラファエナ?」
「ーーーえっ? あっ……えーとですね……シンラさん、あれは?」
「メリーって名前だ。多分幽霊だと思うが……」
「幽霊……」
ラファエナが何かを考え込む中、エステルを虐め終わったのか、今度はこっちにメリーがやってきた。
《クスクスクス、またお兄さんは女を連れ込んで来たんですね。
今度はどんな美人……なんで…しょうか》
「ラファエナっていうんだ。
確かに美人だとは思うが、人聞きの悪いことは言うな」
「あっ初めましてメリーさん。少しの間よろしくお願いしますね」
《…………》
ん?
「どうしたんだメリー?」
《……いえ、何でもありませんよ。
それよりお兄さんは2人も同時に家に連れ込むなんて、段々とレベルアップしてますね》
「だから人聞きの悪いことは言うなよな……」
俺の呆れたような言葉を、メリーは聞くか聞かないかのうちに何処かへ行ってしまった。
「あっおい……全く、神出鬼没な奴だ……」
「あの……シンラさん」
「ん? なんだ?」
「あれは……幽霊と言いましたよね?」
「そうだと思うんだが……なんだ違うのか?」
「いえ、恐らくあれは幽霊といわれるものでしょう。だからこそ、だとしたら………」
「?」
「……何でもありません。いずれ……分かります」
んー、嫌だなその言い方。絶対に後から何かあるパターンだ。
勿体ぶってないで教えて欲しいものだ。
俺が意地でも問いただそうとすると、もう部屋を決めたらしいエステルがお腹を抑えながらこちらに来た。
「ーーーシンラ、私は腹が減ったな。何かないか? 食べたら早速模擬戦をしよう」
「お前はなかなか図々しいなぁ……それに、俺は毎日は戦わないからな」
「私が図々しいか……だったらあれは違うのか?」
エステルが指をさした先は……
「あ、これチョコレートですよね?
………うん、美味しい♪ 甘すぎず、でもチョコの旨味はちゃんと残ってますね。
………あっ、これも美味しい♪」
ラファエナが勝手にチョコレートを食べていた。それは俺のおやつ用なんだが……この2人は遠慮ってものを知らないらしいな。
《ーーークスクスクス、また家が賑やかになりそうですね》
「っ……なんだメリーか。いきなり現れるなびっくりするだろう」
《でも楽しいですねー……本当に楽しい……》
無視ですか……なんか最近俺って無視されてばっかな気がする。
《こんな日がいつまでも続くといいですねー……クスクスクス》
「……そうだな」
ーーーメリー・クリス。夏休みに不思議な館で俺たちが見つけた、やっぱり不思議な幽霊。
嘘が下手で、いつもクスクスクスと笑っている。
そんなメリーだが、さっきの笑いはどこか元気がなさそうに聞こえたのは、俺の勘違いなのだろうか?
俺は結局分からずに、考えることをやめた。
ただ1つだけ思っていたのは、メリーの言う通りこんな日がいつまでも続けばいい……という、後から思えば叶わぬ願いだった。
世界が全てハッピーエンドで終わるはずがない。運命なんてそんな簡単なものじゃなく、奇跡なんてそうは起こらない……
俺はそれを知っていたはずなのに。