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終末のダンジョン・第四話『必要以上に干渉はしない』

ちょっと更新空いてすみませんでした。

今日からまた連続更新いきますねー




「どうだ? いけそうか?」



「ああ、少々重たい気もするがすぐになれるだろう。問題はない」



戦士が肩をぐるりと回す。黒い鎧に薄く塗りつけられた油が、日の光を反射した。



「そいつを少々重たいで済ますのはおめえぐれえだぜ。よくもまあソレを着て動けるもんだ。…じゃあ、次は武器だな。おうおめえら! 鍛冶場からアレ運んでこい!」



屈強なドワーフが二人がかりで運んできた巨大な槌を、戦士は片手で掴みあげた。

二度、三度、四度、戦士が槌を振るう度に、重い風切り音が演習場に響き渡る。


アイアンゴーレムの黒鉄を素材にした大槌など、並の鍛冶屋の仕事ではないし、並みの戦士では扱えぬ。

ドワーフ族最高の鍛冶師と呼ばれる男と、世界最強の肉体を持つと言われている男が揃ったからこそ、生み出せた結果であろう。


中庭の演習所から、四角く切り取られた青空が覗いている。外の喧騒は聞こえない。



戦士は今、王都にいる。



終末の迷宮から500キロ離れたこの都は、彼等勇者のパーティーのホームとなっている。距離は遠いが、魔法使いの転移魔法を使えば一瞬でたどり着けるので問題はない。

何より、最高峰の鍛冶屋や魔法具店が軒を連ねる王都は、冒険者にとっては色々と便利が良いのだ。



「最高の仕事だ。これなら良い”繋ぎ“になる」



出来たばかりの大槌の感触を確かめた戦士は、満足気に頷いた。



「人の最高傑作を繋ぎよばわりたぁ随分だな。テメエじゃなきゃたたき出してるところだ」



「…っと、スマンな。悪気はなかった」



「わかっとるわ。テメエの探してる神槌と比べりゃあ、どんな武器も叶うわきゃねえわなあ。そん代わり、見つけたときは約束通りモノを見せに来いよ。神槌を拝んでみてえのはおめえだけじゃねえんだ」



「ああ、約束しよう。必ず見つけてみせるさ、終末の迷宮の深層にあるというトールハンマーをな」



戦士は真新しい武器と防具を担ぐと、鍛冶場から立ち去った。



今日は迷宮攻略はしない。

ラストダンジョンである終末の迷宮。その攻略の道程は果てしなく遠い。毎日迷宮に潜り続けていれば心も体も壊れてしまう。故に攻略の区切りの良いところで、適度に休養日が当てられている。



