終わりで始まり
五十嵐神羅はやればできる子である。
始まりは生後六ヶ月、初めて言葉を発し一歳で会話が可能となる。
幼稚園では、初めてかけっこというものをして、自分で走り方を学習した。
フォームはもちろん、力の入れ方、重心の移動。神羅の走りは大人でさえ追いつくのがやっとである。
小学三年生で神羅は自分が異常なことに気づき始める。
神羅は自分をセーブし「天才」にまで押し留めることにした。中学一年生で、自分に何か出来ないことはないか探し始めるーーー文字通り出来ないことである。
気功というものをしてみた。体内の気を循環させて活性化させる…もちろん出来た。
縮地というものをしてみた。子供の頃の走り方に加え、足さばきや送り足を学び、コンマ二秒で5m先の相手の後ろに立てるぐらいにはなったのでまぁいいだろう。
合気道、柔道、少林寺拳法、弓道など、システマやカポエイラなんていうのもしてみた。
外傷がないよう内部にダメージが浸透する「鎧通し」(勝手にそう呼んでるだけ)も出来るようになった。
他にも気配を察知したり気配を絶ったり、暗器を身体中に隠して過ごしたり
指弾は意外と面白かった。体術を学ぶ時に見つけた、脳のリミッターを意図的に外して行えば指はいかれるが、コンクリートを抉るまでに至った。
ーーー五十嵐神羅はやれば何でもできる子である。
◇◇◇◇◇
「今日は何をやってみようか?」
神羅は土日の日課である基礎訓練を終えて、家へと帰る途中であった。
「刀の作りはマスターしたし、今度は銃の作り方でも学んでみようかな?」
相変わらず何でもできる奴である。しかし、神羅も所詮は人間、出来ない事があった
「確か螺旋構造だっけ?あれってどうや…っ!?」
ーーー例えばあと1秒もすればトラックにひかれそうになっている女の子を助けることである…否、助けようとすれば助けれる。自分を犠牲にすれば
「くっ!!」
神羅はリミッターを外し、全力で女の子の前に疾走する。このままいけば余裕で助かる、だが神羅は女の子の前で止まる。
神羅の全速力で女の子を助けようとすれば、トラック以上の衝撃が女の子を襲うだろう。はっきり言って元も子もない。だからこそ神羅は衝撃を与えないよう優しく包み込みトラックに備える。
「ぐっ!?」
意識がもっていかれそうになるのを必死で我慢し、女の子をしっかりあくまでも優しく包む。
吹き飛ばされ転がり続ける体を全身で受け身を取ろうとする永遠に続きそうな衝撃が止まっていくのを感じた。
「くっ…予想以上…だな」
自分がまだ生きてるのを確認し、急いで女の子の様子を見る。
「……あ…あれ?」
閉じていた目を恐る恐る開ける。自分が全くの無事であることを知り、次に、自分を包むなにかに目を向ける
「…え…あ、あ……お、兄さん?…そ、それ」
自分が助けられたのだと遅れて理解し、自分を助けてくれたお兄さんが、頭が血だらけ、全身傷だらけなのを見る。ショッキングな映像でトラウマものである。
自身のお気に入りなワンピースが血に塗れることなんて、気にもしないほど動転してしまう。
「んぅ?…大丈、夫か?怖かったな…もぅ…安心しろ」
「そ…そんな、駄目、駄目ですよ。こんなの…駄目ですよ」
優しいんだな、と、場違いな事を思いながら、意識がなくなりそうになるのをおさえつけ
彼女の頬をそっとつかみ、ムニっと引っ張る
「へやぁ!?」
「ほら、泣いてないで…さ、笑おうよ。すっごく…可愛い…じゃない…か…」
神羅の目が閉じる直前目にしたのは、泣きながら笑おうとしてる。なんとも変な顔である
….でも、ほらーーーやっぱり可愛い……ワンピース姿だ。