つんでれダンジョン・第一話『エリクサーは腐らない』
2011年に理想郷で完結した作品を、色々と修正と改定を加えたものです。
初めてご覧になる方、既にお読みになった方も、楽しんでもらえれば嬉しいです。
『つんでれダンジョン』はダンジョンの一人語り形式で進んでいきます。
おれはダンジョンだ、わかったか?
いや、だから、戦士とか魔法使いとかそういうんじゃねえよ。ダンジョンに潜るヤツじゃなくて、ダンジョンそのものなの。解ったか? くそガキ
ちげえよ。なんで名前がダンジョンなんだよ! …あぁん? ダンが苗字でジョンが名前? どこのジョンだよソイツは? だからジョンさんって呼ぶんじゃねえよ!
いいか? お前ニンゲン、俺ダンジョン、わかったな?
あぁん? じゃあ、オレの名前は何だって?
かーっ! 救いようのねえガキだなあオイ! てめえが潜ってるダンジョンの名前もしらねえっつうのか!?
聞いて驚けよ? オレの名はな、『終末の迷宮』だ
あぁんっ? それは、てめえが今潜ってるダンジョンの名前だって?
だからさっきからそうだつってんだろうが!! つーか、お前全然わかってねえじゃねえか!
何度も言ってるがな、オレが! このダンジョンで! お前は今! おれの中にいるんだ! わかったか?
ケッ、ビビリやがって、ようやくおれの恐ろしさが理解できたようだな。
まあ、泣く子もだまるラストダンジョンとは俺のこと……って、てめっ! 変態だと?
馬鹿かおめえっ、オレの中にいるってそういう意味じゃねえよ!
ガキのクセにとんだ勘違いしてんじゃねえよ! だからおれはダンジョンだっつってんだろ!
そもそもなんで俺がガキに欲情しなきゃなんねえんだよ!? こちとらラストダンジョンだぞ、このクソ幼女!
あぁん? 幼女じゃねえ、少女だって? けッ! そんな言葉は身長140センチを超えてからいいやがれってんだ!
んだとコラ? だったらおれの身長はいくつだって?
…まあ多少変動はするがな、全長3000キロってとこだ。3000キロだぞ、3000キロ。
3000キロってわかるかコラ? 王都までの距離の十倍よぉ。
ダントツで世界最長のダンジョンだかんな? 最深部まで攻略するにゃあ10年以上かかるって言われてんだよ。終末のダンジョンの名は伊達じゃねえぞ、コラ?
…っておい、きいてんのか? 人の話? 『聞いてなかった』じゃねえよバカヤロウ! おめえが質問しといてなんだその態度は。
つーかおいコラ、勝手にそこらうろちょろすんじゃねえよ! 危ねんだよ、バカヤロウ!
ラストダンジョンなめんじゃねえぞ、そこかしこにトラップあんだぞ、トラップ!
…ああん? この迷宮にトラップなんかありゃしねえって? いままで一度も見たことねえだと?
…って、てめえ! ナメたこといってんじゃねえぞ!
ラストダンジョンにトラップねえわけねえだろが、最凶レベルのトラップが壁やら床やらにこれでもかっつうぐれえに配置されてんだよ!
あぁん? そんなの今まで一度もひっかかったことがねえだと?
あったりめえだろうが! てめえみてえなガキンチョが俺のトラップにかかっちまったら、一瞬で粉々になっちまうんだよ!
だからてめえが通るところはわざわざこっちでトラップ外してやってんだよ、わかったかバカヤロウ!
ありがとうじゃねえよ、バカヤロウ! ナメた事言ってんとトラップ落とすぞ、トラップ!
つーか、とっととや帰れクソガキ。
てめえみてえなレベル1のひよっこがラスダンうろついてんじゃねえよ。ほら、出口はあっちだからよ。
ああん? モンスターに遭ったこと無いからレベルが上がんねえ?
あったり前だろうがバカヤロウ! ラストダンジョンなめんじゃねえぞ!
いいか? 一階からドラゴンとかトロルとか出てくんだぞ。てめえみてえなガキンチョがここのモンスターと戦ってみろ、一瞬でまる焦げかペシャンコだぞ?
おめえにモンスターが近づきそうになるたんびに、壁作ったり、落とし穴で落としたりで、こっちゃあ大忙しだってんだ。
だからありがとうじゃねえよ、バカヤロウ! とっとと帰れっつってるだろ!
わかるか? おれ最強。おまえ最弱。
わかったな? わかったならとっとと帰れや、二度とここに来んじゃねえぞ
…って、なんで帰んねえんだよ? なにぃ? どうしても下におりなきゃいけない?
ばっかおめえ、ウチのダンジョン地下二階から難易度がいきなり跳ね上がんだぞ?
一階を制覇した冒険者共が、『確かに手強いダンジョンだが、噂ほどでもないな』とか油断しやがった所で一気に叩き潰すのがこの終末のダンジョンの恐ろしさってヤツよ。
雑魚モンスターでヒュドラとか、キマイラとか、でてくんだぞ? そこらのダンジョンじゃボス級の魔物だっつうの。
だからな、てめえがうっかり下に降りちまわねえように、いつも階段を隠してやってんじゃねえか
ああん!? なんでそんな意地悪するのかだって? はぁ? てめえは人の話きいてたのか?
ヒュドラだぞ、ヒュドラ、9つの口から一気に灼熱の炎とか吐いてくんだぞ、レベル40あっても即死だぞ。わかってんのかコラァ?
あんだと、コラァ!? レベル上げたいから敵を出せ?
だからさっきから何度も言ってんだろうが! おまえがおれんとこのモンスターと戦ったら、100パー死ぬって!
…つーかなんで、そんなにオレんとこに潜りてえんだよ。もっと簡単なダンジョンがあんだろ?
あぁん? エリクサーが欲しい?
…まあ、たしかにうちの地下10階からは時たま拾えるけどよ。
やめろやめろ! てめえがウチの地下10階とかぜってえ無理だ。とっとと、旅立ちのダンジョンにでもいってきな。
あいつのとこは初心者設計で、スライムとかこうもりとかしかでねえからよ。
罠もねえから、ちゃんと武器持ってきゃあ、おめえみてえなガキでもそれなりに戦えんだろうよ。
…あぁん? 旅立ちのダンジョンにエリクサーなんてあるわけねえだろうが。せいぜい『やくそう』が関の山だ。
最高の霊薬なめんじゃねえぞ? エリクサーはウチの専売特許だバカヤロウ。
なんだと? だったら俺んとこ潜らなきゃいけねえ? だから無理だっつってんだろうが、このクソガキが!
あぁ゛っ!? 母親が病気? エリクサーじゃなきゃ治らねえだと?
…っけ! 辛気臭え話だぜ! …おいこら、泣くんじゃねえ! 泣くんじゃねえよ!
かぁー、いきなり泣き出しやがった。これだからガキって奴は嫌えなんだよ…。
…おいガキ、そっちの事情はわかったがな。オレんとこはおめえには無理だって。
おらっ、母親の気持ちも考えて見やがれってんだ。娘が帰ってこなくて今頃心配してんぞ。
そうだ、心配かけちまってんだよ、お前は。
いいか? 母親っつうのはな、娘が側にいるのが何よりも薬なんだよ。おめえも母親が勝手にどっかいなくなったら悲しいだろうが。
…いや、だから泣くんじゃねえよ! もしもの話だよ!
母親に心配かけるなっつってんだ。おら、母親が家で待ってんぞ! 早く帰んねえと日が暮れるぞ?
…そうだ、わかったか? わかったならとっとと帰れや。今、出口まで繋いでやるからよ。
ほら出口だ。モンスターもトラップもねえからまっすぐ帰れや。
…ったく、いつまでもメソメソメソメソ、湿っぽいダンジョンがよけい湿っぽくなっちまわあ。
…おう、そうだガキ。オレに迷惑かけた罰だ、そこにあるガラクタ処分しとけ、
…ああん? エリクサーだよバカヤロウ。
ケッ…、ちょっと余っちまったからよぉ。腐らしてもしょうがねえだろうが。
なにぃ? そのエリクサーが腐ってんのかだと!? 馬鹿なこといってんじゃねえよ! エリクサーが腐るわけねえだろうが! 弁当じゃねえんだからよ!
だからありがとうじゃねえよバカヤロウ! ガラクタの処分だっつってんだろうが!
こっちゃあ、礼を言われる事は一つもやってねえよ! それ持って早く帰りやがれ!
嬉しそうに笑ってんじゃねえよバカヤロウ! 二度と来んじゃねえぞこのクソ幼女。
あぁん?
『またね』じゃねえよ、バカやろう!
【戦利品ファイル】
No.1 エリクサー
アイテムランクB+
体力、魔力、さらに全ての状態異常と病気を回復する最高峰の霊薬である。
終末の迷宮の宝箱で稀に見つかる事がある。市場価格は一本30000ゴールド。