戦士は今、一人である。

休養日にはパーティー同士、必要以上に干渉することはしない。


それが一流の冒険者達の暗黙の了解という物だ。プライベートでの仲の良さは、パーティーに亀裂や厄介事を生みかねない。



戦士は一人、王都の街を宿に向かって歩く。空腹を感じ、何か食べるものでも買っていこうかと、大通りの市場へと向かった。



「おっさん、リンゴ買ってくれよ! すっげえ美味いからさ!」



大通りのすぐ手前の脇道で声をかけられた。


痩せぎすで色黒の、明るい顔の少年が戦士を見上げている。

市場の外の不法営業。商品はリンゴのみだ。ズタ袋から赤いリンゴを取り出して、「ほら、真っ赤だろ?」と戦士に見せた。

確かによく熟れたリンゴだった。美味そうだと思った。



「買おう、全部だ」



金貨を一枚渡すと、驚く少年を他所に、ズタ袋ごと担ぎあげた。



「ここで商売はしないほうがいい。通報されれば面倒だぞ。城壁外なら警邏も大目に見てくれる」



金貨を握りしめたまま、林檎売りの少年はコクリと頷いた。


戦士は少年を置き去りにして市場へ入った。リンゴは好きだが、リンゴだけでは物足りない。

香ばしい匂いを放つ串焼きの屋台の方へとまっすぐに歩いて行く。



「あら戦士じゃない? 夕食の買い物?」



戦士に声を駆けた人間は、今度は知り合いだった。真っ白なロングストレートの髪に、整った目鼻。戦士のパーテイーの魔法使いであった。


休日は必要以上に干渉し合わないのが、一流のパーティーの暗黙の了解ではあるが、道端で出会っても無視をするような冷めた関係でもない。

干渉はしないが、遠ざけもしない。それが冒険者同士の関係というものだ。



「そちらは、花か?」



戦士は魔法使いが手に持つ花束を見て首をかしげた。

目の前の魔法使いが勇者たちのパーティーに加わってまだ三ヶ月だが、三ヶ月もあれば、人となりは分かる。

花を愛でるようなタイプの女性だとは思えなかった。



「ああ、これは私のじゃないわ。見舞いみたいな物よ」



魔法使いが、花の匂いを嗅ぎながら薄く笑った。自分の物では無いという白い花は、白い髪の魔法使いによく似合っていた。

戦士は、肩に担いでいた袋から、よく熟れた赤いリンゴを2つ選ぶと魔法使いに差し出した。



「そうか、誰だかはしらぬが『お大事に』と、伝えておいてくれ」



魔法使いは一瞬だけ目を丸くしたが、リンゴのように赤い唇で微笑んだ。



「ありがとう、一応伝えておくわね。それじゃあまた、迷宮で」



魔法使いはりんごを2つ受け取ると、立ち去っていった。

戦士は串焼きの屋台へと向かった。







「おい、兄ちゃん。勇者だかなんだかしらねえが、食い逃げは犯罪だぜ?」



「違う! そんなつもりはなかった! 本当に、財布をどこかに落としてしまったんだ! 一度宿に帰ってから必ず料金は支払う! 信じてくれ!」



「そうは言ってもなあ…、同じこといいながら帰ってこなかったヤツらをおれはごまんと知ってんのよ。警邏に連絡させてもらうが、悪く思わんでくれよ?」



「違うんだ! 俺は本当に…」



戦士と魔法使いが別れを告げた頃、勇者は一人、窮していた。

街に食事に出かけたものの、会計時になって財布をどこかに落としてしまっていた事に気がついた。

金もなければ、身の証を立てるようなものも持ってはいなかった。



「待ってください、私がお支払いしますから!」



食堂の入り口からパーティーメンバーの一人である僧侶が飛び込んできた。



・・・・・・・・



・・・・・・・・



「助かったぜ僧侶、すまなかったな」



「いいえ、お役に立てて何よりです。勇者様」



「しかし、いったいどこで財布落としちまったのか、検討もつかねえぜ…」



「警邏の方に連絡はしましたから、心ある方が拾ってくだされば良いのでしょうが…」



「流石にそんな都合のいい話は期待してないさ。俺はどうも運が悪いみたいだからな」



『運が悪い』その言葉に、僧侶は困ったような愛想笑いを浮かべた。。



『運の良さ』というステータスがあるそうだ。

そんな噂が冒険者たちの間では冗談交じりに囁かれている。本気で『運の良さ』というステータスがあると信じている者はいない。都市伝説のような物である。


誰も信じぬ理由は、『鑑定』の魔法で、数値として表示されないからだ。

力や素早さといったステータスは、『鑑定』の魔法や、その魔法がかかったマジックアイテムでハッキリと数値として知ることができる。

しかし、『運の良さ』といった数値がギルドカードには記されることはない。

