つんでれダンジョン・第三話『難しい字はまだ読めない』
…まーた来やがったよ。
何度言ったらわかんだよ? こちとらラストダンジョンだぞ、このクソ幼女。
わかってのかぁ? ここはガキの遊び場じゃねえんだよ。「こんにちわー」じゃねえよバカヤロウ。人の話聞けっつてんだろ、頼むから。
つーかおめえ、何連れてきてんだよ?
「シロちゃん」じゃねえよバカヤロウ! 犬の名前なんざ聞いてねえよ!
なんでラストダンジョンに犬なんざ連れてきてんだって聞いてんだよ!
あぁん? 俺に会いに来るついでに散歩しにきた?
馬鹿かてめえは! ラストダンジョンを散歩コースに組み入れてんじゃねえよ!
つーか、二度とくんなっつっただろうが、なんでまた来てんだよこのクソ幼女!
おうコラクソ犬。てめえもラストダンジョンにのこのこ付いて来てんじゃねえよ!
野生の勘ってヤツはねえのか? 中はモンスターがひしめき合ってんだろうが、殺気とか、危険な気配とか感じねえのかよおめえは、おう?
しっぽ振ってんじゃねえぞ、バカ犬が! はぁ…、飼い主が飼い主なら犬も犬かよ。
おう、待てやコラクソガキ。リードを適当な岩に繋いでんじゃねえよ!
散歩なら街でやってこいや、ここはラストダンジョンなんだよ、公園じゃねえんだよ、ガキや犬の遊び場じゃねえんだよ。
なんで毎度毎度おめえはホイホイやってくるんだよ。もうここに用事はねえだろうが?
あぁん? 用事ならある? 母親から礼の手紙?
…ケッ。礼の言葉なんざいらねえからそれ持ってとっとと帰れや。エリクサーも金塊も余りモンなんだからよ。こっちにゃあ礼なんて言われる筋合いがねーんだよ。
「じゃあ読むね」じゃねえよバカヤロウ! 人の話聞けよてめえは! いらねえっつってんだろうが!
開けてんじゃねえよ、人様の手紙を勝手に読もうとすんなよ! 音読される身にもなってみろ! 恥ずかしいからヤメろっつってんだろうがこのクソガキが!
…って「ジョン・ダンさんへ」なんだよ、その始まりは!
なんでジョンが名前になってんだよ。おめえの母親も、きっかり勘違いしてんじゃねえか! おめえ母親にどんな説明したんだよ!?
はぁ? 「後は難しいから読めない」じゃねえよ! 名前しか読めてねえじゃねえか!
ロクに字が読めねえんなら最初っから読もうとすんじゃねえよ、バカヤロウ!
…ったくオラ、その手紙広げて掲げろや。俺に見えるようにな。
…裏表逆だっつーの、おめえが読んでどうするよ。
おう、そうだ。おうよ、動かすんじゃねえぞ。
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…ったく、おいクソ幼女。たいしたモンじゃねえから心配すんなって母親にちゃんと伝えとけよ。
気持ちはしっかり受け取ったからよ。気に病みすぎると折角治った体に障っちまうぞ、バカヤロウ。
ほらよクソガキ、これで用事は済んだな? とっとと帰れよ。本当にもう、二度とここに来んじゃねえぞ? ほれ、帰った帰った。
…あぁん? 俺は文字が読めんのかだと?
ったりめえだろうがバカヤロウ。こちとらラストダンジョンだっつーの。
俺がどんだけ生きてると思ってんだ。現代語から古代言語、神語に、魔導語まで全部よめらあな。
…はぁ? 自分にも文字を教えてくれだと?
アホかてめえ、なんでダンジョンがガキに文字を教えなきゃなんねえんだよ。ここはガキの遊び場でも学び屋でもねえんだよ。文字ぐれえ学校で習ってこいや、何の為の学校だよ。
つーか、教科書もねえのに文字が教えられるわけがねえだろうが
…ってバッカてめえ、母親の手紙広げて何するつもりだよ?
…はぁ? なんでこの手紙で文字教えなきゃ行けねえんだよ! 何思いついてやがんだてめえは! 恥ずかしいどころの話じゃねえんだよ!
「じゃあ一人で勉強するもん」じゃねえよコラ! なんでわざわざココで勉強始めんだよ! おいコラ、勝手に壁に書き写してんじゃねえよ! なんでクレヨンなんぞもってんだよ!?
オイヤメろって! 人の体に恥ずかしい文言刻みこんでんじゃねえよ、このクソ幼女が!
待て、待て! 分かったから! 文字なら教えてやるから、その手紙を壁に模写すんのだけはやめてくれや!
冒険者共にみられちゃあ恥ずかしいどころの話じゃねえんだよ! 何のポエムだバカヤロウ。
ったくこのクソガキが…、ちょっと待ってろよ。教科書なら調度イイもんがあるからよ。テメエが腰抜かすような、とんでもねえもん見せてやるよ。
あれは確か21階だったな…。おう、これだこれだ…
よっこいせっと。
……ふぅ、どうよ? すげえだろ?
…はぁ? ただのでかい石じゃねえかだと?
バカヤロウ! こいつはな、賢者の石って呼ばれていてな。知恵の女神がたった千文字に世界の叡智を全て詰め込んだっつう歴とした神器よ!
学者やら魔法使いや僧侶どもが必死になって探し求めるありがてえ石版だぞ?
わかるか、コイツの凄さが? 石版から知恵と神力がにじみ出て来てんのが? 本当ならおめえが拝めるようなシロモンじゃあねえんだぞ?
わかってねえ顔だなあ…、その顔は…。
まあいいや、それじゃあ始めんぞぉ。まずは一行目からだな。
『黒い空から地が溢れ、海と混じりて星となる』だ。ほら、最初の文字が『黒い』だからな。口だけじゃなく手動かして覚えろよ。
…おうよ、ちゃーんと元の形見てかけよ。
…かーっ、きったねえ字だなぁ。ちゃんとよく見ろっつっただろうが。んじゃ、次は『空』だな…・
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【ようじょは賢者に転職できるようになった!】
【犬は賢者に転職できるようになった!】
【戦利品ファイル】
No.3 賢者の石
アイテムランクS(持ち出し不可)
終末の迷宮の地下21階、知恵と謎かけの階層の隠し部屋に収められている石版。
知恵の神メーティスの加護が宿っており、石版を読んだ者は伝説の職業・賢者への転職資格を得ると伝えられている。あらゆる言語に対応しており、読み手の扱える文字に自動的に形を変える生きた石版である。