ある雨の匂い
じめじめの雨、
夏の匂いがほのかに漂う道の季節に
僕は産まれた。
でも、すぐに親から離され、
僕は一人ぼっち。
段ボールに入ってたけど窮屈だったから
大きくなってから外に出た。
夏の色は道の雨。
熱気の予兆と躍動感。
この季節にはいろいろなワクワクがあって
一人ぼっちだったって、ちっとも寂しくなかった。
ある日、僕の傍で黒いチビがちょこんと座った。
見慣れない奴だったが、
僕は話しかけてみる。
「やぁ、夏の予感がするよ」
チビはびっくりした様子で僕を見つめた。
「夏の予感だよ」
僕はもう一度言う。
しかしチビは何もしゃべらず
パタパタパタと尻尾を振った。
チビはしゃべらないけど、
僕はずっと一人ぼっちだったから嬉しくて
僕も同じように尻尾を振った。
その日から僕たちは友だちになった。
初めての友だちで嬉しくて嬉しくて毎日毎日遊んだ。
あれからあの季節が3回きて
もう僕たちは出会うこともなくなった。
でも
あの夏の予兆と躍動感の季節がくるたびに、
夏の匂いと道の雨の季節がくるたびに、
黒いチビとの思い出が、蘇る。