人の運命は数値で表されるようなものではない。というのが通例の認識である。



実際は、『運の良さ』はステータスの一つであり、数字で表すこともできる。

ただ、本当に限られた者しかその存在を知らないだけだ。例えば、相当に高位な神官などがその限られた者に当たる

彼等の間では、運の良さを数値として知る為の魔法も密かに伝えられている。


『占い』という魔法だ。

人の運命は鑑定では図れない。しかし、占う事はできる。


史上最年少で12人の大神官の一人となった僧侶は、パーティーの中で結一、勇者の運の良さを数値として知っている人間である。

勇者本人も、自分の運の数値は知らない。運のステータスを告げる事も、その存在を明かす事も、教会は堅く禁じているからだ。



勇者と僧侶が出会ったのは5年前のことだった。冒険者に祝福を与える、祝福の儀の場所であった。

当時はまだ、勇者が13,僧侶が12の時だった。駆け出しの冒険者であった勇者とは違い、僧侶は既に聖女として名高く、『占い』の魔法も習得していた。


密かにかけた『占い』の結果に、僧侶は愕然とした。


勇者の運の良さは0。あり得ない数値である。僧侶は一人で、その理由を調べた。

何かしらの呪いであることは察せられたが、勇者の持つ武器にも鎧にも呪いのような物は見つけられなかった。


呪いの依代は意外な場所にあった。勇者の村の歴史を調べた時に、呪いの正体に気がついた。


100年前、世界を闇に覆ったと言われる魔王がいた。

その魔王を倒したのが、勇者の曽祖父である。曽祖父が浴びた魔王の返り血が、勇者の一族を呪っていた。


返り血の呪いは勇者の血に刻まれ、交じり合い、血が薄まっても、呪いは薄まることはなかった。



呪いは一族が増えると共に伝染していく。

100年かけて、魔王の呪いが勇者の血を刻々と蝕んでいった。


そして遂に、今から10年ほど前に、勇者の一族とその村は、勇者一人を残して滅んだ。



魔王を倒した勇者は、魔王の呪いに敗れた。



一時は魔王を倒した勇者をひと目見ようと、各地から観光客が集まり、村は観光業で栄えたが。呪いの一族が住む村は、みるみると衰退していったのだ。



宿屋ではしばしば毛布や食器を盗まれた。

食堂では週に一度は食中毒が起きた。

野菜をつくればカラスの集団がやって来た。

家を建てれば必ずシロアリが沸いた。

湖の魚が誰かが放流したブラックバスに食い荒らされた。

投資家達が一斉に手を引いて地価が暴落した。

村の金が、いつの間にかすべてニセ金に変わっていた。



村人は次々と逃げ出し、10年ほど前、ついに勇者の村は今代の勇者一人を残して滅んだらしい。



入り嫁であった勇者の母は、勇者が物心付く前に実家へと帰っていった。

勇者の父は、忘れてきた夢を探しに行くと言ったきり、帰ってこなかった。



それでも勇者は挫けなかった。



勇者に残されたのは、先祖代々受け継がれた一振りの剣と、防具一式。

勇者の血を引く者以外は触ることすら出来ないために、質に入れられることもなかった。


-いつか必ず、俺が村を復興する!-


勇者からすべてを奪った魔王の呪いも、勇者の勇気だけは奪い去ることは出来なかった。

神々の秘宝が収められているという終末の迷宮。そこならばきっと、村を復興させるためのアイテムがあるのではないかと、勇者は考えた。


故に勇者は迷宮に潜る。呪いを受けながらも、明るく挫けず、迷宮に挑み続けた。

レベルを上げ、終末の迷宮に潜る許可をついに手に入れた。


最初の仲間は、僧侶であった。

教会で勇者に祝福を与え続けた僧侶は、勇者を見守るために旅の仲間となった。



「ところで、なんで僧侶はあの店にいたんだ?」



「あっ、その‥、偶然です! 偶然!」



サーチの魔法で尾けられていたことは、勇者は知らない。









ステータス(四話時点)

戦士(32歳)

レベル     55

力      225

素早さ    115

身の守り   195

魔力      16

精神力     85

賢さ      52

運の良さ   144

HP     602

MP       0

攻撃力    360

魔法攻撃力    0

防御力    330

魔抵抗    120

装備 黒鉄の槌(NEW) 攻撃力+135

   黒鉄の鎧(NEW) 防御力+95 魔抵抗+25

   黒鉄の兜(NEW) 防御力+40 魔抵抗+15